表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

169/259

薬学研究室




「……改めて確認致しますが、こちらの金額全て、薬学研究室に…寄付いただけると…」

「はい」

鞄に金貨を詰め込んでマルガリータ姉上と一緒に王立研究所の薬学研究室に訪れた。

国中の薬草地のことを把握しているので、姉上が栽培計画の相談に度々訪れていた場所だ。出迎えてくれた研究室長のナイスミドルと副室長だという若いイケメンが二人、ぽっかーんとした顔で鞄の中の金貨を見ている。すました顔でポーターが蓋を開けて見せつけていた。何かこの絵面だと買収しに来た成金みたいだ。姉上が恭しく書類を室長さんに差し出す。


表向きは今後の薬草栽培から薬局設立計画を恙なく進めるため――――そして裏向きは、自白薬の使用条件緩和の法案に反対意見を出されないよう繋がりを持つために、薬学研究室へ心付けという名の寄付金を持ってきた。スカルラット領の非常時税になる筈だった金の一部である。割と大胆な額がある。ひとまずこれだけ出しておけば俺が関わる法案に反対意見を出すのは躊躇することだろう。

それに薬学研究室には薬草栽培、薬の調合、治癒魔法との合わせ実験などなどの第一人者が揃っているので良い顔しておきたい。病院を作りたい時にも頼りになりそうだ。


「研究室というものは常に研究費の確保に苦戦しております。大変有り難いこと、伏して御礼申し上げます」

研究というのは一筋縄でいくものではないが、わかりやすい成果が無いと費用はなかなか与えられないというのはどこの世界でも同じらしい。

「いえいえ、姉上に快く助言を下さったようで……こちらこそ大変有り難く思っております」

「皆様ご存知の通り弟は商才もありますので、ご遠慮なさらずにどうぞ役立てていただきたいですわ」

姉上が愛想良く言う。副室長の一人のイケメン眼鏡がニコッと人懐こく笑って俺を見た。

「副室長のファウント・ヴィーゾと申します」

「……えっ。もしかしてフォルトナ様の……?」

「兄です。アマデウス様のことは我が領の事業のお得意様として妹から聞き及んでおりましたが、お目にかかれて光栄です」

最初に室長の自己紹介と「二人は副室長です」としか聞かされてなかったので驚く。髪はシルバーグリーンというのか淡い緑。瞳は朽葉色だった。金縁眼鏡の美形であることだけは同じだ。あまり似てないな…と思ったが、

「似てないでしょう! 妹は父似、私は母似でして。ハッハハ!」

と笑った。知的な外見なのに意外とテンション高い感じは似てる。

「お二人は少々血が遠くていらっしゃるそうなのによく似ておいでですねぇ。仲もよろしいそうで」

「ええ、もう付き合いも長いものですから……ほほほ」

外面猫被り姉上を横目で見ながら うん、俺と姉上って髪と目の色がめっちゃランダムなこの世界では本当の姉弟より姉弟っぽさあるよなぁ…… と思っていると、ファウント様がふと真剣な顔になった。

「私は魔力を利用した薬草栽培効率化の研究を行っています。スカルラットの薬草栽培地の一部で実験させていただく予定です。尽力致します」

「ああ、あれはファウント様が。こちらこそ出来る限り協力致しますので、頑張っていただきたいです」

一部を実験用の農地にする予定というのは計画書で読んだ。魔力を利用……どうやるのかは予想つかないけど。

四年生から薬学の授業が始まって、魔術学が薬学にちょくちょく関係していることがわかった。やはり魔力が存在する世界だから独特の薬学史がある。


珍しい生物もいると聞いていたので、俺は王立研究所の実験動物エリアを見せてもらえるか訊いてみた。快く案内してくれると室長達が言ったが姉上はノータイムで遠慮した。以前既に少し見せてもらったらしい。室長達は特に気を悪くした感じも無く俺だけ奥へ通される。

そこには木や植物、花が生い茂っている温室があった。小さめの植物園みたいだ。

「わぁ……すごいですね……! 花も綺麗ですし……」

「ただの花だけなら女性も楽しめるかと思うんですけどね。良い時にいらっしゃいました、あれなんて滅多に咲かない幻の花なんですよ! 肥溜めのような臭いがしますが……」

室長がすっと指を差した先に、南国っぽいエリアがあった。近寄ると異臭がする巨大な花。オレンジがかった斑模様のもったりとした分厚い花弁。エイリアンの口の中みたいなぽっかり空いた中央部分。


…………ラフレシアだこれ!!!


「えっ、すご……! 本物初めて見た!!」

「おや、ご存知ですか? 珍しいので図鑑にもまだ載っていなかったかと思いますが」

「あ、いえ、はい、何かで~……絵を見たことがありまして」

地球でも生で見たことはない。地球の写真で見た物よりオレンジっぽい。そして臭い。服に臭いが移っても困るなと思って少し離れて見た。

 そして大きな棚、ずらりと並んだ大中小の水槽に様々な生き物がいた。ここにいるのは温室に適した生物達。ネズミっぽくて可愛い小動物エリアもあれば、虫エリアもあった。確かにこっちの人って虫苦手だから令嬢は入らない方が良いかも。貝や淡水魚エリアもある。図鑑で見たのもいっぱいいたが見たことが無いのもいる。グッピーっぽい小魚が沢山水槽の中で泳いでいるのを見ると何だか癒された。

 大きい旅芸人の一座なんかは異国にしかいない珍しい動物を連れていて見物料を取ったりするところもあると聞いたが、水生動物を連れ歩くのは難しそうだしないかな。

 数えるほどしか行ったことなかったけど、動物園とか水族館って楽しいよな。こっちの世界にペンギンとかチンアナゴとかいるんだろうか。この世界には猫がいないみたいなのだが、図鑑を見たらネコ科大型獣はちゃんといるのである。獅子とか豹とか。だから確認出来てないだけでネコチャンもどっかに存在するんじゃないかと思っている。


「いや~~とても面白かったです! お忙しい中ご案内ありがとうございました」

礼を言うと室長達は顔を見合わせて嬉しそうにしていた。

「いえいえ。研究員でも初めは怖がる者が多いんですが、アマデウス様は平気そうでしたね。虫や爬虫類を見ても楽しそうにしてくださる方なんて珍しいですよ」

トカゲやヘビもいっぱいいた。この世界は人間もカラフルだからか実にカラーリングが豊富だった。毒がある場合は怖いから近寄らないけどトカゲもヘビも苦手ではない。割と可愛いと思う。




「突然ですが――私がスカルラットに婿入りしたいと申し上げたら、アマデウス様は賛成してくださいますか?」


応接室に戻って来て俺が姉上の隣に戻ったところで、キリッとして胸の前で拳を握りしめたファウント様がそんなことを言った。

何を言われたのかピンと来ず俺は黙った。研究員の二人も目を見開いて固まっていた。横目で姉上を見ると、皆と同じくらい驚きつつ、今までに見たことないくらい顔が真っ赤だった。

「……あー、あの、それは姉上と……つまり、スカルラット伯爵夫になる、というお話で?」

「はい!!」

良い笑顔のファウント様とまだ固まってる姉上。

「…姉上、いつから彼とお付き合いを? 言ってくれたらよかったのに」

「―――…て、…ぃ」

「え?」

「ぉ付き合いは…し、してなぃゎ……」

「……してない?!」

蚊の鳴くような声の姉上、普段と違い過ぎて困る。

「まだ具体的に恋人というわけではありません。マルガリータ様はまだ学生ですし」

「……ああー、想いを伝え合ったけど姉上はまだ学生だから遠慮してくださっていたと? いうことで?」

「いえ、今初めてお伝えしました。アマデウス様は今のスカルラットで重要な御方、賛成していただけたらスカルラット伯に婚約の打診を出そうと。お口添えをお願いしたいと思いまして。私はスカルラット領の、マルガリータ様のお役に立ちますよと!!」

ファウント様は威風堂々としているが俺は戸惑っている。

「あ―――――……、ちょちょちょーっとお待ち下さいね。……姉上、何か言って下さいよ」

「………ぉぉどろぃて、て……」

額に汗を滲ませておろおろと目線を彷徨わせている。姉の乙女な面を見てしまっている。ちょっと気まずいぞ!

「姉上? ファウント様と結婚する気がありますか? ないんですか? そこはハッキリさせとかないとヤバいですよ誤解されてるかもしれませんし」

とっても小声で言ったのだが聞こえていたらしく、ファウント様はびっくり顔になった。

「ええっ!? マルガリータ様私のこと好きでしょう?! はっきり言われてはいませんがそれはわかりますよ!?」

「ひっ……んん……」

姉上が赤い顔で鳴いて涙目になりプルプル震えて俯いた。

……図星っぽいな……。割とわかりやすいとこあるもんな、姉上。



※※※



その後、姉上が

「……その、わたくし、ファウント様をお慕いして、ます……」と絞り出して、

「え? それは勿論知ってます!」とファウント様が良い笑顔で答えた。

ちょっと噛み合ってないような気もするが、ひねくれたところがある姉上にはこれくらい火の玉ストレートな人の方が良いのかもしれない。薬草栽培計画の話で交流を重ねて好意を持ったらしい。最近何か機嫌が良いなと思っていたがそういうことだったのか。侯爵家の三子で、王家直属の研究室に勤めてるほどの秀才ということで婿入りに特に問題はないというか、こちらこそいいんですかという感じだ。姉上が卒業したら結婚ということになるだろう。



しかし寄付(という名の心付け)に来たら姉上の縁談がまとまるなんて思わないだろ。びっくりした。でもまあ、めでたい。想定よりも薬学研究室に対して太いパイプを手に入れたし。

姉上も落ち着いた後はニヤニヤしてたり食事中にぽーっと虚空を眺めていたりしていた。

「おめでとうございます姉上。侯爵家の秀才が婿に来てくださるなんて、スカルラットは安泰ですね」

夕食を食べながらジークが素直に祝った。

「ええ、まあね」といつもの調子に戻ってドヤ顔だった。

それにしてもファウント様はあの自己肯定感をアルフレド様に少し分けてくれないかな……なんて詮無い事を考えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] マルガリータ様ご婚約誠におめでとうございます…!! ファウント様、包容力があっておおらかで頭も良い上に家柄も文句なしに素敵な方でお姉様と物凄くお似合いだな…とにこにこ拍手をお贈りしたいです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ