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*** 132 ピザとビール ***

 


「ところで交換比率なんだがな、そちらの銅粒1つと小銅貨1枚、銅粒10個と銅貨1枚を交換するぞ」


「な、なんだとキサマ!

 このような小さな銅貨1枚が銅粒1個だと!

 我らを欺こうというのか!」


(はは、こいつ俺が子爵にタメ口きいてるんでムカついてるのか)


「お前、計算も出来ねぇのか?」


「な、なに!」


「この銅粒はひとつ10グラムだ。

 そのうちの銅の合有量は4割だから銅そのものは銅粒1つで4グラムだ。

 こっちの小銅貨は1枚5グラムだが銅の合有量は8割だ。

 だから含まれている銅の量は銅粒1個と小銅貨1枚で同じだろうが」


「な……」


「ったくいくら平兵士でも計算ぐれぇ出来ねえと商人に騙されるぞ」


「な、なんだとぉっ!」


「控えよ」


「は、はっ……」


「それにな、含まれている銅の量は同じでも、銅の純度を上げるにはたいへんな手間がかかるんだぞ。

 それを含まれている銅の重さだけ見て交換してやろうというんだ。

 むしろ感謝しろ」


「ぐぅ……」


(俺には大した手間じゃないけどな。

 それに古代の銅って不純物の中にかなりの比率で金が含まれてるから、『錬成』を使えば相当に儲かるんだわ。

 それで江戸幕府は南蛮人相手の商取引で大損したんだし)



「この鉄貨と銅粒の交換比率はいくらか」


(お、やっぱり鉄に食いついて来たか)


「その鉄貨1枚は銅貨100枚だから銅粒だと1000個だな」


「鉄の剣は売っているのか」


「あるぞ。

 重さ4キロの小剣が銅貨4000枚だから銅粒だと4万個だ。

 重さ8キロの大剣は銅貨8000枚だから銅粒だと8万個だな」


「むう……」


(高い……

 高いがいくらカネを積んでも東王国ではどこにも売っていないからの。

 そのような物を王家に献上すれば、当家も伯爵家ぐらいにはなれるだろう……)


「門のところで俺が持っていた槍があっただろう。

 あれは柄も穂先も全て鉄製の鉄槍だ。

 因みに1本で銅粒10万個だな」


(ぬう……)


「その売り物の鉄剣や鉄槍は何本あるのだ」


「今はまだ1万本ずつしかないな。

 もしこれが売れたらまた在庫は追加するが」


(なんと……)



「ところで麦はいくらするのだ」


「麦1斗は銅貨10枚だから銅粒だと100個だ」


「なに……」


(麦1斗は王都や伯爵領都では銅粒500だと聞く。

 それが100個だと……)


「はは、安いだろう。

 ウチの国は麦の生産量が多いから安いんだよ」


「タケル王国の石高はいくらなのだ」


「それも機密事項だが特別に教えてやろう。

 東王国の麦畑では不作が続いていて、いまや1反の畑から採れる麦の量はせいぜい5斗だろう」


(こやつ、そのようなことまで知っておるのか……)


「だがウチの国では1反の畑から年に20石の麦が採れるからな」


(この国の1反って、約20アールだから日本の倍だし)


「なんだと……」


「虚言を弄すな!

 いくら何でもそのように多くの麦が得られるわけはない!」


「それじゃあ後で大量の麦が実った畑を見せてやるよ」


「だから虚言を弄すなと言っておろうっ!

 今は春ぞ!

 畑に麦が実っているわけはなかろうがっ!」


「なんだあんたら冬小麦も知らないのか?」


「な、なにっ……」


「小麦にはな、冬小麦と春小麦っていう2種類があるんだよ。

 春小麦は春に種を撒いて秋に収穫するが、冬小麦は秋に植え付けして春の終わりごろ収穫するんだ。

 だから今は冬小麦が実をつけ始めている時期なんだぞ。

 そんなことも知らないのか?」


「ぐぅっ!」


(なんと、冬小麦だと……

 そ、そんなものがあれば収穫が倍になるだろうに……)


「それ以外にもいろいろと収穫を増やす秘術があるからな」


「その冬小麦の種も売っているのか」


「売ってはいるが、秘術を知らなければ収穫は増えないぞ」


「その秘術も国の機密か」


「もちろんだ。

 それに農業の素人である領主や領兵や村長が秘術を知ったところで、それを広めることは出来ないだろう」


「き、キサマ子爵閣下になんと無礼な口を!」


「控えよと言っておるっ!」


「し、失礼しました……」


(はは、さすが親玉だな。

 目先の自尊心よりこの先の利を取るか)


「それに農奴に教えて多少収穫が増えようが、自分たちの口に入る分は増えないからな。

 そんな農奴が真面目に学ぶことは有り得ないだろう。

 だいたい文字も読めないだろうし。

 つまりそんな秘術を知ろうとするより、あんたらはこの街で安い麦を買った方が楽だっていうことだ。

 ここで買った麦を街で売って銅粒に換え、その銅粒でまたここで麦を買えば無限に儲かるぞ」


「むぅ……」


(誇り高き武人の貴族家に商人の真似事をせよと言うのか。

 だが、確かにそのようにすれば鉄の剣も買えるのだろう。

 商取引で鉄製武器を贖うか、戦って奪い取るか……

 取引ならば安全で、戦ならば我らが滅ぶ危険まであるのだろうの……)



「それじゃあ穀物を売っている店を見に行こうか。

 気に入った物があれば試しに買ってみてもいいんじゃないか。

 今日は特別に銅粒でも買えることにしようか」




「な、なんだこの穀物は……」


「これは小麦だな」


(なぜにこの様に白いのだ……)


「これは精麦した物だがもちろん殻も胚芽もついた物も売ってるぞ。

 そちらにある箱の中の粉は小麦を挽いたものだ。

 こちらが強力粉であちらが薄力粉だな」


「『きょうりきこ』と『はくりきこ』だと?

 何が違うのだ」


「強力粉はタンパク質の合有量が多くて硬い麦を挽いたものだ。

 ピザやパンに使うといい」


(『たんぱくしつ』?

 それにパンはわかるが『ぴざ』とはなんだ……)


「薄力粉はケーキやクッキーに使うと柔らかくて旨い菓子が出来るな」


(菓子だと……

 王城の晩餐会で出るあの甘いものか……)



「これはなんだ」


「これは大豆だ。

 腹も膨れるし、こいつを収穫量の衰えて来た麦畑に植えると、翌年から収穫が復活するんだ」


「そうか……」


(そんな便利な作物があるとは……

 だが我が国では無理だな。

 王家への上納は麦に限られているし、商人との取引も全て麦か銅粒が使われるからな……)



「貴族家から……

 いや貴族家は無いのだったな。

 農家から王家への上納税は如何ほどだ」


「実はウチの国に税は無いんだ」


「な、なんだと……」


「税など取らなくとも我が国の国王はたいへんな資産家だからな」


「その資産は何から得たというのだ。

 税無くして資産などありえないだろう」


「王はあらゆる事業を行っている。

 たとえば先ほどの大樽に詰まった鉄貨も王の配下が造ったものだ」


(王とは集めた税で軍備を整えるものではないのか……

 まあ我が国の王や王子は離宮建設だの晩餐会だのの浪費も多いが。

 それにしても税が無いとは。

 そうか、だから奴隷を抱える必要も無いのか……)



「他にどのような事業を為しているというのだ」


「悪いがそれも国の機密だ」


「そうか……」


(王そのものが商人のように事業を行い、貴族も奴隷もおらず農民や平民から税も取らぬ国……

 そんな国の形もあったのだな。

 我が国の形こそが唯一無二と考えておったが……)



「さて、そろそろ昼時だ。

 大通りに屋台が出ているからメシでも喰いに行こうか。

 今日は遥々見学に来てくれたから俺が奢ろう」


「そうか……

 何が喰えるか楽しみだ。

 だが、この者たちは護衛任務中なので持参した食料しか喰うことが出来んのだ。

 わしの毒味役2名以外に食事は無用である」


「了解した」




「こ、これは……」


「ここにいるのは皆商会の者たちだ。

 まだこの街には食堂が無いんでこうして屋台でメシを買って喰っているんだよ。

 それで何か喰いたいものはあるかな。

 ここの屋台はどれも旨いぞ」


「それでは先ほど話に出て来た『ぴざ』というものを所望する」


「ピザはビールを飲みながら喰うと旨いんだがな」


「『びーる』とはなんだ」


「あー、エールと似た飲物だ。

 あ、任務中の酒はまずいのかな」


「エール程度なら問題ない。

 小さなカップで貰おう」


「それじゃあこのテーブルで待っていてくれ。

 俺が食べ物を買って来よう」


「うむ」



「お、おい、あの男、王の息子とか言っていたが、屋台の列に並んでるぞ」


「ふん! 大方王子だというのも虚言だろう!」


「おーい、ミックスピザのLサイズ4分の1を4つと、グラスビールを4つくれ」


「あ、タケルさまいらっしゃいませ」


「タケルさまじゃなくって、タケルさんって呼べって言ったろ」


「あ、す、すいません……」


「あとナゲットも12個な」


「はい、全部で銅貨32枚になります。

 どちらのテーブルですか」


「あそこに鎧をつけた連中が9人いるだろ。

 あのテーブルだ」


「それではお持ちしますので、テーブルでお待ちください」


「サンキュ」





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