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*** 112 猫人族のお願い ***

 


 惑星ケンネル中央大陸西部、兎人族の村にて。


『みなさん、穀物粥とペレットは如何でしたか』


「こんな旨いもの食べたのは初めてだよ……」


「久しぶりにお腹いっぱい食べたよ……」


「そ、それで俺たちはどんな仕事をすれば、この食べ物をもらえるんだい?」


「冬に備えて食べ物を蓄えているんだけど、今年はあんまり蓄えられていなくて困ってるんだ……」


 祠の中のスクリーンに樹の映像が出て来た。


『みなさんの村の周りには、このようなサトウカエデの樹がたくさん生えていますよね』


「ああ、幹を石斧で傷つけると、少し甘い汁が出て来る樹だな」


「よく子供たちが舐めてるよ。

 それでも味は薄くてそんなに旨くはないぞ」


『そのままでは味が薄くとも、煮詰めると美味しいシロップが出来るんですよ。

 それで、このサトウカエデの樹液大バケツ一つ分と、この穀物粥やペレットの大袋を交換させて頂けませんでしょうか』


「で、でも樹から流れて来る樹液をどうやってこの『ばけつ』に溜めればいいんだ?」


『こちらの道具をごらんください』


「なんだいこれ、なんか固そうだけど」


「なんか麦藁みたいに真ん中に穴も通ってるぞ」



『その尖っている方を幹に当てて、反対側を木槌で叩いて幹に差すんです。

 そうしてそのフックにこの小さな蓋つきバケツを引っかけておけば、3日ほどで小バケツ一杯の樹液が採れるでしょう。

 この小バケツ8杯分で大バケツはいっぱいになります』


「「「 !!! 」」」


「そうか! 

 そうやってたくさんの樹にこの道具を刺して小バケツをかけておけば、樹液がいっぱい採れるんだな!」


「最初に道具を幹に打ち込んでおけば、後は小さなバケツを回収していけばいいだけか……」


「それなら子供たちでも出来そうだな……」


「たったそれだけのことで、大バケツ一杯の樹液とこんなに大きな食べ物の袋を交換してくれるのかい?」


『はい』


「「「 うおぉぉぉ―――っ! 」」」


(やったー!

 これで取引は承認されるわ♪)


「上限はあるのか?

 たとえば穀物粥も『ぺれっと』も5袋までとか……」


『いえ、ありません。

 いくらでも交換します』


「「「 おおおおお…… 」


『ただ、いくつかお願いもあるんです』


「ど、どんなことかな……」


『まずは1本の樹に差す道具は1つまでにしてください。

 あまり樹液を採りすぎると樹が可哀そうですので』


「わ、わかった!」


「ということは、たくさん樹液を採るためには、俺たちがたくさん走り廻ればいいんだ!」


『はい』


「それなら出来そうだな!」


「「「 おう! 」」」


『それから、採取時期は秋の中頃から春の中頃ぐらいまででお願いしますね』


「それなら冬に備えても、冬の間も食料が得られるな!」


「よし、明日からみんなで頑張って働こう!」


「「「 おおおおおう! 」」」



 その後、大人たちは遠くの樹に道具を刺しに行き、子供たちは近場の樹から小バケツに溜まったメープルシロップを回収していた。

 毎日ごはんを食べられるようになって元気いっぱいになった子供たちは、嬉し気にぴょんぴょん跳ねながらバケツを運んでいる。

 たまに転んで毛皮をベトベトにしてしまって泣いている子もいたが、祠3号が沸かしたお風呂でお母さんたちが洗ってあげていた……




 惑星ケンネル中央大陸南部海岸沿い、猫人族の村にて。



『みなさん、キャットフードはいかがでしたか』


「はー、こんな美味しいもの食べたのは初めてだよ。

 ほこらさんどうもありがとうね。

 それでわたしらは何を持って来れば、この『きゃっとふーど』と交換してもらえるんだい?

 やっぱりわたしらの毛皮かい?」


『けっ、けけけ、毛皮はけっこうですっ!』


「わたしら魚を獲って暮らしているけど、魚は干し魚にしてもすぐに腐るし、他に財産なんか持っていないよ?」


『あの、みなさんは海で泳いだり水の中に潜ったり出来るんですよね』


「そりゃあまあ海辺で暮らしてるからねえ。

 草で編んだ網で魚を獲ってるし、男衆は尖らせた木の枝で魚を突いてるし」


『それでしたら、この絵のような海の生き物と交換させてください』


 祠のスクリーンにエビとアワビの写真が出て来た。


「こ、これは毒エビと毒貝じゃないか。

 これを食べるとものすごくお腹が痛くなって、場合によってはそのまま死んじゃうよ。

 わたしらは代々の長老から、どんなに飢えてもこれらだけは絶対に食べてはいけないって教え込まれるんだ」


(エビも貝も猫にとっては結構な毒なのよね……

 この人たちの体、まだヒト族型にまで進化していなくって猫に近いから)


『だいじょうぶですよ、このエビと貝が毒にならない種族もいて、その方たちに売りますから』


「はーそんな種族もいるんだねぇ。

 そんなものだったら、わたしらが獲らないんで海の中にわんさかいるよ。

 みんなで海に潜って獲って来ようかね」


『それではエビは5匹で、アワビは3個でキャットフードの大箱1つと交換でいかがですか?』


「えええええっ!

 こ、こんなどこにでもいるエビ5匹や貝3個で、こんなに大きな食べ物の箱をもらえるのかい!」


(やった! これで取引承認だわ!

 しかもアワビは30センチ級で、エビなんか50センチ級だもの。

 きっといいお値段で売れるわ♪)


「そ、それで交換には上限はあるのかい……

 たとえば交換は『きゃっとふーど』5箱までとか……」


『いえ、上限はありません』


「「「 !!!!! 」」」


『ただ、春先はエビや貝の産卵期なんです。

 ですので冬の初めから春の終わりまでは、これらエビや貝は獲らないでください。

 まだ小さいエビや貝も。

 そうしないと獲り過ぎですぐにいなくなってしまいますので』


「わ、わかった。

 その時期は海の水も冷たいからちょうどいいよ。

 それでこの『きゃっとふーど』はどれぐらいの間腐らずにもつんだい。

 5日ぐらいはもつのかな……」


『封を開けなければ5年はもちます』


「「「 !!!!! 」」」


『でも封を開けたらすぐに食べてしまってくださいね』


「それなら夏と秋に頑張って、『きゃっとふーど』を溜めておけばいいのか……」


『はい。

 ところでこの海岸沿いは夏から秋にかけて嵐が来るのではないですか』


「ああ、酷い雨が降って大風が吹くんだ。

 しかも風の向きがしょっちゅう変わるし、石を積んで粘土で固めたわたしらの家も、雨で粘土が溶かされて、風で崩されてしまうんだよ。

 だから嵐が来ると、みんなで穴を掘ってまず子供たちを入れて、その上に大人たちが覆いかぶさって嵐が過ぎるのを待つんだ」


『それでしたら、嵐が来た時はこの祠に避難されたらいかがでしょうか。

 それよりもいっそみなさんこの祠で暮らされたらどうでしょう。

 この祠はどんなに酷い風が吹いてもびくともしませんし』


「「「 !!!!!! 」」」 


「い、いいのかい?」


『もちろんですよ』


「で、でもさ、この海岸沿いにはここと同じような村が20もあるんだよ。

 わたしらだけがそんな素晴らしい暮らしをするなんて……」


(さすがのE階梯5.1ね……)


「大丈夫ですよ。

 今その20の村々にもわたしの仲間が行って、皆さんをお誘いしてますから」

(実際にはわたしの支店だけど)


「本当かい!

 それらの村にはわたしの孫や曾孫も大勢いるんだ。

 同じ村の中で子作りを繰り返してもいけないから。

 あの子たちも喜ぶよ。

 ほこらさん、どうもありがとうね」


『いえいえ、みなさんが取引して下されば、たくさんのエビや貝が集まってわたしも嬉しいです』


「それじゃあみんな、今から村に行って荷物を持ってこようか」


「「「 はい! 」」」



 その日の夜……


「ね、ねえほこらさん、ひとつお願いがあるんだけど……」


『なんでしょうか』


「あの『きゃっとふーど』の大箱が8つも入っていたもっと大きな箱があるだろ」


『はい』


「あ、あの箱もらってもいいかね……」


『どうぞ?』


 その晩は1つの大きな箱に子猫たちがぎっしりと詰まって寝ていたのである……

 大人たちはそれを羨ましそうに見ていた。

 やはり猫は箱好きだったのだ。


 惑星ケンネル派遣AI祠部隊2号は、姉妹たちに連絡を取り、ドッグフードの大箱が入っていた箱を転移してもらうよう依頼した。

 姉妹たちは不思議に思いながらもすぐに送ってくれている。


 大人たちも大喜びで箱に入って行き、その晩はぐっすりと眠られたようだ。


 また、祠2号は箱にぎっしり詰まった子猫たちを心配した。

 底の方にいる子が窒息したらたいへんである。

 そこで祠2号は箱に直径3センチぐらいの穴をたくさん開けてやった上で、底から空気が供給されるようにもしてやっていた。


 そうして朝になると、それらの穴から子猫たちの短いしっぽや手足や鼻や耳が出ている奇怪な物体が出来上がっていたのである。

 上から見ると子猫たちの寝姿が実に可愛らしいが、横から見ると箱から無数の手足しっぽ鼻耳が生えていて、時折ぴこぴこと動いている相当にブキミな物体なのであった……



 余談だが、連盟報道部がこの惑星ケンネルの救済を配信してすぐ、この『子猫箱』の模型を商品化した酔狂な恒星系があった。

 その箱は、やはり上から見ると固まって寝ている子猫たちが可愛らしいのだが、横から見ると相当にブキミだったのである。

 しかも時折箱の底の方から『ニ゛ヤ゛ァァァーっ!』という苦し気な呻き声が聞こえてくるのだ!

 これを見た子猫人たちが夜に魘されるようになったため、すぐに製造中止になっていたらしい……





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