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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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デレ




薬局の為の調べ物をしていたら案外時間が溶けてしまい、急に会場に移動して打ち合わせしたり授業で居眠りしたりとスケジュールに無理が出て来た。



噂のリリエ嬢を会場で初見。

歌を聴いたマリアがのど自慢大会の参加者に捻じ込みたいと言った時は驚いたが承諾した。

マリアが推薦したいというくらいだから期待出来るし…上位になれば、ロージーの嫁としての箔も多少つく。ただの踊り子よりはシャムスもすんなり許すだろう。



リリエ嬢、こちらで今まで見た女性の中で一番胸がデカいかもしれない。

地球でいうところのE~Fカップくらいあるんじゃなかろうか。いや詳しくないからサイズ判断に自信は無いけど…。


しかし胸が大きいと踊るの地味に大変そう。しっかり固定出来る下着はあるんだろうか。こちらの女性の下着事情は知らないからわからんが。男の下着はブリーフ的なのとボクサーパンツ的なのと膝まであるぴったりしたやつ、冬用は足首まで長いやつもある。割とバリエーション豊富。トランクスタイプは何故かないが。俺は小さい時からボクサーパンツ的な奴を所望している。


少し癖のある赤茶色の髪を後ろで団子にまとめ、少し小さい(といっても大きくはないだけで小さくはない)茶色い目に小ぶりな鼻。そして腰はきゅっとくびれていて細い。顔の上部全体に薄いそばかすが多めに散っている。背はそんなに高くないが遠目で見てもスタイルが良かった。

地球だったら自然派オシャレ雑誌のモデルとかしてそう… と俺は思うが、こちらでは不器量な方なのだ。解せぬ。


巨乳に目がいってしまいそうなところをぐっとこらえた。下心とかそういうのの前に単純に『うわでっかい』という気持ちで見てしまいそうになるのだ。すごく高い建物をつい見上げるような気持ちだ。しかし「胸ばっか見てきてサイテー!」という前世の漫画か何かの台詞を思い出して目線に注意を払った。女性は嫌だろうし彼女はロージーの嫁(予定)だ。長い付き合いになるかもしれないし第一印象は良くしておきたい。


肝心のロージーはまだ何となく避けられていて距離を縮められていないらしいが頑張ってほしい。



※※※



放課後眠気を堪えつつ図書館で平民の病気や死亡率、衛生事情について調べていたら、エイリーン様に話しかけられた。軽く世間話をした後、「…ディネロ先輩とは最近お会いになりました?」と訊かれる。


「会っ…てはないですね。商売の問い合わせ等で手紙のやりとりはしましたが…」

「そう…やはりお忙しいの?」

「そうみたいですねぇ。…やはり、というと」

「いえ、以前はすぐに返事を下さったのだけれど、最近は返事が遅いので、そうかしらと」


文通してるんだったな。しれっとした顔ではあるが何となく不満そうな声音。脈アリだよ先輩~。



ディネロ先輩は録音円盤と再生機の素材の確保やら部品の増産やら、進捗を手紙で適宜報告してくれている。

今までの仕事に加えて新しい事業だからなぁ、忙しいだろうなぁ。

いや、俺は急かしてはいないのだが、彼が急いでいるのだ。

おそらく、それらの発表と発売で富と名声を得て、早くエイリーン様に婚約を申し込めるように。


急ぎ過ぎて失敗しないようには気を付けてほしいが、焦る気持ちはわかる。俺もジュリ様に求婚する人がそうそういないとはわかってても早く申し込まなきゃと焦ったし。

エイリーン様はいつどこで誰に熱烈に求婚されてもおかしくない人だからな…。

実際日常的にお茶会なんかには引っ張りだこで、釣り書は国中から頻繁に届き、ヤークート様は未だに熱心に言い寄っていると聞く。


「私がお願いした仕事もありますし本当に忙しいんだと思いますよ。許して差し上げて下さい」

「アマデウス様が?…何か無茶振りをなさったの?」

ジトッと見据えられてしまう。

「無茶振り…では…ないと思いますが」

いや、軽く無茶振りだったか…?でも急かしてはないよ。


エイリーン様はふっ、と溜息を吐いて背中を椅子に預けた。

「…別に責めている訳ではなくてよ。ほら…ディネロ先輩ももう学生ではないから……いつ結婚されてもおかしくはないお立場でしょう。もしかしたら縁談があって、…わたくしと距離を置こうとお考えになったのかもしれないと思って…アマデウス様ならその辺りご存知かと」

最後らへんはもにょもにょと言い訳するように呟く。

「…ああ~~~~~~~~~~~~~~~~」

「ほら、その、わたくしの存在が先輩の縁談の邪魔をしてしまうようなことがあったらいけませんから?」

「…あ~~~~」



―――――脈しかねぇ!!


♪たたたたーん…たたたたーん…たたたたん、たたたたん、たたたたん、たたたたん、たたたたーんたーんたたったったったたーたーたたたーん!!

脳内BGM、結婚行進曲。メンデルスゾーン。



そういう心配をするってことは、エイリーン様としてはまだ恋人まではいかないでも男女の情ありきで文通してるってことでいいんだよな~?!

これディネロ先輩が鈍いんじゃん!!


全然心配いらないですよ~!と言ってしまいたいが、人の好意を勝手に伝えるのはマナー違反だ。我慢。

でもエイリーン様が気にしていたということは純然たる事実なのでディネロ先輩に伝えてあげよう。


「先輩に縁談があるというお話は聞いてないですよ、少なくとも私は」

「そうですか…」

少し安心した顔になった。この様子なら録音円盤の発表の目途が付くまでにエイリーン様が他の人と婚約を決めてしまうことはなさそうに思うが…俺には心の中で応援しか出来ない。頑張れ先輩。



両片思いのマリアとソフィアといい、俺の周り今くっつきそうでくっつかない人ばかりだな。もどかしい。





※※※




「……ん?」

朝、やけにすっきり自然に目が覚めた。起こしてもらう前に目が覚めるなんて珍しい… と、思って時計を見たら、起きる予定時間を普通に過ぎていた。

「………えっ!?うそ、寝坊!?!?」


なんてこった、今日は学院は休みとはいえ―――のど自慢大会当日である。


慌ててベッドから飛び起きると扉の近くの椅子にアンヘンが普通にいた。扉を少し開けて外のメイドに何か伝えている。

「あれ?!何で起こしてくれなかったの!?」

「申し訳ありません、それが…マルガリータ様の御命令で」

「…へ?姉上の…???」


ひとまず顔を洗ったり寝巻から着替えたりしたところ、姉上が部屋に来た。

「おはよう、よく寝たようね」

「寝ましたけど!何で寝坊させたんですか?!あ、おはようございます!」

律儀に挨拶しつつ姉上に詰め寄ると下からなのに見下すような視線で見返される。


「のど自慢大会はジークに任せたのだから朝からお前が行かずともいいはずよ」

「でも…一応色々確認を…」

まあ普通に予選から聴きに行きたかったってのはあるけど。

「問題が起きたら起きたであの子に対処させればいいのよ。何でもお膳立してやればいいというものでもないわ」

「そうかもしれませんけど…」

「自分のこなせる範囲を知りなさい。何をそんなに焦っているのよ。眠そうな顔で授業を受けるなんてスカルラットの名を貶めたいの?」


忌々しそうに俺を睨んでいるが、どうやら俺の忙しさを見かねたようである。ジュリ様にも「お疲れですか?ご無理はなさらないで下さいね」と少し心配されていたし、睡眠時間を削りがちで授業に集中し切れていなかったところはあるので反論出来ない。


疫病が流行る予知夢のようなものをみたせいで焦っている、なんて姉上には言えない。ジュリ様の聖女疑惑が言えないんだから説得力もないし、馬鹿みたいに聞こえるだけだろう。



「―――で、最近手を出してる薬草栽培の案はどこまで進んだの?」

姉上とジークには夕食の席で案について少し話していた。集めた資料は鞄に入れてたからそれを渡すと、姉上は静かにそれにさっと目を通す。

「まだ資料集めの段階ね。効率が悪いんじゃないの?…ふん……ここの情報、もう新しいのがあるわよ」

「え、嘘…もう新しいのが出てます?」

「少し前に出てるわ。毎年この時期に更新されるから」


姉上は図書館にはあまりいないのだが、さっと訪れて本を借りて帰ることは多いのだ。俺より図書館の資料に詳しいのは知らなかった。そもそも成績良いし何気に努力家だもんな。

「この提案書、私がまとめてあげてもいいわよ」

「え?…姉上が?」

「別にお前の為ではなくてよ。何でこれをそんなに急いでまとめたいのか知らないけど、どうせ雇ってる平民に頼まれたとかでしょう。次期領主の私の主導の方が実現させやすいわ。民の好感度も稼げるし、跡継ぎの実績としても申し分ないし、お父様もきっと賛成して下さる」

「…手伝ってくれるんですか?え、本当に?すっごく助かりますけど…いいんですか?」

目を丸くしつつ喜んだ俺を姉上は苛立ちを隠さず睨んだ。

「……手伝うじゃなくて、完全に横取りでしょこの場合!何をぼーっとしてんのよお前は!!」

「ぅえぇ?」

寝起きで少しぼーっとしてるかもしれないが。何で提案を受け入れて怒られてるんだ。


「発案者の所に名前を書くことを約束させるとかちゃんと交渉なさい!発想を盗まれることに慣れるんじゃないわよ!というかそうしないと私が盗んだみたいじゃないの!そんなに卑しくなくってよ!」



おお……

一緒に暮らし始めて7年、ツン一辺倒だったマルガリータ姉上から、ツンデレをもらった……



有識者(?)に聞いたらツンデレかどうかは微妙な判定かもしれないが、うん、俺の為じゃないと言い訳しつつ俺の今後の為に説教までしてくれたのだから、これはデレってことでいいだろう。


「いや、発想を盗まれたことは今のところないかと思いますが…」

「盗まれるというよりお前は分け与えていると言った方が正しいかしらね。それも私は感心しないわ、施しを与えることがいつも良い結果になるとは限らないんだから」


別に施しを与えたというつもりはないが、確かにそれはそうだな。


任せたことに介入し過ぎるのも良くないし、発想の責任を最後まで自分で引き受けないのも良くない。自分のこなせる仕事量を把握しないのも、後々のことを考えずに何かを与えてしまうのも、良くない。



「…ありがとうございます。姉上が俺の姉上で、俺は運が良かったと思います」

「……ふん、そうね。感謝なさい」



得意げになった姉上に、集めた資料に説明を添えながら渡した。発案者・協力者は俺ということになるが、提案者の主体は姉上。

「上手くいった場合手柄はおおよそ私のものになるけれど、我慢なさいね」

「別にいいですよ。これに関しちゃ手柄とかどうでもいいんで…」

「…お前のそういうところが嫌いよ」

「へ?はぁ、すいません…」



姉上の機嫌はすぐに下降したが、資料を任せた後お茶だけ貰って一杯一気に飲んで、俺は急いでのど自慢大会を観に出た。本選には間に合うだろう。

途中の馬車でポーターに、姉上が言った『そういうところ』って何だと思う?と尋ねると、「特に欲してないのに高い評価を得ているところ、ではないでしょうか」と返された。



……なるほど?

いや、俺だって人並みに褒められたいとは思ってるけども。異世界出身由来のイレギュラーで謎に評価が上がってたりするかもな(顔の悪い相手にも分け隔てなく優しいだとか…)。




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― 新着の感想 ―
有識者として判定して差し上げましょう。そもそもあなたが気付いて無かっただけで初登場時点ですでにツン:デレ比率は7~8:3~2くらいでしたよ(眼鏡クイッ)
うーん、これはツンデレ。「…お前のそういうところが嫌いよ」も、それ以外は好ましいって言ってるようなものですもんねw
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