*** 11 天族 ***
「天族の方々は110億年前に降臨されて天界を造られ、それからは生命居住可能惑星を創られる一方で、銀河の生命に知性を与えて下さったんです。
ただ、天族の方々はそれぞれの種族によって口蓋や声帯の形が違っていたために、直接音声ではコミュニケーションが取れずに念話で会話をされていました。
それで、銀河の生命への知性付与にょ際には、同時に遺伝子を改変されて、どの種族も成人後には猿人族の進化形態である今のヒト族とほぼ同じ姿ににゃるようにされたそうです。
耳や鼻やしっぽは元の種族の名残を残すようにされて。
そうすれば将来銀河連盟のような多種族共同体が成立した際も、会話に不自由しないとのご配慮だったそうですにゃ」
「すごいな……
まさに『神』だな」
「天族の方々は、ご自分たちを神とは考えておられませんでした。
『自分たちには確かに隔絶した魔法力と技術力を持ってはいるが、生命としてはそなたたちと同じヒューマノイドである』といつも仰られていたそうです」
「そうだったのか……
それにしても、なんでみんな体がヒト族の姿に成長するんだ?」
「それは元ににゃった動物の食性の違いですにゃね」
「食性?」
「ヒト族の元ににゃった類人猿は雑食性で、自然界にあるかなりのものを栄養にすることが出来ますにゃ。
ですが猫人族や犬人族にとってネギ類やブドウにゃどの一部果物は猛毒です。
発酵した果物が作り出すアルコールも。
それ以外にもカフェインを含む食品や乳製品など食べられにゃいもにょが多いんですにゃ。
そうした点で、類人猿は可食品の種類も量も多いんです。
ですからなるべく飢えないようにとの配慮だったそうですにゃ」
「なるほどなぁ。
類人猿が他の動物に比べて劣っているのは、喰い溜めが出来ないことと自力でⅬ-アスコルビン酸(ビタミンCのこと)を合成出来ないことぐらいか。
それぐらいなら文明が発生すればなんとかなるだろうし」
「はいですにゃ」
「ところでさ、それなら今神界の神を名乗る連中は何者なんだ?」
「当時の天使たちの階級名は『初級魔法能力者』『中級魔法能力者』『上級魔法能力者』というものでした。
それが『高度魔法』が『神法』と呼ばれるようになった頃に、『初級神法能力者』『中級神法能力者』『上級神法能力者』となり、これを縮めて『初級神』『中級神』『上級神』と呼ぶようににゃったようです」
「そんなことをよく『天族』の連中が許したな」
「103億年前に『天界認定世界』が誕生し、102億年前に銀河連盟が発足してしばらくすると、『天族』の方々はこれで任務は終了したとして、元の親宇宙にお帰りににゃられましたにょで、そにょころにはもういらっしゃらにゃかったんですよ」
「なるほど。
自分たちが創造したヒューマノイドが一人前になって来たんで、銀河系はもう任せるということか。
それで元銀河人だった雇われ天使が頭に乗ったわけだ」
「はいですにゃ。
それから数億年を経て、天族の方々が戻って来られにゃいと判断された後に、天界に残った天使たちが自らを神と呼ぶようににゃり、同時に『天法』を『神法』、『天界』を『神界』とも呼称するようににゃりました」
「なんだよそれ、今の神連中ってそんなしょーもない奴らの子孫だったっていうのかよ」
「は、はい……」
「ところでさ、その『天族』の連中って何かメッセージを残していかなかったのか?」
「もちろん銀河連盟と神界の両方にメッセージというか、指示を残されました」
「どんな内容なんだ?」
「主な内容としては、
『これからの銀河宇宙は銀河連盟が中心となって運営していくこと』
『あらゆる種族差別を禁止すること』
『天界の天使たちは我らが授けた高度魔法により、引き続き『天地創造』と有望な生命に『知性付与』を行うこと』
『天使たちは、自らのE階梯と魔法能力を高めることに努め、銀河宇宙の星々が深刻な災害に見舞われた際にはその高度魔法能力を用いてこれを助けること』
『天使たちはそうした有事のための高度魔法継承者とするが、特に指定された高度魔法は、銀河宇宙を混乱させぬためにも濫りにこれを広めないこと』
それから天界認定世界として認めるための基準にゃどですにゃ」
「ということは、当時の『神界』は、銀河宇宙の自然災害や紛争停止の救済も行っていたんだな」
「それが……
自然災害の救済は銀河宇宙の技術力や神界の高度魔法技術を駆使してにゃんとかにゃったんですけど、紛争世界の救済は大失敗が相次いだんですにゃ……」
「どういうことだ?」
「当時は、天族の使徒として自然災害や紛争世界救済を行っていた天使たちは、もう代替わりしていて経験者は残っていにゃかったんです。
もちろん銀河連盟にも。
ですから特にヒト族の暴虐ぶりを見て皆衝撃を受けてしまったようですにゃ……」
「あーそうか、片や神界で神の子として育ったボンボンだし、銀河連盟の職員も平和な神界認定世界で育ったエリートちゃんだったから、暴力に対する耐性が低かったんだな」
「当時の歴史書にはそのように書いてありますにゃ。
多くの神や連盟職員がトラウマを抱えてたいへんだったと」
「なるほど……
後進世界の戦争や略奪は、相手を本気で殺しに来るからなぁ。
ボンボンたちには辛いわな」
「中には銀河連盟合同防衛軍の制止も聞かずに、紛争の地に降り立って紛争当事者たちに説教しようとした神もいたそうにゃんですけど、盗賊に襲撃されて殺されかけたり、捕らえられて食料の在処を吐けと拷問されたケースもあったそうですにゃ……」
「防御魔法はかけていたんだろ」
「はいですにゃ。
ですが、大勢の未開人たちがゲラゲラ笑いながら本気で殺しに来たために、そうした神さまはショックのあまり精神に異常を来してしまったんですにゃよ……」
「あー、たぶんそいつ、『俺は神なんだからみんな俺を崇めて紛争なんか止めるだろう』って思い上がってたんだろうなぁ」
「そうかもしれませんにゃ……」
「それで銀河宇宙も『神界』も腰が引けて紛争世界の救済は止めちまったわけだ」
「加えて後進世界では、ほとんどの自然災害は紛争を誘発させますにゃ。
それで救済の失敗が相次ぐと、神界は救済から手を引くように……」
「どうせ、『あのような野蛮な文明は将来の銀河宇宙に害となるので救済に能わず!』とかイイワケしてたんだろう」
「はい……
当時の文献にはそう書いてあるものも多いですにゃ」
「なんて情けない連中なんだ」
「…………」
「それにしてもお前そういう銀河史に詳しいなあ」
「あにょ、ボクはタケルさまの銀河知識担当でしたから……
ニャイチローやニャジローはこの時間加速空間で100年以上も戦闘レベルや魔法レベルを上げるための鍛錬をしていましたにょで、ボクはその間銀河連盟大学のいろいろな学位を取っていたんですにゃ……
『初期銀河史』の学位も」
「そうか、ありがとうな」
「も、ももも、もちろんこれが僕の任務ですにゃ」
「それでお前は学位をいくつ持ってるんだ?」
「そこまで多くはにゃいですよ。
ほんの34ほどです」
「いやそれ凄いってば」
「いえいえ、100年以上も勉強していればそれぐらいは取得出来ますにゃ」
「そ、そうか。
それにしてもそんなたくさんの過去の記録が残ってるんだな。
いつかそういう文献も見たいものだ」
「銀河連盟に依頼することが出来れば電子的な複製を送ってもらえるはずですにゃよ」
「そうか。
ところで銀河連盟に加盟する恒星系の種族比率ってどうなってるんだ?」
「ヒト族10%、猫人族40%、犬人族30%、その他種族20%ですにゃ」
「え、全体では多数派のヒト族も、銀河連盟では10%しかいないんだ……
それに連盟では猫人族が多数派を占めているのか。
なんでだ?」
「それは主に闘争の形態の違いと言われておりますにゃ」
「闘争の形態?」
「どの種族でも知性を獲得して人口がある程度増えると、食料を含む資源を巡って社会で闘争が発生しますですにゃ。
このとき類人猿から進化したヒト族は非常に階級意識が強いにょで、すぐに国が出来て王や貴族や奴隷が発生します。
それで闘争の形態が軍による集団武力衝突ににゃりがちにゃんですよ」
「うん、それは地球の歴史そのものだね」
「これは軍の維持や国家の防衛に多大な資源を費やして、社会全体の発展を著しく遅延させますのにゃ」
「そうか、今の地球も各国の軍事費ってすごい額だもんな」
「ヒト族社会には、科学技術は主に戦争によって発展して来たという主張もありますが、これは主に権力者の自己弁護のために御用学者が発表した詭弁である、というのが銀河比較文明学での定説ににゃっておりますにゃ」
「な、なるほど……」
「ですからヒト族は文明の発展が遅れて、神界認定世界に至る前に絶滅するか、もしくは非常に時間がかかることが多いんですにゃ。
これに対して犬人族はやはり階級や集団を作りますが、その集団の闘争形態がボス同士の個人戦闘になることが多いのですにゃ。
それにボスが負けた方の群れも強者には従いますにょで、ボス戦が終わった後の遺恨戦闘が発生しにゃいんですにゃよ。
そして、新たな群れのメンバーを獲得した群れのボスは、その群れを差別なく迎え入れることでリーダーシップを誇示しますから、余計に遺恨戦闘や差別が起こらにゃいんです。
それにボスの世帯交代に於いても、ボスとサブボスの個人戦闘ににゃりますから、資源の無駄はほとんどありませんし。
しかもボスの子孫という地位は、強者優先の社会ではにゃんの役にも立ちませんし」
「なるほどねぇ、種族特性の違いによる戦闘の形態の差が資源の無駄遣い量を決定してるのか」
「はいですにゃ」
「それじゃあ猫人族は?」
「猫はそもそも集団を作りませんにゃ」
(そういやぁ猫はみんな個人主義だった……)
「しかも体内エネルギーの消費を抑えるために1日の7割を寝て過ごしますにゃ」
(そういやぁ猫はみんなよく寝てたか……)
「それに後肢が発達してますので直立2足歩行形態を獲得するのも容易でしたし。
そのために戦闘で資源や人員時間を無駄にすることもほとんど無く、文明の発展を邪魔することがありませんでした。
加えて好奇心が旺盛だったことも文明の発展を促進しましたんですにゃ。
好奇心と睡眠欲では好奇心の方が遥かに強かったですから、食料さえ豊富なら睡眠は短く出来たのですにゃ」
「それじゃあさ、虎人族や獅子人族や豹人族もけっこういたんじゃないかな」
「残念にゃがら彼らは体が大きかったために、多くの獲物を必要としたんですにゃ。
それで知性を得た後の人口拡大期に食料となる獲物を獲りすぎて絶滅させ、自分たちも滅んでしまうことが多かったんですにゃ……」
「そうか……」
「そうして、大型の犬人族やヒト族などの天敵のいない惑星では、猫人族文明は大いに栄えることににゃったのですよ」
(やっぱり犬や人が天敵だったのか……)
「ということは、猫人族って犬人族やヒト族を恨んでたりするの?」
「それはありませんにゃ。
そもそも今の銀河宇宙にいる猫人族は、そういう天敵のいにゃい世界で進化した猫人がほとんどですにょで。
中には犬人やヒトと対立したまま進化した猫人族社会もありますが、恨みなどはとうに消え去っていますにゃ」
「そうなの?」
「例えば地球でも5万年前の原人は、熊やサーベルタイガーなどの肉食獣に襲われて、大勢が命を落としていたことでしょう」
「うん」
「でも別に現代人は肉食獣を恨んでたりはしてないでしょうにゃ」
「そ、そうか」
「それと同じことですにゃよ」
「なるほど、それにしてもヒト族は階級社会を作ろうとする種族特性のせいで発展が遅れがちになってたんだね」
「それに加えて、どうもヒト族は猫人族や犬人族に比べて闘争本能が強いという特性も持っていますし」
「そうか……」
「ですが、ヒト族は平和な社会を構築出来さえすれば、その闘争本能が他のヒトではなく自然現象や科学技術の発展に向きますにゃ。
ですから神界認定世界になれたヒト族世界は、その構成数は少なくとも科学文明の発展度は高くにゃることが多いのですよ。
ですから先端技術を得意とする恒星系の多くはヒト族恒星系ににゃります」
「なるほど、ところで神界認定世界になるために『天族』が定めた基準ってどんなものなんだ?」
「科学・技術がランク10以上、社会成熟度がランク6ににゃると神界の委託を受けた銀河連盟の審査が入り、そこで認定されれば神界認定世界ににゃれるんですにゃ。
そうにゃると銀河連盟からファーストコンタクト部隊が派遣されて、まずは銀河連盟を通じて他の認定世界との交流・交易が行えるようににゃるんですにゃよ。
この段階に至ると、すでにかにゃり進化している銀河技術の供与も行われますので、文明は飛躍的に発展しますにゃ。
もちろん過度な文明進化を望まないのであれば、そのまま静かに豊かに暮らしていくことも可能なのですにゃ。
そうした独自の発展を望む文明も少数にゃがらいるのですにゃよ」
「そうか、ところでその科学・技術や社会成熟度のレベル表って、俺は見せてもらえるのかな」
「タケルさまは既に初級天使に任命されていらっしゃいますから、もちろん見ることは出来ますにゃ」
「じゃあそれ見せて貰えるか」
「はいですにゃ」
<科学・技術ランク表>
ランク1:木材、化石燃料による火の使用
ランク2:内燃機関の使用による工業化
ランク3:原始的なコンピューターの利用開始
ランク4:核融合エネルギーの利用
ランク5:万物理論(ToE)の完成(素粒子に働く5つの相互作用の統一)
ランク6:超対称性大統一理論(SUSY GUT)の完成
ランク7:ダークマター、ダークエネルギーの利用開始
ランク8:自我を持つ真の人工知能の開発
ランク9:コンピューターと脳の直接通信技術開発
ランク10:汎用翻訳プロトコル開発
ランク11:3次元を超える重層次元の発見
ランク12:ピコマシン開発と生体制御による寿命の大幅延長
「現実には多少の前後はありましたけど、銀河の先進文明はおおむねこのレベル表の通りに発展してきましたにゃ」
「これによると、地球の科学や技術のレベルはレベル3以上レベル4以下か……
先は遠いな……」




