選択肢
……ど~~すっかな~~~~~~~……!
ジュリ様に相談するにしても自分なりに考えまとめないと……一回直接ルーヒルに会いに行こうかな……大司祭様が心配してるって伝えるだけでも多少は手を緩めてくれるだろう。多分。緩めてくれ。
廊下を歩きながら頭をがしがし掻いてる俺をルシエルが神妙な顔で見ていた。
「……ルシエル、急に役割を投げてしまってすみませんでした。教会と話し合うためにまた来てもらうことになると思います。……爵位に養子も取って忙しいのに申し訳ない」
人を操る刺繍魔法の手がかりを俺に知らせた褒美に、ファルマには褒賞金、ルシエルは旧コレリック領の端の方の土地と男爵の位が与えられた。そんなに広くはないが元々コレリック領自体が栄えている場所なのでこれまでの経営をそのまま引き継ぐだけで悪くない収入になる。王家が遣わした代官が管理しており、これからは実家のカミルーレという名前を少し変えてカミルーア男爵と名乗る。
ルシエルが養子にしたココは図らずも男爵令嬢になったわけで貴族学院に通うことが出来るが、十三までに貴族令嬢としての教育が間に合うかわからないため考え中、とのこと。
「いえ、シレンツィオ公の御返事待ちでまだ仕事はしておりませんし、領地の管理もほぼ代官がしてくれているので、今はそれほどでも。アマデウス様こそご無理はなさいませんよう。……教会の都合に忖度する必要も分を弁えない平民を救う必要も本来ならございませんのに……お人好しでいらっしゃいます」
「え……すみません……?」
「褒めています」
そうなのか。真顔だから怒られてるのかと思った。シャムスの弟子っぽいといえばぽい。
「お人好し、はルシエルに言われてもって感じですけど」
「う……そうかもしれませんね……」
コレリック家にはルシエルの他にも二人治癒師がいたが、下男下女の治療をほんの少ししか行わずに奴隷売買に関しても口を噤んでいた。彼ら全ての怪我にしっかり治療を施したら自分の魔力も頻繁に尽きてしまうし、恐ろしい雇い主に逆らうことが出来なかったという状況から、強くは責められない。
そんな中でルシエルだけが必死に治癒を続けた。おかげで彼女がいた間は死者が出なかった。
コレリック家の地下を王家が調べ、壁を壊し、沢山の人骨が発掘され。それらの骨は旧コレリック領の一番大きな墓地の目立つ場所に葬られ、石碑が建てられた。
代わる代わる沢山の人が供えに来て花が絶えないためさながら小さな花畑のようだ、と新聞に書かれていた。
案内された中央神殿の奥、治験者が泊めてもらう部屋は男女で分かれていて、ノトスに挨拶するために男部屋の方に入る。するとそこには座ってノトスと話してる少女がいた。
「ココ! どうしてこちらに……まだ寝ていないとダメよ」
「あっ、ルシエル様、ごめんなさい……ちょっとだけノトスと話したくて、久しぶりだから……」
ココという少女は少しくすんだピンクのセミロングで目がくりっとした可愛らしい子だ。本日教会前で集合した時に名乗り合いは済んでいる。申し訳なさそうな顔をしつつもテヘ、という感じで無邪気に笑う。ルシエルは仕方ないなあというように溜息を吐いた。
「! アマデウス様……」
「ああ、そのままでいいから。悪いね、休んでた所に。ココ、気分はどうです? もう平気?」
体を起こそうとしたベッドの少年達に呼びかけてから少しかがんで少女に話しかけると、学校で気をつけ! と言われた時みたいにぴんと姿勢を正す。微笑ましい。
「は、はい! ほんのちょっと熱があるけどもうほとんど大丈夫です!」
「そう、良かった」
「あ、あのう……あ、いや、やっぱり……うーん……」
俄かにもじもじし始めた。元気そうではあるが確かにちょっと顔が赤い。さっさと休ませた方が良さそう。
「うん? いいよ、聞きたいことがあるなら何でもどうぞ」
「……貴族学院に通って立派になったら、私でもアマデウス様のお嫁さんになれますか!?」
「へッ!?」
「あ、婚約者様がいるのはわかってます! 二番目でも三番目でも四番目でも五番目でもいいんですけど……」
「わァ――――――――ッ!?!?」
ルシエルが叫びながら慌ててココの口を塞いだ。
「ぁあああ申し訳ありません以前ココがアマデウス様とっても素敵だからお嫁さんになれないかなぁなんて言ってて私がココが大きくなって立派な淑女になったら五番目の奥様くらいにはなれるかもしれないわねなんて似合わない冗談を言ったものだから本気にしてしまったみたいで大変申し訳ありません聞かなかったことにしてください!!!」
「い、いいですよそこまで謝らなくても……悪口でもないんだし」
「ジュリエッタ様にはどうか内密に……!!!」
「ジュリ様も子供にそんなムキになりませんよ、大丈夫大丈夫!!」
悲壮な顔でココを抱き締めるルシエル。案外信用無いのかな俺達。
下男下女達は地下室脱出後に俺の良い噂ばかり耳に入れてた可能性があるし、今回の案を通して彼らをタダで治療する流れを作ったのは俺だから、彼らからの好感度はすこぶる高い状態と思われる。その感謝の気持ちとか貴公子への憧れとか、まあ色々好かれる要素はあったのだろう。
つーか『数年後には四、五人妻を持っててもおかしくない』とルシエルに思われていたことが(冗談とはいえそう思わせる要素があったということだろうし)地味にショックなんだけど……。
「あー……ココ。私は、運命の人だと思える好きな人に出逢って婚約したから、その人以外と結婚する気はないんだ。ごめん」
「そうですか……わかりました……」
ココはがっかりと肩を落とした。子供に悲しそうな顔をされると申し訳なさがすごい。
「まあ、まあまあ! 私くらい良い男なんて世の中に沢山いるからね!! ……君はこれから色んな人に会えるんだから。変な人や悪い人も中にはいるかもしれないけど……素敵な人と、きっと沢山出逢えるよ」
ここにいる全員に、未来に希望を持っていてほしいな、という気持ちを込めてそう告げる。
ココは涙ぐんだ目をこちらに向け、「……はい!」と良い返事をして微笑んだ。良い子だ。美人になりそうだしルシエルはするからにはきっちり教育しそうだし、富裕層の子息と良い縁談はあるんではないだろうか……なんて、まだ気が早いか。
――――――――猛勉強して貴族学院に無事入学したココはなかなか波乱に満ちた青春を送り、ルシエル伝手に話を聞く度に「それで……どうなったの!?」と続きを催促することになったり、ココが「理想の男性? アマデウス様♥️」と言ったことで学生達の恋愛模様に知らないうちにちょっと巻き込まれていて驚いたりするのは、もう少し先の話。
※※※
「ああああああああぁ~~~……!! うぅん、本っっ当に、素敵でしたぁっ……♥️ マリア様のいらっしゃるこの時代に生まれたことを神に感謝……我が人生に悔いなしっ……♥️」
「ロールベル様、まだこれからですよ、人生は。ちゃんと私を見ていてください」
「ひぃぁっっっ……心臓が……幸せ過ぎて死ぬ……」
王都、ダフネー・ルバート法務大臣の邸宅にて。
お客はダフネー大臣の夫君と息子夫婦、ストレピオ伯爵夫妻、ロールベル様、邸宅の使用人達のみ。軽く摘まめるものと果実酒を時折嗜みながらリラックスして観ていた。ディナーショーみたいな感じだ。お昼時だけど。
踊り子や楽器隊は連れず楽器は歌い手以外が務め、俺の楽師だけで完結する。音数が減って一つ一つの音の粒が際立つが、練習の時と感覚が近いからか皆のびのびと歌えていた。
以前それっぽいなと思ったピンク三つ編みイケメン近衛がダフネー様の息子さん、オーガス様で合ってたらしい。オーガス様の奥様もマリアのファンらしくうっとりしながら握手している。
一人だけ全然リラックスせずずっと真剣に観ていたロールベル様がサービス精神旺盛なマリアにファンサされて倒れそうになっていた。ダフネー様はそんな姪に呆れながら後ろから支える。
「この子ったら……もう大人なのだから、ほら、しっかりなさい。心底楽しめる趣味があるのはいいことだけれど入れ込み過ぎるのも考えものね……こんな調子だからかなかなか婚約が決まらなくて」
「今日はそんな話はやめて頂戴伯母様ったら! 単純に忙しくて後回しにしているだけでマリア様は関係ありません~~!」
ロールベル様は卒業してから法務省の役人として働いている。ダフネー様のコネ就職。コネで就職はこの国では普通のことで、明らかに実力が足りていないとかでなければ全然問題はない。
学生時代からちらほら縁談はあったが跡継ぎでもないので急ぐことはないと言い訳し趣味にかまけて後回しにしていた。コレリック家の事件による政局の変化もあったので結果的に決めてなくて良かったかも、というのはあるようだが、選択肢が狭まったからそろそろ真剣に相手を探しなさいと親に詰められているようだ。
ライブが終わった後俺達にもどうぞと軽食とお菓子が運ばれてきて、歓談に入る。平民楽師勢のフォローなどは貴族楽師勢の皆にお任せし、俺はダフネー大臣に自白薬使用条件緩和の進捗を聞いた後、『全民裁判義務法令』について相談させてもらう。
「……なるほど。確かにその法令は国全体の秩序を保つのに有効でしょう。民はコレリック領の行進を経て数で圧倒するということを知ってしまったし、チラシ……最近は新聞という言い方が主流ですね、それらの貴族批判を受けて平民にあからさまに偉ぶっていた貴族達はピリピリしていますから。誰が発案者として役人の怨嗟を引き受けるかの問題ですか……」
「個人的に以前『何かあれば力になる』とお言葉をいただいたネーヴェ第二妃殿下にお願いできないかなと少し思ったんですが……」
「何かあれば力になると第二妃殿下からお言葉を?!」
バッと俺を見て目を丸くするダフネー様。予想より驚かれた。
「あーその、ネレウス様と友人なのでちょっとお会いする機会があり……」
「そんなお言葉を引き出すことが出来るなんてよほど気に入られたのでしょう……やはり油断ならない御方ですわね貴方様は」
確かに妃の地位にある方がそんなこと軽々しくは言えないよな。実際全然軽々しくない。息子の命の恩人へ敬意を示してくれた結果だ。
「しかし今まで法案を出したことなどなかった第二妃殿下から急にそんなのが出てくるのは、やはり背後に聖女がいると思われてしまいますかね?」
「教会とお付き合いが長い方ですからね……しかし聖女様と親しいという情報はありませんし、王妃殿下のお立場を慮って権力からは距離を置いていらっしゃる御方ですから……ふむ……第二妃殿下にご協力いただけるのであれば、民からの支持を得られる法令ではありますから、提案者の役目を引き受ける貴族はいそうですわね」
提案者が教会に相談した結果、第二妃殿下の耳に入り後押しを頂いた……という形にすれば表立って文句をつける者はそんなにいないだろうとのこと。民からの支持を得たい家ってつまり……。
「……平民からの悪印象を何とかしたい家、とかですか?」
「ええ。旧パシエンテ派貴族が狙い目ですわ」
俺関連で大きく評判を落とした、四つの貴族家。
コレリック侯爵家、ジャルージ辺境伯家、べイヤート伯爵家、シプレス子爵家。
他に逮捕者が出た家も少なからずあるが主なのはこの四つだ。コレリック家はもう無いので、三択。
「その三択なら――――――……」
評価、感想などありがとうございます。
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