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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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祈願


 毒性を高める技術を持った薬師はカーセル伯爵家の繋がりから発見され、逮捕された。

 カーセル家は暗殺を担う影として様々な技術を隠し持っていた。伯爵と第一夫人と長男次男、家来で保身のために人を殺めたとわかった者達は処刑が決まった。事情を知りつつ深く関わっていなかった第二夫人は修道院送り。特殊な技術を持っていて直接人を殺した経験なしと判明した者は厳重に見張られつつ王家の下に就かせることになったそうだ。

 カーセル伯爵家はお取り潰し。領地は一旦王家が没収した。

 

 シルシオン嬢は事情をどれだけ知っているかで量刑が変わるだろう。母親が修道院送りになってしまったわけだが、彼女は依然行方不明のままだった。


 コンスタンツェ嬢とユリウス殿下の婚約祝賀パレードは年明け、雪が解けた後に行われる予定。

 不吉な予言を受けて王家も教会も色々と調べているが、カーセル家よりも先の闇には辿り着いていない。


 不安を残しながらも今俺が出来るのは演奏会を予定通り行うことである。

 コンスタンツェ嬢と王子の婚約を全力で祝い、めでたいことがあったよ~! とお知らせし、お祭りムードを盛り上げる。景気は良いにこしたことはない。国中の商会も慶事に便乗して値引きしたりして集客を狙う、かき入れ時だ。



 演奏会のテーマは『祈りの先にある希望』にした。


 コンスタンツェ嬢が聖女になることを見越して、信心とか神様とかそういう方向の選曲にした。"黒い箱"封印の前に選曲したから、その封印成功祈願も込めていた。

 演奏会にコンスタンツェ嬢が参加できなくなった説明と一緒に彼女が聖女になったことを広めていく。貴族や教会は教養からその権威をわかっているが、直近の活躍ももう何十年も前の話なので平民にとっては聖女という存在が都市伝説みたいな胡乱な話であるため、噂止まりになっている。薬局と一緒に聖女のスゴさも地道に周知していきたい。


 王都・ランマーリ劇場の舞台には、巨大な絵画が下げられている。上部三分の二が空で、下に白っぽい町と山の遠景が描かれている。薄い水色にリアルな雲がかかったスタンダードな空の絵を、魔石のライトで照らして色を変える演出。



 一曲目、ソフィアの新曲、『聖なる輝き』。

 1970年代に栄えたプログレッシブ・ロックのパイオニアとされたロックバンドの曲。俺が生まれるよりずっと前の曲だが父がこのバンドを好きだったのでよく聴いていた。人気を博したドラマ『西遊記』続編のエンディングテーマだったようだが、もう二曲ある西遊記の曲の方が有名。有名な方の曲には西遊記の曲だけあって仏教っぽさが強いがこっちはキリスト教っぽさがあると思う。メンバーに牧師になった人もいるしそういうエッセンスはおそらく入っている。

 白と柔らかな黄色のライトで照らされた舞台上、清らかな星の光を明るく歌い上げる一曲で会場を温めて、次。



 二番手にノトスの担当曲、『修道女』。

 ヒット曲を多数持つ二人組ロックバンドのメジャーデビュー五周年記念シングル。

 デビュー当初は三人組だったが一人が脱退し、二人になってから初めてのシングル。喪失感を抱えながらも緩やかな再起と仄かな希望を感じさせる歌詞が民族音楽風の調べに乗って奏でられる。

 深い青のライトは薄暗い時間帯の海をイメージしている。明るすぎない方がノトスも緊張しないかなという目論見もある。



 三番手、ロージーとマリアのデュエット曲、『ヴィーラ』。

 男性アイドルデュオのヒット曲。サビでタイトルと同じ女神の名を連呼するので、それっぽい神様の名前を頑張って探した。ヴィーラとはシデラス国の言葉で「美の神」。学院の図書館の外国語辞書で神様の名前を調べまくって見つけた。

 アッパーなラテンテイストで手を大きく使う振付が特徴的。振りはざっくりとしか覚えていなかったのでこういう感じ、とシイア夫人にイメージだけ伝えて振付を作ってもらった。バックダンサーも多め。


 これはもう祈りとか神聖さとかは度外視して『神』が入っている盛り上げ曲として選んだ。

 演奏会のセットリスト自体があんまり教会の聖歌っぽくなるのも説教臭いと捉えられる可能性があるので、色気のある曲も入れておきたかったのだ。ソロだけではなくユニットを試してみたかったというのもある。


 マリアとロージーはなかなか息の合ったユニゾンを見せてくれた。

 ロージーが珍しく自信なさげに「この曲は私もこう……マリアみたいに歌った方がいいでしょうか……?」と迷っていたが、そのままが良いよ! と言っておいた。

 基本的に硬派(愛想を振りまくのが下手ともいう)なロージーとファンサの上手い色男(男装)のマリアとの対比が良いのだ。個性を引き立て合えて、その違いを楽しめるのがユニットの良いところだ。と、俺は思う。リリエとシイア夫人も同意してくれた。この二人と女性陣はこの曲の練習を見て特に盛り上がっていたように見えたので狙い通りにいきそう。

 マリアの出番に一番の盛り上がりを見込んでいるので、ノトスが多少失敗したとしてもここで吹き飛ばす。情熱的な赤とオレンジのライトで盛り上げて、次。



 四番手、俺のターン。俺のピアノ曲は教会に楽譜を進呈した『神よ人の望みの喜びよ』からの『乙女の祈り』。

 楽器隊も加えてなるべく荘厳な仕上がりを目指した。会場全体をもう一段階暗くして上から淡い空色のスポットライト(という感じの魔石)を俺とピアノに下ろす。

 

 

 五番手、スザンナの新曲、『素晴らしき恩寵』。

 讃美歌・アメイジンググレイスである。ジュリ様が聖女と知った時、心を落ち着かせるために楽譜に起こして弾いたやつ。

 作詞者は牧師でかつて奴隷貿易に関わっていたことを改悛した後この歌詞を書いたとされている。悔い改める心と過ちを犯した己にも与えられた神の恵みへの感謝が歌詞に込められている。

 敢えてシンプルな伴奏に迫力のあるスザンナの歌声。子守歌のような母性を含みながら厳かな雰囲気を両立している。

 最初に優しい緑で背景が照らされ、次第に橙に変化。演奏がフェードアウトし、暗転。



 そして歌手全員で『世界に一輪だけの花』を歌って締めくくる。

 この歌は薬局設立計画で"民一人一人を大事にするよ!"という信念をアピールする歌として前に出してるので、テーマとは少し合わないがセットリストに残す。




 改めて歌ってもらう曲を考えた時、『修道女』はノトスに合う歌のように思った。

 ノトス初聴きの際は俺が弾き語りして見せたのだが、彼はぼんやりとしたリアクションだった。ピンと来なかったかな……と少し心配だったが、練習は熱心にしていた。


 テーマを決めた時候補に挙げたが誰に担当してもらうか決められず、またの機会にと断念した曲の一つだった。

 男性(概念)に歌ってもらいたかったが、ロージーとマリアにデュオをやってもらいたい欲が個人的に上回った。どちらかに歌ってもらってもよかったけど一人だけ二曲やるというのも他の歌い手のファンはちょっと思うところがあるかもしれないし、バドルに歌ってもらうことも考えたが「申し訳ありませんが年々体力も落ちているので……演奏に集中したく存じます」と言われて諦めた。元気ではあるのだがお爺ちゃんなので無理はさせられない。

 バランス的に切ない曲も入れたかったので、ノトスが加わることになって俺は嬉々としてこれを持ってきた。


 これまでも新しい男性歌手を追加することは考えないでもなかったが――――スザンナが優勝した後の年ののど自慢大会は、催し自体が有名になったのもあり色んな領からのど自慢の猛者が集まったが、上位入賞者が既に本業の歌手として舞台に立っている人ばかりになってしまった。

 それはそれで盛り上がっていたのだが、ハードルが上がり過ぎて素人の参加が減ってしまうのは俺の本意ではない。ジークとも話し合った結果、プロの参加は拒まないが優勝者は次回からは参加不可ということにさせてもらった。


 他の劇場から引き抜くというのも何かしら揉める可能性がありそうだし、人柄をよく知らないままに新人を入れて今の楽師達の良好な人間関係が崩れることも心配だったので、暫くは新しい歌手の勧誘は見送っていた。

 有名になり過ぎたことからしても新メンバーは慎重に選ばなければと思っていた。安心して仕事が出来る環境のためには人間関係が平和であることは大事だと思うし。

 ノトスを加えることになったのは完全に成り行きだが、彼は今回の公演が一巡する間だけの一時的なゲストと想定している。

 歌の出来と、歌手を続けたいと後々のノトスが言ったとしたら、どうなるかはわからないが……。



 ある日ノトスが遠慮がちに俺に訊いてきた。

「これはアマデウス様が書いた歌なのですか?」

「えっ違うよ。誰かそう言ってた?」

「いえ、バド爺が集めた歌の一つだとは聞いたのですが……私のための歌のような気までしてきて……」

「ああー、稀によくある」

「稀に、よくある……?」

 ノトスが首を傾げる。ちょっと矛盾した言い方になってしまったがこの表現がしっくりくるのだ俺は。

「歌を聴いて"これは自分のためのものだ"と思うのは……きっとこの歌にはノトスの中の感情と似たものが乗ってるんじゃないかな。歌うことって感情を伝える手段の一つだから、全く同じではなくても世界のどこかにノトスと近い気持ちを持った人がいて、この詞を紡いで、それが届いた。深く共感してるんだよ」

「俺と、似た感情……」

「次はノトスが感情を伝える番だね」

 そう言うと彼はぱちくりと目を瞬かせた。それから神妙な顔で何か考えていた。

 

 ノトスは人と話していて笑みを浮かべることも増えたが、勉強や練習の合間にふと思い込むように表情を曇らせる。

 彼の憂いが完全に晴れることはないのだろう。コレリック家の下男下女の仲間が解放されるまで。もしかすると解放されたとしても。彼は悲しみを目の当たりにし過ぎた。

 気持ちが軽くなることを祈っているが、こればかりはどうしようもなかった。



皆さま良いお年を……('ω')ノ

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