第19話 少年の船が成したこと
主人公寝たまま話は進みます
「妊娠しておられます」
「な、なんだと!?」
儂と娘モニーシカの劇的な酸っぱい再会はそのままモニーシカが倒れて終了となった。わしは慌てて船医を呼び、ひとまず命に別状は無いということで、そのまま担架で船医室に運ばせて船医が診察した結果を述べた所だ。
「わー、モニカさんに子供が出来たんですか?」
マルティナが儂の娘のモニーシカを見ながらモニカと呼んでいる。やはりモニカは娘のモニーシカの事だったか。娘の子供、つまり儂の孫に大怪我させたなんて知られたら娘に嫌われてしまう。また何処かへと行かれたらかなわん。マルティナをどうにかせねば。
「うっ・・」
「陛下!姫様がお気付きになられました」
「へーか?ひめさま?」
「えーい、邪魔だ。ヒルダ!この小娘をつまみ出せ!」
「はっ!直ちに!」
「えっ?ちょっと何するのよ!モニカさん助けてー」
儂が兵に命じるとマルティナの声も虚しく連れて行かれて静かになった。
「モニーシカ!儂だ!儂の顔がわかるかい?」
「おっ、お父様っ!」
モニーシカの目に涙が浮かぶ。儂の目にも涙が浮かんでいだろう。
「あの日と同じ、皇帝は泣いて人前で泣いてはいけないのでしょう?」
「皇帝とて人の子、あくびをすれば涙くらい出る。ましてや娘との10年振りの再会で涙も出ぬようでは人の子ではあるまいよ」
「お父様、大変ご迷惑をおかけ致しました。お父様もお元気そうで何よりです。ふふっ、少し老けましたね」
「お前が飛び出し居なくなって心配の毎日を送った10年だ、老けもするわ。ワッハッハ」
儂はしばらくモニーシカを抱きしめた。
「さぁモニーシカ、今まで何があったのか教えておくれ」
「はいっ、お父様・・・」
儂はモニーシカが居なくなってからの出来事を聞いた。10年分のモニーシカが歩んできた人生の話だ。儂は娘が楽しそうに話す思い出話をただ聞いていた。
「はぁ、モニーシカ、お前と言う娘は帝室育ちの可憐な花であったのに、力強い野に咲く花に育ちおってからに」
「まぁ、お父様ったら、私は今でも触ればしおれてしまうほどに繊細な花のつもりですよ?」
「それで?、これからどうするつもりだ。儂と一緒に帝国へ帰るか?」
「いいえ!お父様、モニーシカはあの日、魔の海域で死んだのです。これからも私はモニカとして生きていきまわ」
「そう言うと思っていたよ、はぁー」
「お父様ったら昔からため息ばかりですね。昔から言っているではありませんか、幸せが逃げてしまいますよ?」
「お前が居なくなってからため息が増えたのだ。それで、お前の話ではこの国の命運は風前の灯ではないか。1度連合王国を退けたとてあヤツらも馬鹿ではない、対抗をとってまた来るであろうよ」
「ふふっ、その時はまたレオンに何とかしてもらいますわ。そうそう私の可愛いレオンにはお会いになりましたか?お爺様との約束でしたから『レオン』と名付けたのですよ?」
「やはり父の名から貰っていたか。そんな気はしていたわい」
「お父様、レオンは凄いのですよ?ある日、突然大人びたと思ったら知識を授かったとかで、私もレオンには色々助けてもらったのです。帝国の船と交渉してくると言ってこの船に向かったそうなのですけれど、もう帰ったのでしょうか?」
不味い、レオンの話題からは離れたい。
「そなたに似てさぞ聡明な子であろうな。ところで船医より報告されたのだが、そなた妊娠しているそうだな」
「あぁ!やっぱりそうでしたか。そんな気配はありましたからね」
「モニーシカよ、今の生活は幸せか?」
「ええっ!とっても幸せですよ?お仕事もやり甲斐がありますし、何も無いところから始めるは大変でしたが、可愛い息子も頼りにならないけど優しい夫も居ますからね。ふふっ」
儂忘れてたわ。可愛い儂の娘を傷物にした男に落とし前つけさせねば。
「モニーシカ、その夫という男をちょっと儂の前につれてきてくれんかの?」
「イヤです!」
「なぜだ!?お前を傷物にした落とし前をつけるだけだぞ!?」
「お父様!私は幸せだと言ったではありませんか!私の家族にケガなんてさせたら絶交ですからね!」
不味い!この展開はまずいぞ。家族にケガさせちゃってるよ儂、どうしよう。
「・・・ちょっと離しなさいよ!私はモニカさんに用があるのよ!!」
「うるさい!静かにしていろ!こらっ! あいたー、この小娘!!噛むんじゃない!」
遠くでヒルダとマルティナの言い争う声が聞こえたと思ったらドタドタと走る音が近づいてきた。この展開はまずいぞ!
「モニカさん!!」
「こらっ待て!、あっ!姫さまぁああー」
「ひっヒルダなのですか!?貴方もあの嵐から助かっていたのですか!?」
「はいっー、あの嵐ではお守り出来ず誠に申し訳ございませんでじだぁ、がならずやいぎでいるどしんじておりまじだーうわぁぁぁん」
あーもう!ヒルダが出てきたら儂とモニーシカがゆっくり話せぬでは無いか!泣きたいのは分かるが収集がつかぬ。
「えーい!ヒルダ!ここで泣くでない!モニーシカとゆっくり話せぬでは無いか!しばらく下がっておれ」
「へいがーもうじわげありばぜん、ズグッ。ひべざまあとでまたゆっぐりおばなじぜぜてぐだざい、ぐずっ」
「ハイハイ、ヒルダ!あなたが無事で本当によかったわ。また後でゆっくりあの後の事を聞かせてくださいな?」
ヒルダが泣きながら船医室を出ていくとようやく静かになった。マルティナはヒルダの泣きっぷりを見て呆然としているようだ。ヒルダのあんな泣きっぷりはモニーシカが小さい時に庭園で転んで足を擦りむいて以来みてないな。
「あらマルティナさん?レオンは一緒ではないのですか?ちょっと紹介したい人が居たのですが」
「えっ?レオンなら後ろのカーテンの中で寝てますよ?」
「こんなところで寝ているなんて、訓練漬けで疲れていたのでしょうか?しょうがない子ねぇ」
やめろーそこを開けるんじゃない!あー開けちゃった儂知らないよー
「・・・・マルティナさん?レオンが大怪我しているように見えるのですが。いったい何があったのですか?」
「交渉旗あげてこの帝国の船に近づいたらいき成り攻撃されたんですよ!レオンの造ったスコーピオンも沈んじゃいました。レオンは私を庇って大怪我を・・・・モニカさんごめんなさい。私は何もできなくて」
「・・・・」
「・・・・」
娘が儂を腐った汚物を見るような目で儂を見ている。これはいかん!!
「マルティナよ、説明が足りておらぬぞ!その方らはグラノヴァを攻めようとしていたネブラスカ男爵家の旗を掲げていたではないか!儂は娘がいるかもしれないグラノヴァが攻められると聞いて急いで来たのだ。儂にとってネブラスカ男爵家は敵だったのだ、問答無用で攻撃しても仕方なかろう」
「モニカさんこの人たちは私達を助けて治療もしてくれました。レオンも気を失う前にこの船に何かしたみたいで『俺の船に攻撃して来た仕返しだぜ』とかいってました」
「そうだぞモニーシカよそなたの息子も儂の船に体当たりしてきたのだ。お互い様ではないか!それにお前は身重の身なのだから落ち着くのだ!おなかの子にさわるぞ」
「モニカさん子供ができたんですね! おめでとうございます!」
「・・・ふぅーー。えぇ、マルティナさんありがとう。お父様!私はまだ許していませんからね!レオンが起きたら詳しく話を聞かせてくださいませ」
ふぅーなんとか儂はピンチから切り抜けられたようだ。マルティナ微妙な援護で儂助かった。
「ところで・・・ルビアートさんでしたっけ?モニカさんのお父さんなのですか?」
「えぇ、ルビアート・レオン・シャルビス、シャルビス帝国の現皇帝シャルビス8世ですよ?聞いていなかったのですか?」
「えぇぇええええ!!!?シャルビス帝国の皇帝?上半身シャツでうろついてたおじさんが!?でもモニカさんを娘って!?じゃあモニカさんはシャルビス帝国のお姫様なんですか?えっえっ?じゃあレオンはシャルビス帝国の皇帝の一族・・・・」
「ふふふっ・・・驚きましたか? でも私はハワード造船所のモニカですよ。これからもそれは変わりません。マルティナさんも変わらずレオンに接してあげてくださいね」
「こここ・・皇帝陛下!知らぬこととはいえ、しっ失礼致しましたーーーー」
マルティナが姿勢を正して儂に貴族式の最上級の礼をする。
「よいよい、子供に敬われてもいい気はせん。子供はちょっと生意気な方が面白いわ。それにそなたはレオンの専属の彼女なのであろう?」
「まぁまぁまぁ、マルティナさんとレオンはそんな関係にまで進んでいたのですか?」
「ひゃい、で、でもレオンは帝族みたいだから、わっ私なんかとは身分がぜんぜん釣り合わないと言いますか・・・」
マルティナが段々しょげていく。無理もないな、男爵如きの娘がと超大国シャルビス帝国の帝族ではどうあっても家格はつりあわん。せめて一国の王族でも無ければな。お?儂いいこと考えた。
「マルティナよ、身分位で諦めるのか?身分くらいなら儂が用意してやっても良いぞ?儂はシャルビス帝国の皇帝なのだからな。ワハハハハッ」
「あらあら、お父様ったら何を思いつかれたんですの?昔から思いつきで周りを困らせていたではありませんか、マルティナさんをあまり虐めないでくださいませ」
「わっ、私は一体どうなるのですか?」
「なーに大したことじゃあない、ちょっとこの地に国創って女王やるだけだ」
「まぁまぁまぁ、マルティナさん良かったですね、女王様になれるんですって、あなたの目指す物語の最後にはハッピーエンドになる女の子になれますよ?」
「モニカさんまで茶化さないでください!私が女王なんて無理無理ムリですって」
あれー?モニーシカが全然驚いてない。むしろ喜んでるように見えるぞ。儂の渾身の思いつきだったのにおかしいな。
「モニーシカ、全然驚いてないように見えるが、気のせいか?」
「ふふふっ、お父様が言い出さなくても私はグラノヴァを独立国にするつもりでしたのよ」
「モニカさんが女王になって国を創るつもりだったんですか?」
「いえいえ、レオンを王にして建国する予定だったのですが、お父様、いえ帝国がここに来たことで状況が変わってしまいました」
「儂にはわからん。儂は娘を探しに来ただけだからな」
「連合王国はグラノヴァに帝国が来たことをどう考えると思いますか?」
「帝国が来たとなれば停戦したばかりであるし、我々を避けるのではないか?」
「いいえお父様、連合王国はこのレダイル大陸を侵略しに来ているのです。そこに帝国が現れたら帝国もこのレダイル大陸を狙っていると考えるでしょう。連合王国と帝国は停戦したばかりなので、帝国にこの地を奪われたら手出し出来ません。ましてやグラノヴァは連合王国から見れば1番近い大陸の1番近い街なのです。この地を帝国に取らると連合王国にとっては喉元に突き付けられたナイフのようなものなのですよ」
モニーシカの言いたいことが分かってきた。どうやらモニーシカは新しい国を創っても後ろ盾として帝国が居なければ直ぐに連合王国に潰されると言いたいのだろう。
「帝国が後ろ盾にならねば、国を創っても直ぐに潰されるという事だな?」
「その通りですお父様。私達が後ろ盾も無く独立しても帝国もこの地を狙っていると考える連合王国が放って置くはずがありませんから」
「じゃあやっぱりレオンが王様になって建国して帝国に保護とかしてもらった方が都合がいいんじゃないですか?」
「そうですねぇ、それだとグラノヴァは帝国の一部になってしまいます。それでも暫くは大丈夫でしょうけど、帝国と連合王国がまた戦争を始めたら真っ先にこのグラノヴァが攻められてしまいますね。帝国からは遠い飛び地になってしまうので援軍の到着も直ぐには期待できませんし」
儂が連合王国に戦争仕掛けなければいいのでは無いか?・・・あっ、無理だ帝国内の穏健派はゴミ掃除されて統一派の貴族はかりだから儂じゃ抑えきれない。10年戦ってもあいつらまだ統一諦めてないし。
「帝国もガレリア大陸統一派の貴族が多い、すぐでは無いが何れまた連合王国とは戦争となろう。そうなれば総力戦となるからこの飛び地に援軍を送る時間的余裕は無いかもしれんな」
「マルティナさんはレオンが王になったらどうしたいですか?もちろんマルティナさんが独り立ち出来るまで保護はしますが、ずっとという訳にも行かないでしょう?何かやりたいこととかありますか?」
「そうですねぇ、私はネブラスカ家の人間なので後ろ盾が無いとこの街には居ずらいですかねぇ?商業ギルドで働き続けられるならレオンと専属担当の契約してますし、レオンの仕事のお手伝いがしたいです。商業ギルドがダメなら、レオンの専属メイドにしてください!」
マルティナはレオンの専属の彼女とか言ってた気がするが、商業ギルドとやらの専属契約の事か、しかしレオンめ、少女に専属メイドにしてくださいと言わせるとは、けしからん。イヤ、羨ましい。
「まぁまぁまぁ、レオンの専属メイドにだなんてマルティナさんは何を狙っているのかしら?うふふっ」
「えへへっ、レオンと一緒に居ればいずれ成長して、私を襲ってくれるかもしれないじゃないですか、そしたら側室にでもして貰えたらなぁと。えへへっー」
「全く、ませた娘よのぉ」
「マルティナさん?レオンを襲うのは構いませんがレオン本人の同意は得てくださいね?」
「モニカさん酷いですよー、私はまだ子供ですからそこまで飢えていませんよー」
「成程、将来成長したら飢えて襲う気なのだな」
「皆して酷いですー、でもレオンが成長してかっこよくなったらと考えると否定は出来ませんね」
マルティナを王女になんてしたらどうなるのか、片っ端からイケメン連れ込んで襲ったりするのだろうか?国を創る話が何故こんな話になっているのだ?結局レオンが起きねば何も決まらんのではないか?
「はぁ、結局どうするのだ?レオンが目覚めてからもう一度話すべきではないか?」
「そうですわね、レオンの考えも聞いてみませんと」
「れっ、レオンには今私が話してたことは伝えないでください!」
「あらあらあら?レオンに聞かれたくない話だったのかしら?」
「もー、モニカさん意地悪ですー」
コロコロコロ・・・コトッ
なんだ船医が置いていったインクのペンが落ちた音か。
「ところでお父様?なんだ体調が悪いせいかこの船が傾いて来ているように感じるのですけど?私の気のせいでしょうか?」
「モニカさん気のせいじゃないですよ。私も何だか傾いている気がします」
ん?船医のペンで確かめてみるか。机の上に置いてっと
コロコロコロ・・・コトッ
「確かに傾いておるようだな。この連合王国の艦隊を轢き潰した要塞戦列艦シャルビスが波の揺れではなく傾くなど今までなかったことだ」
奥から人が走ってくる音がする。
「陛下!!報告します!」
「何だ!今は会談中であるぞ、それを妨げるほどの要件か!」
「はっ!右舷中央船底部に大破孔!浸水が止められません!現在浸水区画が拡大中!この艦も右舷に傾きつつあります!!」
「なんだと!?いったいどういう・・・」
儂は寝ているレオンの姿を見た。
「まったく、やってくれおったな、モニーシカよそなたの子はまったく大した奴だ」
「ひょっとしてレオンの船が体当たりした時の傷ですか?」
「お父様?私、魔の海域で嵐にあってから船は苦手になりまして、この船は大きいので揺れなくてそれほど苦にならなかったのですが、傾いてると思ったら気分が悪くなってきました」
「何!?それはいかん、すぐグラノヴァへ行った方がよさそうだな。 伝令!今すぐグラノヴァへ向けて船を動かせ!」
「陛下!現在グラノヴァの方角からの微風の向かい風です。到着まで時間がかかります。この船の浸水を止めなければ右舷側より転覆してしまします!」
「何!?そこまでひどい浸水なのか!なぜ今まで報告が無かったのだ!」
「申し訳ございません!当初浸水はすぐ塞げる見込みでしたので報告致しませんでした!今まで船底の穴を塞ぐ事態に遭遇したことが無い為、兵の技量も練度も足りず、穴を塞ぐことを何度も試みましたが全て失敗致しました!」
何ということだ!この要塞戦列艦シャルビスが沈むというのか?子供の造ったという船の体当たり程度で沈むというのか?連合王国の艦隊を轢き潰して壊滅させたこの船がしずむだと!?沈む前にモニーシカを早く脱出させねば。
「モニーシカ!お前が乗ってきた船でマルティナとレオンと共に先にグラノヴァへ戻りなさい」
「お父様はここに残るのですか?」
「儂はシャルビス帝国の皇帝である!帝国の名を冠したこの要塞戦列艦シャルビスから真っ先に逃げ出したなどと後世の笑いものだ。儂の事はいいから先にグラノヴァへ戻るのだ」
「こんな大きな船が沈むんですか?」
「まだ沈むと決まったわけではない!」
「船の事ならレオンに聞けたらいいんだけどなぁ。ちょっと無理やり起こしてみますか?モニカさんどうでしょう?」
「緊急事態のようなので許可します!マルティナさんレオンを起こしてくださいませ」
「はぁーい!」
マルティナは楽しそうにレオンに駆け寄ると体中くすぐり始めた。
「レオン~?起きてー朝だよー? こちょこちょこちょ~・・・起きませんね」
「物語にあるであろう、王子様のキスで目覚める話が、一発キスでもしてみてはどうだ?」
「えっ?キスしていいんですか?でも私女の子なんですけど?」
「マルティナさん?あなたもレオンも初めてではないんですか?気を失ってるレオンの唇を奪ってあなたはそれでいいのですか?」
「あー・・・ちょっと雰囲気に欠けますね・・・レオン!起きてー!!ペシッベシッ・・・あーーレオンの造った船が壊されちゃうよーーーー」
「・・・」
「反応がありませんね。仕方ありません、ここは私の初めてのキスで・・・ハァハァハァ 」
マルティナの息遣いが荒い、まったく子供のくせに盛りおってからに・・・ん?
第1部もあと2話