出来ること、出来ないこと
暴漢に襲われて帰った後は家族揃って夕食を食べながら(と言っても第一夫人と第二夫人はいない)今回の事を話した。
「兄上に怪我がなくて良かったです…」
ジークが顔色を白くしている。心配かけちゃってすまない。
「楽器を弾けないお前の価値など半減するものね、無事で良かったわ」
「マルガリータ、その言い方は良くないぞ」
「っ…はい、お父様」
姉上がいつも通りのツンを出すとティーグ様が窘める。
いつもはティーグ様の前だと悪態をつかないのに(怒られるから)。姉上も俺が襲われた話に動揺しているようだ。
「ふむ…私は今回、シレンツィオ公爵令嬢との有利な縁談を目論んでいるどこぞの家がアマデウスを狙ったものと考えている。公爵家との縁談はほとんどの家が望むところだが、令嬢の評判故に今の所立候補がない…このまま婿が見つからなければ格下の家からの婿入りやよそへの嫁入りも視野に入る。侯爵家辺りが狙いそうなところだ…もしくは、王家」
「っ…!?」
「王家?!」
「お、王家が…?」
姉上、俺、ジークが驚愕のリアクションを取る。王家への疑いとか、口に出しちゃって大丈夫か?!と不安になってしまう。
不敬罪、というものがあるので王家に対する発言には結構気を遣うのだ。下手にそれで裁くと王家も信用を失う場合があるので軽い悪口くらいでは詰められることなどないらしいが。
「わかっていると思うが、口外するなよ」
三人揃ってこくこくと頷いて、次の発言を待つ。
「学院の騎士団は王家の管理だ。そこに手先を忍び込ませることが出来るとなると限られる。今回捕まった男が知らないうちに行方を眩ませていたら王家の仕業と考えてよかろう」
「…えーと、私、王家に命を…いや、手を?狙われているってことでしょうか」
ヤバヤバのヤバなのでは。死ィ~~~!!!
「公爵家の娘に近付いたことで狙われたと、怖気づかせるのが目的だ。命までは取ろうと思っていなかったのだろう。そこまでいくと大規模な調査が入るし噂も立つ…事故に見える怪我くらいが良かったのだろうが、失敗が続いた結果襲撃に至ったのではないか」
確かに殺すつもりならとっくに殺されてるか…でも死にそうな罠もあったんですけど?!怪我ついでに死んだらラッキーくらいに思われてない?!
「失敗が続いたって言ってもまだ入学してそんなに経ってないのに…」
これからチャンスはいくらでもあったのでは?
「…ジュリエッタ嬢が今にもお前に婚約を申し込もうとしているように見えたのだろう。婚約してしまってからでは公爵家をも敵に回すことになる」
「お、ぉぉ…」
己の顔が赤くなったのがわかった。
今日より前は、ジュリエッタ様可愛いし婚約のお話来たら全然受けて?いいとも~くらいのテンションだったが、アフターフォーリンラブである。照れる。ジュリエッタ様、本当に俺に…申し込んでくれる感じ…?
しかし顔が見られる男子を見つけたのが初めてで、跡継ぎの座を逃したくないから焦って決めちゃおうとしてるんじゃないかな…とも思う。
「何を今更照れているのよ…気持ち悪いわね」
婚活中の姉上がケッ、と言いそうな顔で吐き捨てる。ティーグ様の前ぞ、猫被れ猫。
「結果的に今回ジュリエッタ嬢を巻き込んでしまった。怪我はないとはいえ公爵家も黙っていまい。うちも警戒するし、もう下手な真似はしてこないだろう、安心しなさい」
そうだといいが。
ジュリエッタ様が強かったから良かったものの、一歩間違えたら彼女もただでは済まなかった。いや、あの暴漢はもしかしたらジュリエッタ様には手を出さなかったのかもしれないけど……。
※※※
そして翌日、学院に寄付したピアノを演奏した。
結果は大成功だったと思う。何人も購入希望を申し入れてくれたし高いから親に相談するけど買いたいと言ってくれる子もいた。
スプラン先生なんか目をギラギラさせてツカツカと近寄ってきて、
「貴方、演奏技術は本物ね…何故、…」とまで言って顔を逸らした。『何故楽器の開発者だなんて嘘を吐くのか』と言いそうになったのだろう。腕の良い奏者とは認めてくれたらしい。はっきり問い詰めてこないので何とも返せないが、どうすれば信じてくれるんだろうな……
いつも俺の演奏を周りに褒めて伝えてくれているアジェント男爵令嬢・ムツアン子爵令嬢・リリーナの三人組が「楽譜を購入させて頂きたいわ!なんて素晴らしい曲なのでしょう!」と率先して言ってくれた。ちょっとサクラみたいだな…と思いながらもいつも御贔屓にありがとう~~~と取引した。リリーナは実際俺を応援する気持ちで買ってくれていると思う。三人に続くように人が寄ってきた。
アルフレド様達も聴きに来てくれて褒めてくれた。
「見事だった、流石だな」
大天使に褒められた、健康になった気がする。
「まぁ、演奏に関してはケチのつけようがない」
ハイライン様の貴重なデレだ~~~。へへ。
ペルーシュ様は無表情を和らげてうんうんと頷いていた。クールな美少年の微笑みを目にした周りの令嬢が頬を染めて少し動揺している。
「すごい…すごかったよ!天才!」
真っ直ぐ褒めてくれるリーベルト、本当にいつも感謝してるよ。ありがてぇ。
少し周りを見回したが、ジュリエッタ様はいなかった。見てほしかったような、そう思っていることが気恥ずかしいような……
ジュリエッタ様をさがす途中、何人かと目が合う。ピアノや楽譜を購入したい人はそこで何か言ってくる。何も言わない人には目礼を返す。
近くに購入を決めた人はもういないな、と空気で判断したら「そろそろ行きましょうか」とアルフレド様達に声をかけて音楽室を出た。
「おい、ランマーリ伯爵令嬢がいらっしゃったぞ?!貴様もしや手を出したのか?!」
また濡れ衣を着せられている~。おお、今まで令嬢に対して気がある素振りをしたところを見たことはなかったがハイライン様も美人に反応するのか。
「アナスタシア殿下に匹敵するお美しさですね…一瞬息が止まってしまいました…」
リーベルトは赤面して少し汗までかいている。
「大きな声では言えないが王女殿下よりもお綺麗だろう、あれは」
「…そ、そうかもしれませんね…でも私は王女殿下の方が可憐で素敵だと…」
綺麗系と可愛い系で好みが別れるのかな?ハイライン様とリーベルトがひそひそと話す。こう聞くと王女殿下の瞳の色は金ではないようだ。
「どうなんだアマデウス?」
「へ?ああ、あの方…。新しい楽器に興味がおありだっただけでしょう」
ランマーリ伯爵令嬢エイリーン様は、社交界に出れば国一番と謳われること間違いなしと言われている美少女である。らしい。
俺にはそこまで他の美少女と格差があるようには見えないが、ホワイトブロンドに黄みの強い輝く金の瞳は美の証。突然呼び出されてさらりと『私を口説くなよ』と言われた時には
――—――――――じっ、自意識過剰―――ッ………!!!!!
と思ってしまったが、周りの反応からして正当な自己評価のようだ。すんませんでした。
アルフレド様と良い勝負の美の化身らしい。しかし成長するにつれ高飛車度が減り高貴さが増した(※俺の感想です)アルフレド様よりも、プライドが高そうだ。あまりお近づきになりたいタイプではない。プライド高々キャラはハイライン様で間に合っている。
「いやそうではなく、貴様はどちらがお綺麗だと思う?!」
「…は?王女殿下と、エイリーン様が、ですか?」
「そうだ、ランマーリ伯爵令嬢だよな?」
「王女殿下の方が守って差し上げたくなるでしょう?」
リーベルトとハイライン様、出会った当初は一方は恐々、一方は見下し気味で少し心配していたがすっかり仲良くなったなぁ。いいことだ。
このアイドルグループの中で誰が一番可愛いと思う~?この子だろ!いや絶対こっちだろ?!という思春期のやり取りじゃん。どこの世界でも普遍の話題なんだなぁ。
「順位付けすべきものとは思いませんよ」
なんて、大人ぶった言葉で逃げる。
王女殿下のお顔ちゃんと見たことないし。王女殿下は一つ年下なのでまだ入学していない。絶賛俺の中で今一番可愛いのはジュリエッタ様ですし…。これはマジで理解してもらえないんだろうなぁ…
この仲良しグループだけにはジュリエッタ様への恋を打ち明けようかどうか迷っている。打ち明けたら協力してくれるだろうけど、まだちょっと気恥ずかしさが勝る……
「はは、やられたな。確かに婦女子を順位付けなど、紳士はするものではない。アマデウスを見習え、二人とも」
アルフレド様が鷹揚に笑った。ペルーシュ様はうんうん頷いて俺を見てくる。二人が気まずそうな顔をした。
ごめん、どっちが上とかわかんないからカッコつけただけです…。




