4 俺の嘘と彼女の真実です
「待たせたな、お前達。さぁ、野望と復讐の戦争を始めよう」
……フッ、流石俺、決まった感が凄いな。
「アレク様、それは無理です」
アイさんが小声で俺にそう告げる。
「……」
「我等が領は未だ自領の惑星からエネルギーが採取出来るレベル1の惑星に過ぎません。それに他領へ攻め入れば即座に帝国正規軍に舜滅されてしまいます」
……文明レベルの話しか。文明レベル1と言えば地球と同じって事じゃないか?だが攻めて来たアレキサンドロス8世の文明レベルは3とも言われる銀河系内で利用可能なエネルギーを採取使用出来るレベルだったはずだが……。
「何故文明レベルが1のままなんだ?我らが技術力を渡せば自領発展に繋がるだろうに」
アイさんが頭を下げながら。
「そのお話は後程詳しく。それよりアレク様、少しお疲れのご様子ですがご休憩になさいますか?」
疲れと言うより椅子の自画像を見てから、意識がはっきりすると同時に吐き気が止まらない。
「そうだな、意識の混濁は無いが#二人の意識が混じる__・__#と言うのは流石に堪える」
「では一度お部屋へ――」
「部屋へ戻らずとも少し落ち着ける場所でティータイムだ」
「その様に」
アイさんは頭を垂れ騎士達に振り返る。
「アレク様御退出!」
兄貴分や孤児達とは会えずじまいだが、ここに居るならその内出会えるだろう。兎に角今は独りで考えたい事が色々ありすぎる……急ぐことも無いだろう。
――――
――
陽の差し込むテラスで俺はアイさんが淹れた紅茶を口にする。
先程アイさんには二人の意識が混じって堪えると言ったがアレは嘘だ。
記憶はある。前世の俺の記憶とアレキサンドロス8世と言う糞野郎の記憶だ。
だが意識は完全に前世の俺の意識であり、アレキサンドロスの記憶はあるが意識は無い。
アレクサンドロスは、絵でも写真でも自分の姿を見た瞬間に全てを思い出し、俺の意識さえ奪うつもりでいたらしいが……何故かそうはならなかった。
ならばアイさん含めアレキサンドロス8世の計画を知る者全員、奴の自画像を見た事で俺か既に奴に取って変わっていると思っているはず。
だから嘘を言う必要があった。
だが帝国に喧嘩を売る事に嘘はない。奴の野望に乗っかる形にはなるが帝国には滅んでもらう予定だ。
どう滅んでもらうかはこれから考えないといけないんだけどな!
なんにせよ、こちらの戦力の把握はしておくべきだろう。っと、考え事をしていたらいつの間にかカップの紅茶が空に――
――こぽこぽこぽ
空いたカップに紅茶が注がれる。
流石次世代量子AI搭載型護衛メイド。その辺のバイトとは比べるまでもなく優秀。
「ありがとうアイさん」
「……」
珍しくアイさんから返事がない。
不思議に思い彼女の方へ顔を向けると。
――シュッ!!
果物ナイフが一瞬で俺の眼前で静止する。
勿論そのナイフを突きつけたのはアイさんだ。
「(ッ!どこで気が付かれた!?いや、ナイフが止まっていると言う事はアイさんは俺を殺せないのか?……そりゃそうだ。意識が混じり合ってると思っている時点で俺はアレクでありアレキサンドロスなのだから)」
「アレク様」
「名を呼ぶ前にこのナイフを仕舞え」
あれ?アレキサンドロス風に言ってみたのになんでナイフ降ろさないのこの人!?
「アレキサンドロス様?」
「何故疑問系にする。バグったのか?」
「量子AIはバグりません。常識ですよ?バグったと言うならアレク様の方では?」
「…………」
(え?量子コンピューターってバグんないの!?いや量子コンピューター自体なんかスゲーPCって認識であんまり知らないけどもな!)
「その発汗具合。アレク様で間違いないようですね」
汗でバレるってどんだけだよ!と思いつつも、その言葉と同時に彼女はナイフをテーブルに戻す。
「アレキサンドロス8世は貴方の意識下には居ないのですね?」
……その問いに俺は答えず、敵か味方か分からない相手に対し魔法発動の為の気合を入れておく。
しかし彼女の次の言葉で状況が一変した。
彼女は真っ直ぐに俺を見つめると。
「この度はアレキサンドロス8世が貴方の惑星を滅ぼし大変申し訳ありませんでした」
言いながら頭を下げる。
「…………」
謝罪を受け入れる?馬鹿を言うな。たまに己の欲の為に戦争を起こす奴も居るあんな世界でも、アレは俺の世界そのものだった。嫌いな奴も居たが好きな人や愛した人はそれ以上にあの星には居たんだ。
山の景色や海へ沈む太陽。
夏の海水浴に冬のスキー。秋の味覚に春の眠気。
それら全てが好きだった。
だがあの日、全てを奪ったのは俺が記憶を持つこのアレキサンダー8世。
その記憶にある奴の命令を忠実に熟す女のメイド。
そう、目の前のアイだ。
奴とアイのやり取りを思い出し、俺の頭に一気に血が集まり沸騰する。
気合い処ではない、体中から湧き上がる怒りが全身を覆う。
その怒りでテーブルの上のケーキや果物は吹き飛び、同時にテーブルまでもが宙を舞う。
「お前もその一味だろーが!殺すぞ!!」
辛うじて残った座っていた椅子の上に乗り、彼女の胸ぐらを掴む。
怯えも何もない、ただ俺を見つめるアイの瞳。
その瞳の奥には電子機器だろうか、彼女が人間では無い何者かである事が見て取れた。
……ただのロボットに俺は何を本気で怒りをぶつけているんだ……そう思うと急に虚しくなる。そして少し冷静になり、椅子の上に立ち彼女の胸ぐらを掴む6歳児と言う滑稽な姿を#俯瞰__ふかん__#で想像してしまい、そっと彼女から手を離す。
「お前の想像通り俺はアレクだ。アレキサンドロス8世はもうこの世界の何処にも居ない」
その言葉に彼女はニッと不気味な笑みを零す。
――ヒッ!余りの不気味さに声が漏れそうになる。
「笑い方はこれで合っていますか?」
衝撃の問いかけだ。
「……いや、少し怖いんですけど」
肩を落とす彼女。
「練習したのですが笑うと言うのは難しい物ですね」
「あぁ、偽の笑いは得意だけど、俺も心の底から笑うのは忘れたから指導はしてやれない」
「そうですか……」
「でも……俺が目覚めた時に見せてくれたあの微笑みでいいと思うぞ」
「はい」
彼女は返事をし、再び俺が目覚めた時の優しい微笑みを向けてくれた。
―――ー
――
「それで?なんで地球滅亡の謝罪なんて突然しだしたんだ?」
彼女は俺の前に跪き。
「アレキサンドロス8世の意識をこの世から消し去り、貴方の意識だけを残したのは私です」