第1話 俺の船が空を飛んだ日
読みたいものが無くなったので自分で書いてみました。第1部21話分書き溜めましたので無くなるまで毎日投稿してみようと思います。
1つの海戦が今始まろうとしていた。
『こちら見張り台!ガレリア連合王国艦隊が動き出しました!』
「若頭!ついに来ましたなぁ」
「あぁ、ガリガーノ、俺たちの訓練の日々の成果を見せる時が来たな」
俺は小型船の艦橋から動き出した敵であるガレリア連合王国艦隊を眺めた。
敵は大型帆船50隻、こちらはたったの小型船が3隻しかいない。
数の少ないこちらを包囲して拿捕するつもりなのか、敵は散開しつつこちらへ向かって来ていた。
敵の旗がはためいている向きから風向きは北風だと分かる。
「予定通り風上を取るぞ!通信手!後続艦に連絡!全速力、取り舵90度我に続けだ!」
「了解しました!」
指示が伝わったのか船が進み始め徐々に加速していく。
「マルティナ、聞いての通り取り舵90度ね」
「了解よ、レオン」
今年で7歳になる栗色髪の少女が手慣れた手つきで舵輪を左へ目いっぱいに回し、船首が回頭し始め左90度になる前に舵輪を右へ思いっきり回して戻す。
すると船の回頭は左90度でぴたりと止まる。
「さすがマルティナだな」
「えへへっ、ここ数日の猛訓練でこの船は私の体の一部も同然よって言ったでしょ!」
俺たちの乗る3隻の小型船は相手の艦隊の風上に回り込むことに成功する。
相手は帆船で風上には簡単には進めないため風上を取った方が圧倒的に有利な状況だ。
「よし、やるぞガリガーノ!全艦に連絡!狙いは敵の先頭!喫水線下とマストを狙え!」
「了解でさぁ若頭!」
「いよいよね、レオン!」
マルティナの命も俺たちの町の命運もかかっているこの戦いは絶対に負けられない。
「通信手!砲撃開始!」
「了解しました!」
ドドッーーーン
ドドッーーーーン
ドドッーーーーーン
はぁ、何でこんなことになっているのだろう。
いや分かっている事だ、全てはあの時に得た知識のせいだ。
おれは僅か数カ月前の出来事を思い出す。
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「うわあぁぁぁぁぁ~ ヤバイヤバイヤバイ」
「失敗した やらかした やばいやばいやばいやばい」
僕は振り落とされないように相棒の小船スクラッパー号のマストにしがみ付きながら慌てていた。
早くロープを切るために、腰に付けたナイフに手を伸ばしナイフを抜き片手でロープを切り始める。
僕の置かれた今の状況、それは海上の空飛ぶ魚『空魚』で遊んでやろうと、空魚にロープを引っかけたら乗っていた船ごと持ち上げられ宙吊りの状態となっているのである。
既に僕の乗った船は3m程持ち上げられ空魚はゆっくりとさらに上昇してくようであった。
慌てているせいで、切ろうとするロープが太くてなかなか切れない。もたついている間に船は空魚に吊り上げられさらに上昇していく。
「くそっ、切れない・・・早くしないと落ちたら痛いじゃ済まないぞ」
もうあきらめて海に飛び込むかと考えはじめた時、半分ロープが切れたところで船の重さに耐えかねて千切れ始め、もう少しだと思った瞬間、バシュっと音がしてロープは千切れとんだ。
もう10m近く持ち上げられた船は重力に逆らうことなく海へそのまま落下していく。
「うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~」
僕の声が虚しく海上に響く中、必死にマストにしがみつくが相棒のスクラッパー号は落下速度を増して落ちる。上空には千切れたロープを頭から垂れ下げながら悠々と漂っている空魚の姿が見えた。
「くそおおぉぉぉぉぉぉ まだ死んでたまるかーーーー」
スクラッパー号はバランスを崩し後尾から斜めに海面に激突して海中に沈みこむと浮力でバウンドして壊れることなく着水した。
僕は海面に激突した衝撃でしがみ付いていたマストの上に跳ね上げられてから帆に叩きつけられると船がバウンドして水平になったと同時に帆から滑り落ちて頭から落下する。そして船の甲板に後頭部から落ちて意識を失った。
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不思議な場所にいた。
大勢の人が歩いていた。
高くて四角いガラス張りや灰色の建物が並ぶ街、馬のいない平べったい馬車みたいなものがたくさん動いている。
空には大きな鳥のようなものが飛び、海にはマストのない巨大な船が動いている。
目の前の道は全て石で覆われ、長く真っすぐ伸びている。
僕は歩く、歩く、走る、走る、ひたすらまっすぐに伸びた道を進む。
ここはどこだ、僕は誰だ、俺はどこにいる。
頭の中が状況についていけずに混乱してくると景色が溶けて歪み圧縮されて吸い寄せられるように俺の中に流れ込んできた。
理解できない、訳のわからない情報が濁流の如く頭の中に流れ込んで溶け込んでいくような感覚。
訳が分からない、とにかく気持ち悪い感覚が続く。
もう限界だ。
「やめろおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ~~~」
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「 ・・・か・・・・坊主・・・・大丈夫か?しっかりしろ」
声がして俺は目を開けると目の前に髭面のおっさんの顔面がドアップで映り込む。
「うわああああああああああああああぁぁぁぁ~~~~」
「うをっ!」
髭面のおっさんが俺の叫びに驚いてのけ反る。
俺は上半身を起こすと体に異常がないかペタペタと触り確認すると後頭部が痛みだす。
「頭が痛い・・・割れそうだ・・・」
「坊主、痛いのは頭だけか?骨は折れていないか?」
「あぁ、手足の骨は大丈夫そうだ」
「あれだけ盛大に落ちて頭を打っただけか、坊主は運がいいな」
ガハハと笑いながら髭面のおっさんが言う。
「盛大に落ちた?俺は落ちたのか?」
「坊主、覚えてないのか?記憶喪失とかじゃないだろうな?」
「お前さんは空魚に船ごと吊り上げられて10mくらいの高さから船ごと落ちたんだよ」
声がする方を向くと中型の漁船が横付けされていてその船からこちらを見ていた女性がいた。
俺は自分の記憶を思い起こす。
俺は6歳、名前はレオン、造船技師で造船所を経営している親父ハワードの息子だ。
小さいころから造船所を遊び場にしていた俺は、廃船の廃材を利用して自分で船を造り乗り回して遊んでいた。
空飛ぶ魚の話を聞いてロープを引っかけて船を引っ張らせて遊ぼうと海へ出て、空魚にロープを引っかけるのに成功して喜んでいたところ、船ごと吊り上げられて落ちたようだ。
「あぁ、大丈夫だ、思い出してきた。 俺はレオン、助けに来てくれてありがとう。感謝します」
「レオンだって?ハワード造船所の息子かい? あたしはミレー、そこの男はあたしの旦那のウッズだよ」
ミレーと名乗った女性もウッズも体力勝負の漁師らしく体がムキムキだった。
「俺たちは夫婦で漁師をやっているんだ。坊主はもう大丈夫か?港まで送るか?」
ウッズが手を差しだしてきたので俺は手を取って起き上がる。
俺はパンパンっとズボンを叩くと首を回してぴょんぴょんとジャンプする。
「ああ、大丈夫そうだ。このまま自力で港に戻るよ、船も破損は無いみたいだしな。」
「そうか、あれだけの高さから落ちて船に破損なしか、本当に運がいいのか船が頑丈なのかわからんな」
「材料は廃材だが俺が造った相棒だからな! 当然頑丈さっ」
俺はスクラッパー号のマストをぺしぺしと叩く。
「さすがはハワードの息子だねぇ、空飛ぶ船を造っちまうんだから」
「ちげぇねぇ、坊主は見事に空を船で飛んでたぜ」
ミレーはケラケラと笑い、ウッズはガハハと笑う。
「そういえばミレーは何で俺の名前知っていたんだ?」
「レオンって銀髪のガキは巷じゃちょっとした有名人さね。まだ6歳のガキだってのに自分で船造って海に出て乗り回してるって話さ」
「俺ってそんな有名になってたのか?好き勝手に面白そうな船造って遊んでただけなんだけどな」
「坊主、普通は遊びで沖に出れるような船は作らんぞ、これに懲りたら危ない遊びもほどほどにしとくんだな」
「おうっ!今日は落ちたが、次は落ちない空飛ぶ船を造ってやるさ」
俺は胸を張ってそう言うとあきれ顔のウッズとミレーに改めて礼を言い帰路に就いた。
帆に風を受け全速力でリズミカルに波を切る小船は心地よく快走する。
目指すは水平線に見えるている町だ。
俺はさっき見た夢の光景を思い出そうとするがはっきりと思い出せない。
あれは一体なんだったんだ現実ではなかったが妙な感覚が今でも残っているんだよな~
大きなマストのない船が移動していたのは間違いないんだが、あれはいったいどうやって移動していただろうか・・・・ん? あれ?あの船はエンジンで動いていたに決まっているじゃないか・・・・エンジンってなんだ?聞いたことない言葉なんだが・・・
知らない言葉とエンジンの構造が頭に浮かぶ
・・・何だこの金属の塊が動くのか・・・内燃機関・・・って知らない言葉やイメージが次々に浮かんでくるぞ、いったいどうなっているんだ、見たことも聞いたこともなかったはずの知識を経験として俺は既に知っているような感覚だが、俺は知っていることを知らないから知りたいことを思い浮かべないと知識を呼び起せないようだ。なんてややこしい・・・
水平線に見えていた町、港町グラノヴァがだいぶ近付いて来たところで俺は考えるのをやめた。
レダイル大陸の東端に位置する港町グラノヴァは造船で繁栄している町で、数ある造船所の中で俺の親父ハワードが経営する造船所もそのうちの1つだ。
物心ついた頃から造船所兼家が遊び場だった俺は見様見真似で親父や弟子の技術を習得しては自分で造りたい船を好きなように造って遊んでいるのが現在の状況だ。
しかし疲れた。今日は色々在りすぎた。だいたい事の発端である空魚はいったいどういうことなんだ。
小船とはいえ俺のスクラッパー号の重量は数百㎏はある。この船を軽々持ち上げて飛んでいられるなんて非常識すぎるぞ。
俺の変な知識が浮かぶ頭でも空魚がなぜ飛んでいるのかに関しては何も知識が浮かんでこない。
空魚がいかに非常識な存在かということだろう。この世界の生物の中で空魚だけは明らかに異質なのだ。
鳥が飛ぶのは羽の上下で気圧差が生まれることで揚力を得て飛んでいるという事が知識として頭に浮かんでくるが、空魚がなぜ飛んでいるのか考えても何も浮かんでこない。
空魚を徹底的に調べてなぜ飛んでいるのか解明したい。解明していつか空飛ぶ俺の船を造り上げるのだ。
空飛ぶ船を造る!新たなる野望を胸に抱き、俺の相棒スクラッパー号は港町グラノヴァに静かに入港したのだった。
初めての投稿なので評価とか仕組みは分かってないですが、評価を頂けるなら頂きます。