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*** 111 祠支店 ***

 


「なあマリアーヌ、結構いいカンジになって来たな。

 やっぱりAI部隊の祠方式が有効みたいだ」


『どの祠にも毎日50万人近くが訪れるようになっています。

 農場で働く犬人もどんどん増えていますし」


「それじゃあそろそろ第2段階に移ろうか。

 神域のAIたちに、300人用から500万人用までの各種祠を量産するように言っておいてくれ」


『はい』


「それから、ケンネル派遣部隊のAIには街道整備をお願い出来るかな。

 舗装は不要だし、道幅も荷車が通れる3メートルぐらいでいいから。

 それで街道の要所やヒューマノイドたちが多く住む辺りには、AIたちに祠支店を出すように言ってくれ」


『畏まりました』


「AIひとりにつき何か所ぐらいの支店が出せるかな」


『10万か所までは余裕です』


「そんなにか……

 それならこの大陸上のヒューマノイド居住地はカバー出来そうだな」


『この大陸はもちろん、もう一つの大陸もカバー出来ると思います。

 ただ、特に犬人族はその地のボスと戦って勝たないと、言うことを聞いてくれないかもしれません』


『それなら神域からオークたちをあと50人ばかり呼んで待機していてもらおう。

 非協力的なボスがいたらオーク分隊を転移させて戦わせればいいな』


『はい』


「それじゃあAIのみんなにあまり無理をしないで頑張ってくれと伝えてくれ」


『畏まりました』


(このお方さま、わたしたちAIをますますヒューマノイド扱いされるようになってるわ……)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 元4つの連合国の大長たちは、ほとんどいつも中央農園にいて犬人たちの陣頭指揮を執っており、夕食後には祠の談話室に集まって打ち合わせをしている。



「タケル王よ、心より感謝申し上げる。

 我ら毒の森連合の暮らしがここまで素晴らしいものになるとは……」


「まあお前たちも熱心に働いてくれているからな」


「それでも王がいなければここまで豊かな暮らしは有り得なかったでしょう。

 我らの村ではすっかり元気になった仔らが走り回っております」


「我らの社会では、長や大長は強さを求められるのはもちろんなのですが、それだけでは十分ではないのです。

 部族や国の民たちが餓えることの無いようにしなければならぬのですよ」


「その点、タケル王殿は完璧でした……

 尋常でない強さであらせられると同時に、想像を遥かに上回る幸福を我ら犬人族に齎して下さりました」


「それで、ご相談なのですが、これからも仕事に邁進することはもちろんなのですが、仕事以外で何か我らがご恩返し出来ることはございませんでしょうか」



「そうか……

 それならお前たちに頼みがあるんだ」


「「「 おおおおお…… 」」」


「ぜ、ぜひお聞かせ下され!」


「俺たちはこれから大陸全土に祠を広げていく。

 それも犬人族の村だけでなく、少数種族の村にもだ。

 その中には、この国に移住したいという者たちもいることだろう。

 そうした者たちを、種族や生まれた地が違うからといって差別することなく受け入れてやって欲しいんだ」


 大長たちが涙を流し始めた。


「ま、誠に素晴しき思し召し……」


「我ら一同、王の教えを守り抜いていくことをお誓い申し上げますぞ!」


「お前たちだけでなく、次の大長や長たちにもしっかりと伝えてくれな」


「「「 ははぁっ! 」」」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「なあマリアーヌ、あの黒トリュフとマツタケっていくらになった?」


『黒トリュフについては、当初銀河連盟商取引部が100グラム当たり300クレジット(≒3万円)を提案したのですが、銀河商業ギルドと協議の結果100グラム500クレジットから1000クレジットの範囲になったそうです』


「すごいな。

 なんでそんな高値になったんだ?」


『まずは超希少な天然物で香りが強いこと。

 さらには『あの惑星ケンネルでタケル神さまのご指示で採取されたものであること』が理由ですね。

 さらに、もしタケルブランドという名称を許していただけるなら、基準価格はその3倍になるそうです』


「そ、そそそ、そうか……」


『マツタケもタケルブランドにすると100グラム800クレジット(≒8万円)になるそうですし』


「そんなに高くして売れるんか?」


『マツタケは黒髪のヒト族が多い恒星系、トリュフは金髪や茶髪のヒト族の多い恒星系で、商人たちが長大な列を作って入荷待ちだそうです』


「な、なるほど……」




 惑星ケンネル北部丘陵地、豚人族の村にて。


「族長、ちょっと来ていただけますか」


「なんだ」


「村から少し下ったところに、なんかでっかい家みたいなもんが出来てるんです」


「なに……

 案内してくれ」


「はい!」



「な、なんだこれは……」


 そこには500人は楽に暮らせるであろう建物が建っていたのである。

 実際には小型に分類される祠なのだが、現地住民には十分に巨大なものに見えていた。


『みなさん初めまして』


「「「 !!! 」」」


『今みなさんの頭の中に直接話しかけさせて頂いています』


「あんたは誰だ?」


『正式には『惑星ケンネル派遣AI祠部隊第6号、北部支店012305』という名前なのですが、長いので『ほこら』とお呼びください』


「た、確かに長いな。

 それではほこらさんと呼ばせてもらおう。

 それでほこらさんはなんでこんなところに来たんだ?」


『皆さんとお取引をさせて頂きたいと思って来ました』


「取引?」


『まずは私どもがご提供出来る品を試してみていただけますか』


 祠の中に大型寸胴に入った穀物粥が出て来た。

 まだ湯気も出ている。

 辺りにいい香りが広がると、ほとんどの豚人たちのお腹がぐーぐー鳴り始めていた。


「こ、これは食べ物か!」


『はい、穀物粥といいます。

 どうぞ試しに食べてみてください。

 テーブルの上にあるレードルで掬って、木のお椀とスプーンもお使いください』


「ふむ」


 族長は粥を口に含んで2回ほど咀嚼すると、雷に打たれたように硬直した。


「だ、大丈夫ですかい親っさんっ!」


「旨い……」


「「「 は? 」」」


「こんな旨いものを喰うのは生まれて初めてだ……

 な、なあほこらさんよ、この村には300人ほどの村人がいるんだが、その、皆にも試しに食べさせていいかな……」


『どうぞどうぞ』


 その場にあと5つの大型寸胴が出て来た。


「おい!

 村に行って全員をここに連れて来い!

 子供も年寄りも全員だ!」


「「「 へ、へいっ! 」」」



「なあほこらさんよ、ありがとうな。

 今年は麦の実りが悪くて、栗の実に期待してたんだが、これも今年は少なくてな。

 このままでは冬を越すのが心配だったんで、最近は2日に1回しか飯を喰わずに食料を溜めていたんだよ。

 それがこんな旨いものをこんなにたくさん喰わせてもらえるとは……」


『穀物粥を気に入っていただけてよかったです』


「そ、それでな。

 あんたさっき取引って言ったけど、この粥と引きかえに俺たちは何をすればいいんだ。

 見ての通りの貧乏村で碌なもんは無いんだよ」


『あなた方はこれをご存じでしょうか』


 テーブルの上に白トリュフが出て来た。

 ついでに25センチ角ほどの小箱と穀物粥の素20キロ入り袋も出て来ている。


「これは土キノコだな。

 地面を少し掘ると土の中にあるが」


『この土キノコをこちらの小さな箱に入れたものと、穀物粥の大袋1袋とを交換させて頂きたいのです』


「えっ!

 こ、この土キノコは確かにいい匂いがするから、森を歩いていてもどこにあるかはすぐにわかるが……」


(さすがは豚人族の嗅覚ね)


「で、でも匂いはいいが食べても全然旨くないぞ!

 本当に食べるものが無いときに仕方なく食べるものだぞ!」


『この白い土キノコが大好きなひとたちもいるんですよ』


(なにしろ銀河宇宙では、畑で作った栽培物ですら100グラム500クレジット(≒5万円)もするそうですし。

 天然ものに至っては希少すぎてオークションでしか値がつかないそうですしね)


 因みに地球では、最高級のイタリア・トスカーナ産白トリュフが100グラム15万円もする。

 もちろん地球ではトリュフを栽培する技術は確立されていない。



「ほ、本当にこんなもの小箱1杯と、こんな大きな袋1杯の粥の素を交換してくれるのか!」


(やった! これで取引が承認されるわ!)


『はい。

 あ、土キノコは洗わずに周りの土だけこのブラシで優しく落としてくださいね。

 それから小箱にはそっと入れるだけにしてください。

 ぎゅーぎゅー詰め込んだりしないように』


「わ、わかった。

 明日から薪拾いの傍ら、村のみんなに土キノコを採って来させよう!」


『その際にお願いなんですけど、あまりキノコを採りすぎないようにしていただけますか。

 2個見つけたら、そのうちの1個は土の中に置いたままにして、地面にこの赤い旗を立てて採らないようみなさんに知らせて下さい』


「そ、それはなぜなんだ?」


『全部採ってしまうと、土キノコが無くなってしまって来年の取引が出来なくなるからです』


「来年も取引してくれるのか!」


『はい。

 それに、先ほどみなさん薪拾いに出かけると仰っていましたよね』


「あ、ああ、ここは山の中腹だけあって、冬はかなり寒いんだ。

 だから薪も大量に用意しないとな」


『あの、祠を出て左側に行って頂けますか』


「お、おう……」



「な、なんかここにも大きな建物があるぞ。

 それとは別に壁が無い屋根だけの建物があって、屋根の下には大きな竈が5つも……

 それに水場まで……」


『その建物は薪小屋です。

 取引をして頂けるなら、薪小屋の中の薪も全て差し上げますので』


「!!!」


『もちろんその炊事場もお使いください』


「な、なあ。

 その取引って上限はあるのかい?

 たとえば粥の素は5袋までとか……」


『いえ、ありません』


「じ、じゃあ採りすぎないように気を付ければ、いくらでも粥の素と交換してくれるのか!」


『はい』


 族長が涙目になった。


「これでもう村のみんなは飢えずに済むのか……」


(いい族長さんだわ。

 さすがE階梯4.8ね……)



 このころになると、村人たちが続々とやって来ていた。

 心なしか皆顔色が悪い。


 だが、穀物粥を口にすると、皆大きく目を開いて夢中で食べ始めている。

 特に子豚たちは器に顔を突っ込んで、ふがふが言いながら夢中で食べていた。



 まもなく村人たちは満腹したようだ。

 半数以上がその場に横たわってうーうー唸っている。



「あー、子供たちがみんな寝ちまってるよ」


「この子たちを担いで帰るのは大変だな」


『あの、みなさん今晩はこの祠に泊まっていかれたら如何でしょうか。

 そちらの階段を上がって頂ければお部屋がありますので。

 もちろんトイレも水飲み場もお風呂もあります』


「『ふろ』ってなんだい?」


『お湯で体を洗って、その後お湯の中に浸かって寛ぐ施設です』


「そ、そんな贅沢なこと……」


『お湯はわたしが沸かしますので大丈夫ですよ。

 それに、もしよろしければ冬の間はこの祠で過ごされたら如何でしょうか。

 ここは暖かいですから』


「そういえばここの床は随分と暖かいな……」


『この床の下には大きな空洞があって、そこで火を焚いているんです』


「なんだって……」


『薪はたくさんたくさん用意してありますから』


(なにしろ毒の森の中に直径30キロもの農場を作ったから、伐採した木が超大量にあるのよね♪

 乾燥魔法やウインドカッタ―ですぐ薪に出来るし♪)



「な、なあ、なんで俺たちにそんなに親切にしてくれるんだい……」


「みんな聞いてくれ。

 ほこらさんはわしらと取引がしたいそうなんだ」


「『とりひき』ですかい?」


「そうだ、お前たちもそこにある土キノコを見たことがあるだろう」


「あー、匂いはいいけど食べても旨くないし腹も膨れないヤツですな」


「だがそれを食べたがってる者がいるそうだ。

 それで、そこにある小箱1杯の土キノコを渡すと、ほこらさんが穀物粥の素大袋1杯と交換してくれるそうなんだ」


「「「 !!!!! 」」」


「そ、それじゃあ、俺たちが頑張って土キノコを集めて来れば、もうこの冬は飢えなくても済むんですかい!」


「そうだ、ただしいくつか注意事項もあるのでよく聞いてくれ」


 ・・・・・

 ・・・

 ・


「ということで、採りすぎないよう気を付けながら、森の中を皆で歩き回って土キノコを採ってこよう」


「ほこらさんはこの土キノコを集めてくれば、こんなにたくさんの穀物粥と交換してくれるんだね……」


『はい。

 それだけではなく、この祠に引っ越して来て下さってもけっこうですよ』


「あ、ありがとうね…… 

 これで子供たちを凍えさせず、ひもじい思いもさせなくて済むよ……

 ううううっ……」


(やっぱりさすがの平均E階梯4.4の村人だわ……)



「それじゃあ皆、今日はゆっくり休んで明日から頑張って働くぞ!」


「「「 おおおおぅっ! 」」」





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