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つくりたいだけなのに  作者: なちゅね
第一章
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第3話 息子が船を造るためなら親は黙って見守るものだ

親父ーー!

俺の名はハワードだ。レオンの父親で今年で27歳になる。


弟子と労働者を合わせて50人を抱えるハワード造船所の主だ。


巷ではちょっとした有名処の造船所になっているがこれは全て俺の妻、モニカのおかげだな。


モニカは出来る嫁で正直俺には勿体ないと今でも思っているが、モニカと人生を歩んでいくと決めた時から俺は必死に働いてきた。


6歳のころから師匠に弟子入りして造船技師としての腕を磨き、12歳のころには周りから天才とまで言われて俺は有頂天になっていた。


調子にのって15歳で借金して小さな造船所を立ち上げて独立したが、最初は大変だった。船造りは楽しかったが営業なんてやったこともなく仕事は伝手を頼って貰った下請け仕事ばかりだったな。


下請けだと報酬は上でピンハネされて儲けが少なくて、当時の俺は借金の利子を払うのがやっとの状態だったよ。


そんな状態でもなんとか1年頑張ったが、さすがにもうウンザリして小船で海へ飛び出した。現実逃避だな。


陸が見えなくなるまで進んでぼーーっと空を眺めていると空魚が何匹かぐるぐる回っているのが視界の片隅に見えた。


その下を見ると小さなマストもない船が浮かんでいたんだ。係留止めが外れて流された小船かと思い近付いてみると、なんと小船の中に銀髪の女性が倒れていた。


それがモニカと俺の出会いだった。


モニカは意識を失っていたのでそのまま俺は自分の造船所まで運んで快方した。金がなかったが知り合いに金を借りて医者を呼び、2日ほど看病するとモニカは目を覚ましたんだ。


目を覚ましたモニカは周囲を見回し最初に口にした言葉が『水と食事を頂けないかしら?』だったな。


目の前に知らない男がいるのに最初に言った言葉は意外だったが、よほど腹が減ってるんだと思い、俺は水とパンを持ってきてモニカに与えた。


モニカは乗っていた船が嵐にあい、転覆して投げ出されたらしい。近くに同じく投げ出されていた上陸用のボートに這い上がり漂流していたという。


助けてくれたことに感謝を言いはしたが、モニカは自分の身の上の事は何も語らなかった。


帰りたくないのか?と問うと『過去の自分は嵐の海で死んだのだ、これからは自分の思うように自由に生きて行きたい』と言ったのでそれ以上詮索するのは野暮ってもんだ。


モニカは何かお礼がしたいと言って来たが俺は断った。行く当てもないのでしばらく置いてほしい、その代わり仕事の手伝いをしたいと言うので受け入れた。


モニカはものすごく優秀だった。文字の読み書き、計算、交渉や礼儀作法など何でもできたが料理などの家事だけは出来なかった。


俺が困っていた造船所の営業や経理をこなして瞬くまに周囲の信用を得て仕事をどんどん取ってきてくれた。


俺は人を雇い造船所を拡張して必死に働いた。おかげで借金も返せたし、かなりの利益も出るようになっていた。


しかしモニカさん、取ってくる仕事多すぎです。もう限界です。


それでも俺は頑張った体力には自信があったし、モニカがせっかく取ってきてくれた仕事だ、納期に遅れてはモニカに迷惑をかけてしまう。俺は必死に働きまくって3年頑張ったが、遂に俺は過労で倒れた。


目を覚ますとモニカが申し訳なさそうな顔をしてのぞき込んできた。俺はモニカに感謝していると言った。モニカが居なかったら俺の造船所はもうとっくに潰れて居ただろう。俺はモニカにお礼を何度も言った。


モニカは泣きながら笑っていた。俺はモニカにプロポーズした。モニカは『自分は料理も家事もできないがいいのか?』と言って来たがそんなことは俺もできない。『料理は食べに行けばいい、家事は人を雇えばいい』と言った。『モニカは自分の思うように自由に生きて行きたいんだろう?俺も隣にいさせてくれないか?』と言っらモニカは泣きながら頷いてくれた。


モニカと出会ってから4年目に俺たちは結婚した。造船所兼家を建てた翌年に子が生まれた。モニカと同じ銀紙の男の子た。


モニカは名前をレオンと名付けた。思い入れがある名前らしいが名前の由来は教えてくれなかった。


まぁ、モニカがいいならいいか。


モニカはレオンの子育ては人を雇って任せ、すぐに仕事に復帰した。取ってくる仕事の量は全然減らないどころか増えていた。


しかしモニカは同業の経営がうまくいっていない造船所を傘下に置いて組合を作った。受注した大量の仕事を傘下の造船所に割り振ったことで、受けた仕事に対して俺の負担は格段に減った。


さすがモニカだ、俺の女神さまっ!もう頭があがりません。本人の前で崇め奉ったら小突かれた。モニカさん可愛いです。


時が経ちレオンが3歳になった頃、レオンが造船所で遊び始めた。廃船の廃材で遊んでいたので時間に余裕ができた俺はレオンに造船技師の技術を教えながら一緒に遊んでいた。


モニカも仕事が終わるとレオンと礼儀作法や文字の読み書きに計算を教えていた。すごい英才教育というやつだ。造船所の仕事も順調だ。


俺とモニカが出会った年にガレリア大陸のガレリア連合王国とシャルビス帝国が戦争をおっぱじめたらしい。そのせいか造船の仕事が増えていたようだ。


俺が過労で倒れた件は連合王国と帝国の戦争のせいだったのだ。決してモニカさんが仕事とりまくってきたせいじゃない。俺は自分に言い聞かせた。


モニカは造船所の組合で談合して連合王国商人からの造船依頼の料金を吹っかけているらしい。


戦争特需で仕事ならいくらでもあるのでと相手の足元を完全に見切っているモニカさんマジかっこいいです。


そして現在、レオンは6歳になっていた。俺が27歳、モニカさん・・・歳いくつだろう聞きたくても聞けない。


仕事は弟子達に任せ休憩がてら酒を飲んでいたらレオンが駆け込んで来ていきなり金貨10枚くれとか言ってきた。


あーだこーだ言ってたら造船技師の悪口言い出した。6歳にして自分で廃材を利用して小船を作り、自分で操船して海を駆け回って遊んでいるって巷じゃちょっとした有名人になって調子にのっているのかなレオンくん?


父さんそんな子に育てた覚えはありません。っと持ってた酒瓶振ったらすっぽ抜けて壁に当たって盛大に割れた。ちょっと気まづかったのでレオンを睨んで胡麻化した。


騒いだせいでモニカが二階から降りてきた。


やっべ、酒瓶投げて割っちゃって俺が怒られるパターンだこれ。モニカさん怒ると怖いからなー、息子の前で平然と正座させてお説教してくるんだから。


俺はモニカに必死にレオンが造船技師を愚弄したと訴えたが逆にお酒飲んでたのバレてお説教確定コースです。今日の俺、終わった。


放心してたらいつの間にかレオンが蒸気機関とかいうの作るとか言い出してた。


船の事なら俺も興味ある!風の力を使わない新しい船だと!? 本当にそんなものが造れるのか?


ちょっとレオンをからかったらモニカに睨まれた。モニカさんすいません出来心だったんです。ちょっとからかっただけだからお説教はお手柔らかにお願いします。


モニカとレオンが小難しい話を始めたがさっぱり付いていけなかった。


っていうかモニカさんうちの造船所の経営ピンチだったの?そこ重要なところじゃないの? 俺一様ここの主ですよね?聞いてないですよ?


モニカとレオンの話は俺が口を挟める雰囲気じゃなくなってた。要約するとレオンが遊んでて頭打っておかしくなったようだった。俺は口をパクパクさせるしかなかった。


レオンは蒸気機関を造るために自分の部屋へ走っていった。


モニカが俺に話があると言ってきた。俺はお説教タイムになるとビクビクしていたら内容が全く予想外だった。


連合王国と帝国の戦争が停戦したことで、ガレリア大陸からの貿易や交流が増えるであろうこと。


造船所の組合を作ったモニカは上流階級との交渉や交流が増え、モニカの生存がモニカの実家に伝わる可能性があること。


そうなると力づくで実家に連れ戻される可能性があること。


俺はモニカを連れ戻そうとする奴は殴り飛ばしてやると言ったが、モニカはただ笑っていた。


ただその時は、自分と別れてほしいと言った。大切な人たちに傷ついてほしくないと。モニカの実家は相当やばいところのようだ。俺は守り切れるだろうか?


出来るか出来ないかではない全力でモニカとレオンを守るのだ。


俺は心に誓って黙ってモニカを抱きしめたのだった。





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