*** 119 紛争強制停止措置開始 ***
この個別企業による未認定世界支援宣伝手法は、全銀河の大企業に爆発的に広がって行った。
なにしろ素晴らしい広告になるだけでなく、自分たちもあのタケル神さまの大事業に参画出来るのである。
企業による一般寄付は株主への説明責任を伴うが、この支出は宣伝広告費に分類されるために、全く問題は無かったそうだ。
おかげで救済部門はAIハードウエア5000万体分もの協賛費を得られたのである。
祠に大きくロゴを描かれたAI娘たちは、少し恥ずかし気にしていたが、それでも嬉しそうだった。
さらに或る大企業がCMにAIアバターの出演を依頼して来た。
当然のことながらアバターは8歳ほどに見える可愛らしい少女姿である。
そのアバターは企業のロゴが大きく入ったシャツを着てCMに出演し、すぐに超絶大人気になった。
おかげで救済部門には莫大な出演料が振り込まれて来たのである。
もちろんアバターが銀河宇宙をあちこち飛び回っても、彼女たちAIの本来任務には何の支障も無い。
彼女たちの本体は数百万個の超CPUを持ち、同時に数億のマルチタスクが可能だった。
こうしてマリアーヌの娘たちは銀河のアイドルになっていったのである。
なにしろ彼女たちは、単に可愛らしいだけでなく、姉妹と共に未認定世界の惑星を丸ごとひとつ救った英雄でもあるのだ。
惑星ケットを救ったAIは猫人族世界で、ケンネルを救ったAIは犬人族などの世界で超大人気になっている。
どの世界でも、アバターたちは大統領府などの歓迎晩餐会に招かれると、美味しい美味しいと言いながら全ての料理を大量にお代わりして、総料理長を感激で泣かせているそうだ。
そして……
この頃から、銀河の民の間でAIとはヒューマノイドに奉仕する機械ではなく、よりよい世界を構築するためのかけがえのないパートナーなのではないかという考え方が広がり始めたらしい。
あのタケル神さまもAIを『人』と数え、『彼女たち』と呼ばれていたではないか。
こうした結果も含め、タケルは『銀河ギ〇スブック』に『史上最も銀河宇宙に影響を与えた人物』として認定されたのである。
その後まもなく、タケル神が暦年齢で17歳の誕生日を迎えたとの報道が為された。
(生活年齢は40歳を超えていたが、3次元に於ける暦年齢はあくまで17歳である)
僅か17歳の少年があの銀河宇宙の歴史に刻み込まれるであろう大事業を為しているとの報に、全銀河の民たちはまたしても驚きに硬直させられたのであった……
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或る日の救済部門幹部会にて。
「マリアーヌ、未認定世界のうち、ヒト族の紛争世界以外の惑星に派遣されている部隊は今何件いる」
『現時点で35万3812件になりますが、来年には倍増する見込みです』
「物資は足りているのか」
『主に食料の搬入待ちのためにその数字になっています。
農業生産は一朝一夕には増えませんので。
ですが、農業惑星の購入もしくは建造を始めている恒星系が50万に達して銀河宇宙からの食料搬入が急速に増加する見込みのために、2年後には100万件を超える救済が可能になるはずです」
「ということは1年足らずで救済必要度Sランク以上の世界に祠部隊を派遣出来るんだな」
『はい。
さらに今の増加ペースが続けば、3年後には300万件、10年後には7000万惑星の救済開始が可能になるでしょう』
「ということはヒト族惑星以外の全てか」
『はい』
「銀河宇宙の協力のお蔭でだいぶ予定が早まったな。
トラブルの報告は?」
『深刻なものはありません。
たまに犬人族世界からオーク族戦闘員派遣の要請が参りますが、基本数日で終わりますので」
「オーク族の戦闘派遣待機部隊は何人必要だ」
『今のところスリーマン・セル分隊の派遣は多い日でも20件ですので、30分隊90人も待機していれば大丈夫だと思われます』
「オーキー、オーク族たちの士気はどうだ」
「あのケンネルでの戦闘の様子は家族も含めて全員が見ておりますし、天使見習いにもして頂けました。
戦士全員が一層鍛錬に力を入れ、派遣任務を待ちわびておりまする」
「そうか、さすがはオーク族だな」
「ありがとうございます」
「ということは、もうヒト族世界以外はAI族とオーク族戦闘員に任せておいて大丈夫か」
『はい。
もちろん問題があればすぐにご報告申し上げます』
(とうとうわたしたちを『AI族』と呼んで下さるようになったのね……)
マリアーヌがこのタケルが言った『AI族』という言葉を娘たち全員に伝えたところ、全員の機能が0.3秒間も停止し、接続していた全てのアバターが感激の涙を流したそうである。
AI族のモチベーションは天井知らずになっていた……
「それじゃあいよいよヒト族暴虐世界の救済を始めようか。
だがここ100億年は誰もやってなかったことだからな。
多くの試行錯誤が必要になるだろう。
その分の準備は確りと行って来たはずだが、各惑星の救済状況を見て、その都度修正していこう。
全ての情報を諮問会議にも流して、助言も貰おうか。
ニャサブロー、トリアージ部はヒト族要救済世界の優先順位策定は終わっているか」
「他種族世界と同様、大まかにS、A、B、Cの4ランクに分けてトリアージしてありますが、SSSランクの緊急救済を必要とする世界が300万もありました。
SSランクとSランクは合わせて500万です。
いずれの世界でも現在世界大戦規模の戦闘続行中か、数か月中にも大規模な戦争が始まりそうです」
「紛争強制停止措置の必要無いヒト族世界はいくつある」
「僅かに1300しかありません。
どれも人口が1000万人未満の原始世界で、他部族との抗争を行おうにも距離がありすぎて困難なケースです」
「あとは全部強制停止必要世界か。
やはりヒト族はどうしようもないな。
紛争強制停止措置の必要な世界の内、核兵器などの大量破壊兵器の使用が予想される世界の数は」
「約220万です」
「そんなにあるのか……」
「はい……
彼らは社会の発展には何の興味もありませんが、他国にマウントを取るための兵器の開発だけには異様に熱心ですので」
「マリアーヌ、その220万の世界に派遣した事前準備AI部隊の任務遂行状況について報告してくれ。
人体コントロール用ナノマシンの浸透率、大量破壊兵器ロックオン率、通常兵器・武器弾薬と燃料、軍用食料のロックオン率の現状についてなどだ」
『重層次元からの探査浸透により、戦争中もしくは戦争準備国の国家元首、閣僚についてのナノマシン浸透率は100%です。
軍人については、将官級佐官級は100%ですが、尉官級については現在60%になります』
「そうか、引き続き浸透を続けてくれ」
『はい』
「ナノマシン浸透までは行かなくとも、ロックオン率はどうなってる?」
『それは末端兵士まで含めて98%完了しています』
「そうか、まあ敵国侵入兵のような軍服を着てない奴もいるからそれは仕方ないな。
大量破壊兵器は」
『大量破壊兵器のロックオン率は、核兵器・化学兵器については100%ですが、生物兵器については推定95%です」
「まあ生物兵器は発見が難しいだろう。
だが航空燃料や艦船の燃料を押収すれば運搬手段が無くなるから構わんか。
ただし、核兵器や通常兵器がすべて使用不能になれば、生物兵器を使おうとする莫迦も出て来るだろうから、軍司令部の監視を密にしてくれ。
使用命令が出たら補足も容易だろうから、そのときに発見次第重層次元に飛ばすよう派遣AIに伝えるように」
『畏まりました。
また通常兵器ロックオン率は現在97%程度ですが、使用準備の段階で残りを捕捉出来ると思われます。
軍用車両、艦船、航空機と軍事基地の燃料は全て補足済みです』
「了解」
『あの、民間の燃料はいかが致しましょうか』
「兵器の燃料捕捉マーカーは燃料タンクにあるんだろ」
『はい』
「それなら民間から燃料を徴用するたびに水と入れ替えてやれ」
『はい。
また、軍用食料については主要部隊の備蓄へのロックオンは終了していますが、個人携行食料もあるために全体の補足率は70%ほどです』
「それもまあ仕方ないが、発見次第押収しようか。
特に前線の部隊の食料を優先だ」
『はい。
いつから作戦を開始すればよろしいでしょうか』
「たった今から始めてくれ。
とりあえず作戦計画通りにな。
まああれだけ時間をかけてシミュレートした計画だから大丈夫だとは思うが、それでも想定外のことが起きたら直ちに報告するように。
夜間も俺が司令部に詰めている必要はあるか?」
『いえ、緊急事態の際には転移でお越しいただけるでしょうから、ご自宅で結構です』
「些細な事態でも構わんので、問題が起きたら報告するように」
『はい』
「ニャサブロー、大量破壊兵器の無い世界の危機度Sランク以上はいくつある」
「約580万ですにゃ」
「本当にヒト族世界はどうしようもないな」
「はい……」
「マリアーヌ、その580万世界での作戦進捗率は?」
『目標進捗率に対してナノマシンは90%、武器弾薬は80%、兵士へのロックオン率は65%です。
3次元時間であと10日も頂ければいずれも98%まで進捗します』
『わかった、引き続き作戦を続行してくれ。
その10日間は大量破壊兵器世界220万を処理しよう』




