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*** 117 贖罪 ***

 


 銀河宇宙の重鎮たちが、タケルの前で深々と頭を下げていた。


「タケル神さま、この度は惑星ケンネルの我が同胞たちをお救い下さいまして誠にありがとうございました。

 飢えと毒に怯えていた同胞があのように見事に救済されるとは……」


「惑星ケットでもケンネルでも、同胞たる猫人族をお救い下さいまして誠にありがとうございます。

 わたくしはあの偉大な長老の臨終に際しての笑顔を見て涙が止まりませんでした。

 あの笑顔こそ、生涯をかけて、いえ死後も同族を守り切った指導者の満足の笑顔だったのですね……」


「我が豚人族の親戚たるオーク族の大活躍は胸のすく思いで見ておりました。

 さらにあの穀物粥を腹いっぱい食べて寝てしまった子らの姿は誠に嬉しく思いました。

 本当にありがとうございます」


「ケンネルでは少数民族たる我が兎人族もお救い下さいまして、本当にありがとうございます。

 あのメープルシロップを嬉々として集めている子供たちの姿は実に感動的でございました」


「銀河連盟としても、タケル神さまに深甚なる感謝の意を申し上げたいと思います。

 誠にありがとうございました。

 あのご救済は、まさしくタケル神さまでなくては到底達成出来なかった大偉業だったことでしょう」



「みなさまどうかお顔をお上げくださいませ。

 みなさまの感謝の意は確かに頂戴いたしました。

 ですがあの救済はわたくし共にとって神界の公式任務だったわけであります。

 わたくしだけが感謝されるのも些か当惑を覚えるのですよ」


「いえいえ、タケル神さまは超莫大な私財を投じ、さらには想像を絶するご努力の末にあの奇跡の救済を為されました。

 神界に対する感謝の念ももちろんございますが、なによりもタケル神さまに御礼申し上げたかったのです」


「そうですか……」



 タケルは銀河の重鎮たちを見渡した。

 全員があるいは微笑み、あるいは畏敬の念を表してタケルを見つめている。


(このひとたち、感謝と畏敬しか持っていないか。

 他に含むところは無さそうだ。

 ならば俺も少し本音を言わせてもらおうかな。

 この会談の詳細もマリアーヌから最高神さまたちに届けられるだろうが、まさかそれで俺が解任されることもないだろう……

 ま、万が一にも解任されたら、俺が天界を作ればいいからな。

 救済部門の職員たちも多分全員がついて来てくれるだろうし)



 タケルの表情が変わった。

 さすが重鎮たちはその表情の変化を見逃さず、微かにたじろいでいる。

 レベル738ものヒューマノイドの真剣な表情とは、ただそれだけで見る者すべてを畏怖させるようだ。



「実はわたくしの行動の根底にありましたのは『贖罪の念』だったのです。

 その贖罪を為すために努力して来たのですが、結果として幸運が重なった巡り合わせにより、その目的のほんの一部を達成することが出来たのではないでしょうか」


「『贖罪』……でございますか?」


「も、もしよろしければ、どういった意味なのかご教授頂けませんでしょうか」



「今回の未認定世界救済に於きまして、必要とされたものは端的に言って『人・物・資金』であります。

 さらに必要なものを付け加えるとすれば、技術と生産力と魔法能力でしょう。


 このうち、『人』については銀河宇宙は既にお持ちです。

 なにしろ救済部門職員40万人のほとんど全ては銀河宇宙の出身者ですから。

 また、両惑星の救済に当たって重要な役割を果たしたのはAIという人材ですが、そのハードウエアを生産したのは銀河宇宙です」


(このお方さまは、AIのことを『人材』と仰られるのか……)

(そうか、これこそが救済部門のAIたちの熱狂的な忠誠心の元になっているものなのだな……)



「もちろん『物』、つまり食料については我々は全面的に銀河宇宙に頼っています。

 そして、『資金』についてなのですが……

 実はあの連盟報道部配信の後に喜捨された総金額は、我々が物資調達にかけた資金を遥かに上回ったのです。

 ですから、銀河宇宙にはそもそも潤沢な資金があるのですよ」



「で、ですがタケル神さまは1体で1億クレジット(≒100億円)もする中級AIのハードウエアを1億体もご購入為されました。

 銀河連盟も含めて、銀河宇宙のいかなる政治主体と雖もそのような資金支出は不可能だったでしょう」


「また、あの超新星爆発被害対策にしても、あれほどまでの投資はいかなる主体にとっても不可能です。

 なにしろ標準的恒星系政府予算の数千万年分に匹敵する投資だったのですから」


「しかも、あの『資源抽出』については、銀河宇宙はもちろん神界でもあれを為せる神はタケル神さまだけであると……」



「あの中級AIハードウエア購入は初期投資です。

 それに、彼女たちは一度に10万か所もの『祠』を管理出来ますので、実際にケンネルの救済を行ったAIはわずか12人だったのですよ。

 それならば銀河連盟も種族会もAIを用意出来たのではないでしょうか」


「た、確かに……」


(やはりこのお方さまは、AIを『人』、『彼女たち』と呼ばれるか……)



「まあ超新星被害対策についてはこの際置いておきましょう。

 ですが、この100億年間で被害を受けないよう移住された恒星系や、その後母惑星に戻ってテラフォーミングを行われた恒星系の方々がかけた予算の総額は、我々の対策予算に匹敵していたのではないでしょうか。

 しかもあれら救済機器の設計を行われたのは全て銀河出身の科学者や技術者の方々でしたし」


「「「 ………… 」」」


(だが、あの機器の開発アイデアは、すべてこの『発想力の怪物』タケル神さまが出されたそうだがの……)



「さらに『資源抽出』についてですが、確かにあれを為すには100億年の昔、天族の方々に天界の天使が継承を命じられた『高度魔法技術』が必要です。

 そして現在、魔法能力を上げる努力を怠って来た天使たちの子孫にはこれを為せる者はおりません」


(やはりこの神は神界を天界、神を天使たちの子孫と言われるのか……)



「ですが最近、わたくしの秘書AIであるマリアーヌは、最高神さま方の許可によりあの高度魔法を行使出来るようになりました」


「え、AIが神法、い、いえ高度魔法技術を行使出来るようになったと仰せですか!」


「はい。

 まあマリアーヌは特別優秀ですし、その信頼性も抜群ですが、それでも過去100億年間に銀河宇宙には同じように優秀で信頼出来る上級AIはいたはずです」


(照れるわぁ……)


「つまり、銀河宇宙が資源不足に陥っていたのは、神界がそうしたAIに『高度魔法技術』の行使を認めなかったこと、もしくは『高度魔法技術』を行使可能な天界のAIを銀河宇宙に派遣しなかったという『怠慢』によるものだったのです」


「「「 !!!!! 」」」


「しかもこの『怠慢』は意図的なものでした。

 その意図とは、単なる雇われ天使の子孫である自分を神と僭称する者たちが、高度魔法技術知識の独占をもって、かつての同胞に対して優位に立ちたいという『傲慢』によるものだったのです」


「「「 ……………… 」」」



「そしてもうひとつ、銀河宇宙が救済を行うことが困難だった理由がありますが、それは深重層次元の航行禁止措置、もしくは恒星間転移技術の使用禁止でした。

 恒星間転移技術が無ければあの救済事業は非常に困難だったでしょうから。


 これらの禁止措置については、当初恒星間戦争抑止というお題目が唱えられていましたが、もはやそのような時代ではありません。

 仮に将来に渡って恒星間戦争の可能性を排除したいのであれば、今救済部門が行っているように、深重層次元航行可能な航宙船や恒星間転移装置を天界AIのコントロール下におけばいいのです。

 もしくは銀河連盟AIのコントロール下に置くとか。


 そしてこれも、『傲慢』に基づく神界の意図的『怠慢』だったのです。

 あの技術を自称神々が独占することで、同様に銀河の同胞に対して優越感を得たかったのですね」


「「「 ……………………………… 」」」



「ということでですね、もし神界が謙虚になって銀河宇宙と協力していれば、あのような未認定世界救済は何十億年も前から始められていたことでしょう。

 そうであったなら、いったい何兆、何京の命が救われていたことでしょうか……

 わたくしはあのケットやケンネルの子供たちの笑顔を見る度に、胸が締め付けられる思いでいたのです。

 そして、飢えて凍えた子供たちが亡くなっていくのを見て、いったい何兆人の族長が血の涙を流しながら自らも亡くなっていったことでしょうか……

 あのように寿命を迎えて笑顔で逝けた族長はほとんどいなかったでしょう」



 タケルの目から落ちた涙を見てその場の全員が硬直し、同じようにその目から涙が落ち始めていた。


(そうか、これが子供たちの笑顔を見てもタケルさまが悲しそうにされていた理由だったのね……)



「これこそが今や天界の一員となったわたくしの慚愧の念、贖罪の念の理由であります……」


「「「 …………………… 」」」



「ですが、過去の災害世界の皆さまに申し訳なく思っているだけでは前に進めません。

 慚愧と贖罪の念は持ちながらも、これからも全銀河宇宙の救済に邁進して行きたいと存じ上げます……」





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