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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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予選




「おお…!謝肉祭みたいじゃないかい!」

「…割と大きな催しね。町全体を巻き込んでる」


あたしとマリアは無事スカルラット領ののど自慢大会に参加出来ることになった。まだ準備中だが色んな出店が立てられている。広場の奥には、組み立てられた舞台。




あたしはともかく売れっ子娼婦のマリアが遠出することに店主は渋ったが、あたしがあの馬鹿息子にマリアがされていることを見逃していることを責め、

「あのお貴族様に買い取られることをマリアはとても怖がってるんだよ。たまの女同士の息抜きくらい許してやりなよ。殺されかけてもあんたに守ってもらえない恐怖がわかるかい?心が壊れちまうかもしれない。そうなったらあんたのせいだよ店主?!」

と詰め寄ったら見張り付きで許しが出た。流石に罪悪感があったらしい。「あたしは別に壊れそうじゃないんだけど…スザンナ、あんた本当気が強いわね」とマリアは苦笑していた。



見張りの男はジョンと言って40歳くらいのがっしりした不愛想な男。娼館の雑用兼用心棒の一人だ。なるべく普通の町娘っぽい地味な格好をしているマリアだが、美人なのでやはり目立つ。通りがかった男が近付いて来ようとしたらジョンが睨みを聞かせて追っ払う。見張り付きなんて嫌だねぇと思ったけど、こりゃいて正解だったね。


「受付はどこかしら」

「ええと、集合はこの舞台の前だって話だったが」

乗り合い馬車で領を越え、大会受付の場所を尋ねてひーこら言いながら申し込みに来た時、名前と歳、髪の色を書き留められて当日の8時に来るように言われた。大会に出る者には説明しなければいけないことがあるからと。マリアの名前もあたしが申し込んでおいた。


舞台の前に行くと大きな板を持った男が立っていた。マリアが「大会参加者はこちらって書いてあるわ」と教えてくれる。あたしは数字以外の文字は少ししか読めないから助かる。

話しかけると、「あそこの建物に行って下さい」と言われる。すぐ近くの集会場のような所へ行くと入り口に女性がいてあたし達の名前を確認し、案内してくれた。


中に入ると、簡素な椅子がたくさんありたくさんの人がずらりと座っていた。

奥の扉から若い娘が出てくる。部屋の前のメイドらしき女が次入るべき人間の名前を呼ぶと、若い男が緊張した様子で入っていく。その男が出てきたら次。そんなに長い時間ではなかった。意気揚々と出てくる者もいれば意気消沈して出てくる者もいる。

何をやっているのかと周りの人に訊いてみると、何と申し込み人数が多かったので予選だという。

「え、ここで落とされるかもしれないのかい?!」

「ほら言ったでしょう、門前払い食らうって」

マリアが気だるげに言う。あたしが不満そうな顔になると、慰めるように肩をさすった。

「祭りに来れただけでも楽しいわ。帰りに色々買いましょうよ」




少し不安に思いながらも大人しく順番を待ち、あたしの番になった。あたしの次がマリアだ。


部屋に入ると、上品そうな老人、育ちの良さそうなおかっぱ、陰のある若い男が座っていた。おかっぱに問われる。

「青い髪のスザンナ、ですね。それでは、舞台で歌う予定の曲を教えて下さい」

「はい。『幼子の眠り』にしようと思ってますです」

「リデルアーニャの子守歌ですな」

老人が笑顔で言う。確かにあの歌はリデルアーニャの歌だが、有名でこちらでも知ってる人はいる。まさか外国の出身だとバレて厭われるだろうか…?

「いいですね、この曲を選んだのは貴女が初めてです」

若い男が板に何か書き込みながら言った。良かった、悪い印象ではないようだ。

「それでは、伴奏しますので最初の方だけでいいので歌ってください」

伴奏?と思うと部屋の隅の後方に椅子に座ってリュープを構えた少年がいる。気付かなかった。真っ赤な髪の15歳くらいの少年はあたしににこっと笑いかけ、弾き出した。あたしに笑いかける男なんて珍しい。愛想が良いな、あの子。



『♪~ 眠れ幼子、母の腕の中… ~』



最初の方って…どこまでだ?と思いながら一番を歌い切った。

「…二番も歌うかね?」

と聞くといつの間にか伴奏は止まっていたし全員真顔であたしを見ていた。怖い。

「…いや、大丈夫です。…」

若い男は赤髪の少年に目線を送った。少年が頷くと若い男も頷き、「終了です。控室でお待ちください」と淡々と告げた。

顔が良くないだとか仕事は何だ?掃除婦なんて…とか予想していた嫌なことは言われなかったし、歌も失敗はしていないと思うがどうだろう。良い反応だったのか悪い反応だったのかわからない。


「どうだった?」

「よくわからないね」

微妙な顔のあたしとマリア。マリアも呼ばれて部屋に入っていく。ジョンが付いていこうとしたが流石に入り口のメイドに止められた。


すぐに出てきたマリアも「悪い反応じゃなかったけど…」と微妙な顔をしていた。ぬか喜びさせない為にあまり反応しないようにしているのではないか、という待ち時間のマリアの意見にそうかもしれないと思う。マリアも仕事は聞かれなかったという。



※※※



「それでは、本選出場者を発表します。お静かにお願いします。名前を呼ばれた方はそちらの部屋へ」

入り口にいた厳格そうなメイドが名前を次々読み上げる。

「—――…フレッドさん、スザンナさん、マリアさん。以上です。今呼ばれなかった人は残念ながら落選です。お帰り下さい。入り口でお土産がございます」


二人とも受かった!!


落ちた人達が ええー!!そんなぁ、落ちた―!何でだよ~… 等の残念な声を上げながらもお土産って?と言いながらぞろぞろと入り口に向かう。入り口でリボンのかかった小瓶に入ったクッキーが配られている。


「今回、予選は急遽決まりました。予選が行われることを知らなかった方もいるでしょうから、伯爵令息アマデウス様からお詫びのお菓子です。一人お一つお持ち帰り下さい」


少し眺めていたら、透明度の高い綺麗な小瓶に入った花の形をしたクッキーに、可愛い!綺麗だな、良い瓶だ、など嬉しそうな声が上がる。あたしは選ばれなかった人の落胆をそのままにしない気遣いに感心した。

「良い人だねぇ、ここのお貴族様は。いいねあの瓶、あたしも欲しい」

「…そうみたいね。変わってるわ」






案内された部屋に入ると、審査員と思われるあの三人と赤髪の少年が前にいて、出場者と思われる人はあたし達も入れて12人。赤髪の少年が何か銀色の棒のようなものを口の前に構えて話す。


『歌い手の皆様、お集り頂いてありがとうございます』


「?!」

少年の声は大きく響いた。洞窟の中でもないのにどういうことだ?!ざわざわと皆が動揺する。


『この棒は拡声器です。魔道具で、音を大きくすることが出来ます。舞台で歌ってもらう時に皆さんにはこれを使ってもらいます。今から回しますので、どんな感じか少し声を出してみて下さい』


前にいた人から受け取り、恐る恐る声を出してみて、驚く。横の人に回す。魔道具…貴族は魔法が使えるのか?

「貴族は、適性がある人だけ魔法が使えるらしいわ。魔法を込めた道具みたいね」

マリアが教えてくれる。そんな道具、かなり貴重なんじゃないだろうか。平民に使わせていいのか?回ってきたのでじろじろ眺めてあ、ああ、と声を出してみる。なるほど、これなら舞台の後ろの方まで聞こえる。舞台でいきなりこれ使えって言われたら戸惑うから練習ね。

皆が拡声器を試したところでメイドが持っていき、少年に戻る。


『それでは、くじ引きで歌う順番を決めます。一枚引いて下さい』

丸い穴が開いた箱に手を入れて、薄い板を掴んで引く。

あたしは10番。マリアは9番だった。


「…ソフィア、交換しなさい。こういうのは後の方が有利なのよ」

「ええ…は、はい…」

隣の修道女服の少女が、その隣の美人にこそこそと不正を強要されている。おいおいと思ったが、騒いだりしたら摘まみだされるかもしれないので仕方なく黙っていた。


ソフィアという少女は3番、その隣の美人は11番になった。



『それではこの順番に歌ってもらいます。始まるのは一時間後です。30分後に舞台の裏に集合してください。それまではここの控室にいてもいいですし、外を周っていても構いません』

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