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*** 108 奇怪な猫人族 ***

 


 タケルたちは脱衣所のソファに座って寛いでいた。

 周囲ではまだ大勢の犬人たちが順番待ちをしている。


(な、なああれ大長殿たちだよな)


(あの黒い毛並みの犬人って、ひょっとして南連合の大長殿か?)


(俺、南の大長殿は焦げ茶色の毛並みだと思ってた……)


(本当は黒毛皮だったんだ……)


(あの白い毛皮は北連合の大長殿か……)


(黄土色の毛並みじゃなかったんだな……)


(それになんかみんな生まれたての仔犬みたいに毛がふわふわになってるぞ……)



 風呂場の方からは、「ふぉぉぉ―――っ」とか「むひょ―――っ!」とかの声が聞こえ続けている。



「あー、冷たい水が旨いですのう……」


「水をたっぷり飲むと、その分小便が増えて体の中の毒素が出て行くぞ」


「な、なるほど……」


「それにしても、体を洗って湯に浸かるのがこれほど心地よいとは……」


「王よ、心から感謝申し上げますぞ」


「心地よいだけじゃなくってな、これでお前たちの毛に付いていた森の毒が洗い流されたんだよ。

 それにダニやノミもな」


「良いことづくめなのですな……」


「それにしても、なんでお前たち川で水浴びをしなかったんだ?」


「あの川の水は遥か北の山から流れて来ておりましての、たいへんに冷たい水なのですよ」


「ですので少々水に浸かっているだけで、体が痺れて動かなくなってくるのです」


「そうだったのか……

 これからは森の周りにある12の祠の風呂には、いつ誰が入ってもいいからな。

 家族を連れて入りに来るようにみんなに言っておいてくれ。

 この祠の3階から上は宿舎になっているから、遠くから来た者たちは泊っていってもいいぞ。

 初めて来た者は食事無料で食べ放題だ」


「「「 あ、ありがとうございます…… 」」」


「この御礼に我らは何をすればよろしいのでしょうか……」


「さっきも言ったように、この森の中央にある俺の農場で働いてくれ。

 もちろん給料は払うぞ。

 1人1日に付きあのドッグフード大箱1つだ」


「で、ですが森の中央ともなると毒が……」


「安心しろ、毒にやられないための準備もしてある。

 まあ農園まではお前たちでも丸1日かかるだろうから、今日はメシを喰ってから宿舎で休め。

 明日の朝、またメシを喰ってから農園に行こう」


「「「 はい 」」」


 風呂から上がった犬人たちは、2階の食堂で食事を取り、オークたちや祠1号の声に誘導されてそれぞれ割り当てられた部屋に入って行った。




 翌朝。

 タケルが少し早めに食堂に行くと、そこでは既に中堅どころの犬人たちがメシを喰っていた。


「あ、ちんちん帝王さま、お早うございます!」


「……(怒)……」


「「「 ちんちん帝王さま、お早うございます! 」」」


「その言い方ヤメロ……」


「えっ、でも『帝王ちんちんさま』って言うと、まるでちんちんを敬ってるみたいでヘンじゃないっスか?」


「だからちんちんから離れろっ!」


「へ、へい……」



「あ、タケルちんちん帝王さまお早うございますにゃ」


「ニャイチロー、お前もかぁぁぁっ!」


「え!

 でもみにゃさんがそう呼ばれているので、ボクもそうお呼びしないといけないのかと思いまして……」


「今度俺をその名で呼んだら、お前のちんちんを『変化』の魔法で長さ50センチにするからな!

 太さも20センチだ!」


「ええええ―――っ!」


「もしそうなると、銀河中に配信されて『前後にしっぽを生やした奇怪な猫人族』として銀河中で有名になるな」


「お、おおお、お許しくださいにゃぁぁぁ―――っ!」


(その姿で全力疾走させたら凄いことになりそうだ……)




 やがて食堂には2000人の犬人たちが集まってきた。

「さて、お前たちの中で朝小便が出なかった者は手を挙げろ」


 おずおずと100本ほどの手が挙がった。


「お前たち昨日薬を飲まなかったろう。

 朝小便が出ないのはかなり危険な状態にあるということだぞ」


「す、すみません王……」


「で、でも村の子供たちに飲ませてやりたいと思って……」


「この毒の森の周りにある12の祠には山ほどの薬が置いてある。

 昨日お前たちの部下を村に走って行かせたが、そいつらは薬を持って全ての村に向かうはずだ。

 さらに祠では、村の全員に薬を飲ませた後も、村の仲間と一緒に祠と村を往復して村に薬を蓄えるよう指示されているだろう。

 今後のことも考えて、1人当たり3本ほどは村に備蓄しろ」


「そ、そんなに『くすり』を頂けるんですかい?」


「それに、村に置いておいたりしたら腐っちまうんじゃ……」


「安心しろ。

 あの薬はフタさえ開けなければ5年はもつ。

 だがフタを開けたらすぐに悪くなるから、もったいないなどと思わずに全部飲め」


「「「 あ、ありがとうございます……」」」


「今朝小便が出なかった奴は、薬を飲んで今日は休むように。

 残りの全員で中央村まで行くぞ」


((( ………… )))


「オクデラ」


「はっ」


「ご苦労だがお前もここに残って、明日中央村まで皆を連れて一緒に来てくれ」


「ははっ!」


「ひとつ皆に注意しておくが、道の途中でやたらに小便はするなよ。

 道は皆のものであって、お前たちのマーキングは必要無いんだからな。

 その代わりに途中にはトイレがあるからそこを使え。

 休息所には水場も食料もあるから荷物は全てここに置いていくように。

 それでは出発するぞ」




 祠の奥の扉を開け、タケルは1900人ほどの犬人族たちと一緒に時速25キロほどで走り始めた。

 タケルのすぐ後ろには大長たちがいる。

 さすがは原始犬人族の族長たちだけあって、後方の集団も誰も辛そうにしていなかった。

 どうやらこれが彼らの巡航速度のようだ。

 ただ皆相当に驚いている。


「な、なんだこの道は……」


「り、両側が壁で覆われてる……」


「て、天井まで……」


「どうだ、これなら森の毒は入ってこないだろう」


「す、すごいですな……」


「それに道も平らで走りやすいですぞ……」




「さてここがトイレだ。

 水場もあるから少し休んで行くぞ。

 今と同じぐらい走った先には食堂もあるから、そこで昼飯を喰おうか」


「昼飯まで喰わせていただけるのか……」


「我らは日に1度の食事ですらやっとだったのに……」



 こうしてタケルと族長たち一行は8時間と少々で200キロ近くを走り切り、毒の森中央部の大農場に辿り着いたのである。

 犬人たちもさすがに少し疲れた顔をしていた。


「よーしお疲れさん、ここにも同じ祠があるから今日はゆっくり休め。

 メシは喰い放題だし、風呂もあるぞ」


「「「 おおおおお…… 」」」




 翌日早朝。


 ニャイチローとオークたちが祠前広場で朝の鍛錬をしていた。

 まずはニャイチローがオーク5人に次々と攻撃させている。

 レベル差が300近くもあるために、オークたちが殴ろうが蹴ろうがニャイチローは微動だにしていなかった。


 食事を終えた犬人たちが散歩でもしようと外に出て来た。

(やはり犬人は散歩好きである)

 そして、ニャイチローたちが戦闘訓練をしているのを見て、自分も参加させて貰おうと足を踏み出した。


 だが、全ての犬人たちの足がすぐに止まる。


 そう……

 眼前で繰り広げられているのは鍛錬などという生易しいものではなかったのだ。


 オークたちがニャイチローを攻撃する打突音が辺りに響き渡っている。

 ここにいる犬人たちは全て故郷の村では戦士長を務める猛者とされていた。

 だが、なまじ戦闘経験があるだけにニャイチローやオークたちと自分の差がありありとわかるのである。


 あのオークたちの一撃を受けただけで自分は戦闘不能になるだろう。

 いや即死してもおかしくないほどの攻撃力である。

 それをあの小柄な猫人族の少年が、涼しい顔で全て受け止めているのであった。


 増え始めた犬人たちの全員がその場に立ち尽くしていた……



 ニャイチローが、タケルとオーキーが出て来たのに気づいた。


「みにゃさん、それではわたしも反撃しますので、それで鍛錬は終わりにしましょう」


「「「 ははっ! 」」」


 交代でニャイチローに突撃していくオークたちが、カウンターのパンチや蹴りを喰らって吹き飛んでゆく。

 その頃には全員が揃っていた犬人たちの顔が蒼くなっていた。



「よう、お疲れさん、オークたちもけっこう強くなったな」


「「「 あ、ありがとうございまする 」」」


「エリアキュア」


 辺りに白い光が降り注ぐと、オークたちの怪我がみるみる治っていった。

 犬人たちの口が開いている。


「さてオーキー、時間もあまりないから軽く済ませようか」


「はっ」



 タケルとオーキーの戦闘訓練が始まると、犬人たちは今度こそ本当に度肝を抜かれた。

 そこにはまさに次元の違う強さが繰り広げられていたのである。

 多くの者がその場にへなへなと崩れ落ちていた……





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