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つくりたいだけなのに  作者: なちゅね
第一章
9/25

第9話 俺の船を造るからには処女を頂きます

アウト!?セーフ!?

「ぐふふ ここの穴はもう少し広げて、こっちはもう少し長い方が奥まで入るな、そして発射!っと 気持ちよく飛び出す姿が目に浮かぶな」


俺ことレオンは書き上げた新たな設計図を眺めていた。


「後は金属の強度問題かなぁ、こればかりは試してみないと分からないなぁ」


俺は椅子の背もたれに寄りかかりながら足を伸ばして、3日前の事を思い出す。


熱晶石の粉をファイアーピストンで圧縮したらどうなるか試したあの日、圧縮した瞬間に熱晶石の粉は文字通り爆発した。あれから何度か試したが何度やっても同じ結果だった。


「でも、これは不味いよなぁ」


俺は書き上げた設計図を改めて見直す。

書き上げたのは名付けて圧縮砲、飛ばす物体である弾と熱晶石の粉を金属の筒に詰め、蒸気機関を利用してボンベに空気を圧縮して貯める。

そして圧縮空気をボンベから金属の筒へ一気に送り込み熱晶石の粉を爆発させて弾を発射する代物だ。


俺の得た知識ではこういった物を砲と言いう様だ。

圧縮した空気を使うので圧縮砲と名付けてみた。


あれから熱晶石の粉を更に細かくして握ると粘土のように固まる事も新たに分かった。

固めて空気に触れないようにして置けば使いやすいだろう。


しかし俺は何をやっているんだろうか?

空魚を捕まえ、空魚が空を飛ぶ謎を解明して、いずれは空飛ぶ船を作りたいと言うのに。

こんな危ないもん考えてていいのだろうか?


砲は火薬なる物を使うものという知識が俺にはあるのだが、同時にその危険性の知識もある。

火薬の作り方は難しく無いがレオンが6歳までに得た知識に火薬に該当するものは無い。


ガレリア連合王国とシャルビス帝国は長年戦争をしていたからそういう危険な代物もあるのかもしれないが、まだ無いかもしれない。


とにかく俺はそんな危険物の生みの親としての名前は残したくはない。

俺が名前を残すなら空飛ぶ船を造った人としてだ。


明日は蒸気機関のパーツが納品される日だ。

マルティナはしっかり届けてくれるのだろうか?間に合わなかったら母上に謝るしかないな。


そう言えば母上は熱晶石の鉱山を買う気でいたけど、そんな簡単にいくのだろうか?

鉱山のような利権は領主や大商人が抱え込んで簡単に手に入るようなものではないはずなのだが、母上にどうなったか聞いてみるか。


俺は圧縮砲の設計図をしまうと母上の仕事部屋に向かった。


コンコン、「レオンです」

「どうぞ」


扉を開けると親父のハワードもいた。


「お取り込み中でしたら出直しますか?」

「構いませんよ、レオンにも関係ある話でしたから」

「思い当たることばかりで分かりませね、どんなお話でしょう?」

「ついにモニカとお前が言ってた事が起きたんだ! 連合王国から受注してた輸送船のキャンセルだ」

「ついに来ましたか、それは全ての受注をキャンセルされたので?」

「いいえ、また一部の商人からのみですよ。ですが時間の問題でしょう」


俺のいるグラノヴァの町があるレダイル大陸と、東隣りにある連合王国の商人がいるガレリア大陸とは距離があるから造船依頼のキャンセルをするにも商人によって時間差があるということだろう。


「では蒸気機関の重要性が増しますね。母上、先日の熱晶石鉱山の件はどうでしょうか?確保出来そうでしょうか?」

「おいおい、うちは造船所だぞ?鉱山経営にまで乗り出すのか?」

「親父、蒸気機関の燃料には熱晶石が最適そうなんだ。燃料になる熱晶石を大量に安定供給出来ないと蒸気機関だけ作っても動かないから売れないんだよ」

「ハワード?相談もなく進めてごめんなさいね。テーヌ川の上流にある熱晶石鉱山から蒸気機関を積んだ輸送船で熱晶石を大量輸送する計画があるのです。これが実現すれば熱晶石の原価を大幅に下げられますから、鉱山を経営しても全く問題ないのですよ?」

「モニカのやる事なら間違いないと信じてるからまぁいいさ」


親父は母上への信頼がすごいな。

普通いきなり鉱山買うなんて言ったら絶対に止めるだろうに。


「レオン?都合よく熱晶石鉱山が売りに出ていたのですが、様子がおかしいのですよ」

「何か問題が?」

「熱晶石鉱山に限らず、他の金属鉱山や木材の伐採権利までこのグラノヴァ一帯が大売出しのバーゲンセール状態になっていました」

「なんだそりゃ?この辺一帯は殆どネブラスカ男爵家が所有してたはずだろ?男爵が売りに出しているのか?」

「私も気になって調べたのですが、やはりネブラスカ男爵家が売りに出しているようです。先月男爵の不正調査のため王都より査察団が派遣されて来た事が影響してるのかもしれませんね」


ネブラスカ男爵が不正行為?

慌てて資産を手放して現金化を急いで何をしようというのだろうか?

それしてもそんな一度に大量に売りに出したら・・・


「そんなに一度に大量に売りに出したら男爵が現金化を急いでいるのを見透かされて買い叩かれるんじゃないですか?」

「ええ、だから買い叩いてきましたよ。ホホホホホホ」


母上はそう言うと手で口を隠しながら笑っていた。

満足のいく内容の買い物が出来たようだ。


「モニカ!既に鉱山買っていたのか!?レオンの蒸気機関が失敗したらどうするんだ?」


母上の金銭感覚はどうなっているのだろうか、鉱山なんてポンポン買える額じゃないはずなんだがな。

買い叩いたって、口ぶりからすると複数買ったような感じなんだけど聞くのが怖いからやめておこう。


「ハワード?これは先行投資ですよ?蒸気機関を積んだ船を本格的に売り出す前に燃料となる熱晶石は大量に保管しなければなりませんからね。それに鉱山開発や輸送ルートの整備はどうしても時間がかかりますから迷っている時間はないのです」

「俺は造船技師だから先を見た経営やらの難しいことは良く分からん!とにかく俺は蒸気機関を積んだ船を造ればいいんだな?」


親父は難しい事は考える事自体放棄したようだ。


「親父、造船は任せたぜ!俺は新しい船をどんどん設計していくから、どんどん造ってくれよな!」

「おう!任せときな! 久しぶりに造船技師の血が騒ぐぜ! そういえば蒸気機関の部品が届くのが明日だったよな? 前も言ったが組み立ては俺も手伝うからな!」

「レオン?私も蒸気機関で動く船に乗ってみたいのですがいつ頃なら乗れますか?」


母上も船に乗る気なのか。母上は船に乗るのは苦手のはずだが、これからは蒸気機関に賭けるから自身で体験しておこうという事だろうか。


「母上、お約束した7日までは後2日あります。2日後の午後には動く状態にできると思いますのでその時でいかがでしょうか?」

「モニカが乗るなら俺も乗るぞ!船は乗らなきゃ分からないこともあるからな!」

「蒸気機関を積んだ船の造船は親父任せになるだろうから蒸気機関を理解してもらうためにも親父には絶対に乗ってもらうからな!」

「それではレオン?2日後の午後を楽しみにしていますね」

「母上のご期待に沿えるように全力で取り組みます」


なんかもう蒸気機関の部品が届いて動く前提になっているけど本当に大丈夫か心配になってきたな。

設計図は完璧に書けていたと思うけど、マルティナに図面通りの寸分の狂いのない部品を納品してもらわないと意味が無い。

部品に少しの誤差があってもピストンがスムーズに動かなかったり配管の結合に隙間ができたり、今までにない精度を求められるんだけど・・・手直しは覚悟しないとだめだよなぁ。


「レオン?蒸気機関には大量の金属が必要でしたね?バーゲンセール状態だったので金属鉱山の権利も買ってあるのですが、有効活用する案はあるかしら?」

「母上・・・いくら何でも案も何もなしに先に買うのはどうかと思いますが」


女性はバーゲンセールに弱いのだろうか?

それよりバーゲンセールで売ってる鉱山ってなに?

そんなポンポン買えるものなの?

母上どれだけお金持ってるの?訳がが分からないよ・・・


「それで何かいい案はあるかしら?」

「はぁ・・・思い付きではありますが、反射炉と言いまして金属を大量に溶かす炉があります。燃料は熱晶石が大量に使えるようになるのですから蒸気機関を使って熱晶石に空気を大量に送って温度を上げれば反射炉で大量に金属を溶かして加工できるかと」


しかし母上の先走りではあったけど金属鉱山は必要だな。

蒸気機関はこれから大型化するから大きな金属の塊を加工するために反射炉位は必要になる。

グラノヴァの街中で大きな金属部品を加工するのはスペース的に大変だろう。

ならばいっそのこと・・・


「母上、いっそのこと金属鉱山付近に反射炉を建設してはいかがでしょうか? 大きな船を動かすには大きな蒸気機関が必要となります。金属部品も大型化するので金属鉱山付近で部品を製造し、グラノヴァまでテーヌ川を使って船で輸送してグラノヴァの造船所で組み立てるのがよろしいかと」

「なるほど中々良い案ですね、ではその様に進めるとしましょう」

「では母上、反射炉の設計図と使い方の説明書を用意しておきます」

「レオン?よろしくたのみますね」


知りたかった鉱山の状況もわかったので俺は自分の部屋に戻って反射炉の設計図と使い方の説明書を書き上げた。


そして次の日、いよいよ蒸気機関の部品が納品される日だが・・・・


「マルティナ・・・納品はいつ頃だろう・・・夜に納品されてもなー」


納品時間の指定をしていなかったことに気づいた俺は、今後の事を考えて大型蒸気船の素案考えることにした。


船の設計を考えるのはやはり楽しいな~こんな生活を毎日送りたいものだ。大型輸送船の推進器は何にするかな~順序を踏むならやはり簡単な外輪船からかな?両側に2つの水車型の外輪をつけるか、船尾に1つ付けるか、それとも一気にスクリュー推進器まで進めてしまおうか・・・悩みどころだ。


輸送船なら荷の積み下ろしが必要だから側面に推進器をつけるのは駄目だな。そうすると船尾に水車型推進器かスクリュー推進器か・・・しかし俺は既にスクリュー船の方が外輪船より優れている事を知識として知っている。


「わざわざ性能の劣る外輪船を造る必要はないか・・・よしっ!大型輸送船はスクリュー船にしよう」

「おいレオン聞いているのか!?」


俺は肩をつかまれて見上げると親父が居た。


「なんだよ親父、船の設計で思案中なんだ邪魔しないでくれよ」

「おまえは船の事になると相変わらず周りが見えなくなるな~ 商業ギルドから納品に人が来たぞってさっきから呼んでるのにまったくお前は」

「あーやっと来たのか、悪い親父話は後だ早く行こう」


俺と親父は納品に来た人から納品物を受け取りに向かった。

納品に来ていたのはマルティナとドレッドだったが、ドレッドはひどい顔だな目の下に濃いクマが出来ている。


「やぁ、マルティナ依頼通り5日で納品できたみたいだな、助かるよ」

「レオンさん約束通り期限を守って納品にきましたよ。さぁ約束です!専属契約してください!!」


そう言うとマルティナは納品確認書と専属契約の書類を俺に差し出してきた。


「まぁまてまて、まずはしっかり設計書通りの物が納品されているか確認くらいさせろよ」

「それはそうですね。嬉しさのあまり先走りすぎましたすいません」


マルティナは恥ずかしそうにしながら、それを隠すようにドレッドを呼びつけると、ひどい顔をしたドレッドが荷車を曳いてやってきた。


「よぉドレッド5日ぶりか?ずいぶんひどい顔になったな~どうしたんだ?」

「よぉ坊主!聞いてくれよ マルティナ嬢が5日間毎日毎日部品作りの間、ずっと俺たちを監視してくるんだ。しかもちょっと休憩したらサボるなって蹴ってくるんだよ。おまけに炉を冷やすと再度使うまでに時間がかかるからって昼夜問わず作業指示書を置いていくんだ。自分は帰って寝てるのによー。お陰で俺は俺を蹴ってくるマルティナ嬢の夢まで見たぜ」

「何よドレッド、私が毎日監視して作業の進捗を管理しなかったら確実に5日で納品なんて出来なかったでしょう? ドレッド達は目を離すとすぐにサボろうとするんだから」

「鋳造は神経を使う場面が多々あるんだ。集中するためにも適度な休息は必要なんだよ・・・とはいっても確かにマルティナ嬢の監視がなければ今日中に納品は無理だったな。ほら坊主、これが設計図から作った部品だ」


そういってドレッドは曳いてきた荷車を俺に引き渡す。

俺は積んであった完成した部品を1つ1つ設計図通りか確認していく。

これは素晴らしい出来だな。

しっかり磨いて手抜きなく作られているぞ。


「これはこれは、ドレッドは腕がいいんだな。手抜きなく設計図通りにできてる完璧だよ。正直短期間での納品だったからある程度の雑な作りは覚悟してたんだ」

「この部品の設計図は坊主が書いたんだってな。こんな分かりやすい設計図初めて見たぜ、おかげで鋳造の型作りが楽だったよ」

「レオンさんっ! ドレッドばかり褒めてないで私も褒めてくださいよ!! あれだけの設計図を短期間で納品まで漕ぎ付けた私の管理能力も褒めるべきですよっ!」

「わかったわかった。マルティナには感謝してるよ。約束通り専属契約書にサインしようじゃないか」


そう言ってマルティナが持っていた納品確認書と専属契約書に俺はサインする。


「やったわー!!ついに初めての専属契約をとったーー!!」


マルティナがぴょんぴょん跳ねながら外聞も気にせず喜んでいる。

そんなに専属契約が欲しかったのか。

これは仕事をどんどん依頼してあげないとな。

幸い今後は金属加工の仕事には事欠かないからな、あれだけ喜んだことを後悔するくらい仕事を依頼してやる。


「レオンさん何ニヤケているんですか?レオンさんも私と専属契約できて嬉しいんですね?」

「いやー仕事が出来るマルティナと専属契約出来てうれしいなーと思ってね、幸い今後金属加工の仕事をどっさり依頼することになりそうなんだ。専属契約したことを後悔しないでくれよマルティナ?」

「お任せくださいレオンさん!依頼はきっちりこなして見せますよ!」

「マルティナ嬢、納品は済んだから俺は帰るぞ!ここ数日ゆっくり寝れなかったから眠くてしょうがねぇ、俺は帰って休むとするわ」


そういってドレッドはあくびをしながら帰って行った。


「おーい親父!この蒸気機関の部品を俺の船の所に運んでおいてくれ!」

「おいレオン、まずはそこの嬢ちゃんの紹介をしてくれよ。お前の彼女か?」


隠れるようにして見ていた親父がニヤニヤしながら寄ってくる。

俺が女の子と楽し気に会話していたから変なことを考えているに違いない。


「何言ってるんだよ親父、こちらは商業ギルド見習い受付担当のマルティナだ。俺の依頼を完了してくれたから今日から俺の専属担当になってったところだよ」

「初めまして、マルティナと言います」

「おう!俺はレオンの親父のハワードだ、このハワード造船所の主とは俺の事だ」

「えっ!?ハワード造船所の経営者ってモニカさんじゃないんですか?」

「マルティナ、この造船所の名前の通り親父が名目上は主なのは本当だ。母上は経営全てを取り仕切っているから事実上の経営者は母上で間違いないよ」

「モニカは出来る女だからな!適材適所ってやつだ。じゃあ俺はこの部品をお前の船の所に運んでおくぞ」


親父は早く蒸気機関の船を作りたいのか荷車を曳いて行ってしまった。


「レオンさん!私にモニカさんを紹介してくれませんか?」

「あぁ、そう言えば母上に憧れてるとか言ってたか、でも今日は仕事で居ないんだよ。明日の午後なら間違いなく居るからまた来れば紹介してもいいぞ」

「分かりました!明日の午後ですね!必ず来ますからね」

「依頼料の代金はその時に母上から受け取ってくれ」

「モニカさんに会ういい口実ですね うふふ」

「それはそうと、あの納品した部品は何なのか聞いてもいいですか?」


商業ギルドはあくまで依頼者と職人の仲介をする所だから依頼者の仕事内容を詮索することはしないのが暗黙のルールなはずだったが・・・。


「気になるか?」

「普通は依頼人の依頼内容を詮索しないのが鉄則なのは心得てますが、これでも私、書類整理ばかりしてたので設計図なんかは見慣れてるんですよ。それでもレオンさんの設計図は見たことない部品の設計図ばかりだったので気になりまして、レオンさんが話したくなければそれでも構いません」


うーむ、蒸気機関はこれからうちの主力製品になる代物だ。

量産体制ができる前に気軽に見せていい物だろうか?

マルティナにはこれからも金属部品の発注をするから俺は構わないが、ここは母上の判断が必要なところかな。


「この部品は母上が支払いをするから、母上にも聞いてみないといけないと思うんだ。明日、母上が居るのもこの部品関係だからその時に聞いてみるよ」

「うふふ モニカさんと色々お話出来そうですね それでは今日はもどりますね。レオンさんの専属になったからには頑張りますから期待しててください!」

「おう、マルティナまたな」


マルティナを見送った俺は親父が待つ俺のスクラッパー号のある廃材置き場へ向かった。

親父は運んだ蒸気機関のパーツを荷車から下ろして並べ終わって俺を待っていたようだ。


「遅かったな早く組み立てようぜ」

「急かすなよ親父、図面はこれだよ」


俺は蒸気機関の完成図と部品毎の設置場所の書かれた分解図を親父に渡した。


「こっちの面が下だから重そうな部品からこの船に取り付けてくれ」


蒸気機関のパーツはバラバラとはいえ金属の塊ばかりで子供の俺では持ち上げるのがキツイのもかなりある。

滑車を使ったクレーンでも作ろうかと思ってたが親父が手伝ってくれるのは正直助かる。


「なるほどな、しかしこの図は見やすいな。俺が組み立てていくからお前は指示だけ出してくれ」

「助かるぜ親父、そうさせてもらうよ」


組み立てて行くとパーツの噛み合せの悪さや、しっかり磨いてあるので、隙間は無く、稼働部分は驚く程なめらかに動いた。


「ドレッドの職人技には驚かされるな。初見の部品をこれ程までの精度で作るなんて、もっと悪戦苦闘すると思ってたよ」

「そりゃ職人の腕もあるだろうが、これはお前が書いた設計図の精度が凄いんだ。普通こんなに精密に書かないぞ? こんな設計図渡されたら寸分違わぬ物を作らないと設計図と違うと文句を言われるからな」


職人は経験と勘で結構曖昧な部分がある。

同じ大型船の図面で船を造っても船毎に何メートルかの誤差が出るのは普通にある事なのだ。

その誤差が船の特徴になったりもするのだ。


「よし!親父それで最後だ。船にしっかり固定してくれ」


いよいよ蒸気機関の試運転だ。まずは廃材置き場に置いたままの状態でスクラッパー号の船尾に取り付けた水車の推進器が動くか確認する。俺は水を蒸気機関のタンクに入れると燃焼室に熱晶石を入れて板で仰いで風を送った。


俺の作った蒸気機関はボイラーで蒸気を作り、ピストンを動かしてからシリンダー内の蒸気を冷却用のパイプへ逃がす。

そして蒸気を冷やして水に戻し、またボイラーで水蒸気にして再利用する方式だ。そのため基本的に水の補給は必要ない。

蒸気を冷やす部分は船に搭載する蒸気機関なので船の外に出して豊富にある海や川の水を利用する設計にしてある。

そのため陸上で長時間は使えないが、まずは蒸気機関が動くかとどうかだ。


しばらくするとゆっくりとシリンダー内のピストンが動き、ピストンが蒸気から作り出した上下運動をクランクで回転運動に変える。

そして水車型推進器の歯車に動力を伝えると水車型の推進器はゆっくりと回りだしたのだった。


「おおっ!動いた!本当に動いたぞ!!!」

「あぁ、動いたな」


親父は初めて見る動く蒸気機関に興奮しているようだ。

俺は知識として動くのを知っているし、知識の中では動いていた物を設計図に書き起こしただけだが、それでも自分で作り実際に動くのを見ると感無量と言った所だ。


本来であれば試行錯誤を何度もして改良に改良を重ねて多額の資金も使って実用化に漕ぎつけるのだから俺はズルをしているな。でも俺は空飛ぶ船を作る目標のためなら何だってやってやる。


蒸気機関が動いたことで大人の信頼は得られるだろう。

これからは空を飛ぶのに必要な技術をどんどん生み出していくのだ。


「親父!実際に推進器として使えるか海の上で試してみるぞ」

「早くやってみようじゃないか!帆が無くても船が進む船を見たいぞ」


俺と親父は船を海に入れ、この世界で初めて蒸気機関を積んだ船に乗った人間になった。


「蒸気船スクラッパー二世号の処女航海だ!」


推進器の水車は順調に回り出し、蒸気船スクラッパー二世号はゆっくり、そして速度をあげて進んで行った。


「レオン!これかなり大変だぞ!」


親父はスクラッパー二世号の処女航海中ずっと熱晶石を板で仰いで風を送っていた。


「親父!雰囲気が台無しだろ。今は全力で熱晶石に風を送ってくれ」


しかしなぁー普通こう言う感動的なイベントなら一緒に乗るのは可愛い女の子と相場が決まっているんじゃないのか?

現実は厳しいな。

そう思うと俺は知り合いの唯一の女の子であるマルティナを思い浮かべたのだった。




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