栄光への足掛かり
今日は半年前から準備していたのど自慢大会の日である。
わーい!!楽しむぞ~~~~!!…という気持ちにいまいちなり切れないのは、俺がジュリエッタ様への婚約申し込みに失敗し続けているからである。
びっくりだ。
こんなに上手くいかないとは。
ポテチを売る為に開いた学院のお茶会室でのお茶会は恙なく終わった。恙なく…うん、俺がジュリエッタ様から二人で話すことを拒否られた以外は。
暴漢が出た記憶がまだ新しいので中庭辺りには見廻る騎士団の人数を少し増やしてもらった。ティーグ様は大丈夫だろうと言っていたけど念の為に。アルフレド様も快く付き添いを了承してくれた。事前準備に穴はないと思っていたのだが……
…ルドヴィカ様が外でうろうろしている可能性は確かにあった。
お茶会までの間に何度 わたくしも参加したいですわ~…チラッ… とされたことか。
俺にそのおねだりを何度スルーされてもめげずにいた上に当日になってカリーナ様に交渉しに行くとは…。
だって貴女、ジュリエッタ様と二人になろうとしたら絶対邪魔してくるでしょう…。
ジュリエッタ様と同じクラスなのでジュリエッタ様に近付こうとすると彼女も近くにいたりするのだ。見つかってしまうと「わたくしに会いに来て下さったのですねっ!」とグイグイ来られる。違う。
放課後もどこからともなく現れて捕まってしまってお喋りに突入する。いつもリーベルトやハイライン様も近くにいるから二人きりではないのだが、彼女は俺にボディタッチしがちなので噂になってしまっていたようだ。
腕とか、肩とか、さり気無く触ってくる。こういう触れ合いは異性と距離を縮めたい場合有効だって前世の何かで聞いたことあるな。単純接触ってやつ。触れ合いが多い相手には好意を抱きやすいものだという。
でも周りに誤解されたくない俺は触られたなと思った時は一応少し身を引いてるのだが、すると向こうが近付いてくるだけなのでいたちごっこだ。
別にルドヴィカ様の話はつまらない訳ではない。妙に長々としているが、令嬢のお洒落の話や欲しい贈り物の話、流行りの物語の話など令息と話している時は出ない話題で興味深かったりする。
ジュリエッタ様と話す時の参考になるかもしれないな…と思って授業みたいに聞いている。リーベルトやハイライン様は「正直退屈…」と評価していたが。多分彼らがまだ恋をしていないから興味が出ないのだろう。それか俺が前世との違いを探しながら聞いているから割と聞けているのか。
でも話していて楽しいかと言われたら否であった。
『あらご存知ないの?仕方ない方ね、教えて差し上げるわ。わかったかしら?』という上から目線姿勢を崩さないところが面倒くさい。別に教えてほしいとは一言も言っていない。
上司の自慢話や特に必要はない指導を聞いている部下の気分である。そんな部下になったことはないが、親戚のおじさんに延々とそんな感じの話をされたことはある。目上の人なので無下に出来ない状況が似ている。
失礼だけどあんまり友達いなそう。
こちらに好意があることはわかるので嫌いだとかそこまでの悪感情は無いのだが、ひたすら面倒な存在だった。
しかし、ジュリエッタ様に彼女がいそうだから中庭に出たくないとまで言わせるとは。
もうちょっと強めに突き放していた方が良かったか…誤解されそうな発言をする度にちょくちょく『やめてくれ』と伝えてるんだけど効いてないんだよな…。
お茶会の後にもいつもの四人に協力してもらい何とか時を見てルドヴィカ様に見つからないようにジュリエッタ様に話をしようと試みたが、ジュリエッタ様は最近授業後すぐさま家に帰ってしまうようで捕まらなかった。何か家でするべきことがあってお忙しいらしい。
あと、ルドヴィカ様に見つからなかった時は何故かエイリーン様に捕まることがあった。
エイリーン様はルドヴィカ様よりも言葉少なで、一つ二つピアノや楽譜の話をしてすぐに去っていく。去り際にじっ…と何か言いたそうに見てくる。家の意向で今はピアノを購入出来ないそうだが、ピアノに興味があるのかもしれない。「もしや、好意をよせられているのではないか…?」と遭遇する度にハイライン様がこの世の終わりのような顔をして俺に言うのだが、「口説くなと念を押されてるんですからそんな訳はないでしょう」と返す。
「そうだろうか…」「興味は持たれていますよね。デウスは目立つし。今日もお美しかった…」「眼福だったな…」とハイライン様もリーベルトも何か嬉しそうだ。
エイリーン様に捕まっている間、ルドヴィカ様は俺に近付かないようだとペルーシュ様が教えてくれた(ペルーシュ様は無口なのにこの五人の中では一番情報通だ。観察眼が鋭いというか周りをよく見ている)。
おそらくあの絶世の美女の横に並びたくないのだろう、と。なるほど。
――――――――とまぁそんなこんなで今日を迎えた。
「申し込みに失敗して落ち込んでいることはわかりましたが、集中して下さい。本番ですよ」
ロージーが淡々と申込書の順番を確認しながら言う。
ロージー達には、『想いを寄せている令嬢に婚約を申し込もうとしているが失敗した』という端的な説明だけした。せっかくののど自慢大会に俺がテンションが低いので体調を心配されてしまい、恥ずかしいが説明しなければいけなくなった。
「そうだね…切り替えていかなきゃ。…よし!」
顔を一回パン!と叩いて気合いを入れる。
この大会は新しい催しとして、広場に舞台を新設し町の食物屋や雑貨屋が周りをぐるりと出店で囲み、さながら縁日だ。場所代は取らなかったが売り上げの何割かを納めてもらうことにした。座れる席と立ち見の席を区切って、座れる席は金を取る。席は真ん中の塊は大銅貨5枚、端の方は大銅貨3枚。
この国の通貨は銅貨、銀貨、金貨が有り、それぞれ大中小ある。
小銅貨を10の価値とすると、中銅貨が100、大銅貨が1000。
小銀貨が1万、中銀貨が5万、大銀貨が10万。
小金貨が100万、中金貨が500万、大金貨が1000万…大体そういう感じ、と俺は理解している。
1は一円のイメージとは言えない。物価が違うので。
今の国内では王家が安定しているので通貨の価値は保障されていると感じるが、国の景気が乱れたり別の国となるとまた変わるらしい。
農民が主な田舎でも通貨が割と流通しているので、平民は数の数え方や読み方を子供の頃親や教会から習う。でも文字の書き方や読み方は知らない者も多いという。生活する上であまり必要にならないからだ。
今回の大会で、一位には小金貨一枚=100万、二位には大銀貨5枚=50万、三位には大銀貨一枚=10万の賞金を決めた。
小金貨一枚は、平民の働き盛りの人間の大体一年分の稼ぎだと言う。…日本の感覚としては300~400万円くらいだろうか。それは確かに賞金としては高いな。
でも、俺はこの領…この国の人達に、音楽を広めたい。音楽の素養があることは価値があるのだと知らしめたいのだ。なので賞金はポケットマネーから出した。ちょっと懐は痛いが何だかんだ稼いでいるので。金額が多いと話題になるので客も増えるだろう。
設営や他の準備にかかる金はティーグ様が出してくれた。話がじわじわ広まって他の領から参加したり見物しに来たりと、経済効果が見込めるし領の名前が広まるのは良い事なので。
町の商業組合に相談したら、謝肉祭などの祭りの準備でノウハウはあった。
この大会が上手くいって、新しい祭りとして定着すれば伯爵家にとっても得になる。
「成功すれば…お前の名声が更に上がるだろうな。公爵家の婿に相応しい人物として認められる、良い足がかりになるかもしれんぞ」
少し前の食卓でティーグ様がそう言うと、姉上はしかめっ面になりジークは目を輝かせて「何かお手伝いしたいです」と言ってくれた。姉上とジークにはジュリエッタ様への片思いは話していないのだが、俺がその気であることは感じ取っているようだ。
―――――――そ、そんな利点があったか……!!
欲望のままに大会を計画していたからそんなことは考えていなかったのだが。
確かに何かわかりやすい功績があれば『男爵家上がりで公爵家に相応しくない』とか陰口を叩かれることが減るかもしれないのか。
元々成功させる気は満々だったのだが、これは正念場かもしれない。ジュリエッタ様も名声のある男の方が良かろう。
俺がこの大会を企画した当初の目的は……客を呼べる、歌い手を見つけること。
これまでの演奏会は席料と心付けだけ貰っている簡素なものだが、だんだん固定客やファンが増えてきていた。
今後は町の講堂などを借りて入場料を取って続けて行こうと考えている。席の場所に寄って値段を変えて、裕福じゃない民も入れるようにはしたい。
演奏会も俺とロージー達だけではマンネリになる。新しい曲を出すにおいて、特に女性の歌い手は欲しかった。最低でも二人。
新曲を憶えてもらって、演奏会で披露してもらうような臨時の歌手として雇いたいのだ。一人か二人くらいは新しく楽師として雇う手もある。すでに働いている人なら臨時バイトだな。
結構多い応募があったので、午前中から広場の近くの建物を借りて予選を行って人数を絞る。
さて、―――――――――――未来のスター発掘、なるか。




