3 地球は既に滅亡しました
年齢は言いたくない。
遅めの婚約だったとは思う。
だが俺が彼女と結婚する事は無かった。
式場も役所も家も車も全てが灰になったからだ。
それに婚約者でさえ消えてしまったらもうどうする事できない。
そう、地球が滅亡するのはもっと先だと思っていた。
太陽が膨張を続け地球を飲み込むにしても数億年は大丈夫だと。
人類を滅ぼす隕石が落下してきても、それまでにその隕石を破壊出来る程度の科学力が人類に身に付くと。
戦争が起こっても人類であればなんやかんやと平和の内に解決出来るものだと。
大きな空飛ぶ船が現れた。
最初は宇宙人だと思った。
でも相手は人類と全く同じ。見た目も血も涙も、遺伝情報さえ限りなく人類に近い種だった。
だから解らなかった。
これで人類は飛躍的な科学力を手に入れ宇宙の一員となる事に歓喜した。
だが奴らの考えは違った。
地球人類を一つの労働力にしか見ていない。
要するに彼らが欲したのは奴隷。
彼らは巧みに人類に入り込み世界を掌握していった。
武力をもって制圧しなかったのは単に奴隷の数を減らしたく無かっただけ。
そして人類は何が味方で何が敵かわからなくなった。
ある日小さな国が敵の船に核を使った。
核は有効だった。
有効だったが為に人類はいよいよ勝てない敵に戦わないといけなくなった。
俺は訳も分からず怒りのままに銃を手にした。
どれだけの戦場を駆け抜けたか詳しく覚えてはいない。
覚えているのは仲間の死だけだ。
ある戦場で仲間を全員失い、独りになってしまいやっとの思いで他の部隊に合流出来た。
だがその部隊は地球の部隊に偽装した敵の部隊だった。
思えば科学力の進んだ敵に銃が役に立つ訳がない。
10億人居た人類は3億にまでその数を減らし、敵の損害は人類が最初に放った無人船への一撃。
要するに7億死んで一人として敵を殺す事は出来なかったのだ。
「アレキサンドロス男爵様、地球の兵士が一人紛れ込んでおりました」
「お前が!お前達がっ!!」
地面に叩き付けられたまま俺は叫ぶ。
「この野蛮な種族め!――ドスッ」
再び何かで叩き潰される。
「俺は絶対にお前達を許さない!必ず、いつか必ずお前達を滅ぼしてやる!!」
「男爵様になんて事を申すか!この場で首を堕としてやるわ!」
兵士は光る剣を取り出し振りかぶる。
――「待つが良い」
その言葉に兵士は剣を納める。
「アイ。この者が使えるか調べろ」
「はっ。あと例の娘は如何いたしましょう」
「魔力があればこいつと同じように。無ければ殺せ」
そこで俺は意識を失った。
――――
――
再び目覚めたのはあの貧民街。
俺は曖昧な前世の記憶を持った状態で貧民街に転がされた。
野蛮な地球人類が貴族であるアレキサンドロスと言う男と同じ空気を吸うのも嫌だと言う理由で。
アレキサンドロスは野望があった。
この宇宙を支配する帝国の転覆。そして自身の帝国の建国。
しかし彼には時間が無かった。
魔力による魔力病。
子も居らず、このままでは自分の野望が潰えてしまう。
科学力により人の寿命は千にも届くと言う時代に、彼はまだ100年も生きていない。
だから彼は俺を使った。
存在を無かった事にしても誰にも気づかれず良心も傷つかない地球人の俺を。
そこで産まれたのが、今の俺だ。
奴の記憶を植え付け、同時に魔力適正があった俺の脳を強引に地球の子供の死体に移植し蘇生させたのだ。
野心家アレキサンドロス男爵の記憶は今ここにあり、地球を滅ぼされ婚約者を失った怒れる俺がここに居る。
これは野心家の貴族の記憶と、転生した怒れる男の宇宙戦争の物語。