*** 139 ほこら拡散 ***
4大国とその属国群から全ての農奴たちを収監・保護したAI娘たちは、その手を蛮族と呼ばれる周辺の土着民村まで広げていった。
(この村には300人ほどの村人がいるけど、東王国の農奴村と違って子供の数がまあまあ多いわ。
過酷な税が無ければ子供も育てられるっていうことね……)
『みなさんこんにちは』
「な、なんだこの塚は、さっきまでこんなもの無かったぞ!」
『わたくしはタケル王国から来た『ほこら』といいます。
今はみなさんの頭の中に直接話をさせて頂いています』
「な、なんだって……」
『みなさん聞いて下さい。
わたくしたちタケル王国は、この大陸の4大王国とその属国の農奴たちを全員保護してお腹いっぱい食事を振舞っていますが、農奴がいなくなったことに貴族たちはまだ気づいていません。
ですが、秋になって麦の収穫が全く無いことに気づいた貴族連中は、新たな農奴を求めて慌ててこの地に攻め込んで来ることでしょう』
「「「 !!! 」」」
「こ、こんな遠くの地まで……」
『今年の麦の収穫が無く、農奴がいなければ来年には餓死してしまいますからね。
彼らも必死です』
「せっかくここまで逃げて来て畑も作ったっていうのにまた逃げるのか……」
『残念ながら、彼らはこの大陸の果てまでも追って来るでしょう。
ですので、わたくしたちは皆さんにタケル王国への避難をお勧めしたいと思います。
移住して頂いても構いませんが、1年も経てば貴族連中も死に絶えるでしょうからここに戻って来ることも出来ます。
(まあ実際には貴族の邸周辺にも祠を設置して、禁固刑を選択した者は助けてあげるでしょうけど)
14歳ぐらいの男の子が声を出した。
「なあ、そこには喰いものはあるのか?」
『たくさんあります』
「やっぱり白湯みたいな薄い麦粥か?」
『いいえ、もっと美味しいものですよ。
試しに食べてみますか』
その場にテーブルと穀物粥の入った寸胴が出て来た。
『さあ、わたくしたちの国のお料理を食べてみて下さい』
「うわっ! すっげぇいい匂いだ!
これほんとに喰っていいのか!」
『どうぞどうぞ』
そのとき老人と男たちがその場に駆け込んで来たのである。
「ごるあぁぁ―――っ!
わしの許しも無く勝手にメシを喰うなぁぁぁ―――っ!」
『なぜあなたの許しが必要なのでしょうか。
これはタケル王国の食料であって、あなたの食料ではありませんよ?』
「わ、わしはこの村の村長だぁっ!
わしの村にある喰いものはわしのものだろうがぁっ!」
『はぁ、あなたまるで東王国奴隷村の村長みたいなことを言うんですね』
「!!!」
『まさか村人はみんな自分の奴隷だとか思ってません?』
「!!!!!」
『たとえ村にある食料でも、それは村のみんなの食料であって、あなたのものではないでしょうに。
まったく村長とか言われておだてられるうちに、自分を王や貴族とでも思うようになったんですかね。
それとも老人性の易怒症ですか?』
「なぁっ!
ええい戦士共!
なにをぼさっとしておるっ!
この祠をぶち壊せぇっ!」
「「「 へぇい 」」」
『はいアウトぉー!』
「「「 うわあぁぁぁ―――っ! 」」」
村長と戦士たちが宙に浮かんだ。
だが今回はいつもと違ってマッパにはしていないようだ。
遮音の魔法も弱めにしてあるようで、多少の声は聞こえる仕様になっている。
『みなさん、タケル国では暴力で他人を従わせようとすると、このように罰せられるのです。
さあ、ウルサイご老人は無力化しましたので、穀物粥を食べて下さいな』
「だ、だけんど、村長たちが後でオラたちをまた殴るかも……」
『大丈夫ですよ。
誰かが誰かを殴ろうとすれば、その人はまた宙に浮かべられるでしょう』
「そ、それなら安心だの」
『さあ、みなさん順番に争わずに食べて下さいね』
「「「 おおおおお…… 」」」
「おらどけっ!」
「うわっ!」
「ったく俺様より先に喰おうとは太ぇ野郎だ!」
『はいアウトぉー!』
「うわぁぁぁ―――っ!」
『わたくしは争わずに食べて下さいと申し上げました。
あなたはそこでしばらく反省してください』
「こ、こここ、この野郎ぉ―――っ!」
「あははは、ザマァ!」
「う、旨ぇっ! 旨ぇよこの粥っ!」
「ほんとだ! すっげぇ旨いし、いろんなものがたくさん入ってる!」
村長たちはそれでもぎゃーぎゃーと騒いでいた。
『うるさいですね、少々遠くに行ってもらいましょうか』
村長たちが少し離れた草むらの上空10メートルまで移動して行った。
『あんまりうるさいともっと上まで上がって貰いますよ』
どうやら少しは静かになったようだ。
中にはそんな高いところに上ったことが無いために、白目を剥いている者もいる。
ただ、みんなの声だけは届けられているようだった。
「な、なあほこらさん、なんか赤ん坊が喰えるようなものって無いかな。
俺の姉ちゃんがこないだ子を生んだんだけど、乳の出が悪くって困ってるんだ。
みんなの喰いものを姉ちゃんに喰わせてるんだけど、それでもあんまり乳が出なくって、赤ん坊の元気がないんだよ」
『それではこれを飲ませてあげてください。
その先についてる柔らかい部分を赤ん坊の口に当てると自分で飲み始めますよ』
「こ、これは乳か!
す、すげぇ!
姉ちゃん姉ちゃん!
これ赤ん坊に飲ませてやってくれ!」
夢中でミルクを飲み始めた子を大勢のご婦人方が取り囲んで見ていた。
中には泣いているご婦人もいる。
(この村人たちなら大丈夫そうね……
ただ、農奴たちはどこに行っても今の生活よりはマシだと思ってすぐに移住に応じたけど、ここの人たちはそこまで追い詰められてないから説得も必要かな)
先ほどの男の子がまた声を出した。
「な、なぁ、赤ん坊に乳をくれてありがとうな。
それでほんとに冬が近づいたら王国の奴らが攻めて来るんか?」
『ええ、間違いなく来るでしょうね』
ほこらの周囲に村人たちが集まって来た。
「そ、それでさ、もし俺たちがあんたのところに避難させて貰ったとして、ほんとにそこにみんなが食べられるだけの喰いもんはあるんか?」
『たくさんたくさんありますから大丈夫ですよ』
「それで、その喰いもんをもらうためには、おいらたちは何をすればいいんだ?」
『まずは学校で文字を学んでもらいます』
「もじ?」
『ええ、まあ学校に行ってみればわかります』
「そ、それでメシはどれぐらい喰わせてもらえるんだ?
やっぱり3日に1回か?」
『いいえ、1日3回です』
「すげぇ!」
村人たちも歓声を上げている。
『それで文字を学んでいただいたら、その次は農業を学んでもらいます』
「それって小麦の作り方か?
それだったらおいらたちもう知ってるぞ?」
『あなた方は1反の畑で1年の間にどれぐらいの麦を得られていますか』
「そうだな、ちゃんと畑を作れば1石近く作れるんだけどさ、次の年からどんどん収穫が減っていっちゃうんだよ。
それで5斗しか取れなくなった畑もあるんだ」
『それは『連作障害』というものですね』
「れんさくしょうがい?」
『わたくしたちは1反の畑から年20石の麦を作る方法を知っていますので、それを教えてあげましょう』
「「「 !!! 」」」
「す、すげぇ……」
『それ以外にも美味しい野菜や果物の作り方も』
「そ、それでさ、おいらたちがそうした『のうぎょう』を教えてもらったら、その後はどうするんだ?
またここに戻って来るんか?」
『わたくしたちは、ここの村とおなじような村々を廻って避難を勧めています。
それが順調に進めば、東王国の連中も奴隷を集められなくなって作物が作れず、来年の今ごろまでには全員飢え死にしていることでしょう』
(実際にはほとんどの人が牢を選ぶでしょうけど)
「「「 ………… 」」」
『そうすればここはもう安全になりますので、この村に戻って来ることも出来ます。
また、わたくしたちの国に住んで農業を続けられても構いません。
どちらでもみなさんのお好きなように』
「そうか……
それでその『がっこう』っていうところやその国にも、あんな威張って命令ばっかりしているだけで他には何もしない村長っているのか」
宙に浮いている村長がまた喚き散らし始めているが、遠くにいるので何を言っているのかはよくわからなかった。
『みなさんに文字や農業を教える者はいますが、それは全員わたしの仲間です。
ですから威張ったり命令ばかりすることはありません』
(実際にはみんなわたしのアバターだけど♪)
『その後は皆さんの中から誰かまともな人を選んで村長にしてくださいね』
(ふふ、この賢い子が将来の村長でしょうね)
「でもあの村長やその子分の戦士たちが『移住する』って言ったらあいつらも来るんだろ。
そうしたらまた威張りだすし、村のみんなを棒で叩き始めるぞ」
『もし彼らが移住を望んでも、みなさんとは違う場所に連れて行きます。
そこで誰かを叩くと脅して命令し始めたら、また宙に浮いてもらうことになりますね』
「そうか、それなら安心だな」




