第13話 俺の船に乗るのは筋肉!?
組長!ムキッ!
ここはグラノヴァのハワード造船所にある3号ドック、一隻の船の進水式を見ようと関係者が集まっていた。一隻の船とは俺の設計した蒸気船のスコーピオン級1番艦の事だ。
「これで浮かずに沈んだら笑いものだなぁ」
「お前があんなに金属の板を使うからそんな心配する事になるんだよ」
「蒸気機関は高温になるから浸水して水に触れると水蒸気爆発とかして危ないんだって説明しただろ親父!」
「まぁまぁその辺にしておきなさい、ハワード?レオン?皆様お待ちかねですよ?」
「私は船の進水式を見るのは初めてだからドキドキします」
「じゃあそろそろ行きますか!」
俺はそう言うとロープの前に立ち斧を構える。
「蒸気船スコーピオン級1番艦、艦名はスコーピオンと命名する!」
俺はそう言うとロープに斧を振り下ろす。「ダンッ」音がしてロープが切れ、酒瓶がスコーピオンの船首に叩きつけられると、スコーピオンがレールをゆっくり滑りドックの外の海へと入水する。
「「「わあぁああああぁぁぁぁ」」」
人々の大きな歓声が新たな船の誕生を祝福する。この船は迫りくる連合王国の艦隊を打ち破るための船なのだから観客の歓声も一際大きい。
「ちょっとレオン?船首が海の中に潜ったじゃない。大丈夫なの!?」
「ああ、マルティナは初めてだから知らないのも無理はないが、ここまではいつも通りだよ。問題はここから浮いてくれるかだけどな」
船首から海に突っ込んだスコーピオンは船体中央部まで海中に潜り込んだかと思うとそのままゆっくり浮かんできた。
「ふーっ、何とか浮かんでくれたな」
「信じられん、あれだけ金属の板使って重い蒸気機関も載せてるのに浮かんだぞ」
「あー!親父やっぱり沈むと思ってやがったな!!もっと俺の設計を信じろよ!」
「お前だって自信無かったんだろうが!お互い様だ」
「お二人とも浮かんだんだからよかったじゃないですか!あれに私とレオンが乗って戦うんですよね?」
「その予定だけど、その前にあいつの試運転しないとな!あいつの処女もいただきだぜ」
「まぁまぁレオン?船乗りなら仕方ないかもしれないけどその言い方は乙女には刺激が強いのではなくて?」
乙女?周りを見るとマルティナが顔を赤くして俯いている。新しい船に最初に乗れるのがそんなに嬉しいのか!わかるぞマルティナよ。俺も自分で最初に造って最初に乗ってみる気持ちは何度味わってもいいものだからな。
「親父、あと2隻の建造は間に合いそうなのか?」
「ああ!グラノヴァの造船所の連中と昼夜を問わず交代制で造ってるからな、数日中に残りの2隻もできるだろうよ」
「母上!戦ってくれそうな信用できる人たちは集まりそうですか?」
「そうですね。造船組合の逞しい人たちが是非にと申し出てくれました。それと漁師の方々からも協力の申し出がありましたよ。合計でざっと50人程度でしょうか?」
「このスコーピオンの乗員は最低15人いれば動かせて戦えますので3隻で45人必要なのですが大丈夫そうですね。あとは母上の集めてくれた人達をスコーピオンに乗せて訓練が必要です」
よしよし50人いれば何とかなるな。交代要員が殆どいないのはけが人とか出たら大変だけど何とかなるだろう。とにかくガレリア連合王国の艦隊が来るまで母上の最短予想だと来週には来てしまう。もっと早い可能性もあるから急いでスコーピオンの操船や圧縮砲の取り扱いを教えて慣れてもらわないとな。
「レオン、たった45人程度で大丈夫なのか?この船。軍用船にしては相当小さいよな?」
「いいんだよ親父、外洋へ航海するわけじゃないから交代要員なんて考えていないし、トイレはあるけど、寝泊まりする設備もキッチンも無いんだ。ましてや白兵戦なんて考えてもいないからな」
「お前の新しい戦い方はモニカから聞いたが、本当にうまく行くのか?机上の空論ってやつじゃないのか?」
「それを言い出したらキリがないさ。戦場じゃあ何が起こるかわからないからな。少しでもうまく行くようにこれから残りの少ない時間を有効利用してみっちりスコーピオンの操船訓練をするんだよ」
「私も一様旗頭としての務めを果たすために訓練にはもちろん一緒に参加しますからね?レオン」
「ではレオン?私は戦いに参加してくださる方々を連れてきますわね」
「はい。母上よろしくお願いします」
「じゃあ俺はあの船の試運転に同行して各部確認してから造船所の主として2番艦と3番艦の建造状況の確認に向かうとするか」
そして俺達は無事進水式を終えたスコーピオンへ向かう。するとスコーピオンをロープで引っ張りながら岸壁に係留しているマッチョな集団に出くわした。
「組長の旦那じゃないですかい。お疲れ様です」
マッチョな男は親父に向かって一礼をすると筋肉を見せつけるようなマッスルポーズを取ってきた。決めポーズのようだ。
「組長?」
俺は初めて聞く呼び方に疑問を抱く。
「お前は初めてか?こいつらはモニカが組織した造船組合の従業員の人達だ。まぁ、組長とはモニカのことだ」
「旦那ぁそりゃないっすよー、俺たちは組長の身辺警護も兼ねた組長の親衛隊の『マッスルズ』だって言ってるじゃなっすかー。ふんむっ」
そう言うと筋肉男は別のマッスルポーズを決める
「レオンこいつがその自称マッスルズのガリガーノだ。ガリガーノ、この子供が俺とモニカの息子のレオンだ、こっちの嬢ちゃんが商業ギルドのマルティナでレオンの彼女だから丁重にな」
マルティナが俺の彼女って、6歳に7歳だぞ。あぁそういう事か、マルティナは渦中のネブラスカ家の人間だからわざわざ商業ギルドと言ったのか。マルティナもこいつらと一緒に乗るからネブラスカ家の人間である事は今は隠しておいた方がいいのかな?
俺は親父の方を見ると俺を見ながら何かニヤニヤしてやがった。
「なんと!?ではこのスコーピオンを設計したという話の・・・組長の若頭ですかい?、おーいみんな集まれ!! ふんっぬ!」
ガリガーノと紹介されたマッチョな男がまたマッスルポーズを決めていた。スコーピオンの係留作業をしていたマッチョな人達は互いにマッスルポーズを決めて伝播していく。
こいつらマッスルズは行動の節目にマッスルポーズしないとうごけないのか!?まさか母上の集めた乗組員はこいつらじゃないだろうな?こいつら船に乗せて戦うとかになったらどうしよう?力はありそうだけどなんか心配になってきた。俺はマッチョだらけの狭い船内を創造してげんなりした。
マルティナの方を見ると何やらまた顔を赤くして下を向いている。こんな上半身裸の男たちの筋肉見せつけられたらそうなるよなぁ。マルティナにはまだ刺激が強かったようだ。
「マルティナ、大丈夫か?」
「え?・・・えぇ大丈夫よ。レオンは大丈夫なの?」
「俺は造船所育ちだからな。慣れてるんだ」
「なっ・・慣れてるんですか。へぇーそうなんだ」
「せいれーーつ! ふんぬっ!」
マッスルズの人達が走ってきて二列に整列してガリガーノの掛け声で一糸乱れぬマッスルポーズをキメる。30人位いるのかな?
なかなかの練度のようだけど、母上の親衛隊とかいってたよね?これって母上の趣味なの?
「こちらがスコーピオンの設計者にして噂の組長のご子息であるレオンの若頭である! そしてこちらが若頭の大切な方であるマルティナの姉御である! マッスルズ敬礼!ふんっ!」
「「「若頭!、姉御!、お世話になります!!ふんぬっ!」」」
30人のマッチョが一糸乱れぬマッスルポーズはちょっとかっこ良く見えてきた。おっと挨拶せねば。
「俺がこのスコーピオンを設計したレオンだ。いつも母上が世話になっているようだな、礼を言う!ありがとう。これからも母上を助けて欲しい、よろしくおねがいします」
俺は一礼すると一歩下がってマルティナを前に出すが、マルティナの反応がない。俺はマルティナを肘で小突く。
「おいっマルティナ挨拶あいさつ」
「ひゃい!・・・は、初めましてマルティナと言います。レオンと一緒にがんばりまっしゅ」
噛んだ、お約束か?いつも結構しっかりしてるのにどうしたんだ?マルティナはマッチョに弱いのか?マッチョ好きで恥ずかしくてまともに見れないとかか?
「あらあら皆さんお揃いでもう挨拶は済んだのかしら?」
母上が20人くらいの人を連れて来た。おっ?なんか見た顔がいるな。
「おーい、レオンの坊主じゃないか?久しぶり?1ヶ月振りくらいか?」
「あー、えっと、えーっとフッズ?」
「惜しい、旦那のウッズだよ、それとミレーを忘れちまったかい?」
「いやー覚えてるよ。あんた達も戦いに参加するのか?」
「そうさね。私らは生まれも育ちもこの街だからね。だまって見てられるわけないじゃないか!なーお前たち!?」
「「「そうだ!そうだ!」」」
ウッズとミレーは俺が空魚に船ごと吊り上げられて落っこちた時に助けてくれた漁師をやってる夫婦だ。どうやら戦いに参加してくれるらしい。彼らは全員ウッズ達の仲間の漁師ようだな。
「母上?残りの人達は?」
「何を言っているのレオン?あなたの後ろに逞しい人達が揃っているではありませんか!」
あっやっぱりマッスルズが参加するのか。もう素直に受け入れよう。
「はいはい!皆さん揃いましたね?この子がこの新しい船を設計した私の息子のレオンです。すごい船なので私も安心してレオンを戦場に送り出せるのですよ。これから皆さんにはこの船の扱いに慣れてもらうために訓練をして頂きます。分からないことはレオンに聞いて上手くやってくださいね」
「組長!若頭は何があっても我々が守りますのでご安心を!ムキッ!」
「「ムキッ!」」
「はいはいよろしく頼みますね。ではレオン?皆さんに何か気合いの入る言葉でもお願いしますね?」
「母上?私がですか?母上が色々手を尽くしてくれたのですから母上からのお言葉の方が良いのでは?」
「私は女の身ですからね、こう言う場合はドスが効かないでしょう?」
ドスって母上が何かに染まっていく気がする。これはきっとマッスルズの影響だな!ここは1発かましとくか。
「えーえー、こほんっ。では私ことレオンが代表して挨拶させて頂きます!」
「パシッ!」
俺は両頬を叩き気合を入れる。
「諸君!母上から既に話を聞いていると思うが、我々の敵は飢えた連合王国の野獣共である!この戦いに負ければこのグラノヴァが、皆が育った故郷が!蹂躙され、人も財産もみな奪われるのだ!そんな事黙って見ている訳には断じていかない!目を逸らして逃げることなど断じてできない!!!だから皆が守りたいものを守るため我々は戦うのだ!! 敵はすぐにでも来るかも知れない、だが我々にはこの船、スコーピオンがある!!!これがある限り敵が何隻来ようと負けない!!!」
俺は一呼吸した。
「いいか野郎ども!!俺がお前たちを熟練船員に鍛えてやる!!今すぐスコーピオンに乗り込め!出航だーーー!」
「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーー!!!!」」」
皆一斉にスコーピオンへ向けて走り出した。
「レオン?なかなかの熱演ぶりでしたよ?うふふっ、将来が楽しみですね。ねぇ?マルティナさん?」
「あんな感じでよかったのでしょうか?母上」
「えぇ、皆十分貴方の自信と熱意が伝わったことでしょう」
こんな6歳の子供の熱演でも大丈夫だったのだろうか?でもみんな動いてくれてるからいいのかな?
「親父!まずは無理やり全員乗せて蒸気機関と圧縮砲がどういうものか体験してもらうから説明はまかせていいか?」
「実際に造ったのは俺たちだからな!まかせとけ!」
「では、母上いってまいります」
「マルティナも早くいくぞ!」
「はっはい!すぐ行きます」
「ハワード、レオン、マルティナさんもしっかりね?」
母上が手を振って俺たちを見送っていた。
俺たちもスコーピオンに乗り込むと、俺とマルティナは船の中央にある艦橋へ入った。ここで操船や前後の圧縮砲と艦橋下の機関室と伝声管で指示を出すのである。
「親父聞こえるか?」
俺は機関室にいるはずの親父に伝声管で話しかける。
『おー、レオンよく聞こえるぞ。今は蒸気機関の燃焼室に人力で風を送って火力を上げているもう少ししたら行けるぞ』
「了解。準備出来たら教えてくれ」
『あいよー』
「レオン、それで連絡が取れるの?」
「そうさ、この筒には話しかけると管の中を声が反響して管の先に伝わるんだ。後でマルティナにもやってもらうからな」
甲板の上に出て色々見て回っている50人の搭乗員達は何をしていいのかわからず勝手気ままに見たいところへ行って見学しているようだ。
「みんな聞いてくれ!この船は帆を張らずに動くことができる!他にも色々あるが後で説明するからな!」
「へぇー帆を使わなくても動くのかい?漁船でも使えたらいちいち帆の操作せずに漁に集中できていいねぇ」
「ミレーこんな高そうなもん漁船じゃ使えないだろ?なぁ坊主?」
「そんなことないぞウッズ!今は確かに高価だが量産すれば値段は下がるもだからな。何れ漁船にも普通に使われるようになるさっ」
「本当かい?それはぜひ操作を覚えておかないとだねぇ」
『こちら機関室、レオン準備できたぞ』
「ガリガーノ!錨を上げろ!出航するぞ」
「了解でさぁ若頭!、お前ら錨を上げてこい! むんっ」
マッスルズ達が船首へ走っていき、錨の巻き上げ機で錨を上げる。そしてムキッっとばかりにマッスルポーズを決める。
「若頭!錨上がりやした!」
「了解だ」
「こちら艦橋、親父蒸気機関始動!微速前進」
『微速前進、了解』
俺は舵を握りると、スクリューが動き出したのだろうスコーピオンがゆっくり動き出す。
「スコーピオン出航だーーー!」
こうして俺たちは新造艦のスコーピオン級1番艦であるスコーピオンの処女航海に出たのである。
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スコーピオン級1番艦 艦名『スコーピオン』
全長30m
主武装:圧縮砲 前方1門 後方1門
マスト:メインマスト1
主機関:大型蒸気機関1基
推進器:スクリュー推進1基
備考:圧縮砲用空気圧縮専用小型蒸気機関1基
構造:船体主材料 木製
船体中央下部機関室を金属板で防水区画化
乗員15名
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評価!ムキッ!




