人は金、ピアノは黒
「フォルト親方、工房の皆さん、本当にありがとうございました」
「資金もしっかり頂いたし、俺達は仕事をしたまででさぁ。作ってる時から思ってたがこいつぁ良い楽器だ…表現力が豊かだ。聴き応えがある」
「うーん、でも売るのは難しいかな…」
ピアノは現代日本でも高級品だ。いわんやこの国をや(合ってるかわからない反語表現)。
しかも今回作ったのは幅を取るグランドピアノ。家庭にも置けるアップライトピアノと違ってとてもでかくて重い、コンサート用である。小型化もお願いするつもりだが、グランドピアノの方が連打がきくみたいなんだよな…
「いとし子が貴族学院で弾けば、必ず売れます」
ラナドが真剣な顔で言う。涙は止まったようで良かった。何か俺をいとし子って呼び出したよこの人。
「そう思う?」
「ええ。学院の芸術棟に一台寄付して、大勢の前で弾くべきです」
「寄付か…まぁ。学院でアピールするにはそうした方がいいよな」
貴族であるラナドがそういうならイケるかもしれない。練習しなきゃな。ピアノ用の楽譜も作らなきゃだ。
やることをリスト化しなきゃ~~~と考えていたら、フォルトが「そうだ、」と俺を見た。
「アマデウス坊ちゃん、塗装はどうしやす?茶色が自然かねと思ってるんだが」
ああ、そういやまだ木目が丸出しだ。
「黒かなぁ」
ピアノが黒、というイメージは日本が湿気対策に漆塗りを始めたからだと本で読んだな。当初外国だと別に黒ではなかったらしい。日本人の俺としてはやっぱ黒だろう、と、思ったのだが。
「く、くろ?」
「ご冗談でしょう坊ちゃん」
「デウス様、黒はちょっと」
ラナドもフォルトもロージーも微妙な顔して駄目出ししてきて驚いた。
「え…黒じゃダメなの?」
「不吉ですよ」
不吉…?黒猫が横切ると不吉みたいな話?こっちの世界ネコチャンいないけど。
「アマデウス様、神話を学ばれたでしょう?」
「?はい…」
「光の神と闇の神が地上の支配権を争って闘い、闇の神は『黒い箱』を用いてあらゆる災いを世界に撒いた。全ての穢れは闇…黒から生まれる。だから不吉なのです。死の国の色、喪服の色ですし。髪や瞳に黒が出た者は災いを持つと言われ、好かれないでしょう?」
でしょう、と言われても。
し、知らん!!!!!そうなの???!!!???
いや神話は知ってる、習った。確かにそういう話があったけど。パンドラの箱みたいなやつ~と思ってた。
え、じゃあ髪が黒いジュリエッタ様って…もしかして顔だけじゃなく髪までやばいの…?
日本人的には黒髪の方が親しみ深いんだけど。
でも神話なんて大昔の話、っていうか伝説というか迷信みたいなものじゃ……でも迷信、迷信か。
現代にもあった。霊柩車が通ったら親指を隠すとか北枕は良くないだとか、縁起とか厄年とか。
科学的な根拠はないとわかっていても大抵の人は気にするものだった。
冠婚葬祭では知っていないとマナー違反にもなりかねないものもある。宗教意識が薄めらしい日本人でもそうなのだから、いわんやこの国をや…ってコト…?!
この国は光の神を最高神とした神話があり、初代国王は光の神の子孫ということになっている。
神話は町の教会などでも司祭がよく語るもので、本が流通していない平民もざっくりとは知っているものだという。
光の神と敵対する闇の神のイメージカラーが黒い箱の黒、ということは…
確か、光の神は黒い箱から出た災いを、金の雨を降らせて潰した…という話だったはず。
――――――――――……もしかして。
「……気にしたことなかったけど…逆に一番美しいと言われるのって金色だったりする?」
「当然です!金は光の神の色ですから。え、アマデウス様、そう思われないので…?」
「えっと…どの色が一番綺麗だとか、考えたこと無いな…」
「神のいとし子はやはり少々考え方が常人とは異なるのですねぇ」
―――――謎が………すべ いや全てではない、全然全てじゃないが、謎が、一つ解けた!!!!!!!!
同世代ではアルフレド様が特段美麗な貴公子として有名だった。
わかる、アルフレド様が大天使美少年なのはわかるんだけど。睫毛なっがいし。
でもなんだかんだで他の男子も皆美少年なのに、どこで差がついているのかわからなかったのだ。
金髪……!!!!!金の瞳!!!!!
プラチナブロンドに少し黄みの強いゴールドの瞳。
言われてみれば髪も目もどっちも金色の人は今までアルフレド様しか見たことがない!!!!
黒に近い焦げ茶くらいの髪ならいたけど、漆黒ともいえる黒髪の人はジュリエッタ様しか見たことない!!
目が黒の人はカリーナ嬢くらいか?!
喪服の色…喪服は黒なのか。
…い、言われてみれば、今までで黒い服を着てる人を見たことがない…!!!
小物や装飾品では黒が使われていることはあるけど、黒がメインカラーになっているものが、なかった。なかったのだ。黒が使われてそうな所も、そういえば濃い灰色や濃い茶色だ。
何で気付かなかったんだろう…――いや気付かん。まだ葬式には出たことないし、この世界妙にカラフルだからカラフルな所にばっか目がいってたし…俺が鈍いだけかもしれんが。
勿論それが全てではないだろうけど、色で美醜が左右されていたとは気付かなかった……。
――――――い、…色くらいで……?!!?
……いや。
考えてみれば地球だって、肌の色で未だに争い事が絶えない世界だ。
黒目黒髪だらけの国で過ごした記憶のある俺が黒髪を悪く思わないのは当然だが、この国にはこの国が積み上げてきた価値観がある。感情では理解できないけど理性ではそういうことなのだとちゃんと心得ておこう。
……ジュリエッタ様が心配になってきた。大きなお世話だろうけど。
俺はむしろ黒髪の方が良いよ、親近感もあるし清楚なイメージもある。よく手入れしてあるのがわかる綺麗な髪だったし…
あ、でも今知れて良かったかもな…。もしジュリエッタ様と良い雰囲気になれたとしても髪に関して何か言うのはアウトな可能性があった訳だ。髪が綺麗だと言ってもタイミングによっては皮肉にとられるかもしれない。
「…ラナドは何色が良いと思う?ピアノ」
「金色であればいとし子がより神々しいでしょうね…!」
金色のピアノ…は、派手だな!目は引けるだろうけど個人的にはちょっと…趣味じゃないな…
「ラナド様、塗料が高くつくのではありませんか?」
ロージーの冷静な一言で却下になった。ラナドはしゅんとしたが助かる。
「……茶色がいいかなぁ。暗めの…でもまぁ、任せます」
「承知しやした!塗れたらこれは伯爵邸に。学院への寄付用の物も大急ぎで作りまさあ!」
アップライトピアノの開発もお願い(丸投げ)して、俺は家路についた。
ピアノが完成した喜びと、世界の真実を一つ知った驚嘆でどっと疲れた日だったな…。と家路で思っていたが。
俺には家に帰ってからもう一つ、衝撃が待っていたのだった。




