第20話 俺の船の進路
レオンは何を選ぶのか
誰かの呼ぶ声がする。
俺の船が沈められそうだとか言ってるようだ。あれ?スコーピオンは沈んでしまったんだっけ?
あぁ!そうだ、あのクソでかい船に砲撃されて沈んだんだ。
いや自爆だ、スコーピオンの蒸気機関を加熱して水蒸気爆発をお見舞いしてやったんだった。
それにしても俺の船にしこたま撃ち込んでくれたあの船はデカかったなぁー。俺の一撃で沈んでないかなぁー。
その後どうなったんだっけ・・・ああっ俺は怪我をしてマルティナに後を任せたんだった。
マルティナは泳げないって、マルティナ大丈夫かなぁ?
「マルティナ・・・」
「ハァハァハァ、では初めてのーんー?」
目を開けると目の前に目を閉じて口を尖らせたマルティナの顔があった。俺は思わず右手の人差し指をマルティナの尖らせた口に差し込んでやった。
「んー?ん、ん、うごかはなひでんぐっ、プハッ、レオン!何するのよ!」
マルティナめ、どさくさに紛れて俺の指舐め回しやがったな。
「こっちのセリフだ!何しようとしたんだ?キスか?俺が寝てる間にキスしようとしてたのか!?」
「ちっ違いませんけど違いますよっ!緊急事態なんですっ!親公認なんですっ!」
どっちなんだよ、それに親公認って。
「一体何を言ってって、痛ったあああい、足いたたたたた・・・頭も痛い、頬も痛い」
俺は寝ていたベッドから降りようとして足を動かした途端なんかあちこち痛かった。
「モニーシカよ、お前の息子は残念な子だのぉ」
「お父様!レオンはものすごく賢いのですよ?船のこと以外は残念な子かも知れませんけど」
「大怪我してるんだから動かないでレオン!起きて早々悪いけど、この船やばいらしいの!何とかして!」
「はぁ?この様子だと救助はして貰えたみたいだな。ここはどこだ?」
「レオン?ここはあなたのお爺様の船の中ですよ?」
「母上!?いつの間に、お爺様?の船とは何ですか?」
「儂がお前の母モニーシカ、いやモニカの父、ルビアート・レオン・シャルビス、シャルビス帝国皇帝シャルビス8世である!」
はぁ、母上にはオーラのようなものを感じてたのはシャルビス帝国の姫だったからか、どこぞの貴族の娘なのかなぁ位に思ってたけど、まさか貴族の頂点たる皇帝の一族だったとはねぇ。ってことは俺もシャルビス帝国の皇帝の血族って事か。
「それはどうもレオンです。・・・じゃあここは帝国の巨大船の中って事ですか?」
「そうだ儂の帝国が建造した要塞戦列艦シャルビスの船医室だ」
「はぁーまったく、俺の船をいきなり砲撃しやがったのはあんたか!あー思い出したら腹立ってきた」
俺はゴロンと横になりながら愚痴を続ける。
「はぁー、連合王国の艦隊退けて上手くいってたのに俺の船は沈むし、怪我もするし、起きたらマルティナに指舐め回されるし、散々な一日だよまったく」
「ちょっとレオン!こんな可愛女の子の口に指突っ込んどいてその言い方は酷くないですか?」
「分かった分かった。いきなり砲撃してすまんかった。この通りだ」
「あらあらレオン?シャルビス帝国の皇帝たるお父様が頭を下げているのですから、そろそろ機嫌をなおしてくださいな?それ以上拗ねてるとみんな揃って海の底ですよ?」
「母上も皇帝の娘ってどういうことですか?私はこれからどうなるんですか?」
「レオン?それはあとにしましょう。この船はあなたが開けた穴で沈みかけてるそうですよ?」
「えっ?この船が沈むのですか?」
俺は思わず顔がニヤけてしまう。
「こ奴今、この船が沈むと聞いて喜んでなかったか?」
「あー、レオンはきっと自分の船が沈められたのが余程悔しいんですよ。だからこの船が沈むと聞いて嬉しいんじゃないですかね?」
「マルティナもすごいと思わないか?俺の造った小船がこんな大きな船沈めたんだぞ?」
「おい、まだ沈んでおらんわ!」
「でも、このままほっといたら勝手に沈むんだろ?」
「まぁまぁ、レオン?あなたの船が沈められて腹立たしいのは分かりますが、ここは私に免じて私のお父様を助けてくれませんか?」
「はぁ、母上がそういうのでしたら物凄く腹立たしいのですが、水に流しましょう。お爺様?には貸し1つということでいいですよね?」
「むぅ、この船が沈むのを回避出来たなら出来るだけの事はしてやろう」
「約束ですよ?お爺様っ!」
さて、この船が沈むのを回避したら帝国に何を要求しようか、欲しいものは色々あるなぁ。まぁまずはこの船が沈むというのを回避しないとな。
「この船の設計図か見取り図とか全体が分かる物と、浸水がどこまで進んでいるのか現在の状況を詳しく説明してください」
「よかろう、すぐに用意させよう」
「母上は俺の造ったイエロークラブに乗ってきたのですか?」
「ええ、そうですよこの船に横付けしてあります」
「マルティナ!イエロークラブへ行って、レッドクラブもこの船に来るように伝えてくれ」
「分かったわレオン!」
マルティナが走って行った。
「レオン?どうやってこの船が沈むのを食い止めるのですか?」
「そうですね~、浸水が食い止められそうなら食い止めますし、ダメそうなら転覆を防いで沈む前にグラノヴァまで移動させます」
「先ほど兵から報告があってな、グラノヴァまでは向かい風だそうだ。この巨大な船ではまったく進まんぞ?」
「俺が造った特製の蒸気船が2隻ある。2隻あれば何とかこの巨大船でも動かせると思う・・・たぶん」
「自信がなさそうじゃないか、先ほどの威勢はどうした?」
「俺もこんな巨大な船は見るのも乗るのも初めてだか、やってみないと動かせるかは分かりません」
足音がして帝国の兵士らしき人が神束を抱えて船医室に入ってきた。
「陛下!ご命令の物を用意致しました!」
「この少年へ渡して現在のこの船の状況を説明してやれ」
「了解しました!」
俺は紙束を受け取って広げるとこの要塞戦列艦の見取り図を見た。デカい、想像以上の大きさだな。こんな巨大な船を造って運用できるなんてシャルビス帝国は俺が思っている以上の大国のようだなぁ。でもこの船、防水区画とか殆ど無いじゃないか。ただの小分けにした兵士や倉庫の部屋が並んでいるだけだ。これじゃあ浸水したら水圧で次々に隣の部屋へ浸水が広がってしまうじゃないか。
「これはダメだな。この船、急造でもしたのか?設計が全然なってないじゃないか。まるで普通の船をそのまま大きくしたような設計だ。こんな作りじゃ浸水した部屋が水圧に耐えられずに次々に浸水区画が広がってしまう」
「その通りなんです!浸水を食い止めようと試みましたが、次々に隣の部屋へ薄い壁から浸水が広がり食い止められません!」
兵士が困った顔をしている。かなり疲れているようだ。
「じゃあとりあえず、浸水の元になっている右舷側はいいから左舷側のこのあたりの壁ぶち破ってきてください」
「は?壁を壊すのですか?」
「このまま右舷ばかり浸水区画が広がっては船が転覆しかねません。まずは水平を保つために反対側へ浸水区画を広げる必要があります。この船は巨大ですから直ぐには沈みませんし、水平を保った方が転覆するより時間が稼げますよ」
「儂が許可するこの少年の言うとおりにせよ」
「ハッ!直ちに実行致します!」
兵士が走って出て行った。これで沈没まで時間が稼げるだろう。後はマルティナがイエロークラブとレッドクラブを連れて戻ってくれば移動開始だな。
「母上、マルティナが戻るまでしばらく時間があります。今のうちの今後の話を聞いておきたいのですが?」
「そうですね、レオンが寝ている間に私達で今後の事を少し話していたのですよ」
「連合王国の艦隊を退けた後は、どういう予定なのでしょうか?」
「まずはレオンを王にしてグラノヴァ一帯を領土として建国します」
「はぁ、私が王ですか?私に何させようって言うんですか、母上?」
「あなたも知っての通り、連合王国がガレリア大陸を侵略しようとしています。グラノヴァへの攻撃はひとまず跳ねのけましたが、お父様のシャルビス帝国がこの地に現れたことで、連合王国も帝国がこの地を手に入れる前に本格的に再侵略してくるでしょう」
あー、グラノヴァはレダイル大陸では連合王国と距離的に一番近い街だからなぁ、こんな近くに帝国の国が出来たら連合王国にしたらたまったもんじゃないよなー。そりゃ攻めてくるな。俺が連合王国でも帝国が来る前に攻め取るわ。だから帝国の皇帝の血を引く俺が王になって建国しろってことか。帝国と連合王国は停戦したばかりだから、しばらくは安泰というわけだな。
でも帝国と連合王国が再び戦争はじめたら真っ先に狙わるのはグラノヴァだよな。時間さえあれば俺が得た知識で使えそうなものを創り出して国を守ることも可能かもしれない。母上が俺にさせようとしているのは建国した国を俺の知識を使って守れってことかな?
「私が王になる件は了解しました。でも条件があります」
「ハッハッハ、こりゃたまげた。さっきまで船の事でグチグチ言っていたと思ったら、自分が王になって建国することは迷いもせず、直ぐに決めてしまうとは一体何が狙いだ?レオン」
「お爺様?陛下とお呼びした方がいいですかね?」
「今更だ。お爺様でよいよい」
「母上、私が王になる条件は2つあります。1つは、私は船が造りたいので面倒な政治や外交の仕事はしません。誰かに丸投げします。もう1つは、建国した国を何れ始まる帝国と連合王国の戦争から守るため私の得た知識から使えそうな兵器や武器を造ります。そのために必要な開発費を国費をから出して頂きます」
「そのくらいなら問題ないでしょう。政治や外交の仕事は優秀な人材を雇って任せてしまえばいいでしょうし、私も行政の仕事は行う予定ですから。でも外国から王族などが来たらレオンが対応しないと失礼に当たりますのでそれくらいはしてください」
「長期間拘束されないなら王らしく謁見くらいならいいですよ?」
「2つめの国費を使う件は、レオンならグラノヴァをさらに発展させるでしょうから問題ないですね。それからレオン?あなたの知識で国を発展させるようなアイディアだけは出してもらえるかしら?」
「ええ、母上、国が富めば私が使える開発費も増えますからね、アイディアだけなら出しますが実現させるまでの過程は誰かに丸投げしますよ?」
「ええ、アイディアだけあれば実現はこちらでしますから問題ありませんよ」
「お前たちは先ほどから知識だ何だといったい何を話しているのだ?」
「あら?お父様、先ほど言ったではありませんか、レオンの知識はすごいのですよ?」
「だから、どう凄いというのだ?」
「お爺様、俺は帆もオールもなく動く船を造ったり、帝国の火薬を使う大砲の事など色々知識として俺の頭に入っているのです」
「レオン!?大砲は帝国内でも重要機密となっておる。しかも火薬を知っておるのか?」
「はい知っていますよ。俺は別の方法で大砲と同じ金属の弾を発射する圧縮砲を作成して連合王国の艦隊を退けました。ちなみに帝国では火薬の製法は分かっているのですか?」
「なんだと!?帝国でも火薬の製法は分かっておらん、未開の大陸からの輸入頼みなのだ」
「火薬の製法は知りたいのであればお教えしても構いませんけど、必要な材料がどこで取れるかまでは分かりませんから教えても作れないかもしれませんけどね」
「構わん。帝国内にも製法の情報が欲しい奴らも居るのでな、製法を知っているだけでも使い道はあるのだ」
「では、教える代わりに条件があります」
「条件とは何だ?レオン?」
「グラノヴァに出来る新しい国と帝国は対等な関係であると、皇帝たるお爺様にその事を公文書にして残して貰いたいのです」
帝国は超大国だがグラノヴァに出来るのは小さな国だ。俺が王になっても帝国の保護を受ける代わりに足元見られて不平等な取引や要求をさせられてはかなはない。予め皇帝の言質を取っておかなければ後々俺が自由に動けなくなるからな。
「ほう、帝国の後ろ盾は欲しいが、言いなりにはならんと言うことか?」
「ふふっレオン?いくら何でも都合が良すぎるのではないかしら?」
「良いのですよ母上、私がこれから色々な新しい物を創り出します。それらの物は帝国にとっても有益な物になるでしょう。まずは蒸気機関を帝国に輸出するつもりです。なんならこの要塞戦列艦シャルビスも修理がてら蒸気機関を搭載した船に改装してしまいましょうか?」
「ほう?この船が帆もなく動く船になると言うのか?」
「出来ますよ。それに邪魔なマストも全て取って、軽くなった分で内部に防水区画を細かく作りましょう。そうすれば今回みたいな浸水でも簡単に沈むことは無くなりますから」
「あらあらレオン?そんなに大盤振る舞いして良いのですか?」
「いいのです母上、これからのグラノヴァにとって帝国は連合王国に変わる大切なお客様になるのですから。良い品を持ち帰ってもらって遠くても取引する価値を見出して貰わなければなりません。それに帝国は遠いが故に安定した速度が出せる蒸気船は売れると思いませんか?」
「ふふふっ、それは売れそうですね。造船組合の皆さんにもたくさんの仕事を斡旋してあげられそうです」
「おいおい、お前たちは帝国に買わせてばかりいるつもりか?帝国から何か買わないと口では対等な関係と言った所で実態は帝国の富が流出しっ放しではないか、それではいずれ不満が噴出するぞ」
「お爺様、帝国からは食料の購入と兵士を雇いたいと考えているのですが?」
「あら?レオン食料ならグラノヴァの生産量だけでもたりるのでないかしら?」
「母上、今は足りていますが直ぐに足りなくなると思いますよ?」
「まぁ良い、帝国は広大な土地があるから食料なら幾らでも輸出できる。兵士も連合王国との軍縮があるから雇いたいと言うならこちらも断る理由もない」
誰かが走って来る音がする、マルティナかな?
「レオン!イエロークラブトレッドクラブの2隻に伝えてきたわ、次はどうするの?」
「次はこの巨大船の船首からV字にロープを張って2隻に引っ張らせて曳航して貰ってくれ。この巨大船を着底させるから運ぶ先はグラノヴァの程よい砂地の浅瀬がいいな。イエロークラブにいる漁師のウッズとミレーなら海底の地形もわかるだろうから誘導してもらって」
「分かったわ、伝えてくる!」
マルティナはまた直ぐに走っていった。この船やたらデカいから連絡するにも相当な距離を行き交うことになるよな。伝声管でもあまり長い距離は聞こえないからなぁ。有線の長距離連絡手段考えた方が良いかな?電気作るなら磁石がいるなぁ。色々やる事が増えてなかなか新しい船に手を出せない気がする。
「この船を浅瀬に着底させると言ったか?座礁した船は波に揉まれて壊れると聞くが?」
「到着次第、グラノヴァの造船技師に修理させて浸水した水を蒸気機関を使ったポンプで排水します。浮上したらそのまま停泊させて、先ほど言った通り蒸気機関を搭載する改装作業にはいるので完成まで2ヶ月位掛かりますかね?」
「先ほどの改修案だと物凄い大改修の様だが以外に早く終わるのだな。儂が帝国を留守にする期間が2ヶ月延びる位なら問題あるまい」
「グラノヴァは造船の街ですから、連合王国の侵略で仕事が無くなって造船所で働く人達は暇してるはずなのでその暇人たちを雇います。改修費用は請求してもいいんですよね?お爺様?」
「儂はシャルビス帝国の皇帝だぞ?ケチなことは言うまいよ。その代わり最高の船にしてくれるのであろう?」
「最高の船は技術の進歩で変わりますから、それでも現時点では良い船にはなりますね」
「ではレオン、船の改修が終わる2ヶ月の間に新しい国の建国も済ませてしまいましょう。連合王国も帝国の皇帝がいる間には攻めては来ないでしょうからね」
「そうですねぇ。私の折れた足もその頃には治っているでしょうし」
「では、少し休憩にしようではないか。儂も驚きっぱなしで疲れたわ。誰か!軽食と飲み物を用意致せ!」
俺が骨折して動くと痛いので船医室にテーブルと椅子が持ち込まれ簡単な軽食とお茶を飲んでいると要塞戦列艦シャルビスが動き始めたようだ。
「ほぅ、動き始めたようだな」
「動いてると思うと急に気分が悪くなってきました」
「母上は昔から船が苦手のようですけど?昔なにかあったのですか?」
「レオンよ、モニーシカ、いやモニカは10年前に連合王国へ嫁ぐのが嫌で逃げ出して魔の海域に突っ込んで船から落ちたのだ。儂もこの要塞戦列艦で魔の海域を通って来たが、こんな巨大な船でもかなりの揺れであった。普通の船では沈んでいたであろうよ」
「母上も無茶しますね。どうやって助かったのですか?」
「・・・乗っていた船が転覆して海に放り出されてから同じく放り出されていた小さなボートに何とか這い上がって3日漂流していました」
母上は相当運がいいな。船が簡単にひっくり返るような嵐をボートに乗って助かったなんてにわかには信じ難い。
「母上は何処へ行こうとしたのですか?」
「連合王国から離れようと帝都を出て西へ向かって未開の地を目指していたのです」
ん?ガレリア大陸南のシャルビス帝国帝国から西へって事は魔の海域の南側だそんな所へ船で行くには2ヶ月以上かかるはずだけど、母上は3日漂流と言っていた。計算が合わないな?
「母上、それは妙な話ですね?母上の漂流した所は魔の海域の南側では?ボートで3日漂流してグラノヴァ近くまで来たというのですか?」
「確かに言われてみれば妙な話しだな、儂も魔の海域の海流と風を利用してグラノヴァまで急いで来たが、それでも1ヶ月近くかかっておる」
「母上、漂流した3日の間に何か変わったことはありませんでしたか?」
「そうですねぇ、最初は物凄い揺れでしがみついてるのがやっとで、しばらくしたら体が浮いているような浮遊感がありましたね」
浮遊感?まさか強風でボートごと空でも飛んだのか?
「他には何か変わったことがありませんでしたか?」
「他には・・・、あぁ、目が合いました」
「目とは?」
「多分大きな空魚です。ボートの横を見たら大きな空魚と目が合った気がしたのです」
空魚と目が合ったって事は間違いなく母上は空飛んでたな。空魚が海上に降りてきたなんて話は聞いたことは無い。
「お爺様、空魚とは一体何なのかご存じですか?」
「レオンは知識を得たのでは無かったのか?その知識でも分からんのか?」
「私の得た知識には欠落がある様でして、熱晶石や空魚などの知識が何もありません。空魚に関して教えてください」
「ふむ、空魚は文字通り空飛ぶ魚だな、帝国にある昔の文献でも昔から変わらず空を泳いでいるとある。鳥とは違い『マナの海』を泳いでいると記述があったかな?だから鳥のように羽ばたくこと無く、魚が水の中を泳ぐように空を泳ぐのだと」
マナの海だって?俺の知識にもない単語だ。以前、熱晶石の実験をした時に空気中に熱晶石と反応する謎の気体が有りそうな結果だったけど、それが『マナ』と呼ばれる物なのだろうか?
「お爺様、マナに関しては他に何か分かってることはあるのですか?」
「マナに関してか?もはや誰が言い始めたのかもわからんが、海の上にはマナの海があり人の身では触ること叶わず、空魚だけがマナの海を泳いでいると昔からそう言い伝えられているくらいか?実際にマナの海なるものがあったとて人の身で水に触れるように触ることも出来ないのであればあるのかどうかすら確かめようもない。だからマナなる物があるのかどうかすら分からんな。おとぎ話の類であろう」
海の上にマナの海があるのか?空魚は陸地から離れた海上の空にしかいないのはそういう理由なのだろうか?海からマナと呼ばれる気体が蒸発でもして空気に混ざって周辺に拡散しているとかか?だとしたら海の上はマナが濃いから空魚が泳いでいる?でも沿岸沿いでも鉱山で圧縮砲使った時も熱晶石は反応していたから内陸にもマナはある程度はあるのだろうか?陸地はマナの濃度が薄くて空魚が泳げないから空魚が居ない??でも空魚が実際にいるのだからマナの海と呼ばれるものは実在する可能性が高いな。
「でもお爺様、空魚は確かに空を魚が泳ぐように飛んでいるではありませんか。俺はマナの海はある信じますよ!いつか空魚が飛ぶ仕組みを解明して空飛ぶ船を造るのが俺の夢ですから」
「まぁまぁレオン?あなたそんな夢があったのですか?」
「ええ母上、私はいつか空飛ぶ船を造るのです。私の得た知識には鳥のように飛ぶことはできる知識はあるのですが、船が海を渡るように飛ぶような知識はありません。だからこそ空魚を研究していつか空飛ぶ船を造りたいのです」
「なんだと!?鳥のように空を飛ぶことが可能なのか?それは人の身で造ることは可能なのか?」
「はいお爺様、可能ですよ?今はまだ技術力不足のため人を乗せて飛ぶような物を作ることはできませんが」
俺は近くにあったメモ用の紙を折って紙飛行機を作って見せる。そしてそのまま上に投げて見せた。紙飛行機は室内を回りながらゆっくり床に落ちる。
「まぁまぁ、紙を折っただけでこんなに簡単に飛ぶものなのですね」
「むぅ、紙を折っただけでこれほど簡単に飛ぶものなのか」
「人など重いものを乗せて飛ぶのは現時点では無理ですが、これを何十倍にも大きくして人が乗れたらと想像してみれは人でも飛べるような気がしてきませんか?」
「儂が生きている間に空を飛べるなら飛んでみたいものだ。レオンよ、儂が生きている内に空飛ぶ船が完成したら必ず儂の所へ来るのだぞ?」
「ええ、お爺様、空飛ぶ船が完成したら必ず帝国へ伺いましょう」
廊下から人が走ってくる音がしてきた。この走る音はマルティナかな?
「レオン!2隻でこの船を曳航できそうよ!今も動いているでしょう?ってみんなでお茶してずるいです!朝から何も食べていないからお腹ペコペコです」
「マルティナお疲れさま、このサンドを食べてゆっくりしてくれ。船の傾きも収まっているようだし、後はグラノヴァまで沈む前にたどり着けるのを待つだけだからな」
「レオン!走り回った私にご褒美として食べさせてください」
「俺はけが人だぞ?」
俺はサンドをつかんでマルティナの前でほれほれと言わんばかりに揺らして見せるとマルティナが釣れた。
「フガフガンゴンゴモグモグ」
「マルティナ、俺は国王になることになったからよろしくな」
「ブッ、ゲホゲホ」
マルティナが食べかすを俺に飛ばしてきた。マルティナがどんどん残念な子になっていく気がする。
「突然何言い出すんですかレオン!でもそうですか、レオンは王様になる道を選んだんですね・・・私はどうしようかなぁ、チラッ、チラッ」
マルティナが仲間にしてほしそうにこちらを見ている。
[>はい [>いいえ
第1部もあと1話




