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*** 130 村長一族 ***

 


『もしみなさんがタケル王国への移住を了解していただけるならば、いったんタケル王国の裁判所というところまで行って頂きます。

 そこで犯罪歴をチェックして、犯罪を犯していたならば同時に量刑、つまり牢に入っている期間を言い渡されます。

 もしその量刑に不服があればこの村に帰って来て元通りの生活を続けて頂くことも出来ますよ」


 村人たちは無意識に首を横に振りながら後退りしていた。

 よほどこの村に居たくないのだろう。


「な、なあ、その牢でのメシはどうなるんだ?」


「や、やっぱり3日に1回か?」


『いいえ、1日に3回です』


「なら今より遥かにマシだの!」


「んだんだ!」


『それではまた穀物粥をお配りしましょう』


 その場にまた大型寸胴が3つ出て来た。


 宙に浮いた裸村長はまた真っ赤になって口をぱくぱくしている。



「おらどけこの野郎!」


「ぎゃっ!」


「組頭の俺様より先にメシを喰おうたぁ太ぇ野郎だ!」


『そこのあなた、割り込みはいけませんよ。

 ちゃんと並んで順番に食べて下さいね。

 まったく、ちょっと食事をして元気になるとすぐそれですか……』


「うるせぇっ!

 いちいち俺様に指図すんじゃねぇっ!」


 その男も裸にされて宙に浮き、真っ赤になって口をぱくぱくし始めた。


『タケル王国では、暴力や脅迫をもって他人を従わせようとする行為は厳重に禁止されています。

 このことは忘れないでください』


 村人たちは神妙に頷いていた……




『さて、みなさん食べ終わりましたね。

 それではタケル王国に移住してもいいと思われる方はこちらに近づいてきてください。

 移住を断られる方は離れてください』


 村人たちは、村長の息子の夫人たちも含めて全員が祠に近づいて来た。


『それではタケル王国に転移しましょうか』


 そうして、村人たちはその場から消え、時間停止倉庫に転移していったのである。


 割り込みをしようとして宙に浮かべられていた男も、移住を希望したために消えて行っていた……




(タケルさま、予定通り村長たちはこのまま10日ほど吊るしておきますね。

 もちろん水も最低限の食料も胃に直接転移します)


(ついでにまだ春先で気温も低いから、夜は結界で保護してやっておいてくれ)


(はい)


(その10日間で、この辺境伯とその寄子貴族の村は同じような処置が可能かな)


(全ての村で同時に処置出来ますので充分可能です)


(それじゃあ頼んだわ)


(畏まりました)



 そして10日後。


『村長さん、今はまだ声に出して話すことが出来ないようになっています。

 話したいことがあれば、頭の中で言ってください』


 村長が真っ赤になって口をぱくぱくさせ始めた。


『あなたは喋れないようにされていると申し上げました。

 頭の中で発言しなければずっとそのままですよ』


(は、早くわしを降ろせっ!

 それから農奴共をどこへやった!

 すぐにここに連れ戻せっ!

 そして、わしにもメシをよこせっ!)


『村の皆さんが村に戻られるのは、その方がそう希望されたときだけですよ?』


 また村長が真っ赤な顔で口をぱくぱくし始めた。


『ですから今あなたは喋れないようにされているので、頭の中で返事をするように言いましたよね。

 クズ村長は頭までクズなんですか?

 食事が与えられるのはあなたが罪を認めて牢に入るのを選んだときだけです』


(な!)


『村長さん、あなたの犯罪歴は殺人が12件、殺人教唆が53件、強盗教唆が90件もあります。

 傷害や傷害教唆に至っては合わせて582件もありますので、この罪状では終身刑となります』


(な、なんだそれは!)


『タケル王国に移住することを選んだ場合には死ぬまで牢から出られないということです』


(ふ、ふざけるな!

 は、早くわしを降ろせっ!)


『ということは、この村に残られるということでよろしいのですね』


(あ、当たり前だ!)


『もし気が変わって終身刑でもいいので移住させて欲しいのであれば、この祠の前で大声でそう言ってください』


(そ、そのようなことがあるわけないだろうっ!)


『それからあなたが横領された扶持麦ですが、扶持麦は元々1人当たり2斗(≒30キロ)でしたので、残りの分はすべて村の皆さんに分配しますのでご承知おきください』


(な……)




『あなたは村長の長男ですね。

 返事は頭の中でしてください』


 ぱくぱく。


『まったく親子そろって莫迦なんですか?

 返事は頭の中でと言ったでしょうに』


(こ、この無礼者めがっ! 

 村長さまのご長男さまと呼べっ!)


『あなたわたくしの話を聞いていたんですか。

 それとも莫迦すぎて現状認識力が全く無いんですか』


(な……)


『あなたも殺人12件、殺人教唆15件、傷害28件、傷害教唆90件もの罪状がありますので、タケル王国に移住した場合には死ぬまで牢にいることになります。


(ふ、ふざけるな!

 そのような場所に行くわけがないだろうに!)


『わかりました。

 それでは村に残ることを希望されるとのことですが、あなた方が横領した下賜麦のうちあなた方の分以外は全て村人に返しますのでそのつもりでいてください』


(な……)


『それから気が変わってタケル王国で死ぬまで牢に入る気になられたら、この祠の前で大声でそう言ってください』


(そ、そのようなことがあるわけないだろうっ!)



 こうして村に残ることを選んだのは、村長とその夫人、長男と次男、そして村長の親戚男2名の計6名だけだったのである……



「ど、どうするんだよ親父」


「莫迦者!

 村長さまと呼べとあれほど言っただろうに!」


「い、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろうに……

 農奴共が全員逃散したって子爵家にバレたら、俺たち全員縛り首だぞ!」


「なに、徴税人が来るのは秋の収穫が終わったときだけだ。

 その時だけ森に入って隠れていればよかろう」


「それまでの喰いものはどうすんだよ」


「ははは、安心しろ。

 農奴共への下賜麦を隠し蔵にたっぷりと貯えてあるだろうが」


「そ、そうか、それじゃあどのぐらいあるか確かめてみようぜ」


 もちろん村長たちは、冬の間に他の村に襲撃された場合に備え、地面深くに隠匿麦を隠しているのである。


 だが……

 隠し蔵にあったのは2斗袋6つ分の麦だけだったのだ。


「「「 ……………… 」」」



「よ、よし!

 お前たち森に入って喰いものを探して来い!」


「そ、そんな農奴みたいなこと俺たちにさせるんかよ」


「この莫迦者め!

 そんなことを言っている場合か!

 早く森に行け!」



 だがもちろん、村の周囲の森の恵みは全て村人たちに食べ尽くされていたのであった……



 彼らは3か月ほどはなんとか麦を喰い繋いでいたが、その麦が尽きて10日後、泣きながら祠の前でタケル国に連れて行ってくれと叫んだのである。


(終身刑犯さま6名追加ね♪)



 また、タケル国に行くことを選んだ元の農奴300名のうち、終身刑は80名、禁固20年以上の刑120名、10年以上20年未満は75名、5年以上10年未満は21名であり、無罪だったのは8歳以下の子供4人だけであった……




「タケルさますみませんでしたにゃ……

 やっぱりボクの認識が甘かったですにゃ……」


「まあお前たちはヒト族じゃないし、平和な世界で育って来たんだから仕方ないわ。

 俺の認識すら甘かったんだから。

 それにしても村長たちは全員逃げ隠れることを選んだか……

 これはちょっと予想外だったな」


「?」


「いや、村長たちのうち何人かはもう少し主家への忠誠心を持ってると思ってたんだ。

 もしすぐに地面に降ろしてやったら直ちに貴族に農奴の逃散を報せに行くんじゃないかって。

 でも忠誠心なんか微塵も持ってなかったんだな。

 それにしても、まさか村人までここまで犯罪者だらけとはな。

 マリアーヌ」


『はい』


「保育園と幼稚園と幼年学校と初等学校施設はそのまま計画通りだが、成人用の村を減らして牢を大幅に増やしておいてくれ」


『畏まりました』




 こうしてAI祠部隊たちは、さらに10日ほどかけて東王国全域6500の村から195万人の農奴を保護していくこととなったのである。

 それが終われば、南王国西王国北王国と彼女たちは手を広げていくだろう。

 さらには属国群にまでも。


 だが、税の徴収以外農奴にほとんど興味を持たない貴族家関係者がこの事態に気づくのは、秋の収穫期が終わったころになる。


 偶然の機会にこの農奴の逃散を知った貴族家も少数ながらいたが、従士や領兵には固く箝口令が敷かれた。

 もちろん農奴全員に逃散されたなどということは、転封どころか貴族家係累者全員の縛り首案件だったからである。


 彼らは王家に周辺地域の蛮族領に攻め入る許可を申請し、農奴を得るために遠征して行った。

 貴族家の中には近隣属国の農奴を無理やり自領に連れ去ろうと考えた者もいたが、その属国の農奴も既にタケル国に保護されてしまっていて誰も居なかったのである。


 秋の徴税期にどれほどの大混乱が起きるかタケルも楽しみにしていた……





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