*** 103 毒の森の生態系調査 ***
オークたちも出張に同意してくれたよ。
出張先近傍の重層次元に直径10キロほどの人口天体を転移させて、家族はその空間にいることになったけど。
だからその天体は豪華仕様にしてやることにしたけどな。
「オーキー、遂に実戦だ」
「いよいよですな!」
「どうやら戦争は各部族3名の代表で行われるようなんで、俺とお前の他にあと1人選んでくれ」
「あの、ニャイチロー殿では如何でしょうか」
「いやもちろんニャイチローでもいいんだけどさ。
俺とお前とニャイチローなら完全に救済部門トップ3だろうからな。
っていうより銀河宇宙のトップ3だろうけど。
でもあいつ神域幼稚園で体術鍛錬の先生も始めてるだろ。
だからどうかと思ってな」
「いえ、最近では体術鍛錬補佐として、オーク族からオクダとオクムラとオクヤマが派遣されておりますので大丈夫かと。
なにしろ我らの子供たちも保育園や幼稚園に通うようになっていますし、オークの女たちも補助として大勢保育園や幼稚園で働いておりますからの。
幼稚園児たちももうオーク族には慣れておりまする」
「なあ…………
ところでそのオークたち、なんでそんな名前にしたんだ?」
「少しでもタケルさまに因んだ名前にしたいというので、マリアーヌさんに頼んで日本の名を教えてもらいました♪」
「それ、名前じゃあなくって苗字なんだけど……」
「我らの苗字は全員が『オーク』ですので」
「そ、そうか。
それじゃあオクダとオクムラとオクヤマに頼んでくれ。
それから現地での補佐としてオーク族からあと5人ばかりお願いしたいんだが」
「それではオクデラとオクガワとオクイとオクノとオクダイラを連れていきましょう」
「そ、そそそ、そうか……」
「ということでニャイチロー、惑星ケンネルでの戦闘任務を頼んだぞ」
「初めての実戦任務ですにゃね……」
「とはいっても現地犬人族のレベルは30台から50台までだから問題ないぞ」
「それでは逆に手加減出来るか心配ですにゃ……」
「それも問題ないな。
犬人族の戦争相手には俺が全員に『セミ・ゴッドキュア』を掛けるから死なないぞ。
だから手加減は要らないんでお前も存分に戦ってくれ。
手加減なんかしたら相手を怒らせるかもだ」
「は、はいですにゃ」
翌日。
『タケルさま、惑星ケンネル毒の森の生態系調査が終了しました』
「早いな!」
『中級AIを司令官とするナノマシン部隊を5個師団投入致しましたので』
「そ、そうか。
ま、まあ俺たちの優位性は資材と人材の豊富さだからな。
それで毒性物質の正体はわかったのか?」
(このお方さまは、我々AIのことを『人材』と呼んでくださるのね……)
『毒性物質はブドウとキノコでした』
「? あ、そうか!
ブドウとキノコは犬にとって猛毒だったか!」
『はい』
「なるほどなー、現地犬人族の体はまだヒト族型にまで完全に進化していないから、犬にとっての毒が犬人族にとっての毒にもなってたんだな。
それでブドウの周りに付着してる蓚酸やキノコの胞子が体毛に付着して、それが口に入ることで、腎不全を起こしてたのか。
アルコールも奴らにとっては毒だから、腐りかけて発酵してる実から揮発したアルコールもアウトだったわけだ。
ブドウの実が生る時期は秋なんだろうけど、野生動物が食べなかった実はそこら中に落ちてて発酵しているんだろうし、おまけに蓚酸も胞子も土壌に沁み込んでるわけだ」
『そのようです』
「だからウサギやボアや鳥にとっては問題無かったのか……
それで、どんな種類のブドウがあったんだ?」
『3分の1は固有種でしたが、それ以外にはマスカット類似種、巨峰類似種、カベルネ・ソーヴィニョン類似種、ピノ・ノワール類似種、メルロー類似種、シャルドネ類似種などでした』
「おお、それならワインも作れるな!
ワイン醸造専門のドローンも購入しておいてくれ。
それに固有種からもワインを作ってブランデー造りも試してみよう。
しかもこの神域で醸造して10年寝かせても3次元時間では60日だからな。
10年物をどかどか出荷出来るし、50年物でも1年弱だ。
あ、犬人たちにブドウの見分けってつくかな」
『穂木の仕分けはわたくしがしますので大丈夫です。
もちろん畑も区分けしておきましょう』
「よろしくな。
それでキノコは固有種だったのか?」
『半分ほどは固有種でしたが、それ以外に特に豊富だったのはマツタケ類似種と黒トリュフ類似種でした』
「マジか!
奴らにとっては『毒の森』だけど、俺たちにとっては『宝の森』だな!」
『はい』
「あ、そういえばナノマシン部隊は土中のトリュフも探知出来るのか?」
『可能です。
そうした技術が開発されたために、銀河宇宙ではほぼ全ての天然黒トリュフが採り尽くされ、現在は畑で生産されるものがほとんどになっています。
ですから天然ものの黒トリュフなどはかなりの値がつくことでしょう』
「ま、まああのトリュフを畑で作れるだけ銀河技術も大したもんだけどな……
それで、埋まってるトリュフの上にマークとか置けるか」
『既にトリュフ類似種もマツタケ類似種も位置情報は得ておりますので、あとは転移で旗などを送り込めば可能です』
「さすがだな。
それじゃあ今度はドローン部隊を大量投入して、その『毒の森』の中央部に直径30キロほどの農園を造っておいてくれ。
ブドウ農園と小麦や野菜畑と牧場にしよう。
現地野生生物にはあんまり迷惑をかけないように頼む。
犬人族用の祠宿舎やシャワーや風呂の設備も作ろう。
それで、農場の周囲10キロほどの範囲の黒トリュフとマツタケのある場所に小さな旗を立てておいてくれるか。
採り過ぎて絶滅させないように3割ほどでいいから」
『畏まりました』
「それからその農園から12の方向に延びる道路も建設しておいてくれ。
そうだな、幅8メートルで半地下式にして壁も天井もつけて、森の周辺部から10キロ手前までだ。
天井部分は一部ガラスにして、夜の灯りは魔道具でいいだろう。
途中に水場と食事の出来る休息所も頼む」
『はい。
あの、ブドウ農園と小麦や野菜の畑と牧場は、別の結界ドームにされたらいかがでしょうか。
そうすれば犬人たちは畑で働けますので』
「それいいアイデアだなぁ、それで頼む。
今は少し過剰な援助かもしらんが、あと10万年もすればこいつらもヒト族型の体に成れて、ブドウもキノコも毒じゃあなくなるからまあいいだろう」
『はい』
「そうそう、ミランダを通じてあのテイルー恒星系にしっぽ食肉種の生育技術と番を買わせて貰えるように申し入れてくれ」
『牛系と豚系と蜥蜴系がいますが、どの種類にしますか』
「そうだな、どれも300番ほど買わせて貰おうか」
『畏まりました』
「それから銀河宇宙の連中に現地犬人族の体形を見せてやって、防護マスクも注文してくれ。
特にブドウの蓚酸とキノコの胞子と気化したアルコールを防ぐためのものだ。
それから蓚酸による腎機能障害の治療薬や子供が発熱した時用の薬なんかも大量に用意して欲しい。
ナノマシン入りじゃあ無くって一般薬で。
あと、祠部隊12人の準備もな。
祠は道路の出口部分に設置して、いざというときの避難所にもなるように大きめにしてやってくれ」
『はい』
「あとそうだな、急がんでもいいからその毒の森の周囲に高さ10メートルほどの壁って造れるかな。
現地住民にこれ以上毒の被害が出ないようにしてやりたいんだ」
『材質は鉄骨と石材でよろしいですか?』
「もちろん構わんが、そんなに大量の石材ってあったかな」
『ドローン部隊に通常の小惑星を粉砕させて、祠部隊の中級AIたちに道路や壁を造らせます』
「よろしく頼む」
『はい』
「あ、そういえばうっかりしてて今さらなんだけどさ。
俺が未認定世界の住人達を雇って働いてもらう代わりに、賃金や食料を渡すとするだろ。
それ、神界では最高神さまの了解を貰ってるからいいとして、銀河連盟の法には抵触しないのかな」
『本当に今さらですね』
「はは」
『まずは、銀河法典には確かに『未認定世界にて濫りに接触や取引を行うことを禁ず』という法が存在しますが、これはあくまで銀河の認定世界住民を対象にした法です。
彼らには神界の行動を縛る法はありません』
「まあそりゃそうか。
それでもさ、医薬品を無償で援助するのはいいとして、食料については現地住民に働いて貰ってそれで支払った給料で買ってもらいたいと思ってるんだよ。
そうしないと住民が働かなくなっちゃうから。
でも、銀河宇宙にはそういう労働契約に関しても、けっこう厳密なルールがあるんだろ。
それに抵触しないためにはどうしたらいいかな」
『まず、そうした取引に関する基準もやはり連盟加盟恒星系同士の取引に関するもので、未認定世界との取引は想定していません。
ですので、この場合には現地住民が十分に納得した条件での取引であれば問題は無いでしょう。
具体的には、『たった1日働いただけで、こんなにたくさんの旨い食べ物が貰えるんですか!』と現地住民が驚くような比率であれば問題無いでしょうね』
「なるほどな……
あ、そうそう、銀河宇宙で商取引をするときには、商品ごとに銀河連盟商取引管理部と銀河商人ギルドが決めた価格帯があるんだろ。
マツタケとトリュフっていくらぐらいなんだ?」
『銀河宇宙では天然のマツタケもトリュフもほとんど採り尽くされてしまいましたので、天然ものの価格帯については規定がありません。
稀に辺境の恒星系で見つかることはありますが、商業ベースに乗るほどの流通量はありませんので』
「そうか。
あの毒の森で採れたブドウやマツタケや黒トリュフって、現地住民には毒だから銀河宇宙で売ろうかと思ってるんだけどさ。
そういうことなら連盟に価格設定の申請をしておいてくれ」
『畏まりました』




