95話 メルから貰ったマナ・ストーン
私たちは、実際にマナ・ストーンを使うために場所を移動した。
訓練場みたい…。
センタービル内に、こんな所があるなんて知らなかった。
アルバートさんとネロいわく、ランクが上がると戦うことがあるため、調整のためにこういう場所も用意されているんだそうで。
結構しっかりとした、訓練場にどんな敵を想定しているんだと思ってしまった。
「さて、マナ・ストーンを使ってみるわけだけど」
今度は、どんなことを言われるのだろうか。
いままでの話の流れだと、簡単には使えなさそうだけど…
「まずは手で持つ」
手に持って…
「マナ・ストーンを握る」
マナ・ストーンを握る…
「以上だね」
へ?
思ったより簡単…
でも、何も起こらないんだけど。
「その後に、手の中にある石を少しだけ意識してもらえば大丈夫なんだけど、その前に言っておくことがあってね。」
言っておくこと?
「マナ・ストーンが有限だという話は、メルーレ王女から聞いている?」
「はい。魔力を封じただけなので、封じた量しか使えないと聞きました。」
「メルーレ王女が、どのくらい魔力を込めたのか分からないんだけど、使ってすぐになくなる可能性もあるから、先に意識してほしいポイントだけ伝えるよ。」
確かに。
せっかく、メルから貰った石を無駄にしたくない。
「まずポイントは、心臓。先ほどやった心臓の音を聞いた時と同じことをしてみて欲しい。まずは、ここだ。わかったかい?」
石を発動したら、さっきと同じことをする。
なんか緊張してきたんだけど。
「集中しようとするなよ?」
「分かってるけどさ。…なんか緊張してきて。」
「焦ったら…好きな食べ物でも考えたらどうだ?」
好きな食べ物…
なるほど?
「よし、では、やってみようか」
アルバートさんがさっき教えてくれたように、マナ・ストーンを手に乗せて、握る。
そして、意識を石の方へ。
すると、体が急に逆立ったような感覚になった。
目は見えすぎるほど細かく遠くまで見え、思わず目をつむる。
耳はいろんな音を拾い、匂いも、手に触れているものも。
一気にいろんな情報が頭に流れ込んでくる。
頭がいたい…
「チヒロ、俺の声が聞こえるか?」
ネロの声…
ネロは気を使って、声の音量を絞ってくれている。
でも、ちゃんと私の耳には、ネロの声が聞こえていた。
私は、何とか伝えようと小さく頷く。
「いいか、チヒロ。俺は今、お前の手に俺の手をのせている。分かるか?」
手の方を意識して…ネロの手…
分かる。
また頷く。
手の方が何か温かいものに包まれているみたいだ。
「ほら、自分の心臓の音、聞こえてこないか?」
心臓の音…
私の…
ドク…ドク…
聞こえた…
ドク…ドク…
すると、体全体に血液と別の流れがあるのに気付いた。
ゆらゆら揺れて、ゆっくりと。
「チヒロ、僕の声は聞こえるかい?」
アルバートさんの声。
私は、ゆっくりと頷く。
「今どんな感じだい?」
「なんか、体の中でゆらゆらと揺れている感じです。水の中みたい。」
「石の発動の衝撃で、体の力が抜けたかな?チヒロ、目を閉じたままでいいから、その流れを目の方に持って行ってごらん」
目の方に流れを集める…
「目を開けて見て。」
私は、そっと目を開けた。
「え…」
「きれいだろ?これが大気中に漂う魔力だよ。」
目を開けると、光の粒がキラキラと舞っている。
私、こんな世界にいたの?
そして、私の体の方を見ると、ゆらゆらとしたものが体の周りを包んでいた。
「今、チヒロは目の方に気を集めて、初めてこの光景を見たと思うけど、僕たちが初めて会った時も、こんな感じにチヒロは無意識に気を流していた。だから、チヒロにいずれ魔法や魔力について、詳しく教えようと思っていたんだよね。」
これが、私が持っている気なんだ。
目視で確認できると全然違う。
「さて、もったいないから続きをしよう。もう一度、心臓の音を聞いて。」
さっきよりも、やりやすい。
「いいな。じゃあ、足全体に意識を持っていって」
足全体…
「軽くジャンプしてみようか。軽くだよ」
ジャンプ
せーの…
私は、膝を軽く曲げて地面を蹴り、上に向かって飛んだ。
は?
え?
ちょっとぉ!!
軽く飛んだはずが、3メートルくらい飛んでいる。
「軽くって言ったじゃないか」
アルバートさんは、上を見上げながら、やれやれといった感じで見てきた。
軽くでしたけど!
アルバートさんが、ふわりと飛び、私を空中でキャッチして地面に降りる。
「次は、手に集めてみて、そばにある石を割ってみようか。」
私は、石をグーで叩いてみる。
すると、石は柔らかい砂のように砕けた。
すご…。
「石の補助があるとはいえ、いい線いってるんじゃないか?」
「発動時に暴走して、神経が敏感になってるんだろうな。」
「あそこまで勢いよく発動して、よく石の魔力が切れなかったな。メルーレ王女には、後程、お礼が必要だろうね。」
聞こえてますけど。
メル、そんなに魔力を込めてくれたのか。
「さて、チヒロ。今の体に流れている感覚を忘れないこと。それが、魔法習得の近道だからね。」
私は今の感覚を忘れないように、メルの石の力が切れるまで、体に気を流しては、どこか一部に集めることを繰り返した。
マナ・ストーンの効果が切れた時には、私はぐったりとしており、アルバートさんに背負われてオフィスに帰ったのだけど。
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