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*** 105 帝王 ***

 


「だが、やはり集団戦闘会は開催せねばならん。

 我らも一族の者たちも強者にしか従わぬからの」


「ところで参考までに教えて欲しい。

 もし貴殿ら大長がこの周辺の国々の戦士たちの頂点に立ち、毒の森を差配するとしたら、どうされるおつもりか」


「うむ、わしは牧場を作りたいと思うておる。

 まずは大きな溝を丸くなるような形に掘り、中に大きな石を入れて粘土で固めてゆく。

 その土台の上に石垣を作れば、ボアやウサギも穴を掘って逃げられまい。

 途轍もなく大変な作業だとは思うし、その家畜のための餌を畑で作るのも大変だろう。

 だが、2000もの部族が力を合わせて何年も働けば可能だと考える」



「俺はその牧場もいい考えだと思うが、それに加えて狩りを禁止する期間を作るべきだと思っている。

 ボアも兎も夏の初めから秋にかけて仔を生んでいるが、この時期の仔を狩ってしまうのではなく、もっと大きく育つまで待つべきだろう。

 要は牧場の代わりに禁猟期を設けることで、毒の森全体を牧場にしてしまおうという考え方だ」



「俺は、それらに加えて森に入る部族が公平になるように順番を決めたいと思う。

 順番待ちをしていたり、狩り禁止の期間に牧場や農場で働けばよかろう」



「わしはの、もうこれ以上毒の森で戦士たちを死なせたくないのだ。

 牧場も禁漁期も狩りの交代制もいいが、それで皆がより多くの肉を食べられるようになれば、5年後10年後に我らの人数は倍になっていることだろう。

 そうなればまた肉不足だ」


「「「 ………… 」」」


「戦士たちは狩りをして部族の女たちや子供たちに肉を持ち帰ることを誇りに思っている。

 だが、毒にやられて死んではなんにもならん。

 確かに肉は旨い。

 そして肉を食べねば毛艶も悪くなるし力も入らん。

 だが、戦士たちを毒で死なせるよりは遥かにましではないか。

 そして、肉を食べないからと言って死にはせんのだ」


「「「 ……………… 」」」


「我らは今、月に一度ほど肉を喰うておる。

 それは旨いからだ。

 だがその美味さは戦士たちの命と引きかえの美味さだ。

 今後は、肉を喰うのは3月に1度、半年に1度、いや年に1度でもいいかもしらん。

 それでも我慢出来るように、我らは我ら自身を変えていかねばならんと思う。

 だが、そうして我慢しているときに他の部族が毒の森に入って獲物を狩るのは許せないだろう。

 そのためには、強者が皆を従わせる必要がある。

 そうでもしなければ、我らは10年もしないうちに戦士全員を失うぞ」


(うーん、やっぱりこいつらかなりまともだわ……)



「よくわかった、貴殿らの意思を聞かせてくれたことを感謝する」


「ところでヒト族の、貴殿の意思はどのようなものなのかの」


「それは俺が勝てたら申し上げよう。

 ただこれだけは言っておく。

 もう2度と戦士たちを死なせぬように、そして民たちを飢えさせないようにしたいと考えている」


「「「 おおお…… 」」」



「ところでヒト族の」


「タケルと呼んでくれ」


「それではタケル殿、各部族からは3名の代表を立てることが出来るのだがの。

 まあ戦士が全員寝込んでいて参加を辞退した部族も多いが。

 それでも、800ほどの部族が参加するだろう」


(戦士の被害はそんなに大きいのか……)


「それで、貴殿らの代表はそちらの体が大きな豚人族の方々でよろしいのかの」


「いや、3人の戦士は先鋒がこちらの猫人族ニャイチロー、副将がオーク族のオーキー、そして大将がヒト族の俺だ」


「な、なんだと!

 き、貴殿とオーク族のオーキー殿はまだわかるが、そちらの猫人族の方も戦士だと!」


「いやまあニャイチローは確かにまだ若いから小さいけど、ここにいる8人の中で3番目に強いのは間違いないぞ」


 付き添いのオーク族5人が首をぶんぶんと縦に振っている。

 普段の鍛錬では、オークたちが20人でかかってもニャイチローには軽く蹴散らされてしまうのである。


「そ、そうか……

 そ、それでは貴殿らの健闘を祈る」


「よろしく」




 翌朝。

 戦闘会会場には800カ国2400人の男たちが集結していた。

 どうやらその配置は実際の国や部族の地理的配置に基づいているようで、東側には森の東連合国の選手たち、南側には森の南連合国の選手たちというように並んでいる。

 タケルたちは当然中央に位置していた。


(ん?

 なんか森の東連合の戦士が少ないな。

 森の西はその分多いけど。

 あーそうか、ブドウの粉やキノコの胞子が偏西風に乗って流されるから、森の東側は人口が少ないのか……)




「戦士諸君!」


 高齢の犬人族が声を上げた。


「名誉ある戦いの場によくぞ参った!

 この上は毒の森の差配と周辺国すべての将来を賭けて存分に戦うがよい!」



 別の犬人が声を張り上げた。


「それではルールを説明する!

 まずは先鋒800名が戦い、最後に立っていた者を勝者とする。

 次に副将戦が行われ、最後に大将戦となる。

 この3戦のうち、2人以上の勝者を出した国が優勝国となり、その長が我らの王となる。

 その後、王は我ら犬人部族の一切と毒の森に於ける狩りを差配する。

 異論は認められない。

 また、3人の勝者の内、同一国からの勝者が2人以上いなかった場合には、大将戦の勝者を擁した国が優勝国となる。

 また、ルールも古式に則り、噛み付きと目潰し、金的攻撃のみが禁止されるが後は自由である」


(はは、まるで古代ギリシャのパンクラチオンだな……)


「尚、伝統により、戦闘は全裸で行われる。

 各人腰蓑を外して再度集合せよ!」


(ははは、こんなところまで古代ギリシャかよ)



 戦士たちが全裸になって再集結した。


 ザワ……

 ザワザワ……

 ザワザワザワザワザワザワザワザワ……


『な、なんだあのヒト族のちんちんは!』

『なんであんなにデカいんだ!』

『まさに帝王級ちんちん!』

『ちんちん帝王だぁぁぁ―――っ!』


(久しぶりに聞いたぜ俺のニックネーム『帝王』……

 そうか、修学旅行の後で俺のニックネームが『帝王』になったのは、みんなが風呂場で俺のちんちん見たからだったのか……)



 そのころ神殿では、エリザベートとジョセフィーヌがマリアーヌの配信するタケルのライブ映像を見ていた。


「はは、ジョセよ、そのように目を覆わずにとくと見てみよ。

 我らが番殿のちんちんが犬人族の連中に比べて如何に雄大かを」


「あ、あの、わたくしセルジュちゃんとタケルさまのちんちんしか見たことがないのですが……

 た、確かに犬人族の方々に比べて圧倒的に大きいですね……」


「そもそもヒト族とは、カラダの体積に比べてのちんちんの体積が哺乳類中最大だそうだ。

 確かにタケルーも大きかったがの。

 そのタケルーから見ても、タケルのちんちんはモンスター級だそうだぞ♪」


「さすがですタケルさま♡」


(ぼく、パパのちっぽはおしりの方じゃにゃくって前の方についてると思ってたー♪)


(あたちもー♪)


「「 あははは! 」」




 後日の連盟報道部配信ではもちろん画面にモザイクがかかっていた。

 だが……

 犬人族たちのそれにかかるモザイクは直径10センチほどで、オーク族ですら20センチだったにも関わらず、タケルのモザイクだけは30センチ級だったのである!

 銀河24京9990兆の視聴者のうち、約12京人は己のパンツのゴムを引っ張って覗き込んだ後、撫で肩になっていたらしい……




「まずは先鋒戦を始める!

 戦士以外は周囲に戻れっ!」


「おうニャイチロー、先日も言ったが手加減無用だからな。

 思いっきりやって来い!」


「はい!」



 先鋒の戦士たちが中央に集まった。

 やはり東西南北にはそれぞれの連合国の戦士が集まり、中央にはニャイチローが一人立っている。



「始めっ!」


「「「 うおぉぉぉ―――っ! 」」」


(はは、やっぱり全員でまず最も人数の多い森の西連合にかかっていったか。

 まあこうしたバトルロイヤルのセオリーだわ。

 さてニャイチローはどう戦うか)



 戦士全員が自分を無視して走り始めたのを見たニャイチローは微笑んだ。

 誇り高い戦士たちは、弱者(に見える)者には目もくれず、最も強敵と思える集団に向かっていったのである。

 そうしてニャイチローも、まずは最も数の多い森西連合の戦士たちに向かって駆け出したのであった。


 森西の戦士たちは小さく集まってパックを作っていた。

 まずは防御を固めてから反撃しようというのだろう。

 そこに残り3カ国とニャイチローが殺到している。


 だが、レベル635のニャイチローの身体強化全力ダッシュは時速230キロにもなる。

 そのニャイチローが、やや姿勢を低くしたまま両腕を広げて最初に森西の戦士たちに突っ込んだ。


 どかぁぁぁ―――ん!


「「「 ぎゃあぁぁぁ―――っ! 」」」


 固まっている280人ほどの集団に、鋼鉄製のバイクが時速230キロで突っ込んだのと同じである。

 しかもこのバイクはレベル635の身体強化がかかっているために、壊れも転倒も減速もしない上にどうやらニャイチローは衝突の瞬間に重力魔法まで使っているらしい。



 森西の戦士たちが噴水のように噴き上がった。

 中央部にいた100人ほどが上空でくるくる回っている。

 ときおり白くピカピカと光っているのは『セミ・ゴッドキュア』が発動しているのだろう。


 両端にいた戦士たちはかろうじて直撃を免れたものの、足が止まってしまっていた。

 いやあまりの驚愕に他国の戦士たちも足が止まっている。

 そこに急旋回したニャイチローが横から森西の戦士たちに突っ込んだ。

 土の地面で滑らないように、一歩一歩震脚で足を地面に突き刺しながら走っていたようだ。


 どぉぉぉ―――ん!


「「「 うぎゃあぁぁぁ―――っ! 」」」


 ニャイチローはそのまま速度を落とさずに、両腕を広げたまま棒立ちになっている森北の戦士たちに突っ込んでいく。


 どごぉぉぉ―――ん!


「「「 あぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」


 そのまま森南も。


 ずごぉぉぉ―――ん!


「「「 うぁぎゃあぁぁぁ―――っ! 」」」


 最後に残った森東の戦士たちは咄嗟に分散した。


 だが……

 戦場を縦横無尽に駆け抜けるニャイチローがその戦士たちを蹂躙していく。

 単に手が触れただけのように見える戦士たちが、その度に宙を舞っているのである。


 そして戦闘開始から3分、戦場に立っていたのはニャイチローだけだったのだ……



「し、勝者森中央村のニャイチロー!」


 周囲の観客たちの目はまん丸になり、口は120度に開いていた……





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