9 目覚め前からのミッション
――1年前。
「ホルス、ミュカ、セロスト、ダムセル、セシリア、チルル、ケイン、ロゼリア。予測ではあと1年程でアレク様がお目覚めになられます」
アイは8名の騎士に視線を向ける。
8名は全員が顔を綻ばせ、其々にアレクとの幼少期を思い出す。
その中にあって隊長であるホルスは直ぐに顔を引き締めると。
「ではアイ様が言っていた様にアレク様がお目覚めになられたなら直ぐにでも帝国に戦争を仕掛けると言う事で変わりないでしょうか」
その言葉にアイは首を振る。
「いえ、今の男爵家にその財力も戦力も無い事は貴方方が一番良く知っている事でしょう」
そう、男爵領惑星アレキサンドロスの文明は未だに発展しきれていない。
3年前に漸く世界大戦が終結し、アレクの居た時代の地球と言う文明程度にまでしか発展していないのだ。
エネルギー資源の採取を惑星自体から行っており、それは男爵家が公に税の徴収が出来ない事を意味していた。
このままではアレクが目覚めても何も出来ない事に直結する。
「では今からでも我々の存在を公とし、惑星アレキサンドロスへ侵攻すべきです!」
そう吠えたのは副隊長のミュカである。
彼女は剣の腕に優れてはいるが少し攻撃的な一面を持ち合わせていた。
それを知るこの場の全員が彼女に視線を向けず首を振る。
「え?皆さんなんで首をふっているの!」
「そりゃそうだろ、それをしたらアレク様の居た地球と同じ状況になる。それをアレク様が良しとするのかい?」
答えたのはこの中で一番の年長者であるロゼリアだ。
「で、アイの姉さん。私達をここに集結させたって事は何か策があって呼んだんだろ?」
アイは頷き。
「これから1年で惑星アレキサンドロスの文明レベルを一気に2へ引き上げます」
「いやそれは流石に無理であろう。文明レベル1から2へ移行させるのにあと300年は必要ではないでしょうか」
ダムセルの言葉に長身三白眼のセシリアが首を縦に振り同調する。
「いやダムセル兄、それはそうとも言い切れないよ?」
言いながら青い髪をかき上げるケイン。
「昨日チルルと話してた事なんだけどさ、昔モノリスって未知の物質を知的生命体に与えて一気に文明を底上げした小説が話題になってね。それをなぞれば自領の発展に繋がるんじゃ?って話になったのさ」
アイは静かにそれを聞いているが視線をチルルへと向ける。
「あわあわ!わ、私はそ、そのいい考えだと思いました。そ、それにモノリスは物質でなくても、も、もしそれがモノリスて言う物質じゃなくて、えと、その……」
そこでセロストが何かに気付き。
「そうか!モノリスじゃなくても睡眠ポットの人間をそのまま地上に落とせばいいんじゃないのか!?そして侵攻ではなく平和裏に知識を与えつつ激変を起こす」
「そ、それですぅ」
そしてアイが漸く口を開く。
「そうです、流石皆さんアレク様と幼少期を過ごされた方達です。数名の精鋭を地上に降下させセロストが言った様に平和裏に地上の文明を底上げします。1年と言う期間でどこまで成長するかはわかりませんが」
ホルスはその精鋭に心当たりがある。いや、その場にいる8人が同じ人を頭に思い浮かべたかもしれない。
「その精鋭と言うのはもしかして師匠達ですか?」
アイはそれに返答せず、ただ8名の後方へ視線を送り。
「それでは惑星アレキサンドロス降下作戦の4人を紹介します」
その言葉に。
「おいおい、ずっと先生と呼べと言ってるだろ」
「それは貴方が戦闘面でしか指導していないからよ?」
「ふん」
「あらやだ、本当にこんな野蛮な子達で大丈夫かしら」
がやがやと部屋へ入室する4名。
そこには顔面に斜めの傷が入った褐色の50代の大男。
妖艶な雰囲気を持つ紺色の髪にとんがり帽子の30代の美女。
影が薄く細身なのに眼光の鋭い40代の男。
最後に恰幅の良い50代の女性。
「「「「ねぇさん!先生!おかぁちゃん!師匠!」」」」
後方からの声に8人が思い々に呼ぶ。
「紹介する事も無いでしょうが元アレキサンドロス7世騎士団長戦斧のガズン、帝国貴族院所属魔法師団長のスメナス、男爵家私設諜報局局長サイサリス、最後にサイエンス統括所長のウカベ。以上4名と数名の部下の方達で今回のミッションに当たって頂きます。そして今回貴方達を呼んだのは夫々にこの艦での立場を引き継ぐ為でもあります」
「まぁ俺達が居ない間はしっかりやれや」
「そうね、特にロゼリア。貴方はその魔法でしっかりポットの少女が目覚めたら鍛えてあげなさい」
「ふん」
「私が居なくてもちゃんとご飯は食べるんだよ。ダムセルは少し控える様に」
8人が揃えて肩を竦める。
「彼ら男爵家の各種エキスパートであればこのミッションも安心でしょう。4人の後を8人でしっかり艦を守る様に」
「「「「はっ!」」」」
――こうして1年前に4人と数名の部下が地上へ降下した。
――――
――
――ザザッー「こちらサメリア空軍、その機体は我が領空を侵犯しています。直ちに……おい、あの機体はなんだ」
「どうしたレッサー1……おいおいマジかよ」
―『こちら管制、レッサー1どうしました?』
「おいおいマジかよ」
―『レツサー1報告を』
「あぁすまない、前方に未確認飛行物体を視認。しかし機体より黒煙が上がっていて操縦不能状態と予想する。指示を求む」
―『管理将校の指示を仰ぐしばし待たれよ……』
「現在未確認飛行物体をロック中!管制官指示を。あと5分もしないうちに地上に落ちるぞ!」
―『こちら管制、こちらのレーダーでも未確認飛行物体と思われる機体を捉えた。そのまま放置して構わない。繰り返す、そのまま放置し帰還して構わない」
「おいおいそりゃどう言う事だ」
『以降は別の部隊の管轄になる以上』
「地上に落ちるって言ってるだろ!」
『計算では内陸の湖で問題ない。直ちに帰投せよ」
――ドーーーーーン!!
その後直ぐに内陸の湖は、周囲3キロを含めサメリア軍によって封鎖される事になる。