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*** 12 E階梯 ***

 


「それじゃあ社会成熟度のランク表も見せてくれ」


「はいですにゃ」



<社会成熟度ランク表>


 ランク1:犯罪行為の激減

 ランク2:地政学的紛争の終焉

 ランク3:宗教紛争の終焉(攻撃的宗教の壊死)

 ランク4:恒星系統一政府の平和的誕生

 ランク5:疾病死、事故死、紛争死の激減(自然死率99%以上)

 ランク6:恒星系人民平均E階梯5.0以上。



「うっわー、これだと地球はランク1にも至ってないのかぁ。

 先はもっと遠いわー」


「そうですにゃあ、これから順調に行っても、地球が銀河連盟に加盟出来るのにはあと200万年ぐらいの時間が必要ですにゃ」


「そんなにか……」


「ですが宇宙的尺度では200万年ぐらいはあっという間ですにゃ。

 先進文明世界では既に100億年の歴史を持つ世界もありますし」


「それに比べれば地球の文明なんてたかだか5万年だろうからな。

 そうか、相当に若い文明だったっていうことか。

 っていうより乳幼児文明かも。

 けっこういい線行ってるかとも思ったけど、まだまだ先は長いか……」


「はい」


「ところでさ、『天族』の指示の中でも出てたけど、このレベル6のところにあるE階梯ってなんなんだ?」


「簡単に言えば倫理階梯で、主に他者を思い遣って行動出来る能力のことになりますにゃ。

 逆に他者を虐げることに喜びを覚えるような者や、他者を不幸にさせることで利益を得ようとする者はE階梯がマイナス表示されることもありますし。

 民を支配することそのものを目的に圧政を行ったり、他国に攻め込んで自分の財産欲やプライドを満たそうとする支配層にゃどもマイナス表示されます」


「具体的にはE階梯レベルってどんなもんなんだ?」


「例えばミミズのE階梯はゼロですにゃ。

 ミミズには他者を思い遣ることは出来ませんし、他者を虐げることで利益や喜びを得ることも出来ませんにょで」


「なるほど」



「E階梯がレベル1になると、ようやく自分と同格の他者が存在していることを理解・納得することが出来るようになりますにゃ。

 まあ理解したからといって、その他者に配慮出来るとは限りませんけど。

 レベル2では他者の感情を理解出来るようになり、レベル3では他者の感情に共感することが出来るようになりますのにゃ。

 レベルが4ににゃりますと、特に親しい者の喜びの感情を自分の喜びの感情とすることが出来るんですにゃ。

 レベル5以上になると、自分が知らない者の幸福をも追求出来るようになりますにゃ。



「な、なあ、これ今の地球平均ってどれぐらいなんだ?」


「現時点の地球人の平均E階梯は0.5と言われておりますにゃ」


「そんなに低いのか……

 ミミズとそう変わらないっていうことなんだな」


「E階梯マイナスの者がたくさんいるために、平均ではこんな数値になるんですにゃよ」


「そ、そうか……」


「因みに地球人の最低はマイナス52、最高は6.3ですにゃ。

 各国政治指導者の平均はマイナス8.0ですが」


「そんなに酷いのか……」


「政治指導者のほぼ全員は自分の権力の範囲、つまり自分がマウントを取れる範囲を拡大することしか考えていませんにょで。

 後進国の政治指導者の中には、自分がマウントを取れない相手や自分を尊敬しにゃい者は全て悪と考えて滅ぼすべしと信じている者も多いですしにゃ。

 表向き議会制民主主義を標榜していても、自分への反対勢力である野党を認めない国にゃどが典型です」


「そ、そうか……」


「常にマウントを取りあって階級社会を形成することを本能にインプットされてる類人猿が進化したヒト族の社会では、仕方のにゃいことですね。

 なにしろ地球では、類人猿の歴史400万年に対して、ヒト族の歴史はまだ5万年程度ですから。

 あと200万年ぐらいは経たないと本能は捨てきれないでしょうにゃ」


「そうなんだね……」


「そう言えば地球の人類学者が興味深い実験をしていましたにゃ。

 5万年前のクロマニョン人から現代人類までの遺伝子型を調べると、L1からL5までの型に分岐して進化して来ているんです。

 地球ではもうL1人類はほとんど絶滅していて、未開発地域にかろうじてL2遺伝子を持つ人類が残っているだけだそうにゃんですけど。

 でも先進国地域にはL3からL5までの遺伝子を持つ人類が共存していて、特に最近ではL6遺伝子を持つ人類も発生しているそうにゃんですよ」


「ほほー」


「それで人類学者たちが実験したんですけど、

『2人の被験者を用意し、お互いの顔を見せずに実験を始める。

 最初の被験者に10枚の1ドルコインを見せて、その中から1枚以上9枚以下のコインを選ばせる。

 2人目の被験者は残ったコインを得られるが、もし2人目の被験者が拒否すれば2人には1枚のコインも与えられない』

 という実験だったんですにゃ」


「それさ、何度実験しても1人目が5枚選んで2人目が5枚を得るんじゃない?」


「そう思われるのはタケルさまのE階梯が高い上にL12の遺伝子をお持ちだからでしょうにゃ」


「L12…… そうか、父さんと母さんが銀河のヒト族だからか」


「ですがこの地球ではタケルさま以外ではL6が最高ににゃります。

 もちろんこの実験を先進地域のL5人類やL6人類相手におこにゃうと、ほとんどの1人目は5枚を選択します。

 にゃかには1人目が4枚を選択したケースすらありましたにゃ」


「なるほど、2人目を喜ばせてやろうと思ったのか」


「理由を聞かれてみんにゃそう答えたそうですにゃ。

 たとえ少しでも2人目に不快な思いをさせたくにゃいからだったそうです。

 ところが、この実験を後進地域のL2人類相手に行いますと、最初の1人はほぼ必ず9枚を選ぶんですにゃ」


「えっ……

 そうか!

 それで2人目が怒って拒否すれば、2人とも1枚も得られないから2人目も1枚で同意すると考えるんだな!」


「その通りですにゃ。

 L2人類といえども知能が低いとは限りませんので。

 ですが、実験終了後に2人目の被験者が1人目を襲撃して9枚のコインを奪うという行動が頻発したのですにゃ……」


「うっわー」


「もちろん彼らにはその行動に罪の意識は全く無く、当たり前の行動をしたと思っていたそうです」


「そうか……

 日韓ワールドカップの時に〇〇国代表選手が宿舎近くの時計店で万引きして捕まってたよな……

 警察で『ワールドカップの国代表ともあろう者がなんでそんなことをしたのか』って聞かれて、『だって手が届くところに置いてあったから』って答えたそうだけど。

 L2やL3の人類には、犯罪を忌避しようとする発想すら無いんだな……

 そりゃあ地球が戦争と言う名の武装強盗に溢れていたわけだ」


「そうですにゃ。

 特にヒト族社会に多い傾向ですにゃぁ」


「でもさ、最近ではL6遺伝子を持つヒト族も生まれ始めてるんだろ。

 L6の犯罪者は少ないのかな」


「詳しい統計はにゃいので断言は出来ませんが、犯罪被害者にも感情移入してしまうためにかにゃり少ないのではないかと予想されますにゃ」


「それさ、なんでそういうL6人類が発生し始めたのかな?」


「銀河宇宙の人類学では、マスメディアやネットのおかげとされております」


「そうか! 他者の感情を知るにはまず他者を知らなきゃならないからか!」


「その通りですにゃ。

 古代社会では知人というのはせいぜい村か町の中にしかいませんでしたから。

 ですから知人ではないヒトは、ヒト扱いされなかったのでしょう」


「なるほどな、だから他国を侵略して大勢殺しても心は痛まなかったんだ。

 ワールドカップの万引き選手と同じような発想で、『そこに手が届く食料やお宝があったから獲っただけ』って思ってたんだな」


「はいですにゃ」


「そっか、テレビやネットも少しは役に立ってたんだ」


「ですがまぁ、地球社会のネット世界は、そのほとんどが対人恐怖症患者のヒステリー衝動の発露か、マウント取りに費やされていますにゃあ。

 おかげで銀河人類学者の間では病的症例の宝庫として注目されておりますのですにゃよ」


「そ、そうだったんだね……

 まあなんとなく分かる気はするけど」


「そういえば日本の文豪が面白いエッセイを書いていましたにゃ。

 彼に言わせれば、エッセイなどというものは、枕草子や方丈記の時代から男性作者の場合は『俺ってすげぇだろ!』、女性作者の場合は『アタシってセンスいいでしょ♪』っていうマウント取りでしかなかったそうなんですにゃ」


「うっわー」


「だからエッセイなんか書くのは恥ずかしいとも書いていましたけど。

 まあ今の地球のネット世界も似たようなもんですにゃ」


「そ、そうか……

 ところでさ、ちょっと聞くのが怖いんだけど、俺のE階梯ってわかるのか?」


「はい、わかりますにゃ」


「それっていくらぐらいなんだ?」


「タケルー様の記憶を移植する前のタケルさまの段階で5.8でしたにゃ。

 そこに6.8のタケルーさまの記憶が入って、現在6.3ににゃっていらっしゃいます」


「えっ、そ、そんなに高いの?

 俺ってけっこう攻撃的な性格だよ?

 それにその6.3って地球人最高じゃないか!」


「もちろんタケルーさまのご記憶が混ざった結果ですけどね。

 それにタケルさまが攻撃的になるのは、相手が理不尽な動機でタケルさまにマウントを取ろうとしたときのみでした。

 それもその反撃は暴力的手段ではありませんでしたし。

 また、格闘技などの実力もお持ちにゃのに、ご自分から誰かにマウントを取りに行かれようとされたことも一度もありませんでしたにゃ」


「そういえばそうだったか……」


「それにそれだけのE階梯があれば、他者の感情もかなり分かっていたはずです。

 親しいご友人などに気味悪がられたことはありませんかにゃ?」


「うん、ある……

『お前心が読めるのか!』とかよく言われた……」


「やはりですにゃ」


「それにしてもタケルーさんのE階梯はさすがだね」


「タケルーさまが5万年前にあのような行動を取られた際には、単に2つの恒星系210億の民をお救いになられるためではなかったと言われていますにゃ」


「そうなの?」


「あのように神界に大打撃を与えて原理派の神々を懲らしめれば、その後エリザベートさまを筆頭とされる救済派が主流派になって他の自然災害世界の多くが救われると信じ、己が衰弱死することを承知で喜んでお亡くなりになられたとされておりますにゃ……

 だからこそ、あれだけの超英雄として銀河全域で尊崇されていますんにゃよ」


「そうだったのか……」



(ねえタケルーさまの記憶さん、そんなふうに考えてたの?)


(いや…… あのときはついカッとなって…… はは……

 美化されすぎててこっ恥ずかしいわ……)


(やっぱり!)





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