第5話 俺の船を造るには燃料が必要だ!
鍛冶職人登場!
「ここがドレッドの鍛冶屋か」
俺は鍛冶屋の前に立っていた。商業ギルドの見習い受付嬢であるマルティナに紹介された鍛冶屋だ。
早速俺は中に入っていくと声をかけられた。
「だれだおめー?客か?」
「俺はレオンだ。あんたがドレッドか?今日は客ではなく鍛冶工房の見学したくて来たんだが、見学は可能か?」
「初対面で呼び捨てかよ、最近のガキは目上に対して礼儀がなってねーなおいっ! 客じゃねーなら帰りな!ガキの道楽に付き合うほど俺は暇じゃねー」
「まぁまぁそう言わずに、マルティナってやつからここなら見学させてくれるかもって紹介されて来たんだ」
「なに!?マルティナ?それは商業ギルドのマルティナ嬢か?」
「マルティナ嬢? 俺を紹介してくれたのは商業ギルドの受付見習いのマルティナだぞ?」
「ああぁそうか坊主はしらんのか・・・まぁいいマルティナ嬢の紹介ならしかたねぇ付いてきな」
マルティナの名前を出したらあっさり見学を許された。マルティナ嬢って呼び方は気になったが、商業ギルドに7歳で見習いに出されるくらいなのだから実家はどこぞの商家でドレッドの鍛冶屋と取引でもあるのだろう。ということはマルティナは商家の令嬢か何かかな?しかしマルティナには借りが出来てしまったな。俺は勝手に想像して奥に入っていくドレッドに付いていく。
「で?おめーは何を見学したいんだ?」
「鍛冶で使ってる金属を熱する炉とかある思うんだが、その炉を熱している燃料と温度の上げ方を知りたいんだ」
「はぁ? 金属加工じゃなくて炉の燃料だ? 加工技術じゃないなら俺からは特にいうことはねぇ好きに見て行きな」
「ああぁ助かるよ 早速だが燃料には何を使っているんだ?」
「なにっておめぇー火を使うんだから熱晶石にきまってるだろーが」
「熱晶石?空気に触れると熱くなる石か?でもあれはお湯を沸かすほどは熱くならないと思ったが?違うのか?」
俺の知識では熱晶石は燃えない、燃えないので煙も出ない。熱くなると言っても80度程で一般的には自宅でスープやお茶、洗濯や冬場に使うお湯を作るときに使う認識だ。空気に触れると熱を出すので保管は壺の中に熱晶石を入れて水で満たして保管する。
「普通に置いといたら金属を溶かす程には熱くならんがこうするのさっ」
そう言うとドレッドは取っ手の着いた棒を引いたり押したしし始めた。俺の知識ではフイゴと呼ばれる風を送る装置だ。炉にフイゴでしばらく風を送ると中の熱晶石が赤くなってきた。
「熱晶石はこうやって短時間に風を送れば送るほど熱をだすのさっ、ある程度砕いて小さくしてやると風に当たる面積が多くなるからより熱を出す。小さくし過ぎるとすぐ熱を出し尽くして消えるがなっと」
ドレッドは取っ手の長いハサミの道具で炉の中に入れていた金属板を引っ張り出す。金属板は真っ赤に染っていて実に熱そうだ。
「熱晶石を大量に仕入れるとしたら大変かな?」
「俺は商人から買ってるだけだからな、同じ量の薪を買うよりは10倍は高いが金属を溶かすほどの高温を出すには熱晶石が手軽だからなー 輸送がどうしても水に沈めて運ぶため重くて難儀するだろうから高値になるのは仕方ねぇだろうな。量に関しては取り扱ってる商人に聞くんだな」
値段は高いが場所を取らない上に煙も出ない。いいぞいいぞ量さえ確保出来れば理想的な蒸気機関の燃料になりそうだ。問題は熱量をあげるためには風を送らないと行けないが、これは蒸気機関の動力を利用して送風機を取り付けれるなりの工夫でなんとかなるだろう。最初だけ薪でも燃やすかして蒸気機関を動かせればあとは蒸気機関の動力を利用した送風機と熱晶石だけで動かし続けられそうだ。
「ドレッド!見学させてくれてありがとう。大変勉強になったよ」
「なんだ急に? もういいのか?なら俺は仕事に戻るから気が済んだなら帰んな。マルティナ嬢によろしく言っといてくれや」
「いい事思いついたから次来る時は仕事の依頼になるかも知れないが、そんと時はよろしくな!」
俺はドレッドに礼を言って鍛冶屋を後にした。
帰り道を歩きながら俺は先ほど浮かんだ『いいこと』を考えている。俺の得た知識に熱晶石の事はないが、利用価値についての知識が幾つか浮かんでいた。
特に熱晶石を小さくして風を送ると熱をだして早く消える点だ。熱晶石を空気に触れないようにすり潰して粉にし、圧縮した空気を一気に吹き付けたらどうなるのか。熱を一瞬のうちに放出して文字通り爆発するのではないかという可能性だ。ぜひとも実験してみたい。
マルティナが蒸気機関の部品を納品するまで5日ある。それまでに試作の蒸気機関を載せる船と推進機を用意してあとは納品後に組み立てるだけでいいから1日あればいい。残り4日は熱晶石で実験してみるのもいいだろう。色々やりたい事ができて楽しくなってきた俺は途中の出店で昼飯を買い食いして帰宅した。
家に入るとリビングで母上がお茶を飲んでいた。
「母上、ただいま帰りました」
「お帰りなさいレオン?どこへ行っていらしたのかしら?蒸気機関の進捗は順調かしら?」
「はいっ!設計図を書き上げて本日、商業ギルドに部品を発注して参りました。5日後にここへ発注した部品を納品してもらう予定となっておりますので、支払いの方をよろしくお願いします」
「あらあらそんない急いでの納品では特別料金になってしまいそうですね。でもお金のことは心配いりませんよ。他に蒸気機関に必要なものはあるのかしら?」
「蒸気機関には湯を沸かす燃料が必要となりますが、今日は鍛冶屋を見学して熱晶石が燃料として使えそうだと分かりました。蒸気機関が完成したら熱晶石が大量に必要となりますので熱晶石の大量仕入れルートの確保をお願いします」
「あらあら今度は熱晶石ですか、大量となると輸送が大変なのですけど、安く大量に仕入れるのであれば熱晶石の鉱山ごと買ってしまった方がいいのかしら?」
「母上!熱晶石の鉱山が手に入るのであればぜひ確保すべきです。蒸気機関の時代ともなれば熱晶石は産業の基盤となります。今は鍛冶屋や一般家庭で少し使用される程度でしょうが、今後は戦略物資に格上げは間違いありません」
「でもレオン?大量輸送の問題はどうしますか?現在は桶に水と熱晶石を入れて馬車で輸送しているのが一般的で大量輸送は難しいのですよ?」
「母上、熱晶石の鉱山はどの辺りにあるのでしょうか?」
母上は席を立つと奥からグラノヴァ周辺の地図を持ってきた。
グラノヴァはレダイル大陸の東端に位置し、その周囲は山々に囲まれていて陸路でレダイル王国の王都まで行くのは悪路の山越えが必要であった。要はグラノヴァは陸からの往来が困難な陸の孤島である。
「ここがグラノヴァ、熱晶石の鉱山はこのあたり一帯となりますね」
母上が示したのはグラノヴァから西へ30km程の辺りにある比較的低い山々だった。近くには鉱山より奥地からグラノヴァまで流れているテーヌ川があった。
「母上、でしたらこのテーヌ川沿いの鉱山が買えるのであれば丸ごと買ってしまうべきです。鉱山からこのテーヌ川まで水路を開発します。そして熱晶石を網に入れ船の水面下に吊るすような感じで括り付けテーヌ川まで運ぶのです。そこで一旦集積してから大型船に乗せ換えてテーヌ川沿いに下り、グラノヴァまで運ぶのです」
「なるほど、グラノヴァまでは良いとしてグラノヴァから鉱山までのテーヌ川をさかのぼる場合はどうしますか?テーヌ川の平地の流れは緩やかですが、鉱山付近ともなればそれなりに流れが速いはずですよ?」
「そこは蒸気機関の力の見せ所となります。川の水深さえあればさかのぼれる力はあるはずです」
母上は少し考えているようだ。
「レオン?私は熱晶石の鉱山買収のため早速動くので今から出かけてきます。もう後には引けませんよ?必ず蒸気機関を完成させてください」
「今から出かけるのですか?もう夕方ですよ?明日にされてはいかがですか?」
「レオン?鉱山の買収には時間がかかります。蒸気機関が完成した後では熱晶石の鉱山買収は難しくなるでしょう。早ければ早いほど良いのですよ。では出かけてきますね」
母上はそう言うとささっと支度して出かけてしまった。さすが母上、行動が速い、マルティナも母上に憧れていると言っていたが、本当にすごい人だな。母上の行動力を見せつけられては俺も何もせずにはいられない。今できることは今日やってしまおうと、俺は研究用の熱晶石を1ダースほど買いに出かけたのだった。
評価?してくれたら投稿設定はかどる?