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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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火種


 

 治験者達には休んでもらい、これからの話。

 秘書的な役割を負っているらしいトルペさんがジョアンナ様に代わって進行する。


「手紙でも申し上げましたが、この魔法は"聖女用治癒魔法"ではなく新たに生み出された"傷跡を消す魔法"として公表致します」


 教会がこの魔法を使うにあたり、傷痕を消したい、指定した寄付金を支払える人の要望に応えて、中央教会から地方へ一流の治癒師を派遣する形になる。

 呪文や呪文を使える人がバレるリスクや、そしてまあまあの対価を取るとはいえ聖女の魔法を金を出せば受けられるとなってしまうと、聖女という存在の権威・神聖性を損なう可能性がある。

 それは教会にとっても王家にとっても望ましくないので、ネレウス様とジョアンナ様の話し合いの結果、違う魔法として広めることにした。それは事前に手紙で説明されて納得している。治験者の下男下女達にも新しい魔法の治験と説明して集まってもらった。


「はい、承知しています」

「そこで……誰がこの魔法を開発したことにするか、というお話ですが。アマデウス様にお引き受けいただけないかと……」

「え? 私ですか? それは……不自然でしょう。教会が独占する呪文ですし。私は大したことはしていないし……」

「しかしアマデウス様がお考えになって提案されたものですし……」

「……アマデウス様はご自分がすごいことを考えたということがおわかりでないようだね!! これは驚くべき発見なんですよ!! 聖女用治癒魔法にこんな使い方があるだなんて今まで誰も思わなかったし試さなかった!! すごいんですよ!!!」

「あっハイ、すみません」

「謝ることじゃない!! 誇ること!!!」

「ああ、えっと、はい」


 ジョアンナ様は怒ったような顔で声がでかいのでつい怒られてるような気になってしまうが、褒められているらしい。なまじ信仰心が強いと聖なる魔法の他の使い道を探ろうなんて気にはならないってのはあるのかもなぁ。


「……聖女用治癒魔法は神から賜った、厄災の中の生命を救うための力……魔力の消費が激しいこともあり、傷跡に使うという発想はありませんでした。教会内ではこの治験に対して反対する声もありました。神聖な魔法を、傷を消すなどという命に関わらない些末なことに使うべきではない、と。ネレウス殿下のお声がけでなければ決して実現しなかったでしょう。……私も正直、神の意に反するのではないかと、少し迷いがありました」


 トルペさんはそう言って眉を下げた。神の愛し子とか言われといてそこまで信心深くない俺にはいまいちピンとこないが、これまでの慣習と異なる行いは敬虔な人にとって畏れがあるのだろう。


「しかし本日の治験者達の様子を見て、決して道に逸れた行いではないと確信致しました。機会と気付きを与えてくださり、アマデウス様に感謝しております」

「それはこちらこそ……快くご協力いただいて有難かったですとも」


 キラキラした純粋な目で見られると少し居心地が悪い。俺はそんなに深く考えてなかったんだよな……。


「――――つきましては、"傷跡を消す魔法"をアマデウス様発案のものとし、得た寄付金の一部を謝礼としてアマデウス様にお納めしようと考えております」

「……ぇええ? いやいやそんな…………もしかして、何か私に頼みたいことでもおありです?」


 奇妙な申し出である。何かあるのかと率直に聞いた。

 トルペさんは困ったような顔をしてスッと灰色の紙を俺に差し出す。


「昨日発行されたばかりの『フェデレイ新誌』です」

「……これは……また大胆なことをしてますね、ルーヒルは」

 ざっと目を通しただけでも口元が引き攣った。


『"青髭"はどこにでもいる!? 理不尽な死の歴史』という見出し。

 そこには数十年前のことからほんの数年前のことまで、使用人が些細な失敗や主人の癇癪によって貴族に死刑にされた事例を紹介していた。全部匿名にはしてあるが当事者の目に触れたら厄介なことになりそう……。フェデレイ新誌はこの間の騒動でかなり有名になったし、ルーヒルは覚悟の上でやってそうだが。

 下の方に印刷された絵は画家が描いた絵画の模写らしい。メオリーネ嬢の首を掲げるペティロ卿の絵だ。『花首』とタイトルがついている。この絵については噂を聞いたことがある。年嵩の無名の画家だったがこの絵で評価がかなり上がったとか。


「フェデレイ新誌のルーヒル一派は、コレリック家の事件をこのまま収束させたくないのです。チラシで"怒れ"と呼びかけ続けています。平民達の意識を変えたいのでしょう。連帯し、これからは虐げられることを当然として受け止めないようにと……」

「……意識が変わる前にルーヒルの命が終わってしまいそうですが」

「はい。そして記者ルーヒルだけでは終わらないでしょう。我々でも守り切れません」


 ルーヒルが殺されたとして、一派は大人しくなるか? 否。覚悟が決まってる集団には逆効果だ、過激化する未来しか見えない。

 あの行進で大きく燃え上がった炎は遠目には収まったように見えるが、まだまだ燻っていた。


「彼らを守りたいとお考えで……?」

「ジョアンナ様は、争いが起きれば割を食うことになる全ての弱き者達のために穏便に収めたいと考えています。そこで、こちらを王家に奏上したいのですが……」


『全民裁判義務法令』と書かれた書類を渡される。

 ざっくりいうと身分に関わらず誰もが裁判を受けないと監獄送りや死刑には出来ない、と定めるもの。


 なるほど、これが制定されればルーヒル達の活動が実った形に見えるし、上から理不尽に罪を被せられる恐れが全くないとは言えない下級貴族にとっても悪い話ではないんじゃないだろうか。


「……うん、良いお考えだと思います! コレリック家の不祥事の後、平民から貴族に向けられた反感を今まで通りには往なせない空気がありますし……ルーヒル達の溜飲を下げるのにも有効でしょう」


 目を通して顔を上げて笑うとトルペさんは拍子抜けしたような顔をした。


「賛同いただけるので……? 貴族にとって利益もなく、手続きが煩雑になり負担が増えるだけのものかと存じますが……」

「ええ。どうせいずれはそうなると思いますしね。早いか遅いかの違いしかないでしょう」

 

 重すぎる刑になったり冤罪に苦しむ人を減らせるのならこういうのは早い方が良い。いいね! と表明したのにジョアンナ様は眉間の皺を深くした。


「……ネレウス殿下から聞いてはいたけどアマデウス様はやっぱり普通じゃないね!! 変ですわ!!」

「えっ」

「貴族は貴族の特権がなくなるような、平民が貴族と同じ扱いに近付くような変更は渋るものだ!! いずれはそうなる?! なんで当然の如くそう思ってるんだい!? おかしいよ!!!」

「す、すみません」

「謝るようなことじゃないけども!! 普通じゃないってことはわかっておいた方がいいですよ!!」


「どうせいずれはそうなる」は失言だったか。

 21世紀の日本人からすると誰もが裁判できるのなんて当たり前だしと思ってしまったが、この世界も当たり前にいつかはそうなる……と思っててはいけないかも。

 地球にだって貴族階級が残ってる国や日本とは法律が全く異なる国があったのだし、向こうの歴史の結果と同じ結果を享受できるとは限らないか。

 俺がたまたま良い時代にその結果の恩恵を受けていただけで、突然ポップしてきたものではない。そこに生きた人達が勝ち取ってきたものだ。当然のものと思ってちゃだめだな。反省。


 少し戸惑いながらトルペさんが引き継いだ。

「ええと、こちらこそすみません、良い顔はされないものとばかり思っていたので私もジョアンナ様も驚いてしまったのですが……つまり我々が頼みたいのは、こちらの奏上をアマデウス様にお願いしたいということです」

「これも私が!? 何故……!?」

「教会からではなく貴族からの発案であった方が、貴族へ反感を持つ民にとって意義があります」

「ああ……それは、わかりますが」

「そして、この奏上は今出すのが最善ですが教会にとっては時期が良くない。ペティロ司祭の残した貴族との軋轢をこれ以上悪化させたくはないのです」



 あ、ああ~~~~~~~……。

 現在、貴族へ抗議行動を行った民への協力やメオリーネ嬢の処刑強行などで、貴族から教会への不信感がかなり募っている状態と言える。その上こんな、貴族からすれば何の得もない面倒が増えるだけの法を定めろと主張してきたらますます心象は悪くなるか……。


 教会という組織は、平民の世帯数を把握したり病人や貧民の世話をしたり、貴族を敬うよう平民に言い聞かせたりお披露目などの冠婚葬祭の儀式を運営したりと、領主とて蔑ろには出来ない役目を担っている。

 教会とて領主からの補助金や貴族からの寄付金は大事な収入源。弱い民の味方としてありたいのも本音だろうが、貴族と揉めたくはないのも本音。

 ペティロ卿は特定の貴族への怨念と信念を持って反旗を翻したしコレリック家の罪深さは周知されたが、貴族全体から教会全体への警戒心が芽生えてしまったのは否めない。


「我々はティロ坊を支持したし私自身は間違ったことをしたとは思っておりません!! しかし正しかったかと問われればそうとは決して言えないし乱暴なやり方だったとは思っている!! 貴族から教会への信用を取り戻すために暫くは大人しくするべきだが、民の血が流れそうなのを黙って見過ごすのは辛い!! お願いできませんか!!」


 ルーヒル一派と貴族の間で決定的な事件が起きてしまう前に何とかしたい気持ちはわかる。協力することに否やはないんだが……。


「こちら、ネレウス様もご存じですよね? 王家から出していただければ施行も早そうですが……」

「それもお願いしてみましたが、難しいと。ネレウス殿下や王太子殿下からこの法令が出てくると、聖女様の発案だと周囲は思うでしょう。只でさえ平民や教会寄りのお方ですから、今ある貴族の支持を減らしそうなことに着手するには時期尚早とのお考えです」

「ああ、確かにそれはそうかも……」


 そう言われてみると俺が発案者になるのもシレンツィオ派にとってあんまよくないんだよなぁ。法案自体はイイネと思ったが発案者として提出するとなると話は変わってくる。

 旧パシエンテ派からの恨みも向けられそうな昨今、他の貴族達から(仕事を増やすんじゃねえよ!)というヘイトまで買ってしまうのは……地味に嫌だな……! 派閥の皆にもちょっと申し訳ないし……。


 そう、地味に。ちょっと。すごくダメというわけではない。微妙なラインだ……。

 教会としては他に頼れそうな貴族が思い当たらず、"傷跡を消す魔法"の利益を報酬にこの頼みを聞いてほしかったってことのようだが。



「……すみませんが"傷跡を消す魔法"の開発者を名乗るのはお断りしたいです。そうだ、そのお役目はルシエルにお任せできません?」

「……はい?! わ、私ですか?」

「私よりも説得力があるでしょう。数年に渡ってコレリック家の下男下女を治療し助けてきた治癒師ですから。痛々しい傷が残る彼らのためにひっそり研究していた、ということにすれば」

「確かに!!!」

 ジョアンナ様の力強い肯定、助かる。

「研究する余裕はなかったですが……それに私は聖女用治癒呪文を存じ上げませんし……使うと魔力が枯渇する恐れもあります」

「私が開発したのに呪文は教会の治癒師しか使えないとなると、私が教会と癒着しているようにも見えかねないし……一流でないと扱いが難しい呪文だからルシエルが教会に管理を委託した、ということにしてもらえた方が私も助かるんですが。教会との契約で呪文を外では使えないということにすればルシエル自身が使う必要はないでしょう」

「……なるほど…………わかりました。シレンツィオ派には恩がございますし、お引き受けしようと思います」


 悩ましい顔をしつつもルシエルは頷いてくれた。


「しかしそうなりますと、我々がアマデウス様に提供できる益が、他には……」

「……『裁判法令』の方はひとまず預からせてください。丁度、近々ルバート法務大臣にお会いする機会があるので相談させていただこうと思います。私とノトスもルーヒル達印刷工房には世話になりましたから……報酬などなくても協力しますよ」


 数日後、以前約束したロールベル様ギャラ持ちのプライベートライブに行く予定なのだ。ナイスタイミングと言って良いのかどうなのか。


「法務大臣閣下とご交流が……。それならば、一度お預け致します。よしなにお願い申し上げます」

「お願い致します!!!」


 聖職者二人の深いお辞儀を受けて、礼を返してルシエルと退出する。

 被験者と付き添いとして泊まるノトスに挨拶してから帰ろう。


 一つ憂いが解決したかなと思ったら、思いがけず新たな課題を持ち帰ることになってしまった……。





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― 新着の感想 ―
初めてコメントしますが、いつも楽しく読ませて頂いてます~!なろうで今一番好きな作品です…!何しろ主人公くんが嫌味なく明るいところがいいー!ジュリさまとのイチャイチャも萌える(笑)今後の展開も楽しみにし…
お待ちしておりました!話を振られたルシエルはさぞ「??!!」としただろうなあ…と思いつつ後世の魔法研究本に彼女の名前が載っちゃいそうだなと妄想しました。 アマデウス様、普通の益で動かないことがじわじ…
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