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つくりたいだけなのに  作者: なちゅね
第一章
11/25

第11話 領民が船を造ろうが吾輩は我が道を

話なげーよ男爵さん

吾輩はスパロイド・フォン・ネブラスカ、ネブラスカ男爵家の2代目当主である。


我がネブラスカ男爵家は吾輩のお爺様である先代が大きな武功を立てて、いきなり男爵位に叙爵された新興の貴族であるが、元々は海賊であった。


海賊と言っても無力な民から奪う無法者では無い。

王位を巡って東西に国を二分した内戦が続いていた先代の時代、今ではこの大陸有数の造船都市となっているが、山々に囲まれたグラノヴァは内陸から人の往来の無い陸の孤島であり、元は小さな漁村であった。


数々の武勇伝を残した先代の生まれは、現在のグラノヴァがある場所の小さな漁師の家で、当時は内戦で人心も荒れ果てた時代であり、先代のいた小さな漁村にも容赦なく海賊が襲ってきていた。

だが先代は漁師仲間と共に海賊を返り討ちにした後、逆に海賊の船を奪った。

それが先代が残した最初の武勇と聞いている。


先代は『悪人は滅せよ!』と言い放ち周辺の海賊共を根絶やしにするほど暴れ回ったそうだ。

「どちらが海賊かよく分からんな」と2代目の家督を継ぐ前に亡くなった吾輩の父が生きていた頃よく言っていたのを覚えている。


先代の武勇に目をつけた現在の王家を支援していた東部連合の貴族達は、先代を味方に引き込み敵方である西部連合の商船や軍船を襲わせようと考えた。

先代は東部連合貴族の誘いに乗り内戦に参加した。

なぜ内戦に参加したのか詳しくは聞いていないが敵方である西部連合が人攫いをしていた事が先代の琴線に触れたらしい。


先代は東部連合に味方すると東部連合の旗頭の王族に私掠許可証を発行してもらい、西部連合の商船や軍船を襲いまくった。

そして私掠許可証を盾に積んでいた財貨を合法的に全て奪い去った。

奪った財貨は惜しみなく先代が生まれ育った小さな漁村『グラノヴァ』の発展の為に使ったという。


さらに先代は敵である西部連合が他国から買い入れていた武具や食糧などの海上輸送ルートを封鎖した。

西部連合は封鎖する先代の討伐に艦隊差し向けたが、先代は海流や天候を巧みに利用して艦隊を撃破して見せた。


先代が内戦に加わって僅か1年後、補給を絶たれ追い詰められた西部連合の旗頭であった王族は他国へ亡命する為に海に出た所を先代に補足され捕縛された。


こうして内戦は終結し、先代はグラノヴァ一帯を領地として平民から前代未聞の男爵位に叙爵され家名を『ネブラスカ』と名乗った。

小さな町1つしかない領地は男爵領としては有り得ないほどの狭い領地であった。


それは勝利した味方陣営が恩賞の奪い合いにより、先代が平民である事を理由に得られるはずの領地を減らされたという裏事情のためである。

しかし平民であるが先代の武功は巨大で無視はできず、爵位だけは男爵位に落ち着いたのであった。


しかし、平和になれば先代の武勇も必要なくなり、貴族社会からは平民で海賊上がりの先代は疎まれ誰も関係を持とうとはしなかった。


先代も貴族の習わしや礼儀作法には馴染めなかったのか貴族社会には関わろうとはしなかった。

先代は私掠で奪った膨大な財貨を元ににグラノヴァの発展に残りの生涯を費やした。


偉大な先代の息子であった吾輩の父は、何とか貴族社会に馴染もうと、資金に困っている下級の貴族を援助して見返りに貴族の習わしや礼儀作法の心得に通じた者を紹介してもらい雇い入れた。


吾輩の父の奮闘によりネブラスカ家はなんとか貴族としての風体は整って行った。

また、吾輩の父は借金に苦しむ下級貴族の借金を肩代わりする代わりにその貴族の娘を妻として迎え入れた。


吾輩の母は貧乏な貴族生活から解放された反動か、自由奔放に生きた女性ではあったが、吾輩の父とは気があったらしく幸せそうであった。


吾輩が産まれると母は浪費が激しくなって行った。

父が貴族社会に馴染もうと大陸中の貴族家を訪ね歩き、社交パーティをハシゴしていたので家を長期間空けていたことが原因であった。


母は浪費に飽き足らず酒に手を出し溺れて行った。

父が母の異常な状態に気づいた頃には既に遅く、母は体を壊しており程なく父が見守る中息を引き取った。

父もまた母を亡くした責任に苛まれ、気を紛らわすように酒に溺れて行った。


まだ現役当主であった吾輩のお爺様が父の異変に気づいた時には、父もまた体を壊していた。そして程なく先代と10歳の吾輩を残して亡くなってしまった。

吾輩は先代と父が残した優秀な者達に貴族として恥ずかしくない教育を受け、大切に育てられた。


こうして吾輩は幸せに暮らしましたとは行かなかった。


吾輩は亡くなった父が懇意にしていた下級貴族である騎士爵家の娘ヘレナを妻に迎えた。

ヘレナは気が弱かったが、美しく質素な生活を好む女性であった。

吾輩もヘレナとの生活が楽しく幸せな年月を過ごして3人の子供、2男、1女を授かった。


だが、幸せは長くは続かなかった。

先代であるお爺様が寄る年波には勝てず天に召されたのだ。

吾輩はネブラスカ家を継ぎ当主となった。するとどこからともなく今まで縁のなかった貴族共がやって来るようになった。


やって来た貴族共は先の内戦で先代に貸した金を返して欲しいだの、先代がグラノヴァ発展の為に買った資材の支払いがまだだの、色々な理由でネブラスカ家から金を取ろうとして来た。


最初は、お爺様の名誉を汚すまいと不審がりながらも支払いに応じていた。

しかしそれが良くなかった。

1度支払ってしまうと我も我もと金の無心に貴族共が押し寄せてきた。


流石に対応に困り果てた吾輩は、上位の貴族である侯爵家に相談すると、何とかしてくれると言うでは無いか。

吾輩はその話に飛び付いてしまった。

しかし条件に侯爵家の娘アントワーヌを妻に迎えることになってしまった。


吾輩は妻のヘレナに侯爵家の娘を妻に迎えればこの状況を何とかできるからと言い。

気の弱いヘレナは驚きながらも了承してくれた。


侯爵家の娘アントワーヌを妻に迎えると驚くことに金の無心に来ていた有象無象の貴族共がぱったりと来なくなった。

これが貴族社会という物かと感心したものだ。


翌年、アントワーヌとの間に子供が生まれた。男の子だった。


するとアントワーヌの態度が一変したのだ。

侯爵家の娘である私が正妻に相応しいと、下級貴族の娘であったヘレナをあらゆる手段を使って責め始めたのだ。


気の弱かったヘレナは使用人を使った間接的ないじめや心無い噂話等に耐えかね体調を崩してしまった。

吾輩は体を壊して亡くなった父や母の事を思い出して状況を重ねてしまった。

このままヘレナを死なせるくらいならと、ヘレナの実家と話し合い離縁して貰うことにしたのだ。

せめてもの償いにと多額の慰謝料をヘレナの実家へと送った。


そしてヘレナとの子供達にまで危害が加わるのを恐れた吾輩は3人の子供を王都に留学という名目で遠ざけた。


ヘレナが居なくなるとアントワーヌは堂々と吾輩の正妻を名乗った。

吾輩はただ肯定するしか出来なかった。


アントワーヌは正妻となった途端に好き放題し始めた。

高価な宝石や、外国産の高価な調度品やドレスなどを買いあさり始めたのだ。

それに留まらず実家の侯爵家に勝手に援助までし始めた。


先代が蓄えていた莫大な財貨は先代のグラノヴァへの投資とアントワーヌの莫大な浪費で遂に底をついてしまった。


吾輩は焦った。

先代が生涯をかけて発展させたグラノヴァではあるが、その時のグラノヴァの税収ではとてもアントワーヌの浪費を賄えなかったのだ。


吾輩はアントワーヌに「もうこの家には金は無い!浪費を辞めよ」と言ってやった。

だが、アントワーヌは男爵家如きが侯爵家の娘たる私に命令するとは何事かと怒り狂い、高価な調度品を平気で投げてくる始末であった。


吾輩はアントワーヌについて調べさせた。

するととんでもない事実が発覚した。


アントワーヌは社交界では有名で、嫁ぎ先を探すも全て断られた底意地の悪い悪女であった。

さらに先代が亡くなった途端に押し寄せてきた貴族共はアントワーヌの実家の侯爵家が仕組んだ事であったのだ。


アントワーヌの実家もまた莫大な借金があった。

悪女として有名で嫁ぎ先の無いアントワーヌを侯爵家は持て余した。

新興貴族であまり社交界に顔を出さず、貴族社会からも疎まれているが財産だけはあったネブラスカ家が狙われたのは当然の結果であった。

侯爵家の罠に吾輩は見事にハマり、アントワーヌを妻に迎え、侯爵家はアントワーヌより援助を送らせ借金を完済したという。


全てを知った吾輩は絶望した。

愛したヘレナと別れ、彼女との子供も遠ざけてしまった今、吾輩の心の拠り所は無かった。


吾輩は酒を飲んだ。しかし下戸だったので飲めなかった。

酒にまで避けられたと思うと自然と笑えた。

最後に笑ったのなどいつ以来だろうか。

そんな時、突然彼女がやって来たのだ。


彼女は先代、お爺様のメイド長だった。先代メイド長は私の惨状を見てこう言った、「今、貴方様は幸せでしょうか?」と。

吾輩は「見てわからんのか?どこが幸せに見えるのか」と言い返した。

するとメイド長は一通の手紙を差し出した。


その手紙は亡き先代であるお爺様からの手紙であり遺言であった。


手紙には驚くべきことが記されていた。

先代が内戦に参加した理由は敵方であった西部連合の王族が資金を得るために民を攫い他国に売っていると味方した東部連合の貴族に言われたからであると。

そしてそれは出鱈目で真相は真逆の内容であったと。


内戦終結の切っ掛けとなった西部連合の王族を先代が捕らえたあの日、先代は捕らえた王族に問うた。

「なぜ民を攫う事など出来るのか、それが守るべき民の上に立つ王族のする事なのか」と。


しかし捕らえた王族は言った「身に覚えがない事だ。大体、民を攫ってどうすると言うのか。我々が取引していた国は人身売買を禁止している」


先代は捕らえた王族が言ったことは助かるための言い訳だったとは思いつつも、真相を調べることにしたが、先代が捕らえた王族は味方の東部連合の貴族達に引き渡した。

とらえた王族には乳飲み子の娘もいたが、引き渡さずにかくまう事にしたという。


引き渡した王族は処刑され、東部連合の王族が王を宣言したことによって内戦は終結した。


その後も先代は処刑された王族が言った事を調べ続けた。

そしてそれが事実であった事を知った。真相は味方した貴族が民を攫ってガレリア連合王国へ売っていたのだ。

先代は騙され、悪人共に手を貸していた事に絶望した、と同時に貴族社会に関わるのをやめた。


そして助けた王族の血を引く乳飲み子が成長するのを静かに見守りながらグラノヴァの発展に力を注いだ。

いつの日か、先代が勝利に導いてしまった今の王族の治世が乱れた時に、王族打倒の旗頭として、助けた王族の血を引く娘の子孫が立つことを夢見て。


お爺様の手紙の最後にはこうあった。

「ネブラスカ家の子孫よ、もし我が騙され勝利に導いてしまった王族打倒に立つ者がいたら惜しみない協力をせよ」と


そして先代メイド長は一人の娘を連れてきた。

先代が助けた王族の血を引く娘の子であるという。

先代メイド長とその娘は先代の慈悲に感謝し、先代の望みを叶えるためにも王族の血を絶やすことはできないとと言った。

そして感謝の証として王族の血にネブラスカ家の血を加えたいと言った。


吾輩はそれを了承してその王族の血を引く娘と何度か夜を共にした。

そしてしばらくして娘が生まれたのだ。


吾輩はその娘に『マルティナ』と名付けた。


吾輩はマルティナの素性を隠すため、平民の愛人との間に生まれた子として我が家に迎い入れる予定であった。

しかし正妻のアントワーヌは激怒し、決して屋敷には入れなかった。

吾輩は先代メイド長にマルティナの母である王族の血を引く娘を逃がすように言って金を渡した。

マルティナは吾輩が必ず育て次代に繋ぐ故、王族の娘には自由に生きさせよと。


吾輩は荒れるアントワーヌを何とか説得し、屋敷にはマルティナを入れないことを条件に敷地内にある使用人の住居用建物の一部屋に住まわせることができた。

そして吾輩はアントワーヌの注意がマルティナに向かわぬようにマルティナとは会わず、無関心を決め込んだ。


マルティナの世話係には先代のメイド長の願いもあり彼女を任命した。

先代から我が家に仕えていたこともあってアントワーヌも何も言わなかったので好都合であった。


マルティナには会えなかったが、マルティナの状況は先代メイド長から報告を受けるようにしていた。


ハイハイが出来るようになった。歩けるようになった。

言葉をしゃべるようになった。文字の読み書き、計算ができるようになった。

走って転んでケガをした。いなくなったと思ったら木に登っていた。

カエルを捕まえて使用人を脅かしたなど、他愛もない報告ばかりであったが、吾輩の絶望に沈んだ日々にささやかな安らぎを与えてくれた。


吾輩は先代の遺言を継ぐため、金策に精を出した。

造船産業を育てて船の販売に力を入れた。

ガレリア連合王国とシャルビス帝国との間で戦争が始まっており船の発注は多かった。

しかし国力で劣る我が国は価格交渉で足元を見られ、船を売っても利益はあまり出なかった。


そんな中、領民に造船組合なるものを作ってガレリア連合王国商人からの造船依頼を全て拒否したという話が入ってきた。

グラノヴァは造船で成り立つのに何たる暴挙かと吾輩は激怒して造船組合を潰すため兵を向かわせようと準備していた所、驚くことに連合王国の商人が吾輩に泣きついてきたのだ。


連合王国の商人は船の価格を今までの5割増しで支払うから船を売ってほしいと言って来た。

吾輩は悟った、これこそが造船組合の狙いだったのだと。

連合王国と帝国の総力戦は一進一退で物資輸送の船は襲い、襲われ多くの船が沈みいくらあっても足りない状況であったのだ。


陸路の長距離輸送では送れる物資の量も少なく時間もかかる。

輸送船が無ければ前線の兵に物資を届けられずに戦況が不利になる状況だったのだ。

そのため連合王国の商人は何としても輸送船を出来るだけ多く確保する必要があったのだが、造船の依頼を全て断られては連合王国から依頼された数の輸送船を確保できずに罪人となる。


そのため5割増しで船の料金を払うとまで言って来たのであった。

そのことを知った吾輩の怒りは何処かに消え、造船組合に連合王国の商人が言った事をそのまま手紙に書いて送った。

造船組合の代表から返事があり、その価格であれば造船の依頼を受けるとあった。

造船組合の代表はモニカという名前であった。


造船組合の代表が女性なのには驚いたが、先代が開発に生涯を捧げたグラノヴァの領民から連合王国の商人を手玉にするほどの傑物が現れたことを吾輩は誇りに思うのと同時にグラノヴァ発展に生涯をかけた先代に感謝した。


船の販売価格が上がったことで税収も大幅に増えたが、先代の遺言を継ぐのであれば財貨はいくらあっても多いと言うことは無い思った吾輩は、連合王国商人に以前から受けていたから金の密輸の誘いに乗った。

先代を騙して勝ち取った今の王族への意趣返しでもあった。


吾輩は連合王国商人と話しをすすめ、鋳造の像の中に金を隠して連合王国へ輸送船と共に運ぶ段取りとなった。像は商業ギルドへ発注し、その後何年もネブラスカ家の財政を潤した。


マルティナが7歳になったと先代のメイド長から報告を受けた。

それとマルティナから『働きたい』と手紙が来た。

吾輩はマルティナからの初めての手紙が嬉しかった。

先代メイド長と相談し、商業ギルドの見習いとしてマルティナを働かせてみることにした。

吾輩は商業ギルド長に見習いとして働けるように手配した。


マルティナが働き始めてしばらくした頃、先代メイド長からマルティナが商業ギルドで粗雑な扱いを受けていると報告があった。

吾輩は途端に心配になった。

吾輩の両親や妻だったヘレナは心労から体を壊していたからだ。

吾輩はお忍びで変装してマルティナを見に行くことにした。


商業ギルドに入ると混んでいるカウンターの中で空いている箇所があった。

小さな女の子が担当していた。大きくなったマルティナを見るのは初めてだったが、商業ギルドで働いている子供はマルティナだけなので間違えるはずはなかった。


吾輩はマルティナがいるカウンターの前に座ってマルティナをまじまじと見た。

大きくなった。どことなく吾輩と関係を持った王族の血を引く娘の面影がある。

吾輩は思わずマルティナの頭を撫でようと、手を伸ばした。

だが次の瞬間、吾輩はマルティナに頬を殴られた。

驚いてのけ反り吾輩は椅子毎後ろに倒れてしまった。


吾輩は殴られた理由がさっぱりわからなかった。

頬を抑えてマルティナを見ていると、「触ろうとしてきたから私から触ってあげたのよ! 7歳の女の子に触られた感想はどうかしら?」と言われた。


吾輩は訳が分からなかった。

この町では触ろうとしたら殴られた上に感想を言わなければならないのか?

吾輩はとりあえず「ありがとうございます」と言ってその場を後にした。


仮にも吾輩はこの町の領主であるから騒ぎが大きくなって警備兵でも呼ばれたら不味い。

でもマルティナと言葉を交わせたのは嬉しかった。

吾輩の顔は喜んでいるように見えたかもしれない。


帰り道に吾輩は自分の行いを振り返り思った。

少女を触ろうとして殴られたあげく、喜んでお礼を言った吾輩はまるでドMの変態ではないか!


屋敷に帰ると王都に留学させたヘレナとの子から数年ぶりに手紙が来ていた。

しかし手紙の内容は嬉しいものでは無かった。

ネブラスカ家が金の密輸に関わっている容疑がかかっており、査察団がグラノヴァに向かったと言う知らせだったのだ。


吾輩はどうすべきか迷った。罪人として捕まればネブラスカ家は取り潰しも有り得る。

先代の遺言も果たせない。

吾輩はネブラスカ家が生き残れる様に2つの手を打った。


1つは国内の上位貴族に賄賂を渡して密輸の件をもみ消して貰えるか探りをいれる。

もう1つは連合王国の商人を通じて連合王国に何らかの助力を得られるか探りをいれる事だ。


手紙の届くまでの日数を考えると査察団はいつ来てもおかしくない状況であった。

吾輩は査察団がいつ来てもいいように使用人達を集めて口止めをした。

これで対策を打つ時間が稼げるはずだ。

翌日には査察団が来てしまった。

危ないところであったと、吾輩は冷や汗をかいた。


査察団が吾輩の屋敷にも来たが、査察団はまだ証拠を手に入れていないと知った吾輩は私を取り調べたければ王の許可を取ってこいと言って一旦王都に査察団を返すように仕向けた。

これでまたグラノヴァに来るまで2ヶ月は稼げるはずだ。


査察団が帰ったあと探りを入れた上位貴族の反応は酷いものだった。

助けてくれるどころか、ネブラスカ家を取り潰して財貨と有益な造船都市の利権を狙っている始末であった。


ガレリア連合王国の商人からは罪人として捕まる前に連合王国に亡命してはどうか、その後に連合王国の助力を得てグラノヴァを取り戻せば良いと言ってきた。


吾輩は疑問に思た。

ガレリア連合王国はシャルビス帝国と総力戦のはずでこちらに助力できる余力は無いはずであると。


だが、商人は「もうすぐ、戦争は終わる。今は停戦条件の調整中だ」と言ってきた。

吾輩は商人の言葉を信用した。

国内の貴族より長年取引していた連合王国の商人の方が信用出来たからだ。


吾輩は急いで亡命の準備を進めた。

国内の貴族にネブラスカ領を食い物にされてなるものかと現金化可能な利権や土地などの資産、嵩張る調度品を片っ端から売り払った。

吾輩が亡命後に再起を計るためには莫大な財貨が必要になるであろうからだ。


だが、なかなか売れぬ物もあった。

先代が開発してネブラスカ家が管理して来た山林の材木伐採権利と、初期投資がかかる割に儲けの少ない金属と熱晶石鉱山であった。


造船都市だけあって造船に必須の材木の伐採権利は何とか売れたが、鉱山は売れなかった。

そこへ買いたいと名乗り出た者が現れた。

吾輩はどうにか売れそうだと安堵したのだが、買いたいと名乗り出た者は値引きを要求して来たと報告を受けた。


吾輩に残された時間は少なかった。

国内の貴族に権利が渡るくらいなら領民に任せたいと思い、言い値で売ってやれと指示した。

後日相手から金額の提示を受けたと報告を受け、提示された金額を確認して愕然とした。


鉱山全てを二束三文で買おうしてるとしか思えない馬鹿にした金額であった。

馬鹿にした金額を提示して来る痴れ者は誰かと購入希望者の名前を見たら、造船組合代表のモニカとあった。

吾輩はその名前を覚えていた。


吾輩はしばし考えた。

モニカなる者には連合王国の商人との船の価格交渉によってグラノヴァの税収改善という恩を感じていたからだ。

吾輩は二束三文で鉱山を売ることにした。

吾輩が戻って来た時に色を付けて再び買い戻せば良いと思ったからだ。


吾輩はヘレナとヘレナの実家、そして王都に留学させたヘレナとの3人の子らに手紙を書くことにした。

吾輩が連合王国へ亡命する事、いずれ連合王国の助力を得てグラノヴァを取り戻すこと。


迷惑をかけるのと罪が及ぶのを避けるため、子供らはヘレナの実家へ養子に出すこと。

ヘレナの実家へ子供らの養育費として多額の支援を送ること。

最後にヘレナに吾輩の愚かな行いを許して欲しい、ずっと愛していると手紙にしたためた。


資産や調度品の売却でかき集めた莫大な財貨はネブラスカ家の船に積み込んだ。

吾輩は使用人達を集めて、我がネブラスカ家に今日まで仕えてくれたことに対する礼と、今後の身の振り方が決まるまでの糧として各自に給金2年分を与えた。


吾輩にはこの屋敷でまだやることが残っている。吾輩はアントワーヌの部屋に行き、アントワーヌとアントワーヌの実家の侯爵家に対しで絶縁状を叩きつけてやった。

アントワーヌの子には罪はないが侯爵家の子として扱われるだろう。


アントワーヌは怒り狂って暴れていたがもうこの家には使用人達は居ないのだ。

吾輩は暴れるアントワーヌを放置して先代メイド長の所に行き、吾輩の連合王国への亡命と助力を得て再起を計ることを打ち明けた。


吾輩が再びグラノヴァに戻るまでマルティナを安全な場所に移すように頼んだ。

先代メイド長は了承してくれたが、高齢のため再び生きて吾輩と会えるとは限らない。


吾輩と先代メイド長はしばらく昔話に花を咲かせながら別れを惜しんだ。

マルティナに会って行かないのかと言われたが、吾輩は商業ギルドでマルティナに殴られた事を思い出した。先代メイド長にもその話をして会うのは止めておこうと言った。


そして吾輩はネブラスカ家の屋敷を後にした。


王都から吾輩を罪人として捕らえに来るには、あと半月は掛かるであろう。

吾輩は連合王国の商人を水先案内人としてグラノヴァから財貨を満載した吾輩の乗るネブラスカ家の船を静かに出航させた。


先代を騙してのさばっている王族も吾輩やネブラスカ家を食い物にして来た貴族共も、次に会う時は吾輩の前に膝まづいて許しをこう時だ。


吾輩は必ず連合王国の助力を得て大艦隊を引き連れ戻ってくるぞ。吾輩は我が道を進むのみ!


評価?もらえるものはミカンの皮も、貰っても捨てるけど

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