第7話 俺の船を造るためならトライ&エラーでイレギュラー
スクラッパー!
俺は寝起きの良い朝を迎えていた。
商業ギルドに出した蒸気機関の部品が納品されるまで後4日、それまでに蒸気機関を載せて試運転を行う船を作る必要がある。
俺は廃材から造り空魚に吊り上げられた愛着のある三胴体の小船、スクラッパー号を改装する事にした。
ゼロから全部作るには時間が足りないが改装なら1日もあれば終わるだろう。
俺は近場の出店で朝飯を済ませて造船所の廃材置き場へ向かった。
ここは廃船を解体したり捨てるものをまとめて置く場所となっている。
俺は係留してあったスクラッパー号を移動すると丸太をいくつか廃船置き場からスクラッパー号の所まで並べて置いていく。
スクラッパー号をロープで縛り廃船置き場の滑車を使ってロープを引っ張り陸揚げする。
滑り止めを置いて船を固定してから使えそうな廃材を探しに行く。
いくつかの使えそうな板材や舵輪やらを取ってきたら作業開始だ。
まずは三胴体の中央胴体を後尾に延長して試作の蒸気機関を載せる場所を確保する。
両側の胴体も中央より長く後方に延長して推進力となる水車の軸受けを取り付ける。
水車は廃材の舵輪2つと板材8枚を組み合わせてサクッと作成した。
廃材は加工済みの物が大半なので使えるところは有効に活用すれば製造時間を大幅に短縮可能なのが利点だね。
トンテンカントンテンカン ギーコギーコ トントントンっと船を造っている間は幸せだ。
俺の思い描いた船が俺の手で段々形になっていく様はたまりませんよ!
中央胴体の船尾に水車を取り付け軸を両側の胴体に設置した軸受に固定する。
中央胴体には蒸気機関の設置で重量が大幅に増えるので十分な浮力を両側の胴体で支えられる様に中央胴体と両側の胴体との連結部分の補強も忘れずにしておく。
いざ蒸気機関を載せて出航したら中央部分が重すぎて沈み、左右の胴体との連結部分がへし折れでもしたら目も当てられないからね。
マストは外そうかとも思ったが蒸気機関に不具合や故障して動かなくなったりした時に自力で航行出来るように残しておいた。
舵は元々中央胴体の船尾に付けていたが推進器を取り付けたので置けなくなってしまった。
仕方ないので両側の胴体の後尾にそれぞれ1つずつ設置した。
胴体の中に舵を左右に操作するロープを伸ばし中央の胴体で繋いで2つの舵を離れていても同時に操作出来るようにしておく。
後は水車型の推進器に動力を伝える歯車を取り付けてひとまず完成だ。
商業ギルドに依頼した蒸気機関の部品が無事納品される事を祈りながら待つとしよう。
「おうレオンやってるな!」
声をかけてきたのは親父のハワードだった。
「なんだよ親父、暇なのか?」
「休憩だ もう昼だぞっと」
親父は紙の包みを投げてよこす。
俺は慌ててキャッチし損ねた。
拾って中身を確認すると硬いパンのハムサンドだった。
「気が利くな親父」
俺はハムサンドにかぶりつくと親父もハムサンドを食べながら俺が改修した俺のスクラッパー号を見てまわる。
水車型の推進器を手で回したり、両側の船体船尾に2つある舵を動かしたりしてなにやら確認しているようだった。
「はーなるほどな お前が言ってた帆が無くても動く蒸気機関の船ってのが分かってきたぞ」
「親父、暇なら4日後に蒸気機関の部品が納品されるから組み立てを手伝ってくれよ」
「なに!?そんなに早くできるのか?設計図も無いんじゃなかったのか?」
「設計図なら一晩で書き上げたぞ 昨日のうちに商業ギルドに部品の発注依頼済みだ」
俺は驚いた顔をしている親父に対してドヤ顔をしてやる。
「4日後だな よし分かった造船技師の端くれとしては新しい船の完成は見逃せないからな 今更断っても来てやるからなハッハッハー」
親父は俺の背中をバンバンと叩いて仕事に戻って行った。
さてと、腹ごしらえも済んだ、相棒のスクラッパー号の改修もあらかた終わったし、次は蒸気機関の燃料の検証でもしてみるかな。
そう思った俺は昨日買っておいた熱晶石と検証のための道具を用意しに行く。
現在熱晶石で分かっている俺の知識は以下の点だけだ。
①熱晶石は空気に触れると発熱する(放置で80度くらい)
②熱晶石は水に入れて保管する(空気に触れなければ発熱しない)
③熱晶石は空気を送れば送るほど発熱する(ドレッドの鍛冶屋情報)
④熱晶石の熱量を上げるには砕いて表面積を増やして風を送る(金属が溶ける温度まで上がる)
⑤熱晶石は熱を出し尽くすと消えてしまう、煙は出ない
俺はいくつか疑問があった。①は一般家庭で使われる方法で疑問はない。②も一般的な保存方法で今のところ疑問はない。④は合理的だから疑問はあまりない。
だが③⑤は疑問ありだ。俺の得た知識では空気には性質の異なる気体が混ざっているらしい。主な気体は大部分が窒素、次に酸素と呼ばれる気体、それにほんの少しの二酸化炭素が混ざっているようだ。
熱晶石が何と反応して熱くなるのかは今後熱晶石を使うからには知っておく必要がある。
まずは空の瓶に水から出した熱晶石を入れて蓋をする。
瓶越しに熱晶石の熱が伝わってくるが暫くすると冷えてきた。
やはり熱晶石は空気中の何かと反応して熱を出し何かを消費し尽くして発熱出来なくなたのだろう。
次に蓋を少しだけ開けて紙に火を付けて放り込み直ぐにまた蓋をする。
紙は少し燃えて直ぐに燃えてる途中で消えてしまった。
紙が燃えたことから瓶には酸素があり、熱晶石が反応しているのは酸素では無いのがわかった。
今瓶の中には酸素を燃やしたので二酸化炭素と窒素が大半を占めてるはずだ。
再び熱晶石を瓶越しに触るが熱くない。
どうやら反応している気体は酸素や二酸化炭素ではないようだ。
では残った窒素が反応しているのだろうか?
窒素だけを取り出して確認したいが窒素のみの分離は俺の知識によると今用意できるものでは簡単には出来ない。
俺は水桶に水を張り蓋の空いた瓶を逆さまに入れ空気が漏れないように水中から瓶の中に熱晶石を入れてみた。
熱晶石は発熱するとみるみる瓶の中に水が引き込まれて行く。
どうやら熱晶石と反応して瓶の中の何かの気体減ったのだろう。
だいたい瓶の1割程度水が入り込み熱晶石の発熱は終わったようだ。
俺の知識では窒素は空気中の7割近くを占めているようだが瓶の中の消費された気体は1割程度のようだ。
「うーん計算が合わないな」
考えられる事は3つくらいだろうか
A.窒素と反応して体積が減り、酸素と二酸化炭素以外の気体になった
B.俺の知らない成分の気体、もしくは調べていない気体が空気に多く含まれている
C.俺の得た知識の常識がこことは異なっている
俺の得た知識には時折存在しないものがこの世界には存在している。
今の所は空魚や熱晶石がそうだ。
俺の得た知識は一体何なのだろうか、過去や未来の知識ではなく全く別の世界の知識なのだろうか。
俺は考え込むが答えは何も出ない。
BとCは十分にあり得るが得た知識と一致しないところがあるからCなのかな、
何よりCの方が楽しそうだし。
熱晶石に反応する気体ついては水の中に入れずとも謎気体が含まれなければ保管できることがわかっただけでも収穫だ。
俺は次の実験に取り掛かる
熱晶石を台に固定して鉄のヤスリでガリガリ削る。
削ったそばから地面に落ちる前に発熱して消えていくようだった。
落ちる際に空気に強く当たっているからだろうか。
俺は水桶に熱晶石を放り込むと水の中で削り始める。
今度は水の底に熱晶石の粉が溜まり始めた。
ある程度削ったら俺は知識から得た道具を作り始める。
木の棒と縦に切った角材に棒に合わせた細長い溝を掘る。
切った角材には粘土を塗りつけてくっ付け隙間がないようにしてから外れないように木の枠を削り出してはめ込んだ。
しっかり固定して完成だ。
テッテレー『ファイアーピストン』
頭の中に変なメロディが流れたがまぁいいや、空気を急激に圧縮すると物を燃やすほどの熱をだすらしい。
それを利用したのが火起こし道具のファイアーピストンだ。
俺は糸くずを丸めて棒の先に取り付けて棒を溝の入口に差し込むと逆さまにして棒を地面に叩きつけ溝に押し込んだ。
棒を取り出すと糸くずが焦げて煙を上げていた。
どうやらファイアーピストン作りは成功したようだ。
「さてこれを入れたらどうなることやら」
俺は独り言を口にしながら先程作った水桶の底に沈んでいる熱晶石の粉を見る。
濡れた熱晶石の粉をひとつまみしてファイアーピストンの棒に付けて溝の入口に差し込んでから再び勢いよく棒を地面に叩きつけた。
「「パンッ」」
大きな破裂音がして手に持っていたはずのファイアーピストンの本体が消えていた。近くには差し込んだ棒がコロコロと転がっている。
何が起きたか一瞬分からずファイアーピストンの本体を探すと近くから「カーンカラカラ」何かが落ちて転がる音がした。
それはファイアーピストンの本体だった。
評価?投稿設定ワンクリックにしてほしい