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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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オンリーワン



会話が一段落して、改めてダフネー様に自白薬の使用条件緩和について切り出した。

「書状、拝見しました。なかなか勇気のあるご提案と思いましたわ。失礼ながら…アマデウス様は、この法改正でいつかご自分がお困りになるかもしれない…という危惧はありませんでしたの?」

「ああ…そうですね、なくはなかったですが」

今は困らないが、これから先。

大人になって社交界でやっていくに当たって一切手を汚さずにいられるという保証はない。

俺が流行り病の夢を見て凹んでいた時ジュリ様が『どんなことをしても助ける』と言ってくれたように、不測の事態にジュリ様や仲間や友達が止むを得ず何かやらかしてしまう、もしくは俺が何かやらかしてしまうことが絶対無い、なんて言えない。

だけど。

「その時はその時です。甘んじて困ることにしますよ」

仕方がない。真実が闇に葬られるよりは良い、と今の俺が判断したんだから。

「……意外でしたわ。思いの外自信がお有りでないのですね?」

ダフネー様は悪戯っぽく笑った。俺は苦笑いする。

「先のことはわからないですからね…」

「今までのご活躍を経て自信家になっていない方が正直不思議ですわ。後悔しないと言い切られるかと思っていました。実直な若者のほとんどが、己や親しい者の誠実さが永遠であると信じていますから」

「…あー」

様々ないざこざを解決する為に法を整える仕事をしてきた彼女は、明らかな罪人に対して「あんなに良い人がそんなことする筈ない!」みたいな訴えを度々聞いてきたのかもしれない。

俺が今までやってきたことだけ見るなら自信家じゃない方が不思議なのは、うん、はい。でも俺視点だと俺の手柄じゃないことが多いので調子に乗れていないだけである。俺は煽てるような言葉を投げられる度に自分が『発想の盗人である』ことを割と思い出す。前世で得たアイデアで褒められても俺の自信は積み重ならない。積み重ならないタイプで良かったと思う。


「いつかの不利益よりも、現在の利益を取ります」

ドキドキ(緊張で)しながら考えが読めない薄い笑みを浮かべていたダフネー様と見つめ合って数十秒。彼女がふっと力を抜くように肩を上げて下げ、目を瞑った。

「アマデウス様のご覚悟、承知致しました。色々と条件付けは必要ですからすぐにという訳にはいきませんが、正式に取り掛かりましょう」

「! ありがとうございます!」

「いえいえ。このご提案がいつか貴方様の足を掬ってしまわないことを願っておりますわ」

「私もそう願います」

皮肉みたいなやり取りだったが、お互いに穏やかな笑顔だった。

「一つ、進言をさせて頂きますと。王立の薬学研究室を抱き込んでおくことをお勧めします。この改正は隠れて悪事を働いている貴族から反発を招きますから、薬学研究室から反対意見を出させて圧力をかけ、見送らせようとする者が出るでしょう」

「なるほど…ありがとうございます、その方向で動きます」



「では、この度お時間を取って頂いたことへの御礼として… 発売前の歌を一曲披露させて頂きます」

「ヒョェッッ!??!」

ロールベル様が結構でかい声で鳴いたがスルーして、俺はリュープをポーターから受け取る。マリアとロージーはポーターから楽譜と歌詞の紙を乗せた譜面台を受け取り、小さめに設定した拡声器を三人分並べる。店員に頼んでこっそり運び込んでいたのだ。歌詞は覚えているが、三人で歌うのは今回だけなのでどこが誰の担当かわかるようにメモしてある。


次新しく出す曲は、『世界に一輪だけの花』。

ピアノを始めた結構最初の頃に習って初級の楽譜をよく練習していた。手首を上げ下げしない、ってピアノの先生によく指摘されてた思い出がある。

ド有名なシンガーソングライターが手掛けてド有名なアイドルグループがリリースした、軽やかなメロディに哲学的なメッセージ性を乗せた曲。言わずと知れた大ヒット曲で老若男女に幅広く支持を受けていた。全肯定はしにくい思想が強い歌詞だなぁという印象も個人的にはあるが名曲だ。詞には『天上天下唯我独尊』の考え方が採用されているらしい。ざっくり言うと『皆違って皆良い』みたいな思想なのだが、正直この世界に来てから歌詞がより一層俺に響く。

元ネタが五人だし歌手全員で分担して歌ってもらおうと思っている。

「ファンの皆と一緒に出来るといい」と依頼されて作られたというサビの振付もよく覚えているからライブに取り入れられたら良いなと思っている。観客が一緒に出来る振付というのは一体感を高めるのに非常に効果的。公演の締めにうってつけだ。

各地の公演によってコンスタンツェ嬢を王子妃候補のナンバーワンに押し上げようとしていることを思い出すと、何だか極まりが悪いけれども……。



※※※



「う、うぅ、ぁぁぁ、ありがとうごじぁぃましたっ……」

ロールベル様がウッウッと嗚咽しハンカチで顔を覆いながらも何度も礼を言ってくれた。それだけ感動(歌にというより推しが目の前で自分の為に歌ってくれたことにだと思うけど)してくれたならやった甲斐もある。ダフネー様はロールベル様の泣きっぷりに少々呆れた笑いを浮かべながらも「今までは抒情的な楽曲が多かったですが、今回は啓発的ですわね。三人の歌声の調和も素晴らしかったですわ。あと何曲良い曲を隠していらっしゃるのかしら?」と少し興奮した面持ちで褒めてくれた。質問は曖昧に笑って誤魔化す。


こちらこそ今回はありがとうございました、と招かれた側である俺たちが先に店外に出る。

わざわざ店先に出て見送ってくれたお二人とあそこの店は王都でも評判のお菓子を売っているだとか雑談を続けていると、「…ロージー?」とマリアの声がしたのでそちらを見た。

ロージーが一点を見つめて固まっていたのでそちらを見ると、少し先になかなか豪奢な馬車が見える。

「…あ、あのっ男…、いや、あの馬車はどこのだかわかりますか?」

彼が急にそう聞いてきたので俺は馬車の紋章に目を凝らす。貴族の馬車にはその家の紋章が付いている。格上の家のものだったら覚えさせられるのでわかる。

「えっ?えーと……」

「あれは…コレリック侯爵家の馬車ですわね。あの御者見たことがありますわ。黒子が二つある男で、下男下女にも美形を使いたがるあの家では珍しい、と意外に思ったものですから」

ダフネー様が小声で教えてくれた。確かに、あの家の紋章だ。黒子が二つだとこちらの世界だとまあまあの醜男か。肩ががっしりとして白髪交じりの海松色の髪を後ろで縛っている。ここからだと横顔しか見えなかったが、三白眼に目から頬に深い皺。あれは確か俗にゴルゴ線とか言われる皺だ。俺には外国の俳優みたいな渋い美形中年に見える。

「そうですよね?黒子が二つある男ですよね?眉の上と目の下に」

「え、ええ…」

ロージーが深刻な顔で聞いてダフネー様が戸惑う。

「ロージー、どうした?」

「…いえ、申し訳ありません、何でもありません」

彼はそう言ったが、明らかに顔色が悪くなっていた。理由はわからないが早めに帰した方が良いと思ってダフネー様とロールベル様に改めて別れの挨拶をし、馬車に乗り込んだ。


「……大丈夫?具合が悪いなら正直に言って」

馬車の中で訊ねると「いえ……違うんです」と弱々しく返してきた。

「あの御者、知っている男だったの?」

マリアが訊くとロージーがじっと手元を見つめて頷いた。

「……まさか、と思ったんですが……全く同じ場所に黒子が二つある男というのはそうそういないですよね」

「そうだね。それで、どういう知り合い…?」

「知り合いではなくて…… ――――……ぃです」

「えっ?」

馬車の走行音でかき消されてしまって聞こえず、もう一度と促すとロージーが顔を上げ、微かな怯えを灯した目で俺を見た。


「人攫いです」

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