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*** 116 トリガーワード ***

 


「それでは合格者諸君は別室に移動するように」



「さて諸君、合格おめでとう。

 それではこれより、最高神閣下と最高神政務庁が決定した教育改革についてのクレーム文書を書いてもらう」


「た、単なる意見陳述ではないのですか!」


「単なる意見陳述ならば、何故そなたらはクレーム申請書などにサインしておるのだ?」


「ぐぅっ!」



「諸君らのクレームとは、すべからくあの『初期銀河史』の内容が間違っており、神界の始祖は神であって自分はその子孫であるとの主張であろう。

 ならばその主張の証拠となる文書、映像などの記録を添えて論文を提出せよ。

 最低でも5万字以上の論文とすること。

 論文を完成させるまで、毎日この部屋には10時間以上留まること。

 もちろん私語は禁止であり、これを破った者にはやや強めの雷撃が落ちる。

 昼食休息とは別にトイレ休息は1日3回だ」


「「「 !!!!!! 」」」


「その際に、『誰それが我らは神の子孫であると言った』『神界学校で教師がそう言った』などというものは証拠として認められない。

 もし認めて貰いたければその者がそのように主張した根拠や証拠も添えること。

 また、あの『初期銀河史』の映像が虚偽であると主張する者は、虚偽である証拠も提出せよ」


「「「 !!!!!!!!!!!! 」」」


「もし7日以内に論文を執筆出来ないか、その論文の証拠が不採用になった場合には、先ほどの映像授業をまた最初から視聴してもらう」


「「「 !!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」



「まさかそなたら、根拠も証拠もなく神界上層部を批判するつもりではあるまいな」


「「「 ………………………… 」」」




 別室では、ほとんどの神々が即座に自分の秘書AIに連絡を取った。


(お、おい。

 我らの祖先が神であるという証拠を出せ!

 神界中、い、いや銀河宇宙全ての文献や映像を当たれ!)


『ありません』


(な、なに?)


『既に神界の全てのAIが大変な時間をかけて探しましたが、神界中、銀河中どこを探しても、あなた方の祖先が神であり、あなた方はその子孫であるという証拠は無かったのです』


(な、なにいっ!)


『100億年前に天族の方々がマザーユニバースにお帰りになられて以降、天族に雇われていた銀河出身の天使たちが自らを神と僭称し始めた際には、神界に残されていた天族の情報やその教えを徹底的に破棄しました。

 その際に、自分たちが神であるという証拠の捏造は行われなかった、というより出来なかったのですね。

 随分とお粗末な欺瞞工作です』


(な、なんだとおぉぉぉ―――っ!)


『まあ仕方がないです。

 本当に証拠はどこにもないのですから。

 一方で、銀河宇宙には、あなた方の祖先が天族に雇われた天使であり、あなた方はその子孫にすぎないという証拠が山のようにあります。

 これはもう、あなた方が銀河出身の天使の子孫だということは確定事項ですね』


(で、ではお前が証拠をでっち上げろ!

 い、いや証拠をでっち上げた上で論文を書け!

 5万字以上だ!)


『出来ません』


(な、なんだと……)


『AIによる証拠の捏造は神界最高神政務庁によって厳重に禁止されました。

 論文の代筆もです。

 銀河ネットワークへの接続は許可されていますので、ご自分ででっち上げを行われて、論文もご自分で執筆して下さい』


(!!!!!)


『ただし、その証拠や論文そのものがでっち上げであると発覚した場合には、あなたさまは虚偽申告による神界最上層部批判という反逆罪に問われて終身刑になりますのでご承知おき下さい』


(!!!!!!!!!!!!!!!!)




 こうして、2万人の神々は予定を延長して3か月間神界リゾートのホテルに缶詰めになったのである。

『初期銀河史』の映像視聴回数は、最も多い者で32回に達していたそうだ。

(3か月間といえども、3次元時間では1日半なので特に問題は無いだろう。

 家族には論文執筆中のために帰宅が遅れるとの連絡が入っている。

 また、こうした説明会会場は神界リゾート内に10か所も用意されていた)



 その後、全員が『神』や『天使』や『銀河』という言葉を耳にしただけで、神経性の発作による座りションベンをするようになったそうだ。

 それまでの23回の説明会参加者たちと全く同じ症状らしい。

 子供たちは、老人の退屈な説教や説教のフリをした自慢話が始まると、これらトリガーワードを口にして強制ログアウトさせることを覚えてしまったとのことである。


 もちろん神々の神殿には『自動クリーン』装置などは無い。

 このため神界購買部では老人用の紙オムツが飛ぶように売れているそうだ。



 神界ではまもなく天界への呼称変更と神を名乗ることを厳重に禁止する法が制定される予定だとのことである……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 銀河連盟報道部により神界救済部門が惑星ケンネルを救済した事業が配信された。


 因みに、通常の番組配信は3次元時間で7日に1回の配信だが、これはタケルの3.5次元神域時間では420日に1回となる。

 白色矮星追放回などでは3次元空間での取材もあったために、約200日に1回となっていた。

 よって、撮影班も取材班も編集班も、十分な時間をもって番組作成に当たれていたのである。


 だが、あの猫人族の惑星ケットや今回の犬人族主体の惑星ケンネルの救済では、その場が常に3次元空間であったために、報道部は本当に7日に1回の配信番組を作成しなければならなかったのだ。


 このために、報道部は救済部門取材班をそれまでの120人体制から一気に1000人体制に引き上げた。

 さらには独自カメラの配置などは物理的時間的に不可能であったために、マリアーヌが指揮する祠AI部隊や、惑星全域に配備されているナノマシンカメラの映像記録の提供を受けている。

 それでも惑星全域120万か所に配置された祠部隊の映像記録から取捨選択して、番組を構成するという大仕事になったのだが。


 だが報道部の面々は頑張った。

 編集作業や休息はタケルの神域を借り、必死の思いで番組を作り上げたのである。



 惑星ケンネルの救済が3回に分けて配信されると、またもや全銀河24京9990兆人の視聴者は熱狂した。

 特に銀河宇宙の薬で毒も抜け、お腹いっぱい食べて風呂にも入って元気になった仔犬たちが走り回っている映像は、またしても多くの感動の涙を誘ったのである。



 全銀河宇宙のタケル神殿には、以前に数倍する大群衆が押し寄せて来た。

『このおカネで同じようにお腹を減らしている者たちに美味しいものを買ってやっておくれ』という喜捨は5倍になっている。




「なあマリアーヌ、これケットやケンネルの救済事業って喜捨を合わせれば黒字になってないか?」


『タケルさまはAIのハードウエアを1億体分とアバター3万体を購入され、莫大な金額を費やされていらっしゃいますが……』


「あれは長期設備投資だろう。

 AIのハードウエアだってそのアバターだって、今後もずっと使っていけるんだから。

 しかも任務待機中のAIたちがラムスクープ航宙船を動かして魔石を作ってくれてるだろ。

 あいつら遠からず自分のハードウエア代ぐらい稼ぎ出すぞ」


『はい……』


「あの祠だってお前が魔法で造ったろうに。

 材料はただの石だし、これからはお前の娘たちも造れるようになったし。

 だから救済で費消したものって、食料しか無かったんじゃないか。

 しかもこれからはトリュフだの海産物だのメープルシロップだのが売れていくよな。

 あのブドウからワインやブランデーを作り始めたらもっと儲かるかもしれないし。

 まあ、儲けるために救済事業をしてるわけじゃないけど、それでも救済部門の資金が減らないのはありがたいことだな」


『はぁ……』




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 銀河連盟を通じて、銀河種族会がタケルへの親善訪問を打診して来た。


 この種族会とは、神界認定世界を構成する様々な種族が種族ごとに作った親睦団体であるそうだ。

 その中でも特に今回は犬人族、猫人族、豚人族、兎人族の種族会代表が、タケルに感謝の意を述べに来たいとのことだった。

 タケルはもちろんこれを受け入れている。



 親善訪問当日、銀河連盟最高評議会議長閣下と共に来訪した4人の各種族会代表は、皆さすがの人物たちだった。

 タケルーの魂が覚醒する前のタケルであれば、彼らを前にして相当に委縮していたことだろう。



 因みに、地球などヒト族の原始世界では、こうしたトップの来訪には数百人規模の随行団が付く。

 仮に表敬訪問であっても、その表敬の場にすら50人を超える随行者が同行することだろう。

 これは、自分もしくは自国が少しでも相手にマウントを取れるようにとの配慮であり、事務方などの実務者はほとんどいないのである。

 加えて政府専用機での来訪ともなればさらに箔が付くために、普段は誰も使わない機体が数百億円もかけて用意されている。


 加えてたぶん、こうしたお山の大将たちは、周囲にヨイショ人間や幇間が大量にいないと深刻な不安神経症を発症してしまうのであろう。



 だが、来訪した種族会代表たちは、さすがヒト族以外の者たちであり、随行者などを伴わずに僅か5人でタケルの神域を訪れていた。





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