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*** 138 保育士受難2 ***

 


 北王国ガーニー男爵領の前線砦では再び謎の壁調査団が組織されていた。

 今度の部隊長は冷静沈着で知られるガーニー男爵家遠縁の従士である。


「ズワイよ、よいか、決して事を荒立てることなく、あの壁を造った国と壁の内側の様子を出来得る限り調べて来い。

 従士3名と領兵6名を連れていけ」


「は」


 もちろんズワイ従士も東王国のイペリット子爵同様、タケルに手厚く案内されて無事に帰還したのである。

(残念ながら特効薬も金貨も買えなかったが、食事は奢って貰えたようだ)


 詳細な報告を聞いたガーニー男爵は、ズワイ従士を伴って寄り親であるガーニー辺境子爵に報告に出向いた。

 この両者の家名が同じなのも、ガーニー辺境男爵はガーニー辺境子爵の末甥であるからであった。

 彼は以前武功を挙げたために、辺境子爵寄子の男爵として叙爵されていたのである。


 ただ、この辺境子爵は東王国のホスゲン辺境伯と違って思慮深さがまるで無かったのだ。


「なんだと!

 あのバカボロ従士長が重傷を負わされただと!

 あ奴は我らの縁戚者ぞ!

 それを報復もせずに別の者を再度調査に行かせたと申すか!」


「先に手を出したのはバカボロでございました故。

 それに一夜にしてあれだけの壁を造れる相手であれば慎重の上にも慎重を期してと思慮致しました」


「こ、この臆病者めがっ!

 貴様の男爵家だけでなく寄り親の我が子爵領のメンツまで潰されたのだぞ!

 直ちに砦に戻り、そなたを指揮官とする急襲部隊を用意せよ!

 明日早朝より攻撃を命じる!

 わしも砦に行き、その戦いぶりを監督するぞっ!」


「は……」



 翌朝早朝、完全武装した男爵軍280名全員は砦前に集結していた。


「よいか!

 この戦にはこのガーニー男爵領だけでなく、我がガーニー子爵領、ひいては王国の威信までかかっておるのだ!

 必ずや彼の無礼な者共を蹴散らし、大量の戦利品を奪って来いっ!」


「畏まりました。

 総司令官であらせられる子爵閣下に戦利品を献上出来ますよう全力をもって戦って参ります」


「当然だっ!」


「ただし、これだけはご承知おきください。

 280名もの部隊が壊滅もしくは全滅した場合、その責は後方陣地に詰める総司令官殿が負うことになりまする。

 つまり、タラバ・ガーニー子爵閣下でございますな」


「な、なに……」


「今回の仕儀につき、総司令官殿の御名も含めまして書状に認め、昨晩ウーニー辺境伯閣下宛てに届を出しました」


「ま、待て……」


「それでは進発致します。

 皆の者! 出陣だっ!」


「「「 おおおおおお―――っ! 」」」


「あ、あぅ……」



 マツバ・ガーニー男爵軍が突撃して行くと、何故か壁門前には誰もおらず、攻城用の梯子を多数用意した男爵軍は易々と壁を越えて内部に侵入し、門も開けて騎馬隊も突入していった。


 だがもちろん、第2壁を越えようとしたところで全軍が忽然と消え失せたのである。

 どうやら暗い場所から急に明るい場所に出たために目が眩んでおり、前の者が消えて行っていることには気づかなかったようだ。

 もちろん周囲には録音された吶喊の声と剣戟の音が流されていた……


 門前から離れて待機していた伝令兵は壁内から何の連絡も無いまま夜を迎え、翌朝になっても誰も戻って来なかったために、予め決められていた通りに砦に帰還した。

 そして、総司令官であるタラバ・ガーニー子爵閣下に『全軍帰還せず』との報告を行ったのである。


 ガーニー子爵はそれでも3日間待ち続け、その間偵察隊を10回も送り出したが、やはりマツバ隊からは何の連絡も無かった。

 そのために、顔面蒼白になった子爵閣下は護衛兵を連れて自領に逃げ帰って行ったのである。


 もちろんその間、マツバ・ガーニー男爵領の兵たちは、重層次元留置場にて穀物粥やラーメンを旨い旨いと大喜びで食べていた。



 さらに数日後、前線砦にウーニー辺境伯家より戦の結果を調査する使者がやってきた。

 そこで委細を聞くと、使者はただちに辺境伯閣下の居城に戻り、直接閣下に報告を為したのである。


 大敗北の報に激怒されたバフン・ウーニー辺境伯閣下は、直ちに捕縛隊を組織してガーニー子爵を逮捕拘束し、泣きながら震える子爵を辺境伯邸の牢に放り込んだ。


 さらに閣下は、マツバ・ガーニー男爵軍救援の名目で麾下の全軍に動員令を出された。

(もちろん壁内砦の財を狙ってのことである)


 そうして、バフン・ウーニー辺境伯閣下の嫡男ムラサキ・ウーニー指揮官率いる4800もの軍勢は正面から壁門に殺到して行ったのだが、結果はもちろん同じであった。

 後方陣地で護衛兵20に守られて、いつでも逃げられるよう騎乗されたままだったバフン辺境伯閣下も、夜の帳が降りる頃になると砦に逃げ帰って行かれた。

 そうしてやはり震えながら全軍の帰還を待ち焦がれていたのだが、5日間も待ったにも拘わらず、誰一人として帰還しなかったためにやはり邸に逃げ帰って行かれたのであった……




 西王国の場合はやや事情が違った。


 この地の辺境子爵は元王都近郊の伯爵であったが、ある些細な失敗で庇護者たる第2王子の勘気に触れ、降爵の上辺境の地に転封されていたのである。


 調査隊の詳しい報告を受けた辺境子爵は好機に身震いした。

 そうして邸中の麦を銅粒に換え、小さな鉄製短剣を購入して上納した上で第2王子殿下に注進に及んだのである。


「なに! 

 2万本の鉄剣と鉄槍だと!」


「申し訳ございませぬ、この短剣ですら銅粒2万個もするものでございまして、辺境子爵家の財ではこれしか贖うことが出来ませんでした。

 ですがかの壁内街には確かに2万本の鉄剣鉄槍がございます」


「贖えぬならば戦って奪い取ればよかろう!」


「ですが相手はあれほどまでの大壁と街を為した者共です。

 我ら500の辺境子爵軍では万が一のこともございますれば、ご援軍を賜れませんでしょうか」


「わかった。

 それほどまでの財を奪えば次期国王は間違いなく俺に決まるだろう。

 ここ100年でも最大の武功になるからの。

 戦力の逐次投入は最も愚かな戦略だと余の軍師も常々言っておるし、ここは配下の侯爵家3家に命じ、その麾下の全ての貴族家に動員令をかけるとする。

 お前は案内役を務めよ。


「そ、それで首尾よく行きましたならば、殿下のお力で当家を伯爵位に戻して頂けませんでしょうか……」


「うむ、期待していろ。

 俺が次期国王になれば侯爵位も夢ではないぞ。

 ただし首尾よく財を手に入れてからの話だ」


「ははぁっ!」



 こうして総数6万もの大軍が攻め寄せたが、もちろんその全軍が帰還しなかったのであった……


『総攻撃開始より10日経過。しかれど一兵たりとも帰還せず、全滅の公算大』との報を聞いた第2王子殿下は、衝撃のあまり「くぇぇぇ―――っ!」と叫ばれると同時にその場で盛大な座りションベンを発せられたとのことである……



 いや君、戦力の逐次投入は愚かとか言ってたけどさ。

 タケル王国には北王国の全軍どころかこの中央大陸の全軍が掛かってもまるで歯が立たないんだよ。

 なにしろあの軌道核兵器3000発保有世界も数分で無力化しちゃった恐怖のAI娘たちがいるんだから。

 それをたかが6万の兵で攻めようなんて、逐次投入っていうより微投入だね♪




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 或る晩タケルは家に帰って大硬直した。

 子供たちがオレンジと白と黒の虎模様になって、ドヤ顔で見せに来たからである。

(大きさと体形はそのまま)


 どうやらママにねだって『変化』の魔法を教えて貰ったらしい。



 数日後、神界幼稚園のヒューマノイド保育士さんはまた女子力のカケラも無い悲鳴を上げた。

 様々な種族の園児たちが全員虎模様になっていたからである……

 しかも同僚のAIアバター保育士が自分と全く同じ叫び声を上げていたので更に落ち込んでいるそうだ……



 もちろんこの『虎変化の魔道具』もすぐに銀河中で大流行した。

 犬人族や猫人族やヒト族の子供たちまでもがみんな虎模様になったそうだ。

 数少ない虎人族の子供たちのためには『パンダ変化の魔道具』が作られた。

 おかげでパンダ柄の子虎たちが大喜びで街を闊歩しているらしい……


 イケイケな大人のお姉さんたちはヒョウ柄になって得意げである。

(ただし全身なのでややブキミ。

 おっぱいまでヒョウ柄なのは如何なものか……)



 銀河連盟報道部は、あまりの人気を見て『神界幼稚園』という別番組を作り始めた。

 その配信は、銀河中の商人が新商品アイデアの宝庫として凝視しているそうである……



(銀河宇宙ってやっぱりどこかヘンだわー)





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