*** 102 犬人族の惑星 ***
「ふう、石造りの閉鎖空間でも効果はあまり変わらないか。
まあ壁面を金属板で囲っていれば、電子が乱反射しまくって効果は100倍になるんだろうけど」
『あの、タケルさま。
なぜこのような攻撃手段を思いつかれたのですか……』
「俺の母惑星にアメリカっていう国があるんだけどな。
そこで昔マイクロ波発生装置が発明されたときに、『大陸中央に超大型のマグネトロンを配置して、各都市にパラボラ型の受信装置を配置すれば、送電線を使わない配電網が出来てコストを大幅に削減出来る』って考えた阿呆科学者がいたんだよ。
それで砂漠の無人地帯で実際に実験したら、マグネトロンの周囲にあった金属製品が一斉に火を噴いたんだと。
クルマとかも大炎上したもんで、実験施設から街まで歩いて帰るハメになったそうだし。
電話も無線機も燃えちゃったんで助けも呼べなかったし。
な、阿呆だろ」
『は、はぁ……』
「それから『家の中で低出力のマイクロ波を発生させれば、空気を暖めずに人体だけ暖められて、低コストの暖房が可能になる』『これで俺も大金持ちだ!』って思って実用化しようとした阿呆もいたんだけどさ。
人が暖まる前に家電製品が火を噴いて全滅したそうなんだよ。
なー、アメリカ人って阿呆だろ。
マイクロ波の指向性ビーム発生器でミサイルを打ち落とす実験もしてたそうだけど。
あ、ついでに銀河宇宙から指向性のマイクロ波発生装置も買っておいてくれるか。
何かの役に立つかもしらんから」
『はい……』
『なあタケル、ついでに作っておいて欲しい武器があるんだけどよ』
「どんな武器ですか?」
『……と、……と、……っていう武器だ』
「構いませんけど、それ全部俺の魔法で代用出来ますし、相手兵士を殺傷するのも……」
『まあ男の浪漫ってぇやつだな。
5万年前にも作りたいと思ってたんだ。
それに攻撃対象は城門や城壁や城限定にするからよ』
「わかりました。
確かに一度は使ってみたい浪漫武器ですね」
『わかってくれたか、さすがは俺の生まれ変わりだ♪』
(……男の浪漫ってなに?……)
こうしてタケルの恐怖の実験は着々と進んで行ったのである……
哀れ暴虐世界の支配層たちよ……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さてマリアーヌ、また未認定世界の紛争や自然災害の救済について実践訓練をしたいんだけどさ、今度は犬人族系世界で要救済対象はあるかな」
『犬人族や狼人族の世界では、ほとんどの場合食料となる草食獣の取り合いが紛争の原因になっており、中には調停が必要な世界もあります』
「あーそうだろうなぁ。
猫人族系の獅子人族や虎人族も、その多くが獲物を獲り過ぎで絶滅させて、自らも絶滅して来たって言われてるしな」
『犬人族系種族の場合、闘争の形態の多くがボス同士の個人戦やボス候補たち2人ほどを加えた少数戦になるために、通常の場合は被害はそれほど大きくならなりません。
ですが、『神界未認定世界災害対応部』のトリアージによれば、やや深刻な危機を迎えている世界もあります』
「どんな危機なんだ」
『銀河系第124象限、F09365恒星系第4惑星では、食肉不足などによる犬人族系住民の健康被害が深刻になっているようですね』
「その名前だと覚えにくいから、あの猫人族の惑星ケットみたいな識別名は無いのか」
『銀河連盟の未認定世界カタログには識別名『ケンネル』と表記されています』
(なんだよその惑星の名前、まんまじゃねーか。
やっぱ俺の翻訳プロトコル少しオカシイわ……)
『この食肉不足問題解決のため、ある地域では周辺2000以上の部族国家が集まって、『毒の森』と呼ばれる森林地帯の支配権を巡っての闘争が行われようとしている模様です』
「『毒の森』ってなんだ?」
『面積12万平方キロにも及ぶ広大な森林地帯なのですが、有毒物質が多く、現地住民がほとんど立ち入ることが無かったために野生動物が生き残っているようです』
「すげぇな、日本の面積の3分の1近くもある森林か」
『ですが肉を摂取出来ない住民たちの健康被害が深刻になって来たために、各国の精鋭たちが森の周辺部に狩りに入るようになりました。
そのほとんどは毒に侵されて帰国後も寝込み、死亡率もそれなりに高くなっているようですし、接触により毒素が感染するためにしばらく隔離されて暮らしているようですね。
さらに多くの周辺国がこの森に狩りに入るようになって小競り合いも発生するようになり、その『毒の森』の支配権を争う集団戦争が始まろうとしています』
「それらの国では農業や畜産は行われていないのか?」
『小麦などの生産は行われていますが、肉食獣系の原始種族には穀物だけでは栄養素が足りないようです』
「そうか……
日本でもつい40年前までは飼い犬や猫にヒトの残飯しか喰わせて無かったんで、寿命が今の半分以下しか無かったっていうからな。
当時は残り物のメシに味噌汁ぶっかけたものを『猫まんま』って言ってたぐらいだし。
そんな塩分過多のメシを喰わせてたら、犬猫もすぐに死ぬだろうにさ。
それで犬や猫を飼ってもすぐに死ぬんで可哀そうだから飼いたくないっていう連中も多かったそうだし。
やっぱ生物種に於ける代謝の違いを認識出来ないような阿呆は救いようが無いわ……」
『畜産については、毒の森の兎やボアなどは穴掘りが得意なので、囲いを作って飼うことが難しいようですね。
その他は鳥類が主ですので、ケージを作らなければ飼えませんし』
「つまり、生き残れるのは勝った国の民だけで、負けた国の民は肉不足で困窮が続くし、場合によっては滅ぶっていうことか。
一種の絶滅戦争だな」
『はい……』
「しかも、勝って森を独占出来たとしても、今度は毒の森に入る戦士たちが死にまくるわけか。
勝っても負けても悲惨だわ。
それにこの状況って、原始犬人族世界ではけっこう普遍的なものだよな」
『原始犬人族だけでなく、原始獅子人族や虎人族などの世界でも同様の困窮が見られます』
「彼らの内、種族として生き延びて神界認定世界にまで至った連中は、幸運にも『穴掘りの得意でない草食獣』が多い惑星で、早期に大規模な畜産を始められた者たちだけだったっていうことか」
『そうなります。
今でも認定世界の犬人族や僅かに存在する大型猫系種族の惑星では、伝統的に大規模な畜産が行われていますし』
「なるほどな。
それじゃあ『ほこら』部隊には畜産のやり方を広めてもらおうか」
『あの、彼らは犬人族ですので、強者にしか従わないかもしれません』
「そうか、それならいよいよ俺の出番かな。
戦闘要員としてオーク部隊も投入するか。
その惑星には犬人族以外の種族はいないのか?」
『猫人族、豚人族、猿人族やその他種族もいてその存在は知られていますが、ヒト族はいません。
種族構成比では犬人族が約70%ですね』
「そうか……
まあ俺は猿人族の一種でオーキーたちは豚人族の一種だって言えばなんとかなるかな。
ところで、その『毒の森』の支配権を争う集団戦争っていつごろ始まりそうなんだ?」
『現在各国の戦士が移動中ですので、3次元時間であと5日ほどかと』
「そうか、それならこの神域では1年近い余裕があるっていうことか」
『はい』
「どんな形の集団戦争になりそうなんだ?」
『毒の森の東西南北にはそれぞれ『森の東』『森の西』『森の南』『森の北』と呼ばれる緩やかな連合国家があり、その構成員である2000ほどの部族国家がそれぞれ3人の代表を立てて戦闘を行う模様です。
それもナンバー3同士の集団戦闘、ナンバー2同士の集団戦闘、ボス同士の集団戦闘といったように、3回の戦闘が行われるようですね。
ただ、ほとんどの戦士が毒のせいで寝込んでいるために、戦士の派遣を見送った国も多いようです』
「バトルロイヤル形式か。
なんか戦争っていうよりは、やっぱり『強い者に従う』っていう形なんだな。
そいつらの平均戦闘レベルは?」
『平均ではレベル35ほど、最高で53ですね』
「それなら問題は無いだろう。
要は俺たちが勝って農業指導や畜産指導をしてやればいいわけだ」
『はい』
「それにしても不思議だよな。
犬人族が『毒の森』と呼ぶほどの森なのに、なんで兎やボアや鳥類が生息出来るんだ?」
『すみません、まだそこまでの調査は出来ておりません』
「観測部に指示して調べさせておいてくれ」
『はい』
「あーでもさ、そこ通常の3次元世界だろ。
ここに比べて時間の流れが60分の1なわけだ。
そんなところに出張に行ってたら、例え毎日帰って来てもこの神域では60日に1回の帰宅になるよな。
そんなことになったらミサリアが泣いちゃうかもだなぁ」
『ミサリアさまを悲しませないために、エリザベートさまたちに神界の神殿に移っていただいたらいかがでしょうか』
「そうすると周囲のお友達と年齢差が出来ちゃうか。
まあエリザさまに相談してみよう。
あ、でも同じことがオークたちにも言えるな。
お父ちゃんが出張先から60日に1度しか帰って来なかったら、家族が寂しがるかもだ」
『それもオーキーさんにご相談為されたら如何でしょうか』
「そうしてみるか……」
「ということでエリザさま、ジョセ、セルジュ、ミサリア、俺は今度未認定世界の犬人族を救うために出張したいんだ。
そのうちこうした任務はオーク族や部下に任せるだろうけど、最初のうちは自分で行かないといけないからな。
でも、救済に行くのは3次元世界だから、毎日転移で帰って来たとしても、帰って来るのは60日に1回になっちゃうんだよ。
みんな神界の神殿に行ってくれれば毎日帰って来られるけど。
どっちがいいかな」
(ここにいたままだと、パパが帰って来るのは60日に1回ににゃっちゃうの?)
(でも神界っていうところに行けば、パパは毎日帰って来るんだよね)
「そうだな」
(じゃあみさりあ、しんかいに行くー♪)
(ボクもー♪)
「でもさ、そうすると今のお友達とどんどん歳の差が開いちゃうんだ。
例えば神界に6日いると、ここでは1年も経っちゃうからお友達はみんな1歳年上になっちゃうんだよ」
(でも1歳年上ににゃってもおともだちはおともだちでしょ?)
(それにまたおにゃじ年のおともだちも出来るから、おともだちが増えるねー♪)
「ま、まあそうなるな……」
(それじゃあやっぱりみさりあ、しんかいに行くー♪)
(せるじゅもー♪)
(そうか、E階梯が高いと歳上が歳下にマウントを取ろうとするとか、体が大きい奴が威張るとかいう意識は全く無いんだ。
だからこいつら歳上も歳下もみんな『おともだち』なんだな。
ったく地球の原始ヒト族のガキ共とはエラい違いだわ……)
「エリザさまとジョセもそれでいいかな」
「もちろん構わんぞ。
何と言ってもそれは救済部門の本業だからの。
それにそなたに毎日交尾して貰わねば妾がおかしくなってしまいそうだ♡」
「わたくしも♡」
「そ、そそそ、そうですか……
あ、従業員の方々はどうしましょうか」
「それも全く問題無いの。
皆に交代で神殿に来て貰えばよかろう」




