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つくりたいだけなのに  作者: なちゅね
第一章
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第2話 俺の船のためなら無茶振りは仕方ないよね

親父登場!、母上登場!

グラノヴァに入港した俺は自分の家であるハワード造船所近くの停泊地に船を進める。

造船で栄える港町グラノヴァの造船所が立ち並ぶ街並みが俺は好きだ。


どこの造船ドッグを見ても様々な船が建造されている。

大型船の進水式となれば見物客が集まりいつもお祭り騒ぎとなる光景がグラノヴァの日常だ。

巨大な船が坂を滑り勢いよく海に滑り込んで大きな波しぶきをあげて浮かぶ様は何度見ても飽きることはない。


だがどの船を見ても全て帆で進むタイプの帆船と帆とオールで漕ぐタイプのガレー船だ。

昨日まではそれが当たり前だったが、今の俺には物足りない、古臭く思えてしまうのだ。


全ては空魚に船ごと吊り上げられ落ちた衝撃で変な夢の世界の知識が流れ込んできたせいだ。


昨日まで俺も巨大な帆船を造れる造船技師になることを目指してきたが、もう帆船じゃあ満足できないか体にされてしまった。


帆船は長年人間が風の力をいかに効率よく推進力に変えるか試行錯誤し、帆の形状、マストの配置、船体の形状や切れにくロープや結び方に至るまで研鑽を積んで進化させてきたものだ。それ故に美しいといえる。


だが俺は知ってしまった。風の力を必要とせずとも船を動かす動力機関というものを知ってしまったのだ。

知ってしまったからには造船技師を目指す俺だからこそ造らぬわけにはいかない。造らぬ選択肢などありはしない。


だが足りない。今は何もかも足りない。資金も、技術も、仲間も、一番足りないのは俺が子供だから信用が全く足りない。


俺が何をしようと子供の戯言と大人はまともに取り合ってくれないだろう。

まずは仲間を増やすことを目指したい。そのためにはこの世に存在しない新しい技術を俺の得た知識を活用して実現する。そして大人の信用を得ることがまずは必要だ。


俺はこれからの方針の考えをまとめると、ちょうど相棒のスクラッパー号は俺の家であるハワード造船所に到着した。


スクラッパー号を係留用のロープで杭に繋いで家に駆け込む、まずは親父と交渉するのだ。


「親父いるかー?」

「んーーーー?レオン帰ったのか、今日はどこいってやがった。ふわぁーーー」


ソファーに寝転がりながら酒瓶片手に茶髪の髪を撫でながらあくびをしているのが俺の親父ハワードだ。


「親父また飲んでやがるのか 明るいうちから飲んでるんじゃねーよ」

「うるせぇーな 俺様はこのハワード造船所の主だからな問題がなければ暇なんだよっと」


ハワードは寝ころんでいたソファーから立ち上がると酒瓶を傾ける。


「何言ってんだよ、経営の実務を取り仕切ってるのは母上だろ、親父は名前だけ責任者の現場監督みたいなもんだろうが、明るいうちからまた飲んで仕事サボってたって母上に言いつけるぞ」

「・・・・レオン、男にはプライド、父親には威厳ってもんがあるんだ。お前は息子の前で正座させられる情けない父親を見たいのか?」

「まぁいつもの事だから今更どうでもいいや それより親父金をくれ 俺の新しい船造りのためだから何も言わずに金をくれ」

「はぁ!? 小遣いならこの間やったばかりだろうが・・・・と思ったが、モニカに黙ってるなら小遣いをやろう」


モニカとは俺の母上の名前だ。珍しい銀髪の女性で俺の銀髪も母上ゆずりだ。親父であるハワードは現場向きの技術者で造船所の経営には向かず経理や交渉なんかは母上が取り仕切っている。そのため親父の立場は弱く、いつも母上には頭が上がらない。

俺は母親であるモニカを母上と言って敬っている。なんかこうオーラが出ている感じで近くにいると姿勢を正したくなる不思議な人だ。


「やった! 前の小遣いは俺の船の材料費で即消えたから話が早くて助かるぜ とりあえず次の船造りのために金貨10枚は必要だから頼むよ」

「なに?金貨10枚!? お前!寝言言ってんじゃねーぞ! 小型の新造船が買える額じゃないか ふざけた事言ってないで仕事の手伝いでもしてろ大好きな船が造り放題だぞ! お前はこのハワード造船所を継ぐんだから仕事の手伝いは良い経験になるのは分かってんだろ?」


「それじゃあ時間がかかりすぎる 俺は今直ぐ俺の考えた俺だけの新しい船を造りたいんだ! 誰かが考えた古臭い船を延々と造らされるなんてまっぴらごめんだ! だから金をくれ」


俺は親父に詰めよると、ほれほれ金を寄越せとばかりに手のひらを差し出す。


「ふ・・・古臭い船だと!?・・レオン!!!お前は造船技師を愚弄するのか! 造船技師が先祖代々積み上げてきた伝統と技術を愚弄するのか!!!」


ガシャン・・・と大きな割れる音が響く、親父が酒瓶を壁に投げつけ俺を睨んでいる。


「造船技師を愚弄なんかしちゃいない!先祖代々を盾に一向に進歩しない船の設計思想を古臭いと言ったんだ!! 俺がその古臭い船を一新してやるから金をくれと言っているんだ!」

「何が古臭い船を一新だぁ~? 先祖代々少しずつ改良を積み上げてきたからこそ今があるんだ お前の新しい船とやらも船である以上、所詮は今の船の改良にすぎないだろうが!!!」


俺と親父が睨みあっていると2階からコツコツと歩く音が響いてくる。


「まぁまぁ何の騒ぎです?何か割れる音がしましたけど穏やかじゃないですね」

「モニカ!聞いてくれ!レオンの奴が造船技師が造る船が古臭いと愚弄するんだ 俺も造船技師の端くれとしてレオンの考え違いは正さなくちゃならん!」

「母上!ただいま帰りました。お騒がせして申し訳ありません」


俺は慌てて母上に礼をする。


「ハワード? 上にいても話は全て聞こえていましたよ?明るい内からお酒を飲んでいた件は後でゆっくりとお話ししましょうね?」


モニカがニコリとハワードに顔を向けるとハワードの顔は青くなっていく。


「レオン? あなたも人に説明するには順序というものがあるでしょう? まずは新しい船がどういったものなのか私に説明してくれるかしら? ハワード?レオンの説明を聞いてから考えを正すか決めても良いでしょう?」


モニカはケンカ腰の二人をさらっとなだめてソファーに座る。


「では母上!さっそく私の新しい設計思想の船をご説明致します」


俺は姿勢を正し、母上に対して新しい船のプレゼンを開始する。


「私の新しい船とは帆を必要としない風ではなく別の力で動く船です」

「ハッハッハ まさかレオン、帆を無くして全部オールの力だけで進む船とか言い出すんじゃないだろうな? それとも魚にロープでも付けて船を曳かせるか?」

「ハワード?レオンの話を最後まで聞きましょうね?」


モニカの顔は相変わらず笑っている。


「はいっ」


親父は姿勢をビシッと正して黙ったので俺は説明を続ける。


「帆を必要としないのでマストは不要となります。その代わ燃料で水を沸かし蒸気の力で動く蒸気機関を取り付けます。さらにオールとは違う推進力を生む装置を取り付けその装置を蒸気機関で動かす事で船が推進力を得て進むのです。これが新しい設計思想の船の概要となります」


一拍の間をおいて俺は説明を続ける。


「とはいえ何もない状態から複雑な蒸気機関の機構に合わせた金属加工や必要な金属量を考えると失敗したら大損害となります。大型船を動かせるような大きな蒸気機関をいきなりは作れません。そのためまずは小船を動かせる位の小さな試作の蒸気機関を作りたいと思います」


親父は口をパクパクさせて何か言いたそうに母上を見ているが、母上は俺の話に興味を惹かれたようだ。


「試作とはいえ金属加工は職人に発注しますので、その発注に必要な資金である金貨10枚を頂きたいとお願い申し上げます」


俺の説明を黙って聞いていた母上が俺をじっと見つめていた。


「レオン?あなたは私の知っているレオンなのかしら?それとも別人なのかしら?」


突然予想もしていなかった言葉に俺がビクッっとなるのをモニカは見逃さなかった。


「はぁー・・・母上には敵いませんね。 まず間違いなく私は母上の知るレオンですが、私が知るレオンではありません」

「どういうことかしら?」

「実は船で遊んでいるときに頭を打って気絶してしまいまして、夢を見ました。それはそれは見たことのないような世界の夢でした。目が覚めたらこうなっていたのです。今までのレオンとしての記憶はありますが夢の世界の記憶が混ざってしまい自分が自分で無いような感覚なのです」


「そうですか・・・ひとまず私のかわいいレオンで間違いないのであればいいでしょう」

「母上にはご心配をおかけして申し訳ありません。息子が沢山経験積んで大人びたと思ってください」


「よいのですよレオン あなたのお陰でこのハワード造船所は救われるかもしれませんからね」

「なに!? モニカどういうことだ?俺の造船所は何か問題があるのか?」


突然の重大情報にハワードが反応する。


「はぁ・・・ハワード?あなたがお酒を飲みながらゴロゴロしている間もこの造船所の経営は悪化してくのですよ? いいえ、この町の造船業全体がこのままでは経営難で大半は廃業してしまうでしょう」

「母上!この町に一体何起こっているのですか?」

「そうだモニカ俺の造船所も周りの造船所もみんな船を造ってる。廃業なんてするわけないだろう?」


親父の言うことは最もだ。グラノヴァの造船業はこの10年は景気が良いと聞いている。俺もさっき見てきた限りでは造船ドックに空きが目立つような光景は見なかった。


「レオン?あなたの得た知識でもこの町の状況が分かりませんか?」

「母上、いくら何でも事前情報が無さすぎます。今朝まで私はタダの子供だったのですよ?大人の難しい話なんて造船技師の関係以外全く聞いていませんでした」


「そうでした、そういう子でしたね。では情報を1つ、東隣の大陸で起きていたシャルビス帝国とガレリア連合王国の10年続いた戦争が軍縮を条件に停戦したそうです」

「モニカ!隣の大陸の戦争が終わるとどうしてこの町の造船業が廃業になるんだ?」

「レオン?先ほどの情報だけで分かりますか?」


母上は酔っ払いの親父は無視で俺の方を見ている。ちょっと親父がかわいそうになってきたぞ。


俺のいる港町グラノヴァはレダイル大陸の東端にある。レダイル大陸から海を挟んで東側にはガレリア大陸があり、そこには超大国が2つ存在している。


北半分はガレリア連合王国、南半分はシャルビス帝国となっている。この2つの超大国はガレリア大陸の覇権を争い、10年ほど前から全面戦争に突入していた。


ちょうど両国の境目である大陸の中間あたりで一進一退を繰り返していたはずだが、遂に互いの軍縮を条件に停戦となったようだ。


グラノヴァは造船で繁栄している町だが造っている船の発注元は海を挟んでいるが距離的に一番近いガレリア連合王国向けの輸送船が大半を占めている。ガレリア連合王国は戦争に必要な軍用船を自国で大量に建造していたため、手が回らない輸送船などは民間の商人から他国に発注しているのである。


そのおかげでこの10年はグラノヴァの造船業を中心に景気が良い状態が続いていた。


だが停戦して、しかも軍縮が条件となれば余剰船舶は民間に払い下げる可能性が高い。大量の中古船が市場に出回ればどうあっても新造船が少なくなるのは避けられない。連合王国は軍縮で軍用船の建造を減らすはずなので造船能力の余剰分で他国に発注していた輸送船を自国で建造するはずである。


国力差から考えるとグラノヴァが連合王国から受注していた輸送船の建造依頼はゼロとなるかもしれない。グラノヴァの造船業にとっては大打撃どころではなくもはや壊滅的打撃となるだろう。


俺は考えをまとめると母上の問いに答えた。


「両国の停戦での軍縮条件によりグラノヴァが造船している連合王国向けの輸送船の依頼が無くなるということでしょうか?」

「よくできましたレオン。私の考えも同じです。今受注している仕事もキャンセルされる可能性が高いと考えています。この窮状を脱するにはグラノヴァでしか作れない新しい船、今ある船が時代遅れになるような画期的な性能の船が必要なのです。それが出来なければこのグラノヴァは失業者で溢れる貧しい街となるでしょう」


「モニカ何とかならないのか?お前のコネを使って連合王国から仕事を回してもらうとかさぁ?」

「ハワードそれは出来ないことは分かっているでしょう?相手にも造船を生業にする労働者がいるのですよ?他国の民より自国の民を守る事が上に立つ者の責任なのですから」


「レオン?あなたの言う試作の蒸気機関を今すぐ作ってもらえるかしら?お金の事なら余程無茶を言わなければ融通しますからね」


「母上!ありがとうございます。全力で取り組みます。ちなみに期限とかはありますか?」

「そうですね。1週間で動く試作品を持ってきてくださるかしら?」


「母上!!まだ設計図もない状態なのです1週間はさすがに無茶振りではないでしょうか?」


「レオン?先ほども言いましたが時間がないのですよ。ハワード造船所だけではないのです。グラノヴァの町の人たちの未来がかかっているのです。よろしく頼みます」


母上はそういうと俺に向かって綺麗な一礼をした。それを見た俺はこれは正式な仕事として依頼されているのだと思った。母上はオレを認めて助けを求めているのだと。


「母上分かりました。1週間以内に必ずや蒸気機関の試作品をお持ちします!早速作業にとりかかりますのでこれにて失礼します」


俺はそういうと自分の部屋に急いで向かっていった。

ハワードはもう何も言えずにただ立っているのみだがモニカはハワードに向かって何かを言いっているようであったが俺は自分の部屋へと急いだ。


親父に小遣い無茶振り要求したらなぜか母上に無茶な振りな仕事で返される結果となってしまった。


だがこれはやりがいのある仕事だ、俺の空飛ぶ船を造る夢のためにも必要な仕事であり、しかも俺の故郷であるグラノヴァを救う事につながる重大な責任のおまけつきだ。


俺は自分の部屋の机に向かうと紙に試作蒸気機関の設計図を書き始めるのだった。



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