第17話 俺の船が沈むなんてありえねぇ!
タイトル詐欺に注意
俺がいるスコーピオンの艦橋に伝声管から声が響く。
『こちら見張り台!連合王国の船が引き返し始めました集合しているようです』
「見張り台!引き続き全周を警戒せよ!」
『了解しました』
「若頭!これは敵が撤退の準備を始めたのでは?」
「だと助かるんだけどなぁ」
「レオン、圧縮砲の弾も残り少ないんでしょう?今のうちにグラノヴァに戻って補給したら?」
マルティナの言う通りだ。もう圧縮砲の弾が各艦10発程度しか残ってないはずだ。圧倒的火力で敵船を沈めるはずが、実際に敵船に撃ち込んだら簡単には行かなかった。
マストに当たれば1発でへし折る威力はあったが、敵船の船体に穴を空けるだけでは沈まない。船の喫水線より下に穴を開けなければ浸水しないからだ。
訓練では海に浮かべた動かない的に撃つ練習をさせていた。いざ実践となるとこちらも動き相手も動くから数百メートルしか離れていなかったとはいえ、狙った場所にはなかなか当たらない。
お陰で1隻沈めるのに何発も撃つ羽目になり圧縮砲の弾不足に陥っていた。敵の一部が別れてグラノヴァの町に向って行った時には焦ったな。
こちらの船を風上から風下へ誘導するための陽動かとも思ったが、無防備なグラノヴァを狙う敵を放置も出来ないので素早く叩くことにした。
蒸気機関の出力を最大にしてたので、このスコーピオン級の最大船速が出ていただろう。そしてグラノヴァに向かう別れた敵に併走して容赦なく圧縮砲の弾を叩き込んだ。お陰でもう弾が無いと言う状況だ。
敵がちょっと下がったからと言って簡単に補給に戻ったら、敵が来て港に上陸されでもしたら負けとなる。どうするか、しばらく様子見しかないか。
「全艦に連絡!しばらく様子を見る!攻撃を中止し距離を保て!」
『こちら見張り台!南にマスト3つ見えます!』
「若頭!敵の援軍で?」
「レオンどうするの?敵の援軍だったらこのままじゃまずいでしょ??」
まずい、まずい、連合王国は事前交渉の際に第三艦隊と言っていた。当然他にも艦隊が居るはずだ。50隻は先方としては妥当な数だが、本隊としては少なすぎる。敵が下がったのも敵の援軍が来たのが見えたから合流するためか!?だとしたら敵が合流する前に1回港に戻って弾の補給をすべきか。
「敵の援軍なら合流する為に下がったんだろう。今のうちにグラノヴァに戻って弾の補給をするぞ!」
「それしかなさそうですなぁ」
『こちら見張り台!引いた敵船のマストから戦闘旗が降りました!針路を東に変えています!』
「戦闘旗を降ろして針路が東!?敵は撤退するのか!?」
「若頭、こりゃあいったい?南からの船は敵の援軍ではないんでしょうか?」
「レオン、南から来たのなら帝国の船じゃないの?」
「マルティナ!それだ!南から帝国の船が来たから連合王国の艦隊は撤退したんだ!ならやる事は決まったぞ!」
グラノヴァのあるレダイル大陸の東側にガレリア大陸があり、その北側にガレリア連合王国、南側にシャルビス帝国がある。グラノヴァに連合王国の援軍が来るなら東からだ。南から船が来るならシャルビス帝国と考えるのが妥当だ。比較的近い連合王国がわざわざ南から回り込んで来る非効率な事はしないだろう。
「通信員!レッドクラブに連絡!スコーピオンと共に帝国と思われる船を確認しに行くからついてこい! それとイエロークラブに連絡!グラノヴァに戻り、連合王国の艦隊が撤退した事と帝国と思われる船が接近中と伝えて弾の補給をして戻ってこいだ」
『了解しました』
「マルティナ、聞いての通りだから南から来る船に針路を取ってくれ」
「分かったわ」
「若頭、南からくる船が帝国のなら、何しに来たんですかねぇ?」
「ガリガーノ、そこまでは俺にも分からないよ。だから確認しに行くのさ」
しばらく南に進むと船影が見えてきたのだが。
「デカい、なんだあの大きさは・・・」
「若頭!あっしもあんな巨大な船は初めて見やした」
「なんでマストが横に3本もあるの?奥にも何列かあるように見えるわ!」
そう、見えた船は超巨大な船だった。正面を向いている超巨大船はマストが3本横に並んでいる。奥にも何列かあるようだ正面からではマストが重なってよくわからない。あんな帆船が現実に存在するのか!?俺の得た知識でも非常識としか思えない。だが面白い!あんな巨大な船を造れる国があるのならいつか行ってみたい!
『こちら見張り台!巨大な船に帝国の旗が見えます!それと周りに船が居ません。1隻だけのようです』
「通信員!レッドクラブに連絡!スコーピオンはこれより帝国の巨大船に向かい意図を確認する。レッドクラブは停船しここで待機せよ」
『了解しました』
「ガリガーノ!戦闘旗を下ろして交渉旗を上げてくれ」
「了解でさぁ若頭! ムキッ!」
「マルティナ!針路はあの巨大船に頼む」
「了解よレオン」
さてさてどうなる事やら。シャルビス帝国までレダイル王国を侵略しに来たら完全に詰みだなぁ。あんな巨大な船ってことは相当な兵を積んでいる可能性高いよなぁ。イエロークラブがグラノヴァの母上に連絡してるだろうから後のことは母上に任せるしかないか。今の俺に出来ることは帝国の意図を確認する事だけだし。
そんな事を考えていたら目の前の巨大な船が横に向き始めた。どうやらマストは1本、2本を交互に10列あるようだ。そして巨大船の横に四角い穴が沢山空いているのが見えた。
『こちら見張り台!!巨大船のマストに交戦旗が上がりました!』
なんだって!だとしたらあの穴は!まさかっ!!まずぃ!
「総員直ちに船の後部へ移動!硬い物の影に隠れろ急げ!!急いで移動しろ!!死ぬぞ!!」
「急にどうしたのレオン?」
「若頭!いったいどうしたんでさぁ」
「「「ドドドドドドッーーーンンンンン」」」
突然巨大船の側面が何十箇所も光ると同時に黒煙を吹いて、轟音の連打が鳴り響いた。
「総員!伏せろーーーーっ!」
俺はとっさにマルティナを押し倒して覆い被さる。
「キャア」
マルティナが小さな悲鳴をかき消すかのようにそれはやってきた。巨大船の側面から発射された無数の大砲の弾の雨がスコーピオンを襲う。
至近弾となった弾は水しぶきを上げ船を揺らし、船体や甲板に当たった弾は貫通し船体に穴を開ける。船体中央の金属板で作られた防水区画にも当たったようで耳の痛い金属音が鳴り響く。艦橋にも当たったのか木片が飛び散って頭に降ってきた。
やがて弾の嵐は過ぎ去り静寂が訪れる。
「みんな無事か!?各部損害報告!!」
「若頭!いまのはいったい」
「説明は後だ!損害状況を報告しろ!」
「レオン重いどいてっ!」
「ああっごめんマルティナ」
俺はとっさに庇っていたマルティナから離れる。
『こちら機関室!中の連中が全員気絶してます!救助要員をお願いします!』
『こちら前方圧縮砲!船体が穴だらけで浸水しています!』
『こちら後方圧縮砲!被害軽微、圧縮砲は撃てます!』
「レオン!舵が動かないわ!」
くそっ舵がやられたか!!船首は巨大船に向いたまま蒸気機関もまだ動いて進み続けている。距離が遠いせいで命中率は悪かった様だが、次に撃たれたら沈みそうだ。機関室の連中は防水区画を締切って居たんだろう。弾が金属板に当たった音と衝撃で脳震盪でも起こしたに違いない。
あれっ?そい言えば見張り台からの連絡が無い。
「若頭!!マストが折れまーーーす!!」
直後、大砲の弾が当たっていたマストがベキベキ音を立てて折れた。折れたマストはそのまま左舷側の海に倒れ込んだ。
見張り台の連中は海に投げ出されたようだが無事に見える。
「クソっ!ここまでだな!総員退艦!!動ける者は動けない者と一緒に海へ飛び込め!!」
「ガリガーノ!レッドクラブに救助要請!!」
「了解でさぁ若頭!!」
「マルティナも早く海に飛び込んで親父たちに救助して貰ってくれ」
「レオンはどうするの?」
「俺はまだやることがある!」
「若頭!レッドクラブへの救助要請完了でさぁ」
「ガリガーノ!退艦の指揮を任せる!必ず全員救助して貰え、急がないとまた帝国が撃って来るぞ!」
「了解でさぁ。マルティナの姉御も早く来てくだせぇ」
「マルティナ巻き込んで本当にごめんな。俺の見通しが甘かった。さぁ早く退艦してくれ!」
「いいのよレオンあなたも早く逃げるのよ?」
「あぁ!俺は空飛ぶ船を造るまでは死ねないからな!!」
俺はそう言うと防水区画の機関室へと向かった。防水区画は弾に当たっても耐えたようで浸水もなく、蒸気機関も正常に動いている。
「まったく親父たちの仕事は大したもんだな。あれだけくらってまだ動いてる」
俺は直ぐに後方の圧縮砲に向かい、圧縮砲発射用の圧縮空気の詰まったボンベと熱晶石の粉を取ってきた。それを2往復して熱晶石の粉の塊を防水区画に放り込む。ボンベも放り込もうとした時声がした。
「レオン!何してるの!?早く逃げましょう!」
マルティナだった。
「お前!何してる!早く海へ飛び込め!沈むぞ!」
「私は泳いだ事無いのよ!レオンを待ってたのに来ないから探しに来たのよ!」
「「「「ドドドドドドッーーーンンンンン」」」」
突如またあの轟音が響いてきた。
ここは防水区画だから直撃しても耐えられるはずだ。俺は持っていたボンベを蒸気機関の燃焼室に放り込んでマルティナの方へ向かう。
「マルティナ伏せろ!またさっきのが来るぞ!」
マルティナも俺もその場に伏せた直後、さっきより巨大船に接近しているせいか轟音から弾の着弾が早い。船体が揺れ、木片が飛び散り、防水区画に当たったのか物凄い金属音が響く。
「きゃあああああーーー」
巨大船に近いせいでさっきより命中した弾が多かったのだろう。先程とは比較にならない被害が出ているはずであった。
船は揺れに揺れた。すると蒸気機関に補給する予備の水樽が転がりだし、俺とマルティナに向かって来た。
俺はとっさにマルティナを押しのけて樽の針路から遠ざけたが、転がる重い水の入った樽は俺を吹っ飛ばして俺の右足を轢いた。
『ボキッ』っと嫌な音がして俺も右足に激痛が走る。
「ぐあああっ」
俺は悲鳴をあげつ右足を抑えるがやはり折れているようだった。
痛い痛い、これはいたすぎるだろう。早く逃げないと、燃焼室にボンベを放り込んでしまった。
「レオン!怪我したの?私を庇ったから?頭から血が出ているわ」
「うぐっ、右足の骨が折れたみたいだ、ハァハァ、マルティナ肩を貸してくれ・・・急いで脱出しないと蒸気機関が爆発するぞ」
「蒸気機関が爆発!?レオン!こんな時に何やってるのよ!!」
「時間が無い!!マルティナ!そこの防水区画の扉を閉めてくれ、急げ!本当に時間が無いんだ!うぐっ」
右足が痛い、骨折ってこんなに痛いのか、痛みで息をするのも辛い。樽に吹っ飛ばされた時に木片か何かで頭も切ったようだ。結構な血が頭から垂れてきている。
マルティナは防水区画の扉を閉めると俺に肩を貸してくれた。そして何とか階段を登り甲板に出ると巨大船が目前に迫っていた。
「飛び込めマルティナ!」
「ええっ!」
俺とマルティナが海へ飛び込む。飛び込んだ衝撃が俺の折れた右足に容赦なく襲う。俺は痛みで口を開けてしまい海水を飲んでしまった。
「ゲホッ ゲホッ、ハァハァハァハァ」
俺は何とか水面に浮き上がり飲んだ水を吐く、そして周りを見るとマルティナがバシャバシャもがいている。本当に泳いだことが無い様だった。
「マルティナ!落ち着け!海では人間は浮くんだ。力を抜け何もするな」
そう言うとマルティナは力を抜いて横向きに浮かんだ。俺は何とかマルティナの側へ行き、マルティナの手を掴んで並んで浮かぶ。
「大丈夫か?マルティナ、俺のわがままに巻き込んで本当に済まない」
「本当にしょうが無いわねレオンは、これからどうするの?」
「あれの最後を見届ける」
俺はそう言うと巨大船の横っ腹に体当たりする瞬間のスコーピオンをみた。ドーーンと巨大船の側面に全速で体当たりしたスコーピオンはバキバキと音をたてて船首が潰れ、巨大船の下に沈みこんで行った。
「ああっ、スコーピオンが沈んでしまったわ。レオンがやり残した事ってスコーピオンをあいつに体当たりさせる事だったの?」
「ハァハァ、いや違う。スコーピオンの最後の毒針を仕掛けたんだ」
その直後だった。物凄い爆発音が巨大船の下から響き、巨大船のマストに届こうかと言うほどの水柱が上がった。
「何あれレオン!どうなったの?」
「加熱した蒸気機関に海水が触れて水蒸気爆発を引き起こしたんだ。それより息を吸って口を閉じて少し耐えろよ、大きな波が来るぞ」
水柱の余波で大きな波が俺とマルティナを飲み込む。
俺は折れた右足の痛みに堪えながら握ったマルティナの手を離さないように握りしめた。
俺がスコーピオンでしたのは圧縮砲の熱晶石の粉を防水区画内に入れ、圧縮ボンベを蒸気機関の燃焼室に放り込んで防水区画の扉を閉めただけだ。
熱でボンベが爆発して中の圧縮空気が解放され、密閉していない熱晶石の粉は爆発ではなく加熱する。燃焼室も圧縮空気が解放された事で異常加熱する。そこに巨大船と衝突して沈んだスコーピオンの防水区画に衝撃か水圧で水が入り込み。加熱された蒸気機関に触れて水蒸気爆発するのを狙ったのである。
「ケホッケホッ、うー、しょっぱい」
「海の水だからな、ハァハァ」
やばいなスコーピオンの水蒸気爆発が上手くいったら安心して気が抜けてきた。足の痛みもあまり感じなくなってきた。
水に浸かって気づかなかったけど頭の傷も結構深いのだろうか?血が未だに流れ出ているようだ。これは結構不味いのかな?
「レオン、痛むの?」
「ハァハァ、すまんマルティナ、ハァハァ、足の痛みを感じない。意識も朦朧としてきたみたいだ、ハァハァ」
「助けを呼ばないと!!」
「ハァハァ慌てるなマルティナ、余計な体力を使うだけだ、ハァハァ、大丈夫だこれだけ近くに沢山船が居るんだ、ハァハァ、直ぐに救助してくれるさ」
俺はスコーピオンの水蒸気爆発受けたはずの帝国の巨大船を見た。巨大船の側面下部には水蒸気爆発のダメージと思われるそこそこの穴が空いていた。巨大船にしてみればあんな穴アリの一刺し程度、いやサソリの一刺し程度だろう。だが一矢報いてやったぞ!
「ハハッ、ざまーみろ、俺の船に攻撃して来た仕返しだぜ、ハァハァ・・・マルティナすまんもう意識を失いそうだハァハァ・・・」
「ちょっとレオン!冗談はやめてよ!こんな所で私を1人にしないでよ。うぐっうぐっ」
視界の端に見えたマルティナは涙目になっていた。
「ハァハァ、1人じゃ無いさ・・・手を・にぎって・・」
マルティナが俺の手を強く握る感触を感じながら、俺の意識はそこで途切れたのであった。
氷菓!評価!アイスクリームじゃなかった!評価してくれたらアイス食べます




