表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/267

入場資格



演奏が終わり、全員で舞台に出て礼をした。

盛大な拍手に送られて舞台を降りる。皆で安心した顔で笑い合う。

トラブルも目立ったミスも無し!!



「―――歌姫マリア、楽師ロージー、歌姫ソフィア、歌姫スザンナ…そして全ての楽曲の記録者楽師バドル、他の楽師の皆様にも、改めてこの場で感謝申し上げます。素晴らしい演奏会をありがとうございました」


ジュリ様がスカートを摘まんで礼を取る。年長のバドルが少し前に出て丁寧に頭を下げた。

「恐れ入ります。公爵家のご支援とお心遣いにはこちらこそ限りない感謝を申し上げます」

ラナドとシイア夫人(演奏者の一人として来てくれていた)が皆に目配せして皆も頭を下げる。ラナドと奥方は少し慌てているようにも見えた。公爵家の令嬢が平民に頭を下げるというのは多分、普通は有り得ない事態だから。


ジュリ様は貴族のプライドとか見栄みたいなものをあまり表に出さない方だと思う。結構考え方がフラットというか、身分を笠に着るようなことは言わないしこんなふうに平民にも丁寧だ。そういうとこも好き。

俺に気を遣っているからかもしれないけど、それはそれで嬉しい。


マリアが俺に目で訴えてくるので頷くと、さっとジュリ様の前に跪いた。うわかっこいい。

「ジュリエッタ様、お目にかかれて光栄です。マリアと申します。御礼を申し上げたいと思っておりました」

「…御礼?ですか?」

ジュリ様はきょとんとした。

「憶えていらっしゃらないかもしれませんが、のど自慢大会の日、舞台裏にて貴方様に助けて頂いた者です」

「……あ…?!」

マリアの金色の瞳を見て気付いたらしい。


のど自慢大会の時、ジュリ様が来ていることをマリアが教えてくれて、ジュリ様に御礼を言ってほしいと言ってたんだけど…俺はその時婚約を申し込むことで頭がいっぱいだったので、そのお願いはすっかりすっぽ抜けてたんだな。

今回お目にかかれると知って直接御礼を言わせてほしいと頼まれていたのだ。


「髪型が変わっていたので気付きませんでした。あの時の女性でしたか…」

「主の愛しい御方が貴方様で大変喜ばしく思っておりました。アマデウス様の音楽とジュリエッタ様に、誠心誠意尽くして参ります」

ジュリ様が無意識にだろうか、マリアの髪の辺りに手を伸ばした。長かった髪をこんなに短くするとは思い切ったことをすると思ったのだろう。マリアはその手をスッと絡め取り、手の甲にサッと口づけを落とした。


おぁっ……!? 手袋越しの手に、だけど キスしやがったこいつ…!


「!まぁ…」

ジュリ様は微笑み、マリアも艶然とした笑みを返す。耽美な光景である。

しかし俺は乱暴にならないように気を付けつつ二人の手を掴んで徐に引き剥がした。


「?デウス様?」

「マリア…どこの誰を口説いても良いけど、この方だけはダメです」

俺の引き攣った笑顔と拗ねたような声を聞いてマリアは「フッ…」と失笑して口を押えた。笑うな。キスすな!イケメンになり過ぎなんだよ!

「これは失礼致しました」

「…わかればよろしい」

ジュリ様が俺の嫉妬に気付いたようで顔を赤くして口を開けたり閉じたりした。



その後マリアは『信奉する会』の令嬢たちに囲まれてキャッキャしていた。

「まぁ、女性でしたの!?」「あら声を聞けばわかるでしょ」「声変わり前の少年かと」「男性でなくても素敵…」「むしろ…女性なのが良いのでは…?」と順調に乙女たちを惑わせている。マリアは水を得た魚のようにイキイキと令嬢たちに囲まれて「美しいお嬢様方にお褒め頂き幸甚の至りです」などとノリノリだった。楽しそう。


貴族の所作が身に付いている組は大丈夫そうだが、ロージーたち平民組はあまり絡まれるとボロが出るかもしれないので貴族組と一緒に行動するように指示している。とはいっても掛けられたのは褒め言葉ばかりだったようで問題なさそうだ。


俺とマリアの関係を揶揄するような人間は見当たらない。演奏会とマリアの男装のインパクトで、そんな風評は吹き飛んだと思っていいだろうか。ひとまずは安心した。

楽師たちには控室に料理なども用意してもらっているから、この後は適当に下がってそこでのんびりしてもらう。


「アマデウス、招待感謝する。実に素晴らしかった」

「良かったぞ!いつか王都で見たものより楽しめた」

「ああ…感動した」

友人たちが頃合いを見て近付いてきて褒めてくれた。



あ~~~~~~~~~~~~~~~~。

麗し~~~~~~~~~~~~~~~!

タイプの違う美形が黒をベースにした盛装で並んでいる~~~~~~~~~~~~!



アルフレド様が一番黒布の面積が多めで、御髪と金の刺繍と装飾が映える。大天使。

ハイライン様は銀髪に合わせてか黒と銀糸の刺繍が煌めく白布を使った衣装。スタイリッシュ。

ペルーシュ様は騎士団のコートを黒くした感じに明るい茶色の刺繍が入っていて落ち着いた色味。クール。


カリーナ様は橙の髪なのでオレンジと黄色のリボンを使って元気で可愛らしいドレスだ。キュート。

プリムラ様は淡い黄色とクリーム色のフリルが使われていて上品な印象。年齢より大人っぽい。

リーベルトは黒い騎士服に水色と茶色の刺繍が入っている。髪と目の色だ。柔らかい雰囲気なのでまだかっこいいよりは可愛いと思ってしまう。これで剣の腕が良いんだからギャップが良い。

リリーナもリーベルトと同じ色味の刺繍で少女らしく可愛いドレス。マルガリータ姉上にジークも一言褒めに来てくれた。皆麗しい。知ってた。


それぞれ髪や瞳の色と黒を合わせた衣装を誂えていて皆よく似合っている。

マルシャン商会にも利益が出たみたいで良かった。流行を生み出しつつマルシャン商会大儲け作戦はエイリーン様の発案だったので俺まで仲介料をもらっていいのかな~とは思ったが、有り難くもらった。


エイリーン様も挨拶に来てくれたので御礼を言う。

めちゃくちゃ手の込んでそうなドレスだった。気合い入れてくれたな~。俺から見ても周りの人間が男女問わずエイリーン様にぽけーっと見惚れているのがわかる。アルフレド様もだけど、彼女の影響力は凄かっただろう。マジ感謝。


丁度その時ディネロ先輩も挨拶に来てくれたが、エイリーン様を横目に固まっていた。表情は無だが見惚れているのだろうか。エイリーン様が気付いて話しかけ、お兄さんと一緒に真剣な顔で何か話し込んでいた。ディネロ先輩が欲しがっていた貴族の伝手を得られたならいいことだ。



※※※



帰りに売り物のリストを配ってお帰り頂く。その場で決めた人には手渡しして、迷った人には後日届ける。

公爵家の使用人たちは手筈通りにてきぱき動き、パーティーは終演した。



「デウス様、お疲れ様でした。素敵な時間でしたわ、本当に…」

応接室に通してもらい、お菓子とお茶で一息つく。

ポーターは楽師たちの方に行ってもらったから他にはモリーさんしかいない部屋。仮面を外して、ジュリ様が嬉しそうにそう言ってくれて俺も顔が緩む。

「楽しんで頂けたなら何よりです。楽譜5枚は後でお贈りします」

「えっいえいえ、買わせて頂きますわ」

「だって招待客には二つタダで配っていますし…レシピは既に公爵閣下が買って下さったようですが」

「わたくしは主催者ですから…」

「受け取って下さい、私からの感謝の気持ちだと思って」

「感謝?」

「…かわいい姿を見せて頂いたことへの?」

少し照れくさくて笑うとジュリ様も照れてはにかみつつ少し俯いた。


「…そう言って頂けるのは嬉しいですが…やはりだめですわ。今日、一つ、謝らなければいけないことがございます」

「え?」

俺が首を傾げるとジュリ様がお茶で喉を潤してから目を泳がせる。


「…実は、パーティーの最初の方に報告を受けたのです。…アマリリス様がシレンツィオ城の入り口にいらしていたと」

「……はっ?」



――――俺の元悪役令嬢的母親ことアマリリス…が?!



「…黒い服でもなかったようですし、招待していませんから、お通ししませんでしたが…執事によると、『自分はアマデウスの母親なのだから通さないのは失礼』と言い張って帰ろうとせず…何度お帰り下さいと言っても居座られたそうで」


……悪質なクレーマーか??? …いや何やってんだコラ!!!!!


「……え~~~~~……っと…大変申し訳ございません?!?!」

俺が頭を机に押し付けて謝ろうとしたところジュリ様が「いえ違うんです」と止めた。


「我が家の者は、彼女とデウス様の縁が切れていることは承知していますわ。本当なら説得して目立たない場所に誘導出来たら良かったのですが…やはりデウス様の御母上ということで騎士も無理に動かすのは躊躇してしまったと。そこに、スカルラット伯爵家の御姉弟が丁度通りかかられたのです」

「姉上とジークが?」



※※※



「わたくしはアマデウスの生みの親です。子に会いに来るのは当然のこと。それを入り口で追い返そうだなんて、シレンツィオ公爵家の使用人はもしや無礼者しかいないのかしら?さっさと通しなさい!」


馬車から降りた人々が通る会場の入り口前、派手に着飾った、しかしこのパーティーのドレスコードであるはずの黒のドレスではない女性の大きな声に皆何事かと怪訝な目を向ける。

その声を聞いていたスカルラット家の姉弟、マルガリータとジークリートは立ち止まった。


「…あれがアマデウスの… 下品ね。見てられないわ」

姉が嫌そうな顔をしつつ通り過ぎようとしたところ、弟がその女性の方へ足を向けた。

「!待ちなさいジークリート…何をする気?」

「姉上…あの人が兄上に興味がなかったこと、私たちはよく知ってます。…兄上が公爵家に入ると知って擦り寄りに来たのでしょう?ここでお帰り願わないと」

「……そうね、万が一会場に入られるとアマデウスは困ることになるでしょうね」


親世代で悪評の強いアマリリス・ロッソ男爵夫人。元公爵令嬢。

彼女が親子の情に訴えるようにアマデウスに声をかけ、仲良くしようものなら「あのアマリリスと仲が良いというのは…」と眉を顰められる。素気無くしようものなら「実の母親に対して非情な…」と彼の人格の評判を疑う者も出ることだろう。



「でしょう?兄上は、今は我がスカルラット家の一人です。今の家族である私たちになら、あの人を退ける理由があります」

弟の決心が揺るがないのを知り姉は顔を嫌そうに歪めつつ溜息を吐いた。

「……仕方がないわね」


二人はアマリリス夫人に近寄った。ジークリートが勢い込んで声を出す。

「ロッソ男爵夫人!スカルラット伯爵が第三子、ジークリートと申します。招待を受けていないのなら潔くお帰り下さい!公爵家に迷惑をかけないで頂きたい。兄が困ります」

「あら…これはこれは、スカルラット家の…アマデウスがお世話になっております」

アマリリス夫人は優雅に笑みを浮かべて礼を返した。


「誤解があるようですわ、ジークリート様。わたくしはあの子を困らせようなどと思ってはおりません。今まで、息子が伯爵家の令息として恥ずかしく思わないよう、会いたい気持ちを押し殺して接触を控えて参りました。…愛しい息子の結婚相手に一目、ご挨拶させて頂きたい。どうぞ息子をよろしくお願いしますと申し上げたいだけなのです。子の幸せを願わない母などおりません…。苦しい母の心を、おわかり頂けませんか…?」


ジークリートは怯んだ。てっきり先ほどと同じように高飛車に詰められると思っていた。しおらしい言葉が出てくるとは思わず、困った顔で黙り込む。

マルガリータは弟を見て溜息を吐いた口元を扇で隠した。口元を隠したまま口を開く。


「…ロッソ男爵夫人。『会いたい気持ちを押し殺して』…と仰いましたね。では会えない間もアマデウスのことを想っていらしたのですね」

「ええ…勿論です」

「きっと会えない息子のことを少しでも知りたくて色々とお調べになったことでしょう」

「ええ…そうですね」

「そうですか。てっきりわたくしたち、貴方様はアマデウスに興味がないものと思っておりましたの。アマデウスは男爵家にいた頃も数えるほどしか貴方にお会いになったことがないと言っていたものですから」

「きっと小さかったから忘れてしまったのでしょう。あの子の様子は逐一報告させておりましたわ」

「なるほど…では、あの楽師のこともよくご存知ですのね。ほら、名前は何だったかしら…アマデウスが一番寵愛している楽師です。当然ご存知ですよね?」

「え……」


姉の言葉を目を瞬かせて聞いていた弟はようやく姉の意図に気付いた。

「ああ…男爵家にいた頃から今までずっと仕えているあの楽師のことですね、姉上」

「ええ。今回の演奏会もその者が集めて来た楽曲を発表するそうです。アマリリス様、あの楽師の名前は何だったかしら…」

「…ええと、申し訳ないわ、度忘れしてしまったようで…」

「では、アマデウスが一番尊敬している音楽家をご存知ですよね?あれだけ音楽に傾倒している息子のそれをご存知ないなんてことはないわね?…あら…本当にご存知ないの?」

「………」


アマリリス夫人もマルガリータの声が嘲るような雰囲気を帯びたのに気付いて姉弟を睨みつけた。

「…そんなこと…知らなくとも息子を愛していることに変わりはないわ!」

「知ろうとしなかったの間違いでは?…ああ、貴方!少しよろしくて?」

マルガリータは近くを通った令嬢に声をかけた。

「はい…?これはマルガリータ様、ご機嫌よう」

「貴方…アマデウスが一番尊敬している音楽家の名をご存知?なんだったかしら」

令嬢は、なんだそんなことか というように顔を綻ばせて言った。



「幼少から一緒にお過ごしの、楽師バドル様ですわね!アマデウス様の音楽を愛好している者にとっては常識ですわ!本日も楽しみにしておりました!」



令嬢が去ってから、顔を赤くしているアマリリス夫人にマルガリータは言い捨てた。

「その辺の令嬢でも当然知っているようなことを知ろうともしなかった貴方が、アマデウスの演奏会に参加する資格は無いわ。恥知らずな主張はやめてお帰りになることね」



マルガリータと暫し睨み合ったアマリリス夫人は、忌々し気に踵を返した。




※※※




「…そういう感じだったそうでして…マルガリータ様とジークリート様にお手を煩わせてしまいました。我が家の者が対処すべきでしたのに、申し訳ないです」


うーん、流石姉上…気と口の強さには定評(俺からの)がある…。

ジュリ様に挨拶しに来た時は、そんな一戦交えたことなんておくびにも出さなかった。姉上は淑女らしく猫被ってたしジークもご機嫌だった。家に帰ったら話してくれるつもりだったのかも。


伯爵家に来たばかりの頃はギスギスしてたけど、もうすっかり…俺を挟まなくてもちゃんと姉弟で、家族だ。



楽譜の由来を聞かれたら俺は「私の一番尊敬する音楽家でもある楽師バドルが、諸国を漫遊し集めて来たものです」と説明している。これはそこそこ俺のファン歴が長い人しか知らないと思うが…姉上が声かけた令嬢って誰だろうな。多分(俺のファン歴が長い人だと)わかってて声かけたんだろう。



「…帰ったら御礼を言っておきます。ジュリ様が謝罪なさることは無いですよ。楽譜は貰ってください」

「でも…」


俺は跪いてジュリ様の手を取り、手の甲に唇を軽く当てた。

「お願いします」と上目遣いで言う。ジュリ様は頬を染めつつ眉を下げて笑って「…わかりました」と頷いてくれた。


あ~~~マリアに対抗して気障なことしてるの恥ずかしいな~~~俺!


まぁいいんだよジュリ様が笑ってくれるなら!

公爵家のおもてなしもジュリ様の采配も完璧でしたよ。失敗があったなんて思ってほしくない。



母親の襲来には頭を抱えたくなったけど…姉と弟タッグによる華麗な撃退話には、笑みを禁じ得なかった。


マルガリータが声をかけたのはエーデルです。エーデルはアマデウスのファンとして結構有名人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりにこの辺りを読み返していて思い至ったのですが。 アマデウスは化物令嬢相手にベタ惚れ態度丸出しな反面、ウルトラ美少女エイリーン様も残念容姿のカリーナも扱い方に多分大差なし。 これを見た…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ