第4話 俺の船を造るための専属受付嬢?
専属登場!
「まぁこんなもんだろう」
俺は部屋に籠って一晩で蒸気機関の設計図を書き上げた。試作品の蒸気機関だから小型船に乗せられる程度の小さな蒸気機関だ。俺の得た知識ではワット式とかいうものらしい、構造は比較的単純でボイラーで水を蒸気にしてピストンを動かし蒸気を捨てるのではなくピストンが動く際に別の経路で蒸気を逃がす。
そして再度冷却して水に戻して再びボイラーに送り循環させる仕組みだ。海の上では水は貴重なのでこの方式を採用した。
海の上なら冷却は海水を利用すればいいので小型化が可能だ。
だが思わぬ問題に気付いてしまった、燃料についてだ。
試作の蒸気機関はボイラーを熱するのに廃材でも燃やしとけば全く問題はないだろうが、実用化するためには長時間安定的な熱量を供給できる燃料が必要だ。
船の容量は有限で、荷物、人員、食糧に飲料水を載せ、さらに蒸気機関まで取り付けるとスペースが限られる。そこに木材などの嵩張るような燃料までとなると商用の輸送船としては致命的に荷物を載せるスペースが狭くなってしまう。
俺の得た知識では蒸気機関には石炭なる燃える石を使うらしいが大型船でなければ十分な荷物の積載容量は確保できないようだ。
俺の6歳までの知識に石炭なるものは存在しない。石炭の代用品を探さねば蒸気機関を載せた蒸気船を造っても積載容量の少ない船では商船として売れるかは難しいところだろう。
だが今は時間がない、母上から依頼された期限は一週間しかないのだから分からないこと悩んでる暇はない。
もう夜が明けてきているが6歳の体には寝不足はつらいので俺は仮眠をとってから次の行動に移ることにした。
目が覚めるとだいぶ日が高くなっていた。まだ午前中だろう。俺は自分の部屋からでてリビングに向かうと既に親父も母上も仕事で出かけて居ないようだ。ふと空腹であることに気が付き無性に何か食べたくなる。思えば昨日帰ってから何も食べていないことに気が付いた。
親父も母上も料理は出来ないので食事はいつも出来合いの料理を買って帰って食べるか、各自外出した時に適当に食べる生活スタイルとなっている。家族で揃って家で食事なんて何かのお祝い事の時位しかない。普段は外食がメインだが、俺は買い置きしてある硬いパンに齧りつきながら出かける準備をする。
「いってきまーす」
誰も居ないのを分かっていながら俺は声に出す。これは自分に言っているのだ。行先は工房街の商業ギルド。工房街は造船所で使用する道具や釘などの金属製品を作る鍛冶職人、船首象の彫刻、樽などの木材加工などを行う木工職人などの各種職人が集まる街で、商業ギルドは職人の紹介や仕事の依頼を受け付けている。
俺が蒸気機関に必要な各部品の設計図を商業ギルドに渡して製造依頼をすれば、商業ギルドは職人の実績や納期までの期限を元に料金を決めて適切な職人に仕事を依頼してくれる。
俺は納品されたら設計図通りの部品が出来ていることを確認して、決められた期限までに金を払うだけでいい。実によく出来た制度だ。
俺は商業ギルドの空いている受付カウンターへ行くと要件を伝える。すると男性職員は小さな栗毛色の髪の女の子を奥から連れてきて俺の対応をするように言った。女の子は俺の顔を見て嫌そうな顔をしたが次の瞬間にはニコリと笑顔を作って俺の目の前のカウンター席に座った。
「はじめましてあなたの対応をさせて頂く、見習い職員のマルティナと申します」
「・・・初めまして俺はレオンと言います」
「本日は金属加工のご依頼と伺いましたが、設計図はありますか?」
「はい、依頼したい金属部品の設計図はこれです」
俺は数十枚に及ぶ金属パーツの設計図を差し出すと、マルティナは驚いた様子で一枚一枚確認していく。
最後の一枚を確認し終わるとマルティナは俺を見て口を開いた。
「初めて見る形の金属部品ばかりですが、これはレオンさんが書かれたのでしょうか?」
「あぁ、俺が一晩で書いた」
「この量を一晩で!?」
マルティナは余程驚いたのか大声になっていたので、俺は両手の平をマルティナの前に出して制した。
「声が大きいですよ」
マルティナは口をつぐんで周りを見てちょっと恥ずかしそうに俯いてて頬を赤らめながら言った。
「・・・失礼しました」
結構かわいいと思っていたらマルティナに睨まれた。
「本当にこれを一晩で書いたんですか?」
マルティナは最初よりだいぶ小声で話し出した。
「ああ本当だ。母上に急かされたから急いで書いたんだ。それより部品を5日以内にハワード造船所に届けてほしいんだが可能か?」
「ハワード造船所ってモニカさんのところですか?レオンさんはハワード造船所の従業員なのでしょうか?」
「俺はそのハワード造船所の主、ハワードの息子だ、モニカは俺の母上の事だよ」
「なっ!・・・そうでしたか、モニカさんの・・・・」
「それでどうなんだ?この設計図の部品を全て5日以内に納品できそうか?急ぎなんだ、料金は多少高くても構わない、母上から了解はとっているからな」
「ん・・・・その前にレオンさんにご相談があります。私をレオンさんの専属にして頂けないでしょうか?」
「なんだよ突然、話が見ないぞ」
マルティナは顔を近づけてきて小声で話し始めた。
「実は私、ここで見習い始めて三か月になるんですが、専属のお客さんがまだいない状態なんです。私がまだ子供だからっていうのが一番の理由なんでしょうけど」
マルティナは周りを見回して小声で話を続けた。
「商業ギルドは成果主義になっているのですが、各担当がお客さんから受けた依頼料の総額で成績が決まります。なので優良客は各担当の奪い合いなんです。担当の中には報酬額からお客に賄賂まで渡している人もいる始末でして、私はそんなことしたくないのもあって専属契約してくれるお客さんがいないんです。先ほどの男性職員もレオンさんが子供だから大した仕事じゃないとみて見習いの私に担当を押し付けたんだと思います」
マルティナは疲れたような顔をして俺に訴えかけてきた。
「お前の事情なんて知らないよ」
「レオンさん冷たいです ぶーぶー」
マルティナが頬っぺたを膨らませながら文句を言っている。しぐさは可愛いが、俺は仕事ができない奴とは組みたく無い。迂闊に仕事のできない奴と組んだら困るのは俺自身だ。だから俺は条件を出すことにした。
「じゃあマルティナさんと専属契約してもいいが条件がある。この設計図全部の部品の納品を5日後までにハワード造船所に届けることが出来たら専属契約してやろう。俺は仕事が出来る奴としか組みたくないからな!」
「本当ですか!!」
「声が大きいぞ 落ち着け」
マルティナはふぅーっと深呼吸して設計図を見直し始めた。
「レオンさん料金は高くても構わないんですよね?」
「母上から融通するっていわれているからな、支払いはハワード造船所にまわしてくれ」
「モニカさんの息子さんなら料金の支払いに関しての信用は大丈夫ですね」
「気になったんだが、マルティナさんは母上を知っているのか?」
「この町の働く女性でモニカさんを知らないなんてモグリですよ?モニカさんは働く女性のあこがれです!数年前に借金まみれで潰れそうだったハワード造船所の経営を立て直して、ほかの造船所を傘下に収めて造船組合を結成、連合王国の大商人とも船の値段交渉で一歩も引かずに堂々と値段を吊り上げる度胸! モニカさんは私のあこがれの人です!」
「マルティナさんは母上みたいになりたいのか?」
「まるっきり同じになれるとは思っていませんが、仕事の出来るかっこいい女性にはなりたいですね。レオンさんからみてモニカさんはどんな人なんですか?」
「母上はいつもニコニコだけど怒っててもニコニコしてるから怖いんだよな、あとなんかこう全身からオーラみたいな感じのが出ているというか母上を前にすると自然と姿勢を正してしまうよ」
「私もモニカさんに会ってそのオーラみたいのを感じてみたいです」
「そうだな~、俺の専属になれたら造船所に来る機会もあるだろうし、そしたら母上に会う機会もできるだろうな まぁ頑張ってくれ」
「それはもうこの仕事は何が何でも成功させるしかありませんね。私が担当するからには成功間違いなしです! それから私の事はマルティナと呼び捨てで構いませんよ、もうレオンさんの専属なんですからね!」
「おーおー気が早いことで、同じくらいの年の子供にさん付けで呼びたくないから助かるよマルティナ」
マルティナはやる気を出してくれたようだし、これで5日後に全部の部品が納品されたら1日かけて組み立てて、試運転して蒸気機関は完成だな。母上の出した期限にも間に合いそうだ。
俺はふと蒸気機関の燃料に適した物を探すことを思い出した。
「そうだ!、マルティナこの辺で金属加工をしている鍛冶屋を見学したいんだけど、見学できる所はないかな?」
「いきなり呼び捨てですか、少しは恥じらってほしいものです・・・・鍛冶屋の見学ですか?基本的に職人たちは見学されるのは嫌いますからね・・・・」
技は見て盗めとかいう文化だから弟子以外の部外者に自分の技を見せることを職人は嫌う傾向が強い。やはり難しいのか?鍛冶屋なら高温の金属加工をするために燃料を使っているはずだから燃料を探す参考になると思ったんだけどな。
「あぁでもあそこなら大丈夫かも・・・ドレッドの鍛冶屋へ行ってマルティナの紹介といえば見学させてくれるかもしれません。」
「おー本当か?マルティナは頼りになるな!!今日一番頼もしく思ったぞ!」
「レオンさんひどく無いですか? 私は仕事は出来る子なんです! 機会が無くて実力が発揮できなかっただけなんです! レオンさんの仕事をきっちりこなしたら約束通り専属の件はお願いしますね」
「はいはい 仕事をきっちりこなしたらな じゃあ俺はドレッドの鍛冶屋に寄らせてもらうよ」
「レオンさん本日はご依頼ありがとうございました」
マルティナは俺に向かって礼儀正しい一礼をして俺を見送った。
俺はマルティナに紹介してもらったドレッドの鍛冶屋に向かう。蒸気機関の燃料に適した物が見つかるといいんだが、まずは情報収集だ!
評価?してくれると元気でる?