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*** 118 奮い立つ銀河宇宙 ***

 


 銀河連盟最高評議会議長閣下、並びに各種族会代表閣下方は、銀河連盟本部に戻ってからも長い間沈黙し、タケル神の御言葉を反芻していた。



「不思議だのう。

 タケル神さまは、神界の協力さえあれば、我ら銀河の民でもあのような救済が可能だったとご謙遜なされていたが……

 なぜこれほどまでにあのお方さまの偉大さが身に染みておるのだろうか……」


「あのケンネルの子供たちの笑顔を見て慚愧の涙を流していたのは、間違いなく全銀河宇宙でタケル神さまだけでおわしたことでしょう……

 まさに慈愛の神でもあらせられる……」


「本当にお伺いしてよかったです。

 あの至高のご存在に拝謁出来たことは、わたくしの生涯の誇りとなりました……」


「あのお方さまこそが、もはや唯一絶対なる銀河の神とお呼びするに相応しいご存在になられたことでしょう……」



「この上は我ら銀河連盟も、種族会と共に少しでもあのお方さまのお力になれるよう努力していきたいものですな」


「「「 もちろんです! 」」」




 因みに、マリアーヌはこの銀河の重鎮たちとタケルの会談の記録をノーカットでそのまま最高神さま方に報告した。

 最高神さま、前最高神さま、最高神政務庁主席補佐官閣下は、滂沱の涙を流しながら1時間ほど硬直していたとのことである。


 このときこそが、タケルが次の次、もしくはその次の天界最高天使に内定した瞬間だったと言えるだろう……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 超新星爆発を起こした恒星ナンバーN302510からのガンマ線が、あの生命存在惑星に迫って来た。

 あと3日ほどで到達の予定である。

 何度も厳重なチェックが行われたが、生命惑星は大型転移装置の作り出した空隙にすっぽりと収まるはずだった。

 だが、さらに念を入れて惑星静止衛星軌道には5万キロ級転移装置が5基配置されている。



 カウントダウンが始まった。

 惑星大陸上には銀河連盟報道部の無人カメラが100台も配置されている。


 ガンマ線到達の瞬間、夜空が真っ白になった。

 ガンマ線源である超新星爆発天体からわずか1.2光年しか離れていないために、超強力なガンマ線が惑星周辺の星間物質を光崩壊させて発している白色光と思われる。


 だが……

 惑星の上空は真っ黒な影に覆われていて、惑星表面ではその白色光以外、何の変化も見られなかったのである。

 ガンマ線防御作戦は大成功であった。


 あのムツゴロウに似た生物たちは慌てて海に飛び込んでいたが、幸いなことに捕食者である大型硬骨魚類も驚いて深海に潜って行ったために無事だったようだ。

 彼らは単に大きな目をぱちくりさせていただけだったのである……



 この映像が配信されると、またもや銀河の民は熱狂した。

 もはや彼らは超新星爆発から逃れるために遠く離れた恒星系に移住する必要は無くなり、また母惑星を修復するテラフォーミングの必要も無くなったのである。



 こうして神界救済部門は完全に銀河宇宙の信頼を勝ち取ったのであった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 最近設置されたホットラインを通じ、銀河連盟と銀河種族会連合が神界最高神政務庁にお伺いを立てに来た。

 その内容とは、あの種族会代表たちがタケル神に表敬訪問した際に賜った御言葉を、連盟報道部の配信を通じて全銀河宇宙に届けさせては頂けないだろうかというものだったのである。


 銀河宇宙の重鎮たちは、この依頼に応じることは神界がその過ちを認めることを意味するために、許可の出る可能性は低いと考えていたようだ。

 だが、神界上層部はわずか数分の協議の末に、この依頼を受諾したのである。

 ただひとつの条件は、タケル神の言葉を一切脚色することなく、また論評も加えずにそのまま配信して貰いたいというものだった。

 どうやら最高神たちも真摯に懺悔してくれているらしい。

 そうして、過ちを認めることこそが、これからの銀河宇宙と天界の関係に資するという考えに至ったようである。


(この受諾についてはマリアーヌを通じてタケルにも連絡が来たが、タケルは一言『あー、やっちまったわ……』と言ったきりアタマを抱えて沈黙したそうだ)



 銀河連盟報道部の通常番組の中で、次回配信の『神界救済部門』ではタケル神さまご自身の御言葉が流されるという番宣により、その配信への期待度は異様に高かった。


 そして……

 その御言葉とタケル神さまの慚愧の涙が配信された途端に、全銀河宇宙24京9990兆人が衝撃に大硬直したのである。


 番組が終了して我に返った銀河の民は滂沱の涙を流した。

 ケットとケンネルの子供たちの笑顔を見て喜んでいる場合ではなかったのである。

 今この瞬間にも飢えに苦しみ、寒さに震えている同胞がいるのだ!


 救済部門の快挙に歓喜するあまり、そうしたことに気づいていた者は本当に少なかったようだった……




 銀河宇宙が本気(マジ)になった。

 今まで傍観者であった者たちが、プレイヤーになるべく名乗りを上げ始めたのである。


 農業恒星系と言われる約1000万の恒星系では、平均70億の人口を養う以外にはほとんど恒星間輸出をして来なかった。

(これはもちろん恒星船の運用コストが嵩むためである)


 よって、タケルが今後1000年間固定価格で農産物を買い上げるという契約を持ちかけても、その後の過剰生産を危惧する声も多かったのだ。

 だがタケルの涙以降、この状況が一変した。

 神界未認定世界には9000万もの惑星があるのだ。

 にも拘わらず、推定人口は合計2京7000兆人しかおらず、つまり惑星当り僅かに3億の住民しかいないのである。

 これは、それだけ農業生産力が低く、また住民たちが飢えて死んで行っていることを意味するのだろう。



 農業恒星系は奮い立った。

 同胞が餓えて死んでいっているときに、過剰生産など懸念している場合ではないだろう!

 彼らの農業技術が向上し、人口がせめて10倍の30億になるまでは長い長い月日がかかるのだ。

 それまでは我らが作る農産物で同胞を喰わせてやっていかねばならぬのである!

 彼らを飢えから救うのは我らなのだ!


(彼らのE階梯は地球人が想像も出来ないほど高いのである。

 そうでなければそもそも銀河連盟には加盟出来ない)



 農業恒星系は農業生産を倍増、3倍増にする計画を策定し始めた。

 恒星系人口が多く、農地が不足気味の恒星系では農業惑星の導入を計画して銀河連盟銀行に融資申し入れを始めている。


 タケルもこれに応え、食料輸入契約を今後5000年間に延長した。

 また、銀河連盟内に『農産物増産支援基金』を設立し、無利子融資用基金として300兆クレジット(≒3京円、平均的恒星系政府予算約100年分)に加えて1000兆トンの資源を拠出したのである。



 AIのハードウエアを製造する先進技術恒星系は、銀河連盟商取引部と協議の末、救済部門に対してAIハードウエアの価格を4割引きにさせて欲しいとの申し入れをして来た。

 どうやらこれが原価のようだった。

 連盟報道部の配信でAIたちの倫理心溢れる大活躍を見た銀河宇宙からAI購入依頼が大殺到しているために、それでも十分に元は取れるらしく、いわば宣伝費のつもりらしい。


 タケルはこの申し出を謝辞し、最終的にAIを10億人にまで増やしたいので、その分の製造施設拡充投資を依頼している。

 マリアーヌは自分の娘が10億人になると聞いて眩暈がしたそうだ。

 おかげで業務が0.1秒も停滞したとのことである。



 また、或る商業恒星系では、広告代理店の若手社員がとんでもないアイデアを出した。

 それは、莫大な広告費と引き換えに、救済活動中の祠の側面にスポンサーのロゴを描くというものだったのである。

 その広告は、犬人族の未認定世界では犬人族恒星系の大企業により、猫人族世界では猫人族恒星系の大企業によって出されるようになった。


 このロゴが連盟報道部の配信に登場する確率は極めて低かったが、彼らはロゴのある祠の周りで現地住民たちが懸命に働いたり、楽しそうに皆で食事をしている映像を使って、近隣恒星系内に流す自社ブランドCMを作ったのである。

 そうして『○○社は惑星○○の救済を支援しています』とのテロップが映されるのだ。

(現地住民にとっては銀河標準語のロゴなどほとんど意味不明であるため、誰も気にしていなかった)


 また、多くの集落は、食事の際にほこらさまに向かって全員で祈りを捧げる風習を為すようになった。

 それはまるでスポンサー企業に対する感謝の祈りのように見えたのである。



 猫人族や犬人族の幼児たちがガツガツムシャムシャとご馳走を食べ、満腹すると同時に寝てしまうと、多くの親たちは涙をぽろぽろ零しながら泣いていた。

 そうして、子供たちを愛おし気にペロペロと舐め、もう一度ほこらに向かって(=スポンサー企業のロゴに向かって)深く深く頭を下げると、張り切って仕事に向かっていったのである。



 このCMの試写映像を見たスポンサー企業の経営者たちもまた泣いた。

 或る猫人族の大企業では、創業者の孫娘でもあり、中興の祖とも呼ばれる高齢の相談役がにゃーにゃーと声を上げながら泣いていたらしい。

 そうしてすぐに広告費が倍増されていったのである。


 もちろん、そのCMが地元や近隣の恒星系で流されるとその視聴者たちも同じく涙を流し、競ってその企業の商品を求めることになった。

 おかげでその大企業の売り上げも爆増したために、広告宣伝費も十分にペイ出来たそうだ……




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