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*** 128 1万2000光年 ***

 


 砦に到着したイペリット辺境子爵を出迎えたのは、長男のシアン司令官だった。


「ようこそお越しくださいました子爵閣下」


「城壁に関してなにかわかったか」


「2つの哨戒部隊に南北半日ほどの偵察を行わせましたが、壁は果てしなく続いているだけでした。

 門もこの砦より真西に進んだ地点にしかございません。

 また、その門より平らな道が東へと延びております。

 多分ですが辺境伯爵閣下の領都付近まで続いているかと」


「壁の内側に兵はいたか、また壁の厚みは」


「見える範囲には門番の2人しかおりませぬ。

 また門付近の壁の厚さは1メートルございませぬ」


「ふむ、ならば壁内に兵の隠れる部屋は無いか。

 それで壁内に砦はあったか」


「それが、2階建てと思われる大きな建物がございましたが、どうも砦には見えませんでした。

 ただし壁の内側には4階建てに匹敵する高さの物見櫓がございます」


「なんだと、辺境伯閣下の城と同じ2階建てだと!

 しかも閣下の物見櫓ですら3階建て相当だというのに。

 なんという不敬な!」


「そ、それで如何致しましょうか。

 この砦から数名斥候を出し、どこの国があのような壁を造ったのか問いただそうと思っておりましたが」


「ふむ、それでは心利いたる従士と兵4名を派遣せよ。

 よいか、決して事を構えるなよ。

 多分北王国か南王国が造ったものだろうが、兵も揃えておらぬ今、我らがきゃつらと全面戦争を起こすわけにはいかん。

 今は偵察と情報収集に徹し、辺境伯閣下に報告の上ご判断を頂くのだ」


「はっ!」




『タケルさま、東門に向けて東王国砦の兵がやって来ています』


「そうか、それでは門番を交代しようか。

 俺とオーキーで出る。

 オーキー、すまんが『変身』の魔道具でヒト族の姿になってくれ」


「ブヒ」



「従士殿、どうやら門番が交代するようですな」


「ふむ、中から出て来た兵が外にいた兵から槍を受け取ったか。

 随分と武器の少ない軍のようだ。

 それではゆっくり向かうぞ。

 こちらは5人だが、あの非番になった門番が離れるまで時間をかける」


「はっ!」


「また、下馬はするな。

 いざというときはすぐに撤退するのだ」


「ははっ!」



 門に近づくにつれて、内部の建物が良く見えるようになってきた。


(な、なんだあの巨大な建物は……

 不遜にも辺境伯閣下の居城よりも遥かに大きいではないか……)


 また、同時に門番の体格の大きさも良く分かるようになっている。

 1名は18歳ほどの若者で身長は190センチ近い大男だったが、もう1人は2メートル20センチ以上はあるだろう見たことも無い巨大な男だった。

 両名とも上等な仕立ての軍服に革鎧を身に着け、手には銀色に輝く槍を持っている。


(金色の髪に青い目だと……

 そんな者は見たことが無いぞ。

 それになんだあの槍は……

 なぜあのように銀色に光っているのだ。

 青銅の槍ではないのか?)



「おい、そこな門番!

 この壁と街はどこの国のものだ!」


「ここから先はタケル王国の領土だ」


「なに、タケル王国だと……

 北王国や南王国ではないのか!」


「違う、タケル王が興したタケル王国である」


(なんか照れるな……)


「き、キサマ、東王国辺境子爵家従士殿を前にしてその口の利き方はなんだ!」


「俺はタケル王国の兵だ。

 蛮族の従士ごときに払う敬意は持たぬ」


「な、なんだとぉっ!

 こちらのお方さまは元辺境伯家のお身内である貴族家縁者の方ぞ!

 お前ごとき奴隷兵が無礼な口を利くな!」


「タケル王国には王はいるが、それ以外は皆民であり身分の差は無い。

 もちろん奴隷もいない。

 よって、たとえ辺境伯爵本人であろうとも敬意は持たぬ」


「き、キサマ、無礼打ちに致すぞっ!」


「待て」


「は、はっ!」


「そのタケル王とやらはどこの国出身だ。

 北王国か南王国か」


「どちらでもない。

 タケル王陛下は遥か離れた地のご出身である」


(まあ1万2000光年ほど離れてる地だけど)


「その国王が何故にこの地に壁や街などを造った」


「陛下がこの地に分国と分城を造られた理由について詳しくは知らぬ」


(実はお前らを滅ぼして平和な国を造るためだぜ♪)



「城などどこにあるというのだ」


「この街から西に250キロほど行った地に王都がある。

 そこには巨大な城があるぞ」


「な、なんだと、そのように広大な地を領すると宣言するのか!」


「そうだ、なにしろ陛下は一辺500キロもある地を壁で囲って分国とされたからな」


「それではかつての中央大国の領土全てではないか!」


「まあ誰も住んでいなかった地だから特に問題は無いだろう。

 それとも東王国は砦も村も作っていなかったのに、この地を自国の領土だと主張するのか?」


「領土とは戦って勝ち取るものだ!

 ふざけたことを言っていると、我が東王国の兵40万が攻め込むぞ!」


「ははは、こんな大きな壁が完成するまで気づかなかった軍など恐れるに足らんな」


「ぐぅ……」


「それにその兵力40万とは、属国を抑え込んでいる兵も含めてのことだろう。

 そのような兵をすべてこの地に集めたなら、3日もしないうちに属国群全てで反乱が起き、東王国などあっという間に滅ぶな。

 お前たちの兵力など辺境伯軍とその寄子軍を合わせて5000しかいないだろうし、欲に目が眩んだ王家が援軍を寄越してもせいぜいが2万だろう。

 そのようなことは有り得んが、勝利した際の富を思ってお前たちは周辺貴族に援軍も依頼しないだろうしな。

 その程度の軍勢であれば何の問題も無い」


「な、なんだと!

 お前たちの軍は何人いるというのだ!」


「ははは、兵の数は国家の最高機密だ。

 お前たちと違ってその機密を易々と漏らす愚か者は我が軍にはいない」


「なっ!」


「それに周辺貴族が兵を寄越すのはお前たちが敗北して発言権を失った後になる。

 そのように分散した軍を各個撃破するのは易いな」


「それでは、なぜこのような門と門街に加えて道までをも造ったのだ。

 我が国に攻め込むつもりか!」


「東王国のような貧乏な国に攻め込んでもなんの旨味もない」


「な、なに!」


「この門内街はタケル陛下が貧乏な東王国の民を哀れに思われて、麦その他を売ってやるために造られた商業の街だ。

 銅粒を持って来れば麦と交換してやるぞ」


「な、なんだと……

 この場に市を立てると申すか」


「いや、タケル陛下の格別のお計らいで、門内に入って街での買い物が可能だ。

 この門の内側は別の城壁に囲まれているので、商業街内なら自由に見学が許されることになっている。

 まあ今日はもう日が暮れるからな。

 明日以降銅粒を持参して出直して来い」


「な……」


「ただしひとつ言っておく。

 我が国では街内での武器の携行は許されていない。

 よってここでお前たちの兵に武器を預けて待たせるように。

 また、騎乗も禁止だ。

 例え貴族だろうが王族だろうが下馬して徒歩にて移動すること」


「ぬぐぐぐぐぐ……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『タケルさま、まもなく偵察隊が砦に帰着します。

 砦には辺境伯も来たようですね』


「はは、さすが軍事国家の貴族はフットワークも軽いな。

 それじゃあ軍議の様子を見させてもらおうか)




 前線砦にて。


「こ、これはこれは辺境伯閣下!

 このようなむさくるしい場所に……」


「よい、気遣い無用だ」


「で、ですがこの砦には碌にワインも肉も無く、おもてなしも……」


「構わぬ。

 報告の通りであれば今は非常時である。

 取り急ぎ100の兵を連れ、軍用天幕や糧食も持って来た。

 この砦は詰めれば1000の兵を収容可能だろうが、庭や周囲に天幕を張らせればさらに4000は可能だろう。

 他の寄子子爵家と男爵家にも動員令を出した。

 各軍天幕と糧食を持参して明日には集合するだろう。

 受け入れ準備と夜襲への警戒を」


「はっ」



「偵察隊が帰還致しました!」


「よし、軍議室で報告を聞こう」




「伯爵閣下、子爵閣下、司令官殿、門番への聞き取りは以上にございます」


「むぅ、タケル王国とな……」


「それが北王国や南王国の虚言でないとどうしてわかる」


「は、門番の大男たちはいずれも青目金髪でございました。

 交代した者たちもです。

 そのような風体の者を見たのは初めてでございます」


「そうか……

 それで他に何か思うところはあったか。

 そなたの印象で構わん」


「は、あの門番の男、只者ではないと見ました。

 その体格、数で勝る我らを見ても一切物怖じしない態度、おそらくは大隊長、いえ貴族家係累者かもしれません」


(照れるなおい。

 だがまあレベル20程度の兵がレベル740の俺を見ればそう思うのか)


「なるほど、その方たちが近づいていった際に門番が交代したと申したの。

 その方らを見て上位者と交代したのかもしらんの。

 それもわざと門番の格好などして。

 それで試しにその商業街とやらに出向いてはみるとして、誰を遣わすか……」





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