*** 106 条件クリア ***
副将戦が始まる前に犬人族の戦士たちはなにやら相談をしていた。
そして、副将オーキーから30メートル離れた地点では、犬人族たちが横40人縦20人のファランクスを作っていたのである。
しかも横40人はがっちりと肩を組み、後列も前列との隙間の無い密集体形を作っていた。
これに対し、オーキーはやはりニヤリと笑うと地面を蹴って穴を開け、その場でクラウチングスタイルを取ったのである。
レベル738の鋼の肉体がさらに身体強化に固まっていた……
「副将戦、始めっ!」
「「「 うおぉぉぉ―――っ! 」」」
800人のファランクスとオーキーが真っ向から激突した。
激突の直前、やはりオーキーは震脚で地面に穴を穿ち、体幹を支えている。
ついでにニャイチローの戦いぶりを見て重力魔法も併用しているようだ。
どどどどがぁぁぁ―――ん!
「「「 きゃい―――ん! 」」」
800人のファランクスが密集体形のまま宙を舞った。
肩を組んだ固いパックが仇となり、そのまま散っていったのである……
「し、勝者森中央村のオーキー!」
(さて、これでウチの優勝は決まったが、戦闘は終わらないんだろうな。
はは、各国の戦士長たちが牙を剥いて俺を睨んでるよ。
「各戦士諸君! 位置につけ!」
(おー、分散隊形か。
個別に俺と対戦して俺の疲労を誘う作戦だな。
まあ、ニャイチローみたいに走り回って各個撃破してもいいんだけどさ。
なんせ今俺フルチンだから、全力疾走なんかしたら、ちんちんとキンタマが左右にぶんぶん振られちまって、ちんちんがびたんびたん太ももに当たるんだよなー。
それも遠心力で地面と平行に。
まあそこまで痛くも無いけど、見た目が完全にギャグになっちまうだろーに。
きっと今ヨメたちや子供たちも見てるだろうし、こんなとこで笑いを取ってもなー。
仕方ねぇ、アレやるか。
『威圧レベル50』発動準備……)
「大将戦、始めっ!」
「がうっ!(発動)」
「「「「「 !!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」」」
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ……
(あー、しまった……
戦士たちだけにロックオンするの忘れてたわー。
観客も大会本部も付き添いたちも全員気絶してるよ。
かろうじて意識があるのはオーキーとニャイチローだけか。
仕方ないな、『広域ハイキュア』……
はは、まずは戦士たちが起き上がって来たか。
みんなその場に座って首振ってるよ。
「し、勝者森中央村のタケル!
これにより、総合優勝は森の中央村とし、その長であるタケルを毒の森周辺国の王と認める!」
因みに……
読者諸兄はフルチンで全力疾走したことがお有りだろうか……
あれは本当にちんちんが左右にぶんぶん振れて笑えるのである。
一度試してみればもう最高のギャグになることがおわかりいただけると思う。
(ただし、『おまわりさん、このひとです』になって、留置場2泊3日コースとなっても責任は持たぬ)
故に陸上選手は割とタイトなインナーを穿いていることが多いのだ。
特に長距離走の選手などが、ランパンの下にルーズなインナーなどを穿いていたりすると、レース後に真っ赤になったちんちんと対面することになる。
以前女子マラソンの渋井陽子選手が、優勝後のインタビューでレポーターに『おめでとうございます。今日はどんなレースでしたか』と聞かれて、『走り始めてすぐ新品のインナーが喰い込んじゃってTバックみたいになっちゃって…… それですっごく走り辛かったんですけど、まあなんとか頑張れました』と答えていた。
後にも先にもレポーターを絶句させた稀有なインタビューであった……
インナーはタイトすぎてもイケナイようだ……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(マリアーヌ、道路の残りと祠を造らせておいてくれ)
『はい』
(みなさん、タケルさまからのご用命です。
道路の残りを完成させて、祠も設置してください)
((( はいお母さま! )))
(やっぱり『お母さま』なのか……)
タケルは大会本部に依頼して戦闘会に来ていた全員に集まって貰った。
静まり返った中で、長老のー人らしき男がタケルに向き直った。
「の、のう、ひとつ教えてくださらんか。
ヒト族やオーク族や猫人族とは皆あのように強いのか……」
タケルは拡声の魔法に声を乗せた。
「いや、一般人が戦えばむしろ犬人族の方が強いだろう。
俺たちが特別なだけだ」
「そ、そうか……」
「そんなことよりも、諸君、まずはこの食料を食べてみてくれ」
オークたちがその場にドッグフードの大箱を多数持って来て、木の皿に中身を盛り付け始めた。
大勢の犬人たちも手伝ってくれている。
因みにウエットタイプとカリカリの2種類が用意されていた。
「う、旨い……」
「なんだこの旨さは……」
「こ、これにはたっぷりと肉が入っているんだな……」
「気に入ってくれたか」
「もちろんだ。
なあ、これ持って帰ってもいいかな。
村の子供たちにも食べさせてやりたいんだ」
「こんな肉を喰わせてやれたら、子供たちの毛艶もみるみるよくなるだろうな……」
「俺はこれから諸君に仕事を提案する。
その仕事に就いてくれれば、その食料を渡そう」
「「「 !!!!! 」」」
「な、何でもするぞっ!」
「1日中働いてもいいぞ!」
「本当に何でもするか?」
「「「 もちろんだ! 」」」
「ならばお前たちには俺の農場で働いてもらいたい。
1日につきさっきのドッグフードの大箱1つの報酬を出す」
「「「 !!!!!! 」」」
「た、たった1日働いただけで、あの旨い喰いものを箱一杯ももらえるんですかい!」
(よし、これで条件クリアかな)
「で、でも毒の森の真ん中なんかで働いたら、俺たちみんな毒にやられちまうんじゃ……」
「オーク諸君、防毒マスクを」
「はっ!」
「な、なんだそれは……」
「これはお前たちを毒の森の毒から守る防具だ」
「「「 !!!!! 」」」
「毒の森の毒とは、ブドウの毒とキノコの毒なんだ。
この2つの毒は森の中のいたるところにあるし空気中を漂っていることもあるだろう。
そしてブドウやキノコの毒はお前たちの毛にも付着する。
お前たちは毛を舐めて毛づくろいをするから、毒が体に入って具合が悪くなるんだ。
特にブドウ毒が体に入ると尿が出なくなって苦しいだろう」
「あ、ああ、酷い時には5日も小便が出なくなって死んじまうんだ……」
「だが、このマスクを着けていれば、口から毒を吸い込まないし、毛づくろいすることも出来ないんだよ」
「なるほど、それでその『ますく』をつけて俺たちに狩りをしろと」
「いや、狩りなんかしてたらすぐに獲物を食べ尽くしていなくなるぞ。
それでは今までと同じだろう」
「じ、じゃあ何をすればいいんだ?」
「この手袋も嵌めてブドウの実を摘んだり、キノコを集めて欲しい」
「そうか、それでブドウもキノコも地面に埋めて、毒の森から毒の元を無くそうというのだな」
「いや、ブドウもキノコも埋めたりはしない。
これらは別の世界に持って行って売る。
特にヒト族の世界ではよく売れるだろう」
「あの、なんでヒト族はあんなものを欲しがるんですかい?」
「実はブドウもキノコもヒト族やオーク族にとっては毒ではないんだよ」
「「「 !!!!! 」」」
「それどころか両方とも実に旨いしな」
「羨ましいお話ですな……
毒の森でも暮らせるだけでなく、毒の元が旨いとは……」
「いや、そうでもないぞ。
俺やお前たちが生きていくためにはたくさんの『栄養素』が必要なんだけどな。
その中に、『L-アスコルビン酸』(ビタミンCのこと)っていう必須栄養素があるんだ。
このアスコルビン酸なんだが、お前たち犬人族は食べた食物を使って体内でこのアスコルビン酸を作れるんだけど、俺みたいなヒト族はこれを自分の体では作れないんだよ。
だから、このブドウのようにアスコルビン酸がたっぷりと含まれているものを食べなきゃなんないんだ。
こうしたものを食べないとやっぱり病気になるし。
しかもアスコルビン酸は熱に弱いんで、焼いたり煮たりするとすぐ壊れて無くなるんだ。
でもこのブドウは旨い上に生で食べられるからな。
だからヒト族にとっては最高の食料のひとつなんだよ」
「はー、ヒト族もたいへんなんですな……」
「それからキノコについてだが、あれは焼いたり煮たりするとヒト族にとっては非常に旨いものなんだ。
だから結構な高値で取引されているんだよ。
それこそさっきのドッグフードが大量に買えるぞ」
「「「 おおお…… 」」」
「ということでだ、他の種族が喰ってるから俺たちも喰えるだろうとか、これは旨いから他種族のお前も喰えとかは絶対にするんじゃないぞ。
種族によって何が栄養になって何が毒になるのかはわからないんだからな」
「わ、わかった……」
『タケルさま、取り敢えず現在地から最も近い場所に祠と道路が完成しました』
(早いな!)
『祠は予め造っておいたものを転移させただけですので』
(そうか。
それでどこにあるのかな)
『窪地から上がれば見えるはずです』
(わかった、ありがとう)




