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*** 129 タケルさまの真似 ***

 


「辺境伯閣下、発言をお許しください」


「許す」


「是非わたくしめを派遣させてください」


「いや、わしが行こう」


「子爵閣下……」


「我がイペリット家ではあのズボランと違って次代はお前と決定しておる。

 ならば万が一の際に失われるべきであるのはお前ではなくわしの命だ。

 また、壁と街が一夜にして出現したのが事実だとしても、王族の一部には恣意的に疑う者も出てくることだろう。

 上級平民落ちを控えている王族にとっては、辺境子爵領など目の前にぶら下がった餌同然だからな。

 その際に、当主自らが検分に動いたとあれば、十分な牽制になることだろう」


「は……」


「伯爵閣下、もしわたくしに万が一のことがあった場合には、このシアンへの即座の当主交代をお認め願えませんでしょうか」


「うむ、認めよう」


「ありがとうございます」


「今そなたが申した子爵領の瑕疵は、そっくりそのまま我が辺境伯領にも当て嵌まるが、私はまだ代替わりしたばかりで嫡男も幼い。

 イペリット子爵よ、大役を任せて済まぬが頼むぞ」


「ありがたきお言葉……」


「それに、確かにそなたが言うように、第3王子派辺りは難癖をつけて我らの領地を狙って来るだろうの」


「第3王子殿下もその配下貴族も領地を欲するのならば蛮族の国に攻め込めばよいものを……」


「まあ第4王子が蛮族の地で夜襲を受けて首を晒されたために怯えておるのだろう。

 まったくどうしようもない臆病者共だの」


「御意」


「そうそう、そなたが検分に赴くのは明後日にせよ。

 配下の全軍が集まった後に、その軍を壁の手前200メートルに配置した上で出向け。

 その際にはそなたは領兵の軍服を着て、見かけ上の指揮官には従士を充てろ。

 また、全員が軍笛を携帯し、万が一の際にはその笛を合図に全軍が突入する」


「はっ!」


「銅粒は500粒ほど持参するとして、その中には10粒ほど偽銅も混ぜておけ。

 相手の力量も試してやろうではないか」


「はは、楽しみですな」



(ははは、俺も楽しみだよ。

 それじゃあ明日は祠部隊に農奴を集めさせるかな。

 ただ、最初は領都からなるべく離れていて孤立している村から始めてくれ)


(畏まりました)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「お、親父、た、たいへんだ!」


「莫迦者!

 村長さまと呼べとあれほど言っただろうに!」


「それどころじゃねぇんだ。

 村の広場にでっけぇ塚みてぇなもんが!」


「なに……」



『みなさんこんにちは。

 わたくしは『ほこら』と申します。

 今皆さんの頭の中に直接話しかけさせていただいています』


「なんだと……」


(子供の数が少ないわね……

 300人近い村人がいて8歳以下の子供が4人しかいないわ……

 それだけ農奴の暮らしが悲惨だって言うことね……)


『わたくしはここから歩いて半日ほどのところに出来たタケル王国から来ました。

 タケル王国では今国民を募集しています。

 もし移住して頂ければ1年ほど軽い仕事をして頂いて、その後はお1人当たり1反の農地を無償で差し上げます。

 因みに税は最初の3年間は無料で、その後は収穫の1割です』


「なに……」


『また、軽い仕事の1年間と農業が軌道に乗るまでの3年間は、毎日3回の食事をご提供します』


 盛大なざわめきが起きた。


「1日3回だと……」


「3日に1回の間違いじゃないのか……」


『いいえ、1日3回です。

 どのような食事なのか試していただくために、今からお料理をお出ししますね』


 祠の前にテーブルと食器、特大の寸胴3個に入った穀物粥が出て来た。

 辺りにはいい匂いが広がっている。


『さあみなさん、試しに食べてみて下さい』


「「「 おおおおお…… 」」」


 村人たちがよろよろと近づいて来た。


「ま、待てっ!

 そのメシはわしのものだっ!」


『いいえ?

 このお料理はタケル王国のものですよ?』


「ここはわしの村だから、村にあるものはすべてわしのものだろうっ!」


『ここは子爵領であってあなたの村ではないでしょ?』


「ぶ、無礼者めっ!

 元子爵家縁者のわしに向かってなんという口を利くのだっ!」


『でも今は平民落ちしてただの村長ですよね。

 もともと貴族家縁者だったとしても、何の功績も無かったから村長にしかしてもらえなかったわけですし』


「!!!!!」


『しかも村長になってからも下賜麦の横領と威張ることしか出来ない無能村長でしたよね』


「な、ななな、なんだとぉぉぉ―――っ!」


『さあみなさん、うるさいご老人は放っておいて、穀物粥を試してみてくださいな』


「お、お前たち!

 も、もしわしの粥を食べたりしたら棍棒で百叩きにするぞっ!」


(ちょっとタケルさまの真似をして強気に出てみようかしら♪)


『うるせえって言ってんだろこのクソジジイ!』


「なっ……」


『お前ぇが下賜麦を横領してるせいで村人が腹を空かせてんだろうが。

 その村人にメシを振舞ってやろうとしてんだ。

 村長のお前ぇは地に頭を摺りつけて感謝しろっ!』


「こ、ここここ……」


『なにニワトリの真似してんだコラ』



(タケルさま、すみませんウチの娘が……

 タケルさまの影響で強気に出ているようでして……)


(ゆ、許す……)


 因みに、このシーンが配信されると、銀河全域でヒューマノイドがAIに丁寧語で話しかけるようになったそうだ……



「お、お前たち何をしておる!

 こ、この祠をぶち壊せっ!」


「「「 へい村長! 」」」


 村長の息子たちや親戚と思われる者たちが棍棒を手に走って来た。

 驚くべきことに村長夫人と思われる女性まで鬼の形相で棍棒を振り上げている。


『はいアウトぉー!』


「「「 うわぁぁぁーっ! 」」」


 村長と夫人と男たちが突然裸になって宙に浮いた。

(夫人には粗末な貫頭衣が与えられている)


 全員に『遮音』の魔法はかけているようだが、今回は裸踊りは踊らせていないようだ。


『みなさん、タケル王国では、暴力で他人を従わせようとするとこのように罰せられます。

 よく覚えていてくださいね』


 あっけにとられていた村人たちはこくこく頷いている。


『さあさあ、煩い村長たちはもう無力化しましたので、ゆっくり粥を食べて下さい。

 他人を押しのけて粥を独占しようとしたら、莫迦な村長たちの隣に浮くことになりますよ。

 そうなればもちろん粥は食べられません』


 村人たちは大人しく並んで粥を椀によそって食べ始めた。


「旨ぇ……」


「なんだこれ、こんなに旨いもん喰ったことねぇよ……」


「こ、この茶色いのなんだ?」


『それはお肉ですね』


「にく?」


「あ、あのお貴族さまが食べるって言う肉か!」


『はいそうです』


「すげえなこの粥、汁より具の方が多いよ……」



 村人たちが夢中で粥を食べている姿を見て、村長は真っ赤な顔をして口をパクパクさせている。

 だがもちろん声は出せていない。

 そのうちに激怒のあまり脳の血管でも切れたのか、白目を剥いて泡を吹き始めた。


(そう簡単には死なせるわけにはいきませんね……

 グランドキュア……)


 村長の目は元に戻り、また口をパクパクさせ始めている。


 村人たちに1椀ずつの粥が配られると寸胴が消えた。


「「「 ああ…… 」」」



『実はあまりにも空腹だった方が急にお腹いっぱい食べると、体を壊すのです。

 今からしばらくわたしの話を聞いていただいて、その後にもう1杯粥をお出しします。

 静かに聞いて下さいね。

 あ、その場に座っていただいてけっこうですよ』


 村人たちはふらふらとその場に座った。


『先ほども申し上げました通り、我が『タケル王国』では国民を募集しています。

 もしも移住して頂けたら、農業が軌道に乗るまで今のようなお食事が1日3回出ます。

 ただし、最初の1年のお仕事やその後に差し上げる畑で真面目に働いて下さらない方は、またこの村に戻っていただくことになります』


「め、メシを喰わせてくれるなら、いくらでも働くぞ!」


『ありがとうございます。

 それからですね、実は我が国は犯罪者の方には罪を償って頂いてからでなければ受け入れることが出来ないのです』


「は、『はんざい』ってなんだ?」


『そうですね、たとえば冬に他の村へ略奪に行くようなことです』


「「「 !!! 」」」


「あ、あれは村長が向こうの村人を殺してでも麦を盗んで来いって……」


「もし行かなければ棍棒で叩きのめすって……」


『そうした暴力を伴う脅迫で無理やり命じられたとしても犯罪は犯罪です。

 もちろんその様に命じた者も犯罪者です』


((( ………… )))


『ですが命令されてそのようなことをしていた場合には、情状が酌量されて罪はその分軽くなりますね』


「『つぐなう』ってなんだ?」


『罪を犯した分だけの期間、牢に入って頂くことになります。

 でもご安心ください、牢でも粗末ながら食事は出ますので』


 村人たちはあからさまにほっとした顔をしている。





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