94話 魔法使いのへの道は、意外と地味でした
「これから、僕のやり方で、チヒロに教えようと思うんだけど、そこは大丈夫かい?」
「はい!」
「こういう感覚的なものって、教える側と教わる側の相性というものがあるから、分からなかったら言うんだよ。ネロは、僕の意見が偏っていた場合の口出し役だから。」
その気遣いが、とてもありがたいです、アルバートさん。
「さて、生成法を行うには、まず自分の体内にある気を感じる必要がある。目を閉じてみて。」
言われた通り、目を閉じる。
「自分の体の中をイメージして。血液の流れや心臓の鼓動。」
心臓がドクドクと音を立てている。
しばらく心臓の音を聞いていると、心臓の音が穏やかになってきた。
さっきまで、緊張していたのかな。
ぼーっとしながら、心臓の音を聞き続けている。
「チヒロ…チヒロ!」
「はい!」
私は、外部から声をかけられて、驚いた。
「どんな感じだった?」
「初めは、心臓がすごくドキドキしていたんですけど、次第に落ち着いてきました。それから、ぼーっと。」
「うん、いい感じに集中できてるね。」
集中?
今のって、精神統一とかそういう類のもの?
「じゃあ、もう一度やってみて。」
集中すればいいんだよね。
集中、集中。
「ちなみに、集中というものは、集中しようとして出来るものじゃないからな。」
「集中しようということで、頭いっぱいにされると意味ないんだよね。心臓の音を聞いてみて。ここからは、感覚の話なんだけど、心臓の音を聞いて体の意識が上に来ている最中は、不正解。とにかく心臓の音を聞き続けてみて。さっきみたいに、体が下がってきて、ぼぉーっとするのが正解だから。」
…ばれてる。
私は再び、心臓の音を聞き続けた。
「はい、終了してくれ。どう?」
「ぼーっとします。」
「いいね、よく出来てる。」
正直言って、よく分かっていないんだけど。
これが次に繋がるのかな。
「意味が分からないって顔してるな。」
「生成法というのは、体内の気を使うと言ったと思うんだけど、この気というのは、意外と厄介なものでね。気というものは無意識に流しているもので、感情によって変化するものなんだ。怒ったり、泣いたりすると疲れるだろう?それは、無意識に自分の気を使っているということ。それを意識的にコントロールするために、自分の無心というものを知ってもらおうと思ってね。」
理解はできるんだけど…
魔法って結構…
「地味だろ?」
えっと…。
私は、思わず目を逸らした。
「そうなんだよ。炎を操ったり、体を変化させたりと、派手さが目立っているけど、魔法の根幹の部分って結構地味なんだ。」
どの分野においても、基礎というものは地味ということだね。
「ちなみに、魔力の力を増幅させるものは感情だから、無を覚えたら、感情が乗った上で、今の心臓の音を聞くのをやっていくからね。だから、無になることは、暇さえあればやること。」
なるほど…
魔法は、一朝一夕ではできないということね。
「さて、先ほどから机の上に置いてあるものは、マナ・ストーンだよね?」
「はい、メルがくれました。魔法習得に良かったら使ってと言われたので、持ってきたんですけど。」
アルバートさんとネロは、マナ・ストーンを見て少し考えこんだ。
「なんの、魔力が封じられているんだい?」
「超感覚と言っていました」
私が言うと、二人は納得し、二人だけで話を始めてしまった。
「なるほどね。」
「確かに、魔法習得の近道ではあるな。」
「使ってみるのもありだと思うけど。」
「マナ・ストーンは有限だから、この石が無くなるまでに習得できるかは謎だな。」
「手がかりさえつかめればいいんじゃないか?」
あの…お二人さん。
完全に、私は、話において行かれています。
「せっかくのメルーレ王女の差し入れだし、マナ・ストーン使ってみようか。」
正直、指摘されるまで、置いていたことを忘れていた。
地味にコツコツの割に、考えることが多いんだもの。
それに、集中することって意外と大変なんだなって、私は思ったのだった。
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