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*** 131 鉄 ***

 


 第1砦の従士たちがタケル国を訪れた翌日、ホスゲン辺境伯傘下の子爵家3家、男爵家6家に加えて辺境伯軍全軍が第1砦に集結した。

(彼らは自領の村々の農奴たちがほとんど全員タケル王国に逃散していることはまだ知らない)


「これより辺境伯連合軍は西の壁手前200メートルまで進発し、そこで待機する。

 待機時間は3時間から5時間程度の予定であるが、軍笛が鳴った際には全軍で壁内に突入する。

 各人水袋と干麦少々を持って進発せよ!」


「「「 おおおう! 」」」


「それではイペリット子爵、頼んだぞ」


「お任せくださいませ」


 辺境伯連合軍は壁手前200メートルで停止し、簡単な陣を組んだ。

 子爵は領兵の軍服に着替え、先日壁に出向いた従士が表向きの指揮官となって、子爵を含む領兵10名を連れて門に向かった。



「おや、一昨日来た従士じゃないか。

 今日は麦でも買いに来たのかな」


「そうだ、門内の商業街とやらに案内せよ」


「お、そこにいるのはイペリット子爵じゃないか。

 そんな領兵が着るような軍服を着て後ろにいるとはどうしたんだ?

 さ、遠慮せずに前に来いよ」


「……なぜわしが子爵だとわかった……」


「そりゃあこうして領地が接する国だからな。

 事前に確り調べておくのは軍の常識だろ?」


「そうか……」


(思ったよりもやりおるわい……)



「さあ、先日も言ったように壁内は武装禁止だし騎乗も禁止だからな。

 こちらで下馬してくれ。

 武器は誰かに預けてここで待たせればいいだろう」


「いいだろう、皆の者武器を領兵に預けよ」


「「「 はっ 」」」



「あー、そこの従士と領兵2名、懐の短剣も預けなきゃだめだぞ」


「「「 !!! 」」」


「な、何故わかった……」


「何故わかったかは軍の機密事項だ」


「「「 ………… 」」」



 門番の男も門を越えてすぐの場所にある詰め所にいた兵に槍を預けた。


(ふむ、詰め所にも2名しか兵はおらんか。

 壁も1メートルほどの厚さしか無く軍が隠れる余地も無いの)



 門を抜けた先は、5メートルほどの壁に囲まれた20メートル四方ほどの空間だった。

 その左右には小さな扉があって、2つ目の壁の中に続いている。


「この広場に2人残れ」


「「 はっ! 」」


「はは、商業街で子爵さんになんかあったら懐の軍笛を吹くんだな。

 それをこの広場にいる兵が中継するわけだ。

 でもさ、そういうのって、1時間ごとに予め決めていた回数笛を吹かせて安全を報せ、緊急事態には断続的に笛を吹き続けるようにした方がいいんじゃないか?

 ここはあんたらにとって敵地かもしれんが、隠密行動してるわけじゃあないんだからな」


(こやつ……)



 一行は第2壁内の通路を歩いて行った。

 その通路は途中で2回ほど折れ曲がっている。


(これはやはり突撃の勢いを弱めるための構造か)


「さあ、ここからが商業街だ」


 扉を潜った子爵一行は、暗い通路から明るい外に出たところで、瞳孔が縮むまで数秒の時を要した。

 そして目が明るさに慣れるとそこで衝撃に立ち尽くしたのである。


 そこには幅が20メートルはあろうかという道の両側に3階建ての巨大な建物が並んでいたからであった。

 どうやら全て商会の建物らしく、大勢の人々が開店準備をしているようだ。


(もちろん全員がAIのアバターか救済部門職員のエキストラである)



(そうか、偵察兵が壁の内部には2階建ての建物があると言ったのは、さきほどの門内広場を囲む壁を建物と誤認したのか……

 それにしても……)


「この両側の建物は石で出来ているようだが、何故繋目が無いのだ」


「それは国の機密事項だ」


「それにこの平らな道路、これは辺境伯閣下の領都まで繋がっているものと同じであろう。

 如何にしてこのような平らな道が造れたのだ」


「残念ながらそれも機密だ」


「機密ばかりなのだな」


「あんたらだって東王国の城の作り方を聞いても教えてくれないだろう」


「それもそうだの」


(それにしても、これほどまでの建物や道を短期間で作れるとは……

 だが、確かにこれならば商取引には便利だろうが、同時に大軍が移動するのも容易であろう。

 そんなことにも気づいていないのか。

 いや、大軍が攻めて来ても迎え撃つ自信があるのか。

 それにしては軍の砦や駐屯地が無いが……)



「さて、まずは両替所に行こうか。

 せっかく欲しいものがあってもウチの国では銅粒は使えないしな」


「銅粒が使えないのならば何を使っておるのだ」


「銅貨なんかの貨幣だな」


「銅貨だと?」


「他にも銀貨や金貨や鉄貨もあるぞ」


「鉄があるというのか!」


「ある。ただ鉄は精錬するのがたいへんだから高価だがな」


(ほんとは鉄だけで惑星を100コぐらい作れるほど持ってるけど♪

 鉄は融点が高いから古代社会では貴重品なんだよな)


(鉄があるとは……

 我が国の王城宝物庫にすら小さな鉄製の短剣があるだけだというのに……)



「さあここが両替所だ」


「あ、タケルさんいらっしゃいませ」


「タケルだと……

 それは国王の家名と同じではないか。

 まさかそなた……」


「はは、俺は一応国王陛下の息子の一人だからな」


(そういう設定にしたんだけど)


「つまり王族だというのか……」


(その王族をどう見ても平民の者が敬称もつけずに呼ぶのか……)


「いや、先日も言ったがタケル王国では王以外は全員が同格の民だ。

 故に王族と呼ばれる者はいない。

 仮に今の王が崩御されたとしても、次代の王はその息子ではないし」


「それではどうやって次代の王を決めるのだ」


「今はそんなことはどうでもいいだろう」


(俺も中級神になったから寿命は1000万年はあるからな。

 あと800万年ぐらい経ったら後継者を考えようか)


「…………」


「そんなことよりこの箱に銅粒を出してくれるか」


「おい」


「はっ」


 兵士が袋から銅粒をざらざらと出して平たい大きな箱に入れた。


「ちょっと失礼するぞ」


 王の息子を名乗る門番が銅粒を摘んで別の箱に移し始めた。

 ちょうど10粒移し終えたところでその手が止まる。


「この10粒は偽銅だな。

 銅によく似ているがただの石だ」


(こやつ……)


「どうやらあんたらは商人に偽銅を掴まされたようだな。

 それともまさかウチの国を欺こうとしたのか?」


「いや、我が子爵家の家宰が偽銅を掴まされたのだろう。

 失礼した」


「そうか。

 ところでこの銅粒は全部で490個、銅の純度は4割、重さは平均10グラムだな」


「そのようなことまでわかるのか」


「ああ、この箱が計って教えてくれるんだ」


「その箱も国の秘密か」


「もちろん。

 さあこれがウチの国の貨幣だ。

 この小さいのが5グラムの小銅貨、大きいのが50グラムの銅貨、そしてこれが銀貨と金貨だ」


「……なぜ銅貨がこのように輝いておるのだ……」


「この銅貨には銅が8割含まれているからな。

 純度8割の銅はそのような色になるのだ」


(純度8割の銅か……

 そのようなものを鋳溶かして銅剣に仕立てれば、素晴らしい剣が出来るだろうの……)



「鉄貨はないのか」


「おーい、鉄貨を見せてもらうぞ」


「どうぞどうぞ」


 門番は大きな樽の蓋を開け、中から無造作に10枚ほどの鉄貨を掴み出した。


「さあ、これが鉄貨だ。

 純度は95%で重さは100グラムある」


「鉄なのに銀色をしているではないか」


「純度の高い鉄はもともとこういう色をしているんだ。

 それにクロムという鉱物も混ぜるとこの色になって錆びなくなるんだよ。

 銀貨と紛らわしいんで大きさを変えているんだがな」


 門番が鉄貨同士を打ち合わせると、キンキンと澄んだ音がした。


(錆びない鉄だと……)



「まさかその樽の中身は全て鉄貨だというのか……」


「そうだ、東王国では鉄が貴重だと聞いてな。

 銅粒とたくさん交換してくれるんじゃないかと思って大量に持って来たんだ。

 倉庫にはこれと同じ大きさの樽が100個以上あるぞ」


「なんと……」





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