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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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聖女候補二人




「私に当たりが強かった人達が大人しくなったように感じます。改めて、ありがとうございます、ジュリエッタ様」

「それは副産物のようなものですから……御礼には及びませんわ。今日は突然お誘いしてごめんなさい、コンスタンツェ様」


決闘の数日後、放課後に茶会室を借りて俺とジュリ様、コンスタンツェ嬢で三者面談した。

コンスタンツェ嬢とは今までゆっくり顔を合わせる機会がなかったので、一度ちゃんと話しておきたいとジュリ様が言ったのだ。後援が決まった時にするべきだったが、演奏会の準備とか根回しとか色々やってるうちにうやむやになってしまっていた。俺はネレウス様と一緒、もしくは歌手の皆と一緒なら彼女とよく顔を合わせているんだけど。

ジュリ様がニフリート先生に勝利した結果。コンスタンツェ嬢が王子妃へ一歩リードと周囲は判断し、『男爵令嬢が正妃はないだろう』と粘り強く思っていた者も考えを改めざるを得なくなった。

まだ学生で令嬢が教官に勝つというのはそれほどの番狂わせで、運――『神がシレンツィオ派に助力した』と思われるのに充分だったということだ。

決闘の結果が神に左右されるという考え方は俺には少々しっくりこないのだが、この国の文化ではそういうものらしい。


「ユリウス様もジュリエッタ様が勝つとは思ってなくて驚いたらしいです。…あ、勿論勝ったらいいなとは思っていたようですが。『ニフリートは近衛に欲しい人材だから、これ以上評判を落としてほしくなかったのに…ままならない男だ』って。『しかし今回の敗北で言動に気を付けるようになるかもしれんな』って言ってました」


そうか、この決闘はニフリート先生にとっては受けないのが正解だったんだな。勝った場合ニネミア嬢を推す派閥にとっては多少利益があった。だが勝っても負けても当人の評判は微妙に落ちる。妹を優先した結果か。いや、性格的に勢いで受けちゃっただけかもしれないけど。負けるとも思ってなかったんだろうし。


「そうでしょうね。デウス様も、実のところわたくしが勝てるとは思ってなかったのでは?」

「勝てないとは思ってませんでしたよ。勝ってほしかったですが……私はジュリ様に怪我がありませんようにって、それだけで」

ジュリ様は少し申し訳なさそうに微笑んだ。

「まあ、決闘の勝敗よりも、勝利の高揚のままにアマデウス様がジュリエッタ様と口付けしたことの方が話題になってますけどね~」

コンスタンツェ嬢が呆れたように笑ってクッキーを摘まんで口に入れた。

「してませんって」

「そっ、そうですわ、あそこでは…してません……」

まあ、あの後馬車の中ではたっぷりしたけども……。

ジュリ様の決闘前後のキリッとした顔と、キスした後のとろんとした顔のギャップがすごく……良かった。うん。


リーベルトが気付いたように、ニフリート先生がジュリ様の顔を見た瞬間から調子がおかしくなったことは騎士見習いには一目瞭然で。

勝利に湧くシレンツィオ派以外の野次馬が、ジュリ様を恐れているのは冷え冷えとした空気でわかった。彼女の顔を手で覆って顔を近付けて、キスしたみたいに見せかけたのは彼らの気を逸らしたかったというのもある。

それに――――流石に、吐くまでされたらジュリ様もショックだったんじゃないかと思って……。

ジュリ様の気も逸らしたかったのだ。

でもそこはそんなに心配なかった模様。先生に顔を近付け過ぎた(威圧し過ぎた)とは後悔したみたいだけど。

抱き締めたのは抱き締めたかっただけ。心配から解放されてテンション上がってたから。


ジュリ様はお茶を飲んで「んん、」と喉を鳴らし仕切り直した。

「コンスタンツェ様……これまで、ニネミア嬢やメオリーネ嬢から何か言われたことはありますか?」

「いえ。基本的に二人とも私と学院内ですれ違ったりしても何も言いません。敢えて私を見ないようにしてるような感じです。無視といえば無視ですけど、絡まれても困るから私は構わないんですが。メオリーネ様の取り巻きから悪口を言われることはあります。『ブス』とか『思い上がるんじゃないわよ』とかすれ違いざまにボソッと……」

「ユリウス殿下の機嫌を損ねるのを恐れて彼女自身は言わないのでしょうね」

「ニネミア様のお友達はそういうことはしません。すごく真面目な感じの人が多いし。視線が冷たいだけで…… あ、でもドロシーが、一度すれ違った後にちらっと振り向いたら物凄い目で見つめられてたって言ってました」

「ニネミア嬢に? ……そうなのですか」

ジュリ様は意外そうにしたが、コンスタンツェ嬢が側妃になった場合の未来を聞いてた俺は驚かない。

謹厳実直クソ真面目と言われている彼女はそういう陰険なことはしなさそうなイメージらしいが……。


俺の見てきたこの国の階級社会は、身分が下の人間をナチュラルに見下している。

身分ごとに相応の領分というものがあり、そこから逸脱したと上の者が感じたら厳しく怒られるって感じ。

人付き合いにおいてそれぞれ許せることと許せないことがあるのは普通だと思うが、その許せない範囲が俺から見たら広い。婚姻は身分がある程度釣り合う者同士でするのが当然のルールだと思っているから、格下があまりに格上と結婚することも『分不相応』で『卑しい』という感想になる。

男爵令嬢が王子と結婚するなんてのは、身の程を弁えないルール違反だ、とニネミア嬢が思うのは割と自然なんじゃないかと思う。


「うちの隠密が仕入れた話だと……ニネミア嬢も何かと嫌がらせを受けていて、ジャルージ辺境伯家周りはそれがシレンツィオ派の仕業ではないかと疑っているようです。おそらくわたくし達と同じで、メオリーネ嬢のコレリック家のことも同時に疑っているのでしょうけれど」

「ニフリート先生が私に妙にキツかったのもそれが原因かもしれないですねぇ」

俺がそう言うとジュリ様が睫毛を伏せて眉を寄せた。

「――――派閥の友人を疑うのは心苦しいですが、もしかしたら、わたくしやデウス様やコンスタンツェ様のためにと独断で動いている者がいるかもしれません。……王女殿下の周囲などはそれで自滅したのです。わたくし達はそういうことは望んでいないと示しておく必要があると思います」


ハッとした。未来視の中でカリーナ様が友人…と思っていた相手に陥れられたように、味方もしくは味方と思っていた相手に足を掬われる可能性は考えておかなきゃいけない。

ニネミア嬢とメオリーネ嬢に関しても、彼女達自身が指示していなくとも周りが勝手に政敵に攻撃しているという可能性も確かになくはない。


「それで、考えたのですが……一度、シレンツィオ派の生徒達を集めたお茶会を開きませんか?」

「なるほど、そこで『嫌がらせを受けているけれど、我々は正々堂々と戦いましょう』と宣言して、卑怯な真似はしないようにと牽制するんですね?」

「はい。同時に他の派閥から挑発や侮蔑を受けたら報告してくれるように頼んでおけば、情報も集まりやすくなるでしょう」

「流石ジュリエッタ様、良いお考えです!」

コンスタンツェ嬢が素直に褒めるとジュリ様は照れたように微笑んで、少し目を泳がせた後口を開いた。

「あの……良かったら、わたくしのこと『ジュリ様』と呼んでいただけないかしら。親しく見えた方が良いと思いますし……その、今後も仲良くしていきたいと、わたくしは思っています」

「えっ、いいんですか? ジュリエッタ様が良いんでしたら……あ、ジュリ様が、いいんでしたら! それでしたら、私のことはコニーと呼んでください! 仲が良い人はそう呼びます」

「ええ、そうさせていただきます」

コンスタンツェ嬢が溌剌と笑って、ジュリ様はふわっと花が咲くように笑った。空間が華やか。

見た目のコンプレックスがあったからか――はわからないけど、ジュリ様は身分で人を見下したりはしない。

一線を引くことはあるけど、必要以上に身分で隔たりを設けようとはしない。そういうとこも好き。


「よし、じゃあ新曲覚えないとですねコンスタンツェ嬢」

「……よしじゃないです! 何で?! 新曲必要ですか?!」

「だってお茶会開くとなると絶対期待されてるでしょうから……」

「アマデウス様だけ新曲弾いてくれればいいでしょ!?」

「え~!?」

「……お二人は、随分仲良くなられたようですね?」

ジュリ様がジトっと俺を見た。これは本気ではなくおふざけだとわかる。

「御心配には及びませんよ」

「ええ、ご安心を、仲良くはなったけど近しくはなってません!」

「え……?」

コンスタンツェ嬢のハキハキとした宣言にジュリ様は首を傾げる。何となくだがニュアンスはわかった。

「確かに。関わることが増えたし互いに知ってることは増えたけど、距離が縮まった訳ではないというか……」

「打ち解けてはいない、ということですか…?」

「なんていうか……、ジュリ様、『恋はあせらず』を録音する際に私が何回歌い直しさせられたかご存知です?」

「いえ……歌い直し?」

「アマデウス様は憶えてます?」

「……えーと……結構……」

回数までは憶えてなかった。コンスタンツェ嬢はバッと両手を広げ、片手をピースにした。

「―――――― 五十二回、です!!」

「え、デウス様、何でそんなに……?」

「い、意地悪じゃないですよ!?」

「それはわかってます! 私は他の歌手の方々より下手だったし細かい調整が必要だったことはわかってます……でも他の方々は『これくらいで充分では?』って言ってくれたのにアマデウス様だけはなかなか納得してくれなくて…それに助言が曖昧なんですよ! 音程とかじゃなくて『照れが残ってます。もっと恥を捨ててください』とか『自分が世界で一番可愛いと思い込んで歌ってください』とか」

「それは……感覚的な指導ですね。剣術でもそういう指導をなさる方はいますわ。剣筋を目で見るのではなく肌で感じろ、とか……結局数をこなさないと掴むのが難しいですわよね」


俺はいたたまれなくなってひとまず黙った。

コンスタンツェ嬢は歌手が本業じゃないからか、やっぱり他の歌い手達と比べて思い切りが足りなかったのだ。表現者に肝心なのは恥を捨てることだと思っているので、コンスタンツェ嬢の無自覚な照れが歌声からなくなるまでやり直してもらった。途中で「何が駄目なのかわかんないです!!!(怒)(泣)」とキレたり普通に泣いちゃってソフィアに慰められたりしていた。結果良い録音にはなったと思うけど……。


「必要な指導だったんだってわかってますよ? 確かに中途半端に照れてると見てる方が恥ずかしくなっちゃうとか、そういうのは理解出来ましたから……でも辛かったんです!! 思い出したら憎たらしくも思ってしまいます!!」

「まあ……『恋はあせらず』の裏にそんな苦労があったのですね。あの歌、可愛らしくて好きです。聴くと元気が出ますわ」

「そう言ってもらえたら頑張って良かったって思いますから、いいんですけどね! そういうこともあったし、私とアマデウス様は親しいって感じではないんです。仕事仲間、が丁度良い呼称だと思います。適切な距離を保ってます」


スポーツでいうコーチと選手みたいな連帯感はあると思うが、確かにコーチと選手は友達って感じじゃないもんな……。

彼女とネレウス様と俺の三人は第二聖女擁立委員会だし、チームと言っていいと思う。俺はチームメイト的な気持ちでいたが彼女にはそう思われてなかったらしい。仕方ないけどちょっとだけ凹んだ。


「も、もっと親しくしてくださってもいいのですよ……?」

思いの外距離のある間柄であったことを知って逆にジュリ様は心配そうにした。

その後コンスタンツェ嬢視点の各地の演奏会、平民と貴族の違いの話などを新鮮な気持ちで聞いた。ジュリ様も興味深そうに聞いていた。


――――未来視の一つでは、俺ではない“アマデウス”とコンスタンツェ嬢が恋人になった世界線もあったという。

そしてコンスタンツェ嬢はジュリ様に暗殺される。

これまで何度も繰り返された未来視の世界では、聖女候補二人がこうして仲良くしていることってなかったんじゃないだろうか。

そう考えると、目の前の光景がとてつもなく平和で幸せなものに思えた。



お茶会をお開きにしてコンスタンツェ嬢の馬車を見送ってから、並んで馬車を待っているとジュリ様は愉快そうな顔で俺を見上げた。

「デウス様をうっとりさせている歌手達みたいになれたら、と思ったこともありましたが……あまり半端に音楽に携わろうとしてもデウス様にはやり直しさせられるだけだったかもしれませんね」

「いやいや、ジュリ様の歌に文句なんてつけませんよ」

「下手でもですか?」

「多分……歌声だけで幸せになっちゃうので、何も言わないです」

そもそも声が好きだし、別に歌が下手でもそんなに気にならないだろうな、なんて思う。

そういえば初めて話した時にいつか歌を聴かせてほしいとジュリ様に言った。あの時は純粋に聴きたいと思っただけだったけど、口説いてると思われても仕方なかったなアレは。

「……もう、煽てるのがお上手なんですから。でも、それじゃあ上手くならないから売り物にはなりませんね」

「売らずに独り占めしておきたいからいいんです」

俺の『恋』の歌唱円盤を独占したいと言っていた彼女へ意趣返し。ジュリ様もそれに気付いたのかほんのり赤くなった。

「わからなくは、ないですが……。もしデウス様が剣術をして、指導するなんてことになったら……わたくしもあまり厳しく出来ない気がします」

「仕事に関わることとかは遠慮なく厳しく言ってくださいね、甘やかしちゃダメですよ」

「ええ、それは……頑張ります。デウス様もご遠慮なく」


趣味が合わない恋人というのは何となく不穏だし、おそらく合う方が長続きしやすいんだろうと思う。

俺とジュリ様は趣味が正反対かってくらい違う。でも、趣味に打ち込んでる恋人を好ましく眺められるならきっと大丈夫だろう。

音楽性の違いで解散したりしないしな。


ドロシーの家名とオルデン先生の名前が被っていることに今更気付いてドロシーの家名の方を変更しました。

元)ドロシー・オルデン → 修正後)ドロシー・オルキス

もし変更し忘れを見つけた方がいたら報告していただけたら助かりますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] どこぞの金爆なグループは楽器をひいてる人が一人しかいないから「音楽性の違い」がないらしいw やっぱ方向性は大事~
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