第10話 俺が船を造る先には暗雲が立ち込める
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
蒸気船スクラッパー二世号の処女航海を終えた俺ことレオンと親父のハワードは、造船所の廃材置き場に戻って焚き火に当たりながら改良点を洗い出していた。
「熱晶石を加熱するために風を送る必要があるのは分かったが板を手で振り続けるのは俺でもきついぞ?」
「親父、その問題は明日の母上が乗りに来るまでに吸気口取り付けて解決できる」
「吸気口とは空気を吸い込むものか?それだけで空気を送れるのか?どういう仕組みだ?」
「温めた空気は上昇するんだ それを利用して熱晶石の下から空気を入れてやるようにすれば熱晶石に温められた空気は上昇して空いた空間は下から新しい空気が自然に流れ込んでくるのさ」
「つまりなにか?一度温めてしまえば勝手に空気を送り込めるようになるのか?」
「その通りだ。それから空気の取り込み口を船の進行方向にければ船の速度に合わせて吸気口から風も送り込めるさ。熱晶石の温度調節は吸気口の通り道を手動で塞げるようにしとけば送り込む空気量を調節出来るだろ?」
「なるほどな! それならお手軽に空気を送り込めて調節もできるな。少しの工夫であの重労働から開放されるなら直ぐに作るべきだ」
親父は蒸気船の処女航海の間、ずっと板を振っていたのが余程こたえたらしい。
俺みたいな子供のじゃあ1分で限界だ。
「後は水車の推進器にカバーを付けないとな」
「そうだな、早く服を着替えないと風邪をひく 冬に濡れた服で風に吹かれたら本当に死ぬぞ?レオン」
スクラッパー二世号にはちょっとした欠陥があった。
水車の推進器が結構早く回るので水しぶきがかなり飛んできたのだ。
30分位の処女航海で俺も親父もびしょ濡れだった。
真冬にやっていたら服が凍る。
春先の肌寒さ位の季節でも服の水分が風にあたり蒸発して体温を奪い、最悪低体温症で死んでいただろう。
夏も近い今の季節で本当に助かった。
後必要なのは耐久試験くらいだな。
可動部品は負担がかかるからどの程度で壊れるか把握しておいて、壊れる前に部品を交換できるようにする必要がある。
航海中に蒸気機関が故障て予備部品を積んでいても直せない故障なら即遭難だ。離れた相手と瞬時に連絡が取れる手段は無いから救助は望めず、運が悪ければ餓死するまで漂流だ。
俺は蒸気機関を積んだ外洋を渡る船には船の大きさに対しては少なくても自力航行可能な数のマストをつける予定でいる。
蒸気機関が壊れたら今までのようにマストに帆を張って進めばいいのだ。
「親父、ひとまずこれで明日母上が乗っても問題ないと思うか?」
「ああ、これなら試作品でも蒸気機関の素晴らしさがモニカにも伝わるだろう!」
「親父がそう言うなら間違いないな!」
親父は腐っても腕利きの造船技師だ。
船のことに関してはお世辞で褒めたりはしないから信用出来る。
「じゃあ俺は大型化した蒸気機関と輸送船の設計図を書いてくるよ。親父はどうするんだ?」
「俺はもう少し蒸気機関を見てから仕事に戻るかな」
「そうか、あまりいじり回して壊すなよ?」
「これからは蒸気機関絡みで忙しくなるんだろ?今のうちに仕組みは頭に叩き込んでおきたいからな」
俺はそのまま部屋に戻ると濡れた服を着替えて新たな商用の蒸気帆船の設計図を描き始めた。
蒸気機関を大型化すると言っても程度が大事だ。
木造の船体では大型化にも限界がある。
木造で船体を長くし過ぎると波の圧力が船の前後逆に加わった場合、木造の船体ではどうしても捻れが生じてしまうからだ。
捻じれは歪みを生じて浸水やさらなる歪みを生じさせて船体を破壊してしまう。
もし木材でとんでもない大きな船を造ろうとしたら強度を得るためコスパの悪い船になるだろう。
船体を金属で作れば大型化は可能だが、金属鉱山は手掘りだし溶かす炉も小さなものだから使用できる金属量はそれほど多くない。
小さな船ならともかく大きな船を金属で作るのは現実的ではないのだ。
それに船を建造するドックの大きさ問題もある。
既存のドックで作れる大きさの船だとマスト3本くらいの船がいいだろう。
俺はマスト3本サイズの船体から中央のメインマストを無くし、残りの2本のマストも短くした。
さらに帆の数を各マスト2つまでに減らす。
緊急時以外使わないマストだから最低限自力航行できる程度でいいのだ。
更に今回は荷物の積み下ろしがしやすい様に推進器には外輪では無くスクリュー推進器を採用して設計図に書き起こす。
後は残ったスペースに良い感じの蒸気機関のサイズを勘で決めることにした。
実際に造ってみないと今回新たに取り付けるスクリューでどれくらいの速度が出せるのか分からないから仕方ない。
必要以上に速度が出たら蒸気機関を一回り小さくすればいいのだし逆もまた然りだ。
設計図を書くのに夢中になり過ぎていつの間にか夕方になっていた。俺は出店で食事を済ませて明日に備えて寝ることにした。
翌朝、俺は起きてから手早く食事を済ませて廃材置き場に向かうと昨日親父と話していた吸気口の取り付け作業に入る。
金属製にしたかったが、燃える様な温度の熱気が通るわけでもないので木製にして取り付けた。
おまけで手回し式の送風機も作った。
熱晶石は置いておくだけでは80度程度にしかならない。
停船状態から蒸気機関のボイラーが蒸気を発生させて船が動くまでは手回し式の送風機を使って温度を上げるのだ。
最初だけ廃材を燃やしても良かったが、小さな蒸気機関であればこれで十分だろう。
後は水車型の推進器に水しぶき防止の木製カバーを取り付けて蒸気船スクラッパー二世号は完成だ。
「そろそろ昼か、先に飯でも食べておくかな」
俺が外の出店で軽い昼食を済ませて家に戻ると、家の前に人影があった。
どうやらマルティナのようだ。
「あっ!レオンさん」
「どうしたんだ?こんな所に立って、中に入ればいいだろ?」
「入ろうとしたんですが、レオンさんに紹介してもらう前にモニカさんに鉢合わせでもしたらと思うと緊張してしまって、どうやって入ろうか悩んでたんです」
「何だそれは?意味がわからないぞ、母上に会いたいんだろ?」
「憧れの人に初めて会うんです!ちゃんと紹介してもらいたいじゃないですか!心の準備も無く偶然鉢合わせなんてしたら緊張して頭真っ白になりますよ。変な事口走ったら私の第1印象最悪じゃないでうか!乙女心を理解してください!」
マルティナはすごい剣幕で俺に言い寄ってくる。
マルティナは母上に対して過剰な憧れがある様だな。
「分かった、分かったから離れて離れて、どうどう」
「分かってくれたなら早くモニカさんに私を紹介してください」
「ハイハイ、行こう行こう」
俺達は母上の居る仕事部屋に向かった。
コンコン、「レオンです」
「どうぞ」
「母上、商業ギルドに依頼した部品の納品が完了しましたので支払いをお願い致します」
「あらあらレオン?そちらのお嬢さんの紹介はしてくださらないのかしら?」
俺は1歩横にずれてマルティナを1歩前に出るように促す。
「こちらは商業ギルドの見習い受付担当のマルティナです。若いながら大変良い仕事をしてくれたので、私と専属担当の契約をしました。本日は依頼料の支払いと今後は彼女に仕事の依頼をしますので母上にもご紹介をと思い連れて参りました」
「は、初めまして。マルティナと言います。レオンさんの専属担当にならせて頂きました。今後も多くの依頼を頂けるとレオンさんから伺っています。どうぞよろしくお願い致します」
母上はマルティナをしばらく観察するように眺めて口を開いた。
「随分可愛らしい専属ですね、レオン? マルティナさんはお幾つかしら?」
「今年で7歳になります。」
「え?マルティナって7歳なの?俺と1つしか違わないのか、しっかりしてるからもっと歳上かと思ってたよ」
「そう言うレオンさんは8歳だったんですか、大人でも書けないようなしっかりした設計図書いていたのでもう少し上かと思ってました」
「いや、俺は6歳だ」
「なっ!!歳下だったんですか!? じゃあこれからはレオンって呼び捨てにしますね」
「年齢で態度をかえるなよ。ドレッドはおっさんなのに呼び捨てだったじゃないか」
「ドレッドはいいんですぅー、大きな貸しがあるからいいんですぅー」
「いいのか?マルティナ?憧れの母上の前で素を晒して」
母上は楽しそうに俺とマルティナのやり取りを黙って眺めていた。
「申し訳ありませんモニカさん。レオンさん同じ位の歳の子の知り合いが居なくてつい・・・」
「良いのですよ。レオンと呼び捨てで、レオンもその方が気が楽でしょう?」
「そうですね、長い付き合いになりそうですし、他人行儀に呼ばれるよりはやり易いですね」
「まぁまぁ、マルティナさんレオンと末永く宜しくお願いしますね。ホホホホホホ」
「ひゃいっ!すっ末永く頑張りましゅっ」
マルティナの顔が赤い、母上に素を見られて動揺しているようだ。
「それはそうとマルティナさん、貴方はネブラスカ男爵家のご息女でしょうか?」
赤くなったと思ったマルティナの顔は今度はみるみる青くなっていく。
マルティナは母上の言う通り、ネブラスカ男爵家のお貴族様だったか。
ドレッドもマルティナ嬢と呼んでたのはその辺の事情かな?
「・・・はい。マルティナ・フォン・ネブラスカ、ネブラスカ男爵家5兄妹の末の次女です。ですが私は!」
母上が手の平を前に出してマルティナが言おうとしたことを制す。
「ネブラスカ男爵家については色々あって調べさせて頂きました。貴方の事情も今の状況も存じているつもりですよ」
「・・・はい。モニカさん私は今後どうなるのでしょうか?」
「その前に貴方は最近ネブラスカ男爵に何か言われていますか?」
「いいえ、私は男爵の顔も知りませんから」
マルティナは親の顔も知らないなんでどう家庭環境なんだ?
相当複雑な事情がありそうだが、聞ける雰囲気じゃないよなぁ。
母上がネブラスカ男爵家を調べたのはやはり、鉱山バーゲンセールの件が原因だろうな。
「そうですか。男爵の顔も知らない程でしたか。結論から言いましょう。マルティナさん、貴方はこのまま何もしなければ近いうちに間違いなく処刑台に立つことになるでしょう」
「はっ!?母上一体それはどう言うことですか!!マルティナが近く処刑されるのですか!?」
マルティナの方を見ると俺程驚いているようには見えない。
予期していたのか、やっぱりといったあきらめ顔だ。
「やっぱりそうなっちゃいますか・・・ぐずっ・・・」
マルティナは目に涙を浮かべながら泣くのを必死に堪えているようであった。
「驚かせてしまいましたか?でも貴方もその可能性はあると思っていたのでしょう?」
「ぐずっ・・・はひっ。でも、モニガざんに言われだら急に実感がわいで・・・ぐずっ、すいまぜん」
マルティナは涙を拭うと呼吸を整えていた。
俺はただ黙って状況を見守る事しか出来なかった。
歯痒いな。
「すみませんでした。もう大丈夫です」
マルティナが落ち着いたのを見て母上は真剣な顔でマルティナを見直した。
「私は『何もしなければ』そうなると言いました。貴方は自分の運命を変えるためなら足掻いてみる覚悟はありますか?」
「はいっ!あります! このままではどうせ死ぬんです。物語の不幸な少女は最後には必ずハッピーエンドと相場が決まっています。だから私も足掻いて、足掻いて生き抜いてハッピーエンドになりたい!だから生きるためなら何だってやってやります!」
おー、さっきまで泣いてたと思ったら今度は凄い気迫だな。
なんかいいなこういう女性には素直に好意をいだけるね。
俺も出来るだけ協力してやらないとな。
「ふふふっ。マルティナさんの覚悟は充分に伝わってきましたよ。良いでしょう!貴方の運命を変える助力を致しましょう」
「母上、事情はよく分かりませんが、マルティナが泣くのは見たくはありません。笑っていられるように私も微力ながら協力致します」
これは俺の本心だ。
嘘偽りは無い。
可愛い女の子が泣いていたら助けたいと思うのが男という生き物だ。
でもその為に俺が船造りが出来なくなるなら即前言撤回だ。
俺の造船愛をナメるなよ。
「モニカさん、それにレオンもありがとうございます」
「では早速ですがレオン?貴方には連合王国の艦隊を打ち負かすとっておきの船を造って欲しいのですが、できますね?」
母上はサラッととんでもない爆弾発言を放って、俺は思考が停止した。
評価?書き溜めてまとめて投稿だから今まで投稿した話の評価とかどうなるの?




